竜の血を継ぐ子供達

小松雪

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4話 竜との対峙

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音楽隊の演奏が止むと、王は一歩前へ出て国民へ向けた言葉を威厳ある声音で話始めた。

その途中で天候の雲行きが怪しくなり始めた。

清々しく晴れていた空が瞬く間に厚い雲で覆われ、気温もぐんと落ち、冷え込んできた。

普段は無いような天候の変わりように皆が首を傾げる。



すると、遥か遠くから耳につくけたたましい不快な音が響いてきた。まるで大量の金属を擦り合わせたような音と、火山の噴火が雷雨と共に発生したような不穏な音を合わせたようなものだった。

音というより、意思をもった生き物の声だと皆すぐに分かった。

何故なら、厚い灰色の雲を通り抜ける翼を生やした何かが飛んできているからだ。


群衆から悲鳴が上がった。


「竜だ!!」


竜がその巨体を地上すれすれの所で低空飛行させると、巻き起こされる強い風で大勢の人が薙ぎ倒されていった。

王も王妃も共にその場で転倒した。

竜は城の一番高い塔に降り立ち、先ほどの恐ろしい鳴き声を上げた。空気を震わし、地響きまでも起こした。


「...信じられん。」

王は絶句していた。

存在しないと思っていたものを間近で見てしまい、それ以上の言葉が出なかった。


「王家をお守りしろ!」

誰かが叫ぶと、警備兵もようやく動き始めた。
王と王妃を囲い、竜から目を離さなかった。


「ウォルター、ソフィーを城の中へ連れて行って!」

王妃が悲痛に言うと、ウォルターは隣で震えている王女の腕を取って中へと避難した。


降りてくる竜は一頭ではなかった。

次から次へと翼を持つ巨大な生物が一頭、また一頭と雲から続けて出現した。


弓矢や大砲など、そんな武器を用意している暇は与えられなかった。

逃げ惑う人をしばらく品定めした後、竜は二人を拾い上げるとそのまま飛び立ち、雲の中へと消えていった。

それで終わりではない。


竜がまだ次々と地上に降りてきているのだ。


軍隊も何もかも機能していない。
逃げなければ連れていかれてしまう。


ダンは家族をなんとか見つけ出し、その場を離れようとして必死に走った。

家に戻れるような状態じゃない。安全な場所を彼らは探すがどこも安全ではなかった。




先ほど、城の塔に降りた竜も動き始めた。
ウォルターと王女が入っていった所に忍び込もうとしていた。

それを見た王妃はどん底に落ちたような痛切な悲鳴を上げた。
王は王妃を引き留めたが、王妃はその手を逃れて竜の後を追った。

「ダメ!子供達はダメよ!連れて行くなら私にして!」

竜は追ってくる王妃と王を気に留めず、王子と王女の後を執拗に追いかけた。

「兄さん!」

王女が涙の溜まった目でウォルターに訴えると、ウォルターは後ろを振り返った。

このまま逃げても間に合わない。

そう悟ったウォルターは走るのを止めて剣を抜いた。

「お前も構えろ。」

王女も観念して、兄王子の言うとおりに剣を構えた。


竜の手が伸びる。
ウォルターが竜を止めようとして剣を振り下ろしたが、剣は跳ね返ってウォルターの手から飛んでいってしまった。

竜の皮膚は硬くて丈夫だ。剣では太刀打ち出来ない。

再び妹の手を取って逃げ出そうとしたが、竜が突進してくる。


「死にたくない!」


妹の嘆き耐えられず、ウォルターは守るように王女を強く抱き締めた。



竜は王の息子と娘を捕らえ、城の天井を突き破って雲へと戻っていってしまった。


「子供達だけは...っ!子供達だけは取らないで!!」


王妃にはなす術が無かった。
地面に崩れ、嗚咽を漏らすことぐらいしかできなかった。

その場に駆けつけた騎士や諸侯達も愕然としていた。





ダンとその一家も、道を阻んだ竜から逃れようとしていた。

竜はダンを狙っており、その手が毎回彼の体へと伸ばされるが、ダンは何とか交わしていた。

危うい所はダリアの夫が竜の手に体当たりして助けてくれた。


そうこうしていると体力も落ちて限界が来た。
とうとうダンも竜に体の自由を取られてしまった。

ダリアは行かせまいとダンの両手を掴んで必死に引っ張った。ダンの手を握りしめる手が白くなっている。母もそこへ加勢した。

「姉さん、もうダメだよ。逃げなきゃ。」
「い、イヤ...。ヤダ!」

ダリアは言葉を発すると上手く発音出来ないが、ダンには彼女が何を言っているのかは分かった。

竜の力に勝てるわけもない。

苛立ったように竜がダンをダリアから強引に離すと、ダリアもその力に引っ張られて地面に倒れ、顔も地面にぶつけてしまった。

鼻から血が滴っている。

「ダリア!」

母とダリアの夫が彼女へ駆け寄り助け起こした。


「僕は大丈夫だから!」

言葉とは裏腹に、ダンの目頭と鼻の奥が熱くなった。大粒の涙が止まらない。こんなに涙を流すのは父の葬式以来だ。

鼻から血が流れていても、ダリアは構わずにダンに手を伸ばしたが、虚しくも二人の手は届かなかった。

母も絶望の淵に立たされたような気分になり、顔を覆って嗚咽を漏らしていた。

父親の腕に抱かれたキースは比較的大人しかった。
手を伸ばすダンを見て、にこやかに手を振っている。


キースはまだ何も分からないのだ。


「絶対に戻ってくるから!!」


ダンは最後に家族に向けて告げると、竜と共に灰色の雲の中へと入っていった。


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