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case 2 貴之
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翌日、地元の体育館は色鮮やかな着物姿の女子とぎこちないスーツ姿の男子で埋め尽くされていた。
家業を継いだ俺は〈入社式〉なんてなかったし、学生時代は何かあれば制服で良かったから今日のために初めてスーツを揃えた。律希は入学式の時にスーツを買ったとは言っていたけれど、いかにもなスーツだから今日のために少しだけ華やかな物を揃えたらしい。そんな風に言われても違いなんてわからないけれど、きっと何かが違うのだろう。
律希がいない時に連んでいる地元の友人は袴にするなんて言っていたし、親からも袴を勧められたけれど動きにくそうなのが嫌で結局はスーツに落ち着いた。
結局、律希が地元を出たせいで週末に暇をしていることが多く、部活の仲間や友人との会う事が多くなった。
友人が忙しくしていた夏休みは律希と過ごし、律希と会えない冬休み以降は友人と会う回数を増やしていく。
卒業式の後は同じように就職した友人と最後の春休みを満喫した。そして、その付き合いは律希が進学した後も続き、律希のいない週末は友人と過ごす週末に変わっていく。
俺たちだって年頃の男子だ。
当然、女の子を誘って遊びに行く話も女の子とご飯を食べに行く話も出るけれど、そんな話は毎回断ってきた。
健琥との事を疑った俺が律希が不安になるような事をしてはいけない、そんな風に思っての自己満足な行動。
友人には「お前、枯れてない?」なんて笑われたけど「仕事、覚えたらちゃんと遊ぶし」と言えばそれなりに納得してもらえた。
「実家を継いで悠々自適」だなんて言えば嫌なやつだけど「家業を継ぐけどまだまだ余裕がない」と言ってみれば苦笑いと共に「頑張れよ」と言われる。言葉ひとつで周りの対応は違ってくるのだ。
そんな風に過ごした2年間は、確実に俺と律希の人間関係を変えていく。
地元の友人だけでなく、仕事で関わる人たちと人間関係を広げていく俺。
こちらに帰ってきても一緒に過ごすのは俺だけだったため、こんな時には健琥と2人で過ごす律希。
色とりどりの着物や袴、スーツの中でも律希のことはすぐに見つけることができた。背の高い健琥の隣に立つ律希は少し頼りなさげで、成人男子なのに健琥に守られているように見える。
時折キョロキョロしているのは俺を探しているのだろうか?
式の後で中学の同窓会があるため律希を誘ったけれど、明日にはもう授業があるから式の後はそのまま帰ると言われて腐ったのは少し前。
「律希と健琥なら連絡取れるよ。
出るように声かけるよ」
なんて感じに対して得意げに言った時には断られるなんて思ってもみなかった。
「久しぶりにみんなと会うんだから楽しんでおいで」
そんな風に言って翌日は休んでいいと言った俺の親は甘過ぎることに気付いたのは友人と話してる時で、その時になって律希の対応が普通なのだと実感する。
学生として甘えていると思っていた律希よりも、一足先に社会に出た俺の方が甘えていたらしい。
そんな引け目もあって律希に声をかけたいけれど、ついつい逃げてしまった事は今でも後悔している。
だけど、顔を合わせて仕舞えば健琥から離したくなるし、一緒にいれば少しでも近くにいたい。
2人で過ごす時間が欲しくなるし、律希を見る目で周りから何か気づかれるかもしれない。
向こうに遊びに行っても健琥の対応は変わる事なく、俺に対しても律希に対しても対等だ。
ただ、俺が遊びに行く時にはバイトを入れ、そのままバイト先の人たちと遊ぶからと帰ってこない時もあった。
俺たちの仲に必要以上に干渉することもなく、特異なこととして扱うこともない。あるがままに受け入れている健琥は昔のように、兄のように律希を気にかけているだけ。
だから女の子たちは何も気付かず、2人がいる事をこれ幸いにと周りを囲む。そう言えばあの2人は昔からセットで扱われ、律希を守る健琥が格好いいと女子からは人気だった。健琥に守られる律希は可愛くて、それはそれで良いらしい。
その日も2人セットで行動していたけれど、行く先々で知らない奴や知っている奴に囲まれる2人が面白くない。
何人かで談笑し、何かを言われて拗ねた顔を見せる律希を見ると苛々してしまう。健琥と話し、律希を見て笑い、その肩やその頭に触れる奴を見ると殺意が芽生える。
律希は俺のものだ。
律希を見るな。
そう言いたいけれど言えないもどかしさ。本当はその姿を隠してしまいたいのに、そのまま部屋に閉じ込めてしまいたいのに。だけど、それはできない事だから目を逸らして見ないふりをするしかなかった。
「今なら写真、大丈夫じゃない?」
その時、聞こえてきたのは女子の声だった。その子たちの視線の先にはいつの間にか女子に囲まれた2人が見える。
俺のことが好きな律希だから男子に囲まれているのを見るよりも、女子に囲まれている姿の方が安心するのは仕方がないことだろう。
どうやら写真をせがまれているようで、笑顔なのに律希は少し不機嫌そうだし健琥は健琥で笑い方が嘘くさい。
律希の不機嫌さに気付くのは、俺と健琥だけだろう。
「あの2人、こっちになんて戻ってこないよね」
そう言い出したのは誰だったのか。
2人が地方都市から出て、進学先に選んだのが大きな街だったのは地元では割と知られている。
「うちの子と律っちゃん友達だから」「帰ってくると必ずうちの子に会いにくるんです」自慢にならないような自慢をする親のことが正直恥ずかしかったし、俺と律希の関係が何かの拍子にバレるのではないかと怖かったけれどあの口を塞ぐ事はできなくて。だから俺の近くで話す女子は俺と律希の付き合いが続いている事を知っていて話し出したのだろう、きっと。
「だって、こっち戻ってきても就職先なんて微妙じゃない?」
「公務員とか?」
「健琥君や律ちゃんが市役所にいたら待たされても許せそうだけどね」
「そう言えば、貴之君って2人と仲良いんだよね?」
そんな会話のついでに俺の名前を呼んだのが安珠だった。
「貴之君、私のこと覚えてる?」
そう言われても正直わからなくて戸惑ってしまう。友人たちは突然話しかけてきた華やかな3人に興味津々だ。
「ごめん、覚えてる覚えてないじゃなくて、誰か予想もつかない」
言いながら一緒にいる子の名前を確認するとそちらは予想通り小学校も同じ子たちで、それならばともう一度考えるけれどやはり分からない。
「安珠、相当変わったもんね」
一緒にいた子に名前を呼ばれやっと認識した安珠は俺の知っていたころとは全く違い、それでも可愛らしかった。
「髪…」
そして、思わず言ってしまった言葉に杏珠が笑う。
「通ってる専門学校が美容系だから真っ黒だと目立つんだよね」
染めた髪はそれでもしっかりと手入れされていて、艶々としているし、触り心地も良さそうだ。
「ところで、健琥君や律ちゃんとは合流しないの?」
「あいつら、式終わったらすぐ帰るって言うから別行動」
「マジ?
同窓会は?」
「明日、普通に授業あるから無理だって」
「今でも仲良いの?そう言えば」
「昨日は律希と遊んでたよ」
中学時代に戻ったような会話。
高校は工業高校だったため女子は少なく、仕事を始めてからは女子といえば事務員のお姉様方が相手だ。
可愛い女の子、しかも一段と綺麗になった初恋の相手と話していて悪い気はしない。
「貴之、誰としゃべってんの?
紹介してよ」
高校の同級生に声をかけられ安珠たちを紹介する。
「なになに?
可愛い子ばっかじゃん」
「貴之の中学、レベル高くない?」
そんな風に言われ、気をよくした安珠たちは気付けばメッセージのグループを作り、みんなで集まる約束をしてしまう。
何時がいいとか、何処がいいとか、そんな話をしながら俺の友人が日にちと場所の予約を決めると言ったところで席に着くように促され、それぞれ決められた場所へと移動する。
中学ごとに決められた席に座ると先に来ていた律希と健琥の周りは既に埋まってしまっている。できれば律希の近くに、なんて思っていたのに出遅れてしまった。
「やだ、健琥君と律ちゃんの近く空いてない」と安珠たちは面白くなさそうだけど、「どうせまた帰ってくれば連絡あるし」と嘯けば静かになる。
「今度2人が帰ってきたら声かけてよね。そしたら一緒に遊べるし」
「3対3ならちょうど良くない?」
そんな言葉を聞きながら2人の後ろ姿を睨みつける。
律希の隣は俺の場所なのに。
律希のことを信じると言ったのに、それなのに心の何処かで信じきれないのは律希と健琥の距離の近さがどうしても気になるから。
何処か触れ合うわけでもないし、話をする時に必要以上に近づくわけでもないのに、それなのに2人の間にある独特の雰囲気は俺の心を逆撫で、俺の焦燥感を煽る。律希が健琥と仲良くするのなら、俺だって律希じゃない誰かと仲良くしたっていいはずだ。
そんな風に思ったのは嫉妬からだったのか、それとも気付いてしまった〈初恋〉の相手だったせいか…。
当て付けのつもりだったわけではないけれど、同窓会で安珠と意気投合したのは初恋を意識したから。
安珠と過ごす事で、俺のことを初恋だと言った律希の気持ちが少しでも理解できるかなんて淡い期待もあったんだ。
それに、律希は俺の事を初恋の相手だと言ったくせに、それなのに俺のことを蔑ろにするのだから俺だって初恋の相手と〈何か〉あっても良いはずだという訳のわからない理屈。
律希が初恋の俺を引き止めようと何でも言うことを聞いたように、俺も安珠に対してそんな気持ちを抱くのだろうかという好奇心もあった。
その時は別に、安珠と付き合おうとか、安珠としたいとか、そんな事は考えてなかった。だけど、安珠と過ごした時に、初恋の人と過ごした時に自分がどんな気持ちになるのかは気になった。
同窓会に出席した安珠はワンピースに着替えていて、着物ではないことを少し残念に思ったのは律希と浴衣の話をしたせいだったのだろうか。もしかしたら同窓会の後に一緒に過ごすことを無意識に期待していたのかもしれない。
同窓会を終え、2次会3次会と流れ、最後に自分の部屋に連れ込んだのは自分の意思だったのか、酔っていたせいなのか。
律希と過ごした部屋で安珠と過ごす事に何の罪悪感も感じなかったのは酔っていたせいなのか。
この時、理性が働いていれば未来は違ったのだろうか…。
家業を継いだ俺は〈入社式〉なんてなかったし、学生時代は何かあれば制服で良かったから今日のために初めてスーツを揃えた。律希は入学式の時にスーツを買ったとは言っていたけれど、いかにもなスーツだから今日のために少しだけ華やかな物を揃えたらしい。そんな風に言われても違いなんてわからないけれど、きっと何かが違うのだろう。
律希がいない時に連んでいる地元の友人は袴にするなんて言っていたし、親からも袴を勧められたけれど動きにくそうなのが嫌で結局はスーツに落ち着いた。
結局、律希が地元を出たせいで週末に暇をしていることが多く、部活の仲間や友人との会う事が多くなった。
友人が忙しくしていた夏休みは律希と過ごし、律希と会えない冬休み以降は友人と会う回数を増やしていく。
卒業式の後は同じように就職した友人と最後の春休みを満喫した。そして、その付き合いは律希が進学した後も続き、律希のいない週末は友人と過ごす週末に変わっていく。
俺たちだって年頃の男子だ。
当然、女の子を誘って遊びに行く話も女の子とご飯を食べに行く話も出るけれど、そんな話は毎回断ってきた。
健琥との事を疑った俺が律希が不安になるような事をしてはいけない、そんな風に思っての自己満足な行動。
友人には「お前、枯れてない?」なんて笑われたけど「仕事、覚えたらちゃんと遊ぶし」と言えばそれなりに納得してもらえた。
「実家を継いで悠々自適」だなんて言えば嫌なやつだけど「家業を継ぐけどまだまだ余裕がない」と言ってみれば苦笑いと共に「頑張れよ」と言われる。言葉ひとつで周りの対応は違ってくるのだ。
そんな風に過ごした2年間は、確実に俺と律希の人間関係を変えていく。
地元の友人だけでなく、仕事で関わる人たちと人間関係を広げていく俺。
こちらに帰ってきても一緒に過ごすのは俺だけだったため、こんな時には健琥と2人で過ごす律希。
色とりどりの着物や袴、スーツの中でも律希のことはすぐに見つけることができた。背の高い健琥の隣に立つ律希は少し頼りなさげで、成人男子なのに健琥に守られているように見える。
時折キョロキョロしているのは俺を探しているのだろうか?
式の後で中学の同窓会があるため律希を誘ったけれど、明日にはもう授業があるから式の後はそのまま帰ると言われて腐ったのは少し前。
「律希と健琥なら連絡取れるよ。
出るように声かけるよ」
なんて感じに対して得意げに言った時には断られるなんて思ってもみなかった。
「久しぶりにみんなと会うんだから楽しんでおいで」
そんな風に言って翌日は休んでいいと言った俺の親は甘過ぎることに気付いたのは友人と話してる時で、その時になって律希の対応が普通なのだと実感する。
学生として甘えていると思っていた律希よりも、一足先に社会に出た俺の方が甘えていたらしい。
そんな引け目もあって律希に声をかけたいけれど、ついつい逃げてしまった事は今でも後悔している。
だけど、顔を合わせて仕舞えば健琥から離したくなるし、一緒にいれば少しでも近くにいたい。
2人で過ごす時間が欲しくなるし、律希を見る目で周りから何か気づかれるかもしれない。
向こうに遊びに行っても健琥の対応は変わる事なく、俺に対しても律希に対しても対等だ。
ただ、俺が遊びに行く時にはバイトを入れ、そのままバイト先の人たちと遊ぶからと帰ってこない時もあった。
俺たちの仲に必要以上に干渉することもなく、特異なこととして扱うこともない。あるがままに受け入れている健琥は昔のように、兄のように律希を気にかけているだけ。
だから女の子たちは何も気付かず、2人がいる事をこれ幸いにと周りを囲む。そう言えばあの2人は昔からセットで扱われ、律希を守る健琥が格好いいと女子からは人気だった。健琥に守られる律希は可愛くて、それはそれで良いらしい。
その日も2人セットで行動していたけれど、行く先々で知らない奴や知っている奴に囲まれる2人が面白くない。
何人かで談笑し、何かを言われて拗ねた顔を見せる律希を見ると苛々してしまう。健琥と話し、律希を見て笑い、その肩やその頭に触れる奴を見ると殺意が芽生える。
律希は俺のものだ。
律希を見るな。
そう言いたいけれど言えないもどかしさ。本当はその姿を隠してしまいたいのに、そのまま部屋に閉じ込めてしまいたいのに。だけど、それはできない事だから目を逸らして見ないふりをするしかなかった。
「今なら写真、大丈夫じゃない?」
その時、聞こえてきたのは女子の声だった。その子たちの視線の先にはいつの間にか女子に囲まれた2人が見える。
俺のことが好きな律希だから男子に囲まれているのを見るよりも、女子に囲まれている姿の方が安心するのは仕方がないことだろう。
どうやら写真をせがまれているようで、笑顔なのに律希は少し不機嫌そうだし健琥は健琥で笑い方が嘘くさい。
律希の不機嫌さに気付くのは、俺と健琥だけだろう。
「あの2人、こっちになんて戻ってこないよね」
そう言い出したのは誰だったのか。
2人が地方都市から出て、進学先に選んだのが大きな街だったのは地元では割と知られている。
「うちの子と律っちゃん友達だから」「帰ってくると必ずうちの子に会いにくるんです」自慢にならないような自慢をする親のことが正直恥ずかしかったし、俺と律希の関係が何かの拍子にバレるのではないかと怖かったけれどあの口を塞ぐ事はできなくて。だから俺の近くで話す女子は俺と律希の付き合いが続いている事を知っていて話し出したのだろう、きっと。
「だって、こっち戻ってきても就職先なんて微妙じゃない?」
「公務員とか?」
「健琥君や律ちゃんが市役所にいたら待たされても許せそうだけどね」
「そう言えば、貴之君って2人と仲良いんだよね?」
そんな会話のついでに俺の名前を呼んだのが安珠だった。
「貴之君、私のこと覚えてる?」
そう言われても正直わからなくて戸惑ってしまう。友人たちは突然話しかけてきた華やかな3人に興味津々だ。
「ごめん、覚えてる覚えてないじゃなくて、誰か予想もつかない」
言いながら一緒にいる子の名前を確認するとそちらは予想通り小学校も同じ子たちで、それならばともう一度考えるけれどやはり分からない。
「安珠、相当変わったもんね」
一緒にいた子に名前を呼ばれやっと認識した安珠は俺の知っていたころとは全く違い、それでも可愛らしかった。
「髪…」
そして、思わず言ってしまった言葉に杏珠が笑う。
「通ってる専門学校が美容系だから真っ黒だと目立つんだよね」
染めた髪はそれでもしっかりと手入れされていて、艶々としているし、触り心地も良さそうだ。
「ところで、健琥君や律ちゃんとは合流しないの?」
「あいつら、式終わったらすぐ帰るって言うから別行動」
「マジ?
同窓会は?」
「明日、普通に授業あるから無理だって」
「今でも仲良いの?そう言えば」
「昨日は律希と遊んでたよ」
中学時代に戻ったような会話。
高校は工業高校だったため女子は少なく、仕事を始めてからは女子といえば事務員のお姉様方が相手だ。
可愛い女の子、しかも一段と綺麗になった初恋の相手と話していて悪い気はしない。
「貴之、誰としゃべってんの?
紹介してよ」
高校の同級生に声をかけられ安珠たちを紹介する。
「なになに?
可愛い子ばっかじゃん」
「貴之の中学、レベル高くない?」
そんな風に言われ、気をよくした安珠たちは気付けばメッセージのグループを作り、みんなで集まる約束をしてしまう。
何時がいいとか、何処がいいとか、そんな話をしながら俺の友人が日にちと場所の予約を決めると言ったところで席に着くように促され、それぞれ決められた場所へと移動する。
中学ごとに決められた席に座ると先に来ていた律希と健琥の周りは既に埋まってしまっている。できれば律希の近くに、なんて思っていたのに出遅れてしまった。
「やだ、健琥君と律ちゃんの近く空いてない」と安珠たちは面白くなさそうだけど、「どうせまた帰ってくれば連絡あるし」と嘯けば静かになる。
「今度2人が帰ってきたら声かけてよね。そしたら一緒に遊べるし」
「3対3ならちょうど良くない?」
そんな言葉を聞きながら2人の後ろ姿を睨みつける。
律希の隣は俺の場所なのに。
律希のことを信じると言ったのに、それなのに心の何処かで信じきれないのは律希と健琥の距離の近さがどうしても気になるから。
何処か触れ合うわけでもないし、話をする時に必要以上に近づくわけでもないのに、それなのに2人の間にある独特の雰囲気は俺の心を逆撫で、俺の焦燥感を煽る。律希が健琥と仲良くするのなら、俺だって律希じゃない誰かと仲良くしたっていいはずだ。
そんな風に思ったのは嫉妬からだったのか、それとも気付いてしまった〈初恋〉の相手だったせいか…。
当て付けのつもりだったわけではないけれど、同窓会で安珠と意気投合したのは初恋を意識したから。
安珠と過ごす事で、俺のことを初恋だと言った律希の気持ちが少しでも理解できるかなんて淡い期待もあったんだ。
それに、律希は俺の事を初恋の相手だと言ったくせに、それなのに俺のことを蔑ろにするのだから俺だって初恋の相手と〈何か〉あっても良いはずだという訳のわからない理屈。
律希が初恋の俺を引き止めようと何でも言うことを聞いたように、俺も安珠に対してそんな気持ちを抱くのだろうかという好奇心もあった。
その時は別に、安珠と付き合おうとか、安珠としたいとか、そんな事は考えてなかった。だけど、安珠と過ごした時に、初恋の人と過ごした時に自分がどんな気持ちになるのかは気になった。
同窓会に出席した安珠はワンピースに着替えていて、着物ではないことを少し残念に思ったのは律希と浴衣の話をしたせいだったのだろうか。もしかしたら同窓会の後に一緒に過ごすことを無意識に期待していたのかもしれない。
同窓会を終え、2次会3次会と流れ、最後に自分の部屋に連れ込んだのは自分の意思だったのか、酔っていたせいなのか。
律希と過ごした部屋で安珠と過ごす事に何の罪悪感も感じなかったのは酔っていたせいなのか。
この時、理性が働いていれば未来は違ったのだろうか…。
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