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自分の書いた言葉に少しだけ傷付きリングノートも閉じる。今日はもう何も書かない方がいいと思い、出してあったノートもシャーペンも全て片付ける。それならば本でも読んでいようかと資料用の棚とは別の本棚を物色する。
読み慣れた本もあれば買ったまま開いていない本もある。雑誌もあるし漫画もある。写真集もあるし画集もある。
その中から目についた1冊の写真集を取り出してパラパラとめくってみる。
月ばかり集めたそれはお気に入りの1冊で、気分がざわついている時には何故か手に取ってしまうのだ。
メッセージは相変わらず続いている。
同じような言葉ばかり続くので見るのにも飽きてしまった。電車から降りたのか、時折着信も混じる。
コンコン
その時、ノックの音に気付き写真集からドアへと目線を移す。その間にももう一度ノックの音がしたため慌ててドアの前に移動する。ドアチェーンは掛けてあったため鍵を開けて少しだけドアを開いてみる。
「雅?
インターホン、壊れてない?」
立っていたのは直輝だった。
インターホンを鳴らしたようだけど、インターホンは音が切ってある。今の時代、打ち合わせも全てネットを介して出来てしまうため担当と会うことも少ないし、そもそも自分が出向く事はあっても相手がこちらに顔を出す事はほとんどない。
「ごめん、音切ったままだ」
言いながらチェーンを外し直輝を迎え入れる。迎え入れると再び施錠してチェーンも掛け直す。これはもう癖のようなもので、自分以外に人が居ても居なくても身体が動いてしまうのだ。
「その癖、相変わらず?」
「だね」
「まだ怖い?」
「何が?」
僕の答えに直輝は渋い顔をする。
何人目の彼氏だったのかも覚えてないけれど、相手から別れたいと言ったのに実際に別れたら付き纏いが始まり施錠してあったはずの部屋に入られ散々な目にあったのだ。
「今度は大丈夫なの?」
流石付き合いが長いだけあって鋭い。
「あんなの学生時代の話だろ?
もうあんなヘマしない」
言いながらスマホの位置を確認する。
直輝を奥に通しながらスマホを回収して電源を落としておかないと。
「食べる物、買ってきた?」
「普段食べれないもの買ってきた」
さっきまでと違い満面の笑みだ。
「子どもいると辛いもの食べられないんだよ」
嬉しそうに見せたのはテイクアウトのカレー。スパイシーな香りはそのせいだったのか、という事はビールも持参か?
「とりあえず奥に行って。レンジもあるし」
そう声をかければ素直に奥のドアに向かう。何度もここにきているから勝手は分かっているのだ。
直輝が僕に背中を向けたタイミングでスマホを回収する。相変わらずメッセージと着信が続いている。内容を見る気もなくて急いで電源を落とす。
これで一安心だ。
居住空間に移動してダイニングのテーブルに買ってきたものを置いた直輝は「手、洗ってくる」と洗面所に向かう。
子供が産まれてからうがい手洗いをしないと嫁に怒られる、と嘆いていたけれどすっかり習慣となったのだろう。
1年ぶりに見る直輝は少し大きくなったような気もするけれど、概ね変わりない。子供の1年と大人の1年は大違いだ。そう言えば直輝の子は何歳になったんだっけ?
「ねえ、直輝の子って何歳になった?」
気になってしまい戻ってきた直輝に聞いてみる。
「ん?5歳と2歳。来年は小学生だよ」
そう言われて愕然とする。
僕がフラフラしている間にもそれぞれに人生の転機を迎えているのだ。
「舞雪は?」
「舞雪のとこは3歳かな?
今年から幼稚園」
更に衝撃を受ける。
僕が一生味わうことのできない人生を送っているのだ。少しだけ羨ましい。
「そう言えばどうして奥さんと舞雪が仲良くなってるの?」
カレーを受け取りながら聞いてみる。
受け取ったカレー をレンジに入れ、カレーに合いそうな常備菜もいくつか出す。ピクルスとか、きのこのマリネ、ついでに素焼きのナッツも出しておく。
直輝はその間に買ってきた飲み物を冷蔵庫に入れている。やっぱりビール持参だ。明日は休みだからゆっくり出来るのだろう。
「だから、流石に舞雪と頻繁に連絡取って嫁に誤解されるのも嫌だから嫁に舞雪からのメッセージ見せたんだよ」
そう言って渋い顔をする。
「そしたら嫁も雅のことが心配だけど、俺と舞雪が連絡取り合うのは面白くないから舞雪さえ良ければメッセージのグループ作ってそこで連絡取り合おうって」
言いながら手に持ったビールを開けてゴクゴクと飲み干す。ビールを飲む人は最初の一杯をこうやって飲むけれど、ビールが苦手な僕にはよくわからない行動だ。
「甘いの置いてあるよ」
どうやら僕の分もあるらしい。
カレーが温まったのでテーブルに移動してソファーに座るとやっと落ち着いた。直輝が買ってきてくれた缶酎ハイをありがたく頂いてナッツを摘みつつゆっくり飲むことにする。
「はい、舞雪から伝言」
カレーを食べながら今日にスマホを操作してメッセージを開いたのだろう。見せられた画面には〈私のブロックも解除しなさい!〉と書かれたメッセージと怒っているスタンプ。
既読2になっているのは直輝と直輝の奥さんが見たせいだ。
「分かったって送っておいて」
「雅が自分で送らないと納得しないと思うよ?」
直輝の言葉に僕は自分のスマホを出そうと思うけれど、そうすると今現在の状況がバレてしまう。
さて、どうしたものか…。
読み慣れた本もあれば買ったまま開いていない本もある。雑誌もあるし漫画もある。写真集もあるし画集もある。
その中から目についた1冊の写真集を取り出してパラパラとめくってみる。
月ばかり集めたそれはお気に入りの1冊で、気分がざわついている時には何故か手に取ってしまうのだ。
メッセージは相変わらず続いている。
同じような言葉ばかり続くので見るのにも飽きてしまった。電車から降りたのか、時折着信も混じる。
コンコン
その時、ノックの音に気付き写真集からドアへと目線を移す。その間にももう一度ノックの音がしたため慌ててドアの前に移動する。ドアチェーンは掛けてあったため鍵を開けて少しだけドアを開いてみる。
「雅?
インターホン、壊れてない?」
立っていたのは直輝だった。
インターホンを鳴らしたようだけど、インターホンは音が切ってある。今の時代、打ち合わせも全てネットを介して出来てしまうため担当と会うことも少ないし、そもそも自分が出向く事はあっても相手がこちらに顔を出す事はほとんどない。
「ごめん、音切ったままだ」
言いながらチェーンを外し直輝を迎え入れる。迎え入れると再び施錠してチェーンも掛け直す。これはもう癖のようなもので、自分以外に人が居ても居なくても身体が動いてしまうのだ。
「その癖、相変わらず?」
「だね」
「まだ怖い?」
「何が?」
僕の答えに直輝は渋い顔をする。
何人目の彼氏だったのかも覚えてないけれど、相手から別れたいと言ったのに実際に別れたら付き纏いが始まり施錠してあったはずの部屋に入られ散々な目にあったのだ。
「今度は大丈夫なの?」
流石付き合いが長いだけあって鋭い。
「あんなの学生時代の話だろ?
もうあんなヘマしない」
言いながらスマホの位置を確認する。
直輝を奥に通しながらスマホを回収して電源を落としておかないと。
「食べる物、買ってきた?」
「普段食べれないもの買ってきた」
さっきまでと違い満面の笑みだ。
「子どもいると辛いもの食べられないんだよ」
嬉しそうに見せたのはテイクアウトのカレー。スパイシーな香りはそのせいだったのか、という事はビールも持参か?
「とりあえず奥に行って。レンジもあるし」
そう声をかければ素直に奥のドアに向かう。何度もここにきているから勝手は分かっているのだ。
直輝が僕に背中を向けたタイミングでスマホを回収する。相変わらずメッセージと着信が続いている。内容を見る気もなくて急いで電源を落とす。
これで一安心だ。
居住空間に移動してダイニングのテーブルに買ってきたものを置いた直輝は「手、洗ってくる」と洗面所に向かう。
子供が産まれてからうがい手洗いをしないと嫁に怒られる、と嘆いていたけれどすっかり習慣となったのだろう。
1年ぶりに見る直輝は少し大きくなったような気もするけれど、概ね変わりない。子供の1年と大人の1年は大違いだ。そう言えば直輝の子は何歳になったんだっけ?
「ねえ、直輝の子って何歳になった?」
気になってしまい戻ってきた直輝に聞いてみる。
「ん?5歳と2歳。来年は小学生だよ」
そう言われて愕然とする。
僕がフラフラしている間にもそれぞれに人生の転機を迎えているのだ。
「舞雪は?」
「舞雪のとこは3歳かな?
今年から幼稚園」
更に衝撃を受ける。
僕が一生味わうことのできない人生を送っているのだ。少しだけ羨ましい。
「そう言えばどうして奥さんと舞雪が仲良くなってるの?」
カレーを受け取りながら聞いてみる。
受け取ったカレー をレンジに入れ、カレーに合いそうな常備菜もいくつか出す。ピクルスとか、きのこのマリネ、ついでに素焼きのナッツも出しておく。
直輝はその間に買ってきた飲み物を冷蔵庫に入れている。やっぱりビール持参だ。明日は休みだからゆっくり出来るのだろう。
「だから、流石に舞雪と頻繁に連絡取って嫁に誤解されるのも嫌だから嫁に舞雪からのメッセージ見せたんだよ」
そう言って渋い顔をする。
「そしたら嫁も雅のことが心配だけど、俺と舞雪が連絡取り合うのは面白くないから舞雪さえ良ければメッセージのグループ作ってそこで連絡取り合おうって」
言いながら手に持ったビールを開けてゴクゴクと飲み干す。ビールを飲む人は最初の一杯をこうやって飲むけれど、ビールが苦手な僕にはよくわからない行動だ。
「甘いの置いてあるよ」
どうやら僕の分もあるらしい。
カレーが温まったのでテーブルに移動してソファーに座るとやっと落ち着いた。直輝が買ってきてくれた缶酎ハイをありがたく頂いてナッツを摘みつつゆっくり飲むことにする。
「はい、舞雪から伝言」
カレーを食べながら今日にスマホを操作してメッセージを開いたのだろう。見せられた画面には〈私のブロックも解除しなさい!〉と書かれたメッセージと怒っているスタンプ。
既読2になっているのは直輝と直輝の奥さんが見たせいだ。
「分かったって送っておいて」
「雅が自分で送らないと納得しないと思うよ?」
直輝の言葉に僕は自分のスマホを出そうと思うけれど、そうすると今現在の状況がバレてしまう。
さて、どうしたものか…。
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