上 下
8 / 368
第一話:選ばれし七名。

08選ばれし七名。

しおりを挟む


「これで真っ暗な所に一人ぼっちになってしまっても安心だね」



ミタマのその言葉に、え?とミタマを見上げた。

けれど彼は何食わぬ顔をしてにこりとよく分からない笑みを浮かべる。


「妖狐の姿になってる間は運動能力も跳ね上がってるから、跳躍力も動きの速さも増し増しだよ。敵の攻撃は避けて、こちらも攻撃する。試してみようか」


そう突然言われたかと思うと、ミタマは距離を取った。

紗紀は分けが分からないままミタマを眺める事しか出来ない。


(試す?ってそれは……ミタマさんと戦ってみるって事?)


ミタマは紗紀を見るとさっきのようににこりと笑ってみせた。

それだけなのに紗紀には攻撃が来る、となぜだかそう思えた。

ミタマが片手を掲げて狐火を水平に複数並べる。

そうかと思った瞬間、その手を振りかざしたと同時に火の玉が紗紀へと襲いかかる。

ミタマの動きをじっと見つめていた紗紀にはその手が振り下ろされる瞬間が分かった。

それと同時に一気に後方へと下がる。

紗紀が先程までいた場所に火の玉は全て落ち、轟々と青く燃えていた。

避けたからいいものを避けなければ確実に紗紀が燃えていただろう。

そう思うとゾッとした。


「さすがだね。信じていたよ。キミならきっと避けてくれるって。燃えなくて良かったね」

「……っ」

「じゃあ次は、さっき見た通りに攻撃して来て」


そう言われて紗紀は先程のミタマの動きを思い出す。

ミタマならきっと余裕で避ける。

そうは分かっていても攻撃となると躊躇ためらってしまう。

イメージは出来る。

炎の数、攻撃した後の炎の強さ。

片手で支持する攻撃のタイミング。

だけど、手のひらで狐火をあやつるミタマと指先に狐火を宿す紗紀ではイメージをリンクさせるのが難しい。


「大丈夫。俺は避けるから。安心して攻撃しておいで。本音を言えばこれが敵ならしっかり攻撃してくれないと困るんだけどね」


ミタマの言うことはもっともだ。紗紀はゴクリと生唾を飲み込んだ。


(イメージしなきゃ。集中して。さっきと同じように手のひらに炎をともして。それを複数に増やす。そして片手をかかげて……狙いを定め、振り下ろす)


火の玉はミタマ目掛けて飛び、けれどその手前で落下した。


「狙いは悪くないかな。うん、いいね。初めてにしては上出来だよ。もう少し練習してみようか」


しばらくミタマに習った事を順に練習していく。

日が暮れる頃には随分と様になって来たように思う。

まだまだ技の精度も威力もミタマに比べれば格段におとるけれど。


「よし、一旦休憩しようか。まだその体に慣れないだろうし。生身の体の方が心配だ。術を解除しよう。『解術』って唱えてみて。イメージは……」

「元の姿」

「大正解」


紗紀の答えに満足そうに笑うミタマ。

いつも笑う、にこりとはまた違う素に近い笑顔。

その表情は好きだと紗紀は思った。

ミタマに言われた通りにイメージをしながら呪文を唱えれば光と共にいつもの自分の姿へと戻った。

そしてひらりと宙に舞う御札。紗紀は慌ててそれを掴む。


「それがあればいつでも俺になれる。無くさないように」

「はい!」

「さて、上がろう。少しゆっくりした方がいい」


そう促されて休憩所へと向かう。その瞬間、シャン。と鈴のなる音がした。途端にピンと張りつめた空気へと様変わりする。

嫌な予感がした。

しおりを挟む

処理中です...