上 下
1 / 368
第一話:選ばれし七名。

01選ばれし七名。

しおりを挟む


それは突然の出来事だった。

家賃の安いボロボロのアパートに、請求書などではない一通の手紙が届いたのは。

それが、後の白花紗紀しらはなさきの人生を大きく変えた。


「政府からって、私何をやらかしたの?」


茶封筒にはパソコンで打ち込まれた明朝体の文字で、紗紀の名前と住所が書いてある。

紛れもなく自分宛じぶんあてであることを確認し、紗紀は自分の部屋へと足を踏み入れた。

今年の春から新社会人へと繰り出す紗紀の部屋は、まだダンボールだらけで荷解きは完了していない。

社会人と言っても高卒だ。

右も左も分からない。

何が正しくてどれが詐欺なのかすら教えてくれる者も相談出来る相手も紗紀には居なかった。


 ◆◇◆


手紙に指定されてある日時に、指定の場所へと渋々向かった。

高校の卒業式では満開だった桜が、今は随分と散り若葉の色の方が目につく。

その日は目がくらむほど晴れているのに、気持ちはずっしりと重い。

その心に反映してか、妙に風が強く吹き荒れていた。

残り少ない桜が最後の瞬間だと言わんばかりにその枝を揺らして桜吹雪を舞わせる。

悪い事は何もしていないと思ってはいるものの、やはり怖いと思う。

しっかりと話を聞いて、出来うる事をしなければと改めて自分自身に喝を入れた。


「ここ、だよね?」


高い高級そうなビルを見上げる。

しかも指定場所はなんと最上階。

エレベーターで上がりながら見下ろす街々は絶景だ。

けれど、足元がすくみそうになるのを感じる。

到着時間は予定の十五分前。

時計を確認して早くも遅くも無い時間に安堵しつつ、紗紀はエレベーターを降りて広く長い廊下を歩く。


(部屋は確か……)


「おい。こっちだぜー」


分厚そうな一つの扉の前にその場にそぐわない雰囲気を持った男性が立っていた。

綺麗な鳶色とびいろの瞳に、それに合わせたような髪色をしている。

スーツを着ているから、ここの関係者ではあるのだろう。

親指で扉を示す彼はふと手を伸ばしてきた。


「え?あの……」

「桜まみれ。なに、桜の絨毯の上で寝転んで来たのかよ?」


彼は桜の花びらを摘んで見せた。


「あ……。あの、ありがとうございます。風がすごく強くて……」


そうお礼を言いつつ言い訳を口にする。その男性はふと何か思い出して紗紀を見た。


「あぁ、そういや竜巻注意報出てたぜ?オマエも、巻き込まれないように注意しな?」

「……そうなんですか」


(竜巻なんて珍しい……。帰り気をつけなきゃ)


しばしの談笑の後、その男性が分厚いその扉を開けてくれた。


「ほらよ、入りな」

「失礼します」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

くろぼし少年スポーツ団

紅葉
ライト文芸
甲子園で選抜高校野球を観戦した幸太は、自分も野球を始めることを決意する。勉強もスポーツも平凡な幸太は、甲子園を夢に見、かつて全国制覇を成したことで有名な地域の少年野球クラブに入る、幸太のチームメイトは親も子も個性的で……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...