竜の血を継ぐ子供達

小松雪

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2話 父の墓

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目の前を甥のキースが、伸びた草をザクザク踏みしめていく様を、ダンは目を細めて眺めていた。

姉が嫁ぎ先から夫と共に帰ってきたので、その二人と甥、そして母も引き連れて父の墓参りをすることになった。

三歳になったキースは何にでも興味を示す年頃だ。先々進もうとする息子の手を姉は取ろうとするが、キースは嫌がって母親の手を振りほどく。

「キース、こっちへ来い」

姉の夫も息子を止めようと声をかけるが聞く耳持たずだ。

試しにダンがキースを抱き上げてみた。
キースにとって、ダンはまだ見ず知らずの人のようなものなので泣き出すか心配だったが、意外にも大人しく抱えられている。

「ダリア、見ろよ。俺達は用済みらしい。」

キースの父が姉にそう言って笑っていた。
ダンの姉、ダリアは「冗談じゃないわよ」と目で語っていた。


そうこうしていると集団墓地が見えてきた。
その中にダンの父の墓がある。

スタン・グロリオス

墓標に刻まれている名が父の名だ。
グロリオスはダンの家の名でもある。


母が花をそっと手向け、家族で黙祷を捧げた。


「父さん、初夏に王女様の凱旋の警護に当たります。あなたは足が自由じゃなかったから、軍人になれなかったことを悔いていると死ぬ直前まで話していたそうですね。僕も結局は自分の判断で国軍に入ることを止めてしまいましたが、あなたがなし得なかったことを少しは果たせているのかな、と最近はそう考えています。自慢できる息子になれているかどうか分かりませんが、僕自身は誇れることをやらせて頂けていると思っています。それと、今は母さんと二人で家業を守っています。まだまだ父さんのように上手に靴が作れないけど、『靴作りで一番と言えば名人スタンの息子』と呼ばれるようになりたいです。王女様の凱旋が終わったらまた報告に来ますね。」

ダンが父への報告を済ませると、順番に家族達も言葉を父の墓の前で述べた。
ただ、ダリアは会話が元々不自由なので、彼女の夫がダリア直筆の手紙を読み上げた。


墓参りを終え、市場で食材を買い、ダンと母は姉夫婦のために食事を作った。
普段は食卓に出ないような食材と料理を皆で堪能した。

そこにいた誰もが、このようなささやかな日常がずっと続けば良いと願っていた。
金、地位、名誉よりも、身近に大切で愛する人がいてくれるという幸せがあることがどれだけ嬉しいことか。

けれど、喜びというのは人の生において一瞬の間である。
どれだけ願ったからといって、幸せは勝手に続くものではない。


災難が忍び寄っていることを彼らは知らない。


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