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冗談
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朝家を出て、学校との中間地点に差し掛かるくらいで雨が降り出した。
今日はついてないな。
きっと、南麻弥の1日はそう良いものではないだろう。
通学カバンを頭の上に被って小走りで登校したけれど、当然のようにブレザーとスカートはずぶ濡れで、クロックスの隙間から侵入した水分は靴下を染めていた。
もう帰りたい。
教室に入ると、奥の席に座っていた長髪の女子生徒がこちらを向き、やってきた。
「おはよう」
真木唯華。私の高校での一番の友達にして、お嬢様。吸い込まれるような黒髪は艶やかで、細やかな睫毛の下の双眸は美しい。つまりは美人お嬢様、高嶺の花を具現化した存在なのである。
私とは大違い。雲の上の存在という形容詞はこの関係に最も適合していると言える。なのだが…
「ねえ、私と付き合ってほしいの」
…………え?
いや、え?え?え?
「ねえ、聞こえてる?」
「いや、えーとその……え?」
「あなたのことが好きなの」
………………真木さん????
「……………それは…その…どういう…」
「好きなの!」
「…………」
何とまあ、ええ????
唯華が…私に告白している…………??
「え、あ…その…………ちょっと考えさせて!」
気付くと私は、入ったばかりの教室を飛び出していた。頭の細胞という細胞がオーバーヒートして、骨まで焼き切れそうだった。
どういうこと?え?
私のことが好き…
唯華はレズビアン…なの?
衝動的に教室を飛び出し、気付けば食堂前だ。
頭のオーバーヒートを鎮めるため、自販機でブラックコーヒーを買って一気飲みする。
「うっ…」
苦い。とにかく苦い…
何なんだ、一体、何が起こっているの?
唯華はお嬢様。明言はしていないが、言動の節々に気品とお金持ってるオーラが滲み出ている。
そして、世間知らず。
礼儀作法だとか勉強に関することに関しては完全無欠なのだが、いかんせん不文律だとか流行には疎い。
4月、出会ったばかりの頃には何をどう勘違いしたのか鍋を頭に被って遊びに現れたこともあった。
今回も何かの勘違いゆえの行動だろうか。
…でも。
唯華の目は真剣だった。いや、常に真剣な子ではあるからそれは何の確証にもならないんだけど。
女子が、女子と付き合う。
創作物などで何度か見たことはあるけど、それってどうなんだろう。
……………気持ち悪い、だなんて言えない。そう思いたくもないし、そう思うべきではないとわかってる。
でも、抵抗を覚えるのは確かだった。
私も地味とは言え一般的JKだ。それなりに色恋沙汰にも触れてきたし、恋をしたことだってある。
忘れられないのは、中1のときの初恋。
あれと同じ感覚で同性を好きになる。
「うーん、ピンとこない…」
その感覚というものが、いまいちわからないのは確かだった。
悶々としているうちに、鳴る予鈴。
私は結論を得ぬまま教室に戻った。
昼休みまで、唯華とは言葉を交わさなかった。
私は話しかけにいかなかったし、唯華も話しかけてこなかった。
今は4限、古典の終わり際。
退屈としか思えない文章構成で織り成される太古の色恋沙汰とにらめっこしながら、考える。
私は唯華と付き合えるのだろうか。
つまり…その、そういう目で見れるのだろうか。
知り合って半年ほどの、同性の友達。
違う。
見る、見ないじゃない。
私が、唯華の思いを受け止められるかどうかだ。
正直言って同性を恋愛対象と見るのは、やはり抵抗がある。おそらくではあるが、私はその種の人間では無いのだろう。
でも、唯華の事は大切に思っている。かわいいなとも思う。母性が働くときもままある。
そう、そうだ。
唯華は言っていた。
恋愛をした経験なんて無い、と。誰かを好きになったことなんて無いと。それは、出会った当初のぎこちない世間話だった。
そこに、唯華にこういう思いが芽生えたなら、初めての感情を覚えたなら。
私はそれを受け止めてあげたい。
昼休み開始を告げるチャイムが響き渡る。
私は唯華に歩み寄る。
「ね、その…朝のことだけど…」
「麻弥」
「その…色々考えたの。それで、それで…」
うまく言葉が出てこない。なんて伝えればいいの?
すると唯華は、にっこりと微笑んで言った。
「ああ、あれね。ちょっとした冗談よ」
え?
「昨日図書館で借りた小説に告白するシーンが有って、麻弥に試したらどうなるかなって」
珍しくにやっと笑顔を作り、唯華はそうのたまった。
「何だ。こんなに悩んでいたのに」
唯華にしてやられるとは思わなかった。
「ごめんなさいね、麻弥。そう言うことだから、」
「付き合って欲しいっていう言葉は、冗談よ」
そう言うと唯華はスタスタと歩き、教室を出ていった。
全くもう、なんとお騒がせなお嬢様だ。
人が真剣に悩んだのに、冗談の一言で片付けるなんて。全く、空回りと言うか、くたびれる1日だ…
ん?
………唯華は付き合って欲しいとだけ言ったわけじゃない。
そして、それについては冗談だと言わなかった。
「唯華、そういうことなの」
何と不器用なお嬢様だろう。
何とかわいい女の子だろう!!
同性なんて違和感があると言ったけど、でも、何だろう、唯華はとんでもなくかわいい。
今日は、実に素晴らしい1日かも知れない。
「唯華、待ってよ!」
私は教室を飛び出した。
今日はついてないな。
きっと、南麻弥の1日はそう良いものではないだろう。
通学カバンを頭の上に被って小走りで登校したけれど、当然のようにブレザーとスカートはずぶ濡れで、クロックスの隙間から侵入した水分は靴下を染めていた。
もう帰りたい。
教室に入ると、奥の席に座っていた長髪の女子生徒がこちらを向き、やってきた。
「おはよう」
真木唯華。私の高校での一番の友達にして、お嬢様。吸い込まれるような黒髪は艶やかで、細やかな睫毛の下の双眸は美しい。つまりは美人お嬢様、高嶺の花を具現化した存在なのである。
私とは大違い。雲の上の存在という形容詞はこの関係に最も適合していると言える。なのだが…
「ねえ、私と付き合ってほしいの」
…………え?
いや、え?え?え?
「ねえ、聞こえてる?」
「いや、えーとその……え?」
「あなたのことが好きなの」
………………真木さん????
「……………それは…その…どういう…」
「好きなの!」
「…………」
何とまあ、ええ????
唯華が…私に告白している…………??
「え、あ…その…………ちょっと考えさせて!」
気付くと私は、入ったばかりの教室を飛び出していた。頭の細胞という細胞がオーバーヒートして、骨まで焼き切れそうだった。
どういうこと?え?
私のことが好き…
唯華はレズビアン…なの?
衝動的に教室を飛び出し、気付けば食堂前だ。
頭のオーバーヒートを鎮めるため、自販機でブラックコーヒーを買って一気飲みする。
「うっ…」
苦い。とにかく苦い…
何なんだ、一体、何が起こっているの?
唯華はお嬢様。明言はしていないが、言動の節々に気品とお金持ってるオーラが滲み出ている。
そして、世間知らず。
礼儀作法だとか勉強に関することに関しては完全無欠なのだが、いかんせん不文律だとか流行には疎い。
4月、出会ったばかりの頃には何をどう勘違いしたのか鍋を頭に被って遊びに現れたこともあった。
今回も何かの勘違いゆえの行動だろうか。
…でも。
唯華の目は真剣だった。いや、常に真剣な子ではあるからそれは何の確証にもならないんだけど。
女子が、女子と付き合う。
創作物などで何度か見たことはあるけど、それってどうなんだろう。
……………気持ち悪い、だなんて言えない。そう思いたくもないし、そう思うべきではないとわかってる。
でも、抵抗を覚えるのは確かだった。
私も地味とは言え一般的JKだ。それなりに色恋沙汰にも触れてきたし、恋をしたことだってある。
忘れられないのは、中1のときの初恋。
あれと同じ感覚で同性を好きになる。
「うーん、ピンとこない…」
その感覚というものが、いまいちわからないのは確かだった。
悶々としているうちに、鳴る予鈴。
私は結論を得ぬまま教室に戻った。
昼休みまで、唯華とは言葉を交わさなかった。
私は話しかけにいかなかったし、唯華も話しかけてこなかった。
今は4限、古典の終わり際。
退屈としか思えない文章構成で織り成される太古の色恋沙汰とにらめっこしながら、考える。
私は唯華と付き合えるのだろうか。
つまり…その、そういう目で見れるのだろうか。
知り合って半年ほどの、同性の友達。
違う。
見る、見ないじゃない。
私が、唯華の思いを受け止められるかどうかだ。
正直言って同性を恋愛対象と見るのは、やはり抵抗がある。おそらくではあるが、私はその種の人間では無いのだろう。
でも、唯華の事は大切に思っている。かわいいなとも思う。母性が働くときもままある。
そう、そうだ。
唯華は言っていた。
恋愛をした経験なんて無い、と。誰かを好きになったことなんて無いと。それは、出会った当初のぎこちない世間話だった。
そこに、唯華にこういう思いが芽生えたなら、初めての感情を覚えたなら。
私はそれを受け止めてあげたい。
昼休み開始を告げるチャイムが響き渡る。
私は唯華に歩み寄る。
「ね、その…朝のことだけど…」
「麻弥」
「その…色々考えたの。それで、それで…」
うまく言葉が出てこない。なんて伝えればいいの?
すると唯華は、にっこりと微笑んで言った。
「ああ、あれね。ちょっとした冗談よ」
え?
「昨日図書館で借りた小説に告白するシーンが有って、麻弥に試したらどうなるかなって」
珍しくにやっと笑顔を作り、唯華はそうのたまった。
「何だ。こんなに悩んでいたのに」
唯華にしてやられるとは思わなかった。
「ごめんなさいね、麻弥。そう言うことだから、」
「付き合って欲しいっていう言葉は、冗談よ」
そう言うと唯華はスタスタと歩き、教室を出ていった。
全くもう、なんとお騒がせなお嬢様だ。
人が真剣に悩んだのに、冗談の一言で片付けるなんて。全く、空回りと言うか、くたびれる1日だ…
ん?
………唯華は付き合って欲しいとだけ言ったわけじゃない。
そして、それについては冗談だと言わなかった。
「唯華、そういうことなの」
何と不器用なお嬢様だろう。
何とかわいい女の子だろう!!
同性なんて違和感があると言ったけど、でも、何だろう、唯華はとんでもなくかわいい。
今日は、実に素晴らしい1日かも知れない。
「唯華、待ってよ!」
私は教室を飛び出した。
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