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羽琉 僕の間違い。
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僕の間違いは燈哉を試したこと。
僕の間違いは燈哉を信じすぎたこと。
僕の間違いは燈哉は僕から離れないと過信していたこと。
先生との話を終え病室に戻ったものの、ベッドに横になるような体調ではないため備え付けのソファに座りスマホを開く。幼い頃は本を読んで過ごしていた入院中の退屈な時間だったけれど、今はスマホさえあれば時間を潰すことは容易だ。
読みたい本があれば読めるし、漫画だって読める。ゲームだってできるし音楽を聴いたり動画を見たり、画面の大きさを気にしなければ映画だって観れてしまう。
本来なら伊織と政文に夏休みの約束を守ることができなくなったと連絡をしなくてはいけないのにメッセージアプリを開くことができない。ふたりと会えなくなったことが悲しくて落ち込んでいるわけではなくて、ふたりとした約束が燈哉に伝わり、そのせいで燈哉が傷付けばいいのにと思ってした行動が自分に跳ね返ってきたせいで疲れてしまったから。
彼との夏休みを楽しみにしていた燈哉に対する意趣返しではないけれど、僕が夏休みにふたりと過ごすことを知って燈哉が傷付けばいいと思ったのは話の流れから思いついた出来心だった。
ふたりと約束をすれば伊織のことだから燈哉に伝えるはずだと確信していたし、その話を聞いて僕があの時に傷付いたように燈哉も傷付けばいいと思ったんだ。
そして、僕の気持ちを知って彼との約束を反故してくれればと期待していた。
やられたらやり返すなんて何の解決にもならないと知っていたけれど、もしも駄目になる関係であってもこのままフェイドアウトすることが許せなかったから。一矢報いると言うわけではないけれど、それでも燈哉の心に小さな棘でもいいから何か傷を残したかったから。
願わくば、僕の与えられなかった燈哉の体液が、僕のことを思い出すたびに流れ続ければいいとすら思ってしまう。
「それがこんなことになるなんて…」
先ほどの先生とのやりとりを思い出して憂鬱になる。僕のしてきたことに対して燈哉を庇うような言葉を繰り返し、燈哉に対する仕打ちを嗜められて燈哉を僕から遠ざけるほうがいいとすら言われてしまった。
「羽琉君、自分の身体の変化に気付いてる?」
燈哉とのすれ違いを聞いた先生は唐突にそんなことを言い出す。
「変化って、栄養失調とストレスですよね」
「それは変化じゃなくて症状。
自分の身体の変化には気付いてないのかな、」
はっきりと言葉にせず自分で考えろとでもいうような遠回しな表現。身体の変化と言われても食事抜くことによる不調くらいしか自覚はない。
「身体の変化って言われても…」
「本当に自覚がないんだね」
言い淀む僕に呆れたように言った先生は僕の前に書類を広げる。「これは?」と答えた僕に「羽琉君の検査結果」と短く答えると説明を始める。
それは幼い頃からの僕の記録らしく、グラフの書いてあるページを開くと「これ、フェロモンの変化のグラフだよ」とそこを見るように促す。
グラフに描かれた線は測定できないことを記すゼロから始まり2本引かれた罫線のうち青い罫線を越すことの無かった線は、青い罫線を越えた後はそこに寄り添うように続いていく。
「はい、この辺が中等部の頃」
そう記した先にある線は青い罫線から多少は離れてはいるものの、赤い罫線にはまだまだ届きそうにない。少しずつ登ってはいるものの、その上昇は緩やかだ。
「で、ここが今回の結果」
そこには急激に上を向き赤い罫線を越えようとしている線が描かれていた。それを見て先生の言いたいことに気付く。
「このグラフの見方は知ってるよね。
青い罫線越えると人がフェロモンを感知できるようになるレベル。羽琉君は感知できるレベルは超えてるものの、かなり低いレベルだよね。
で、赤い罫線がヒートが起こる目安。これ見ると羽琉君のヒートが近いことが予測できるんだけど、そこで提案」
「………何ですか?」
笑顔を浮かべてはいるものの目の笑っていない先生は僕に2つの選択肢を提案する。
「隆臣君から朝のマーキングの話を聞いたけど、フェロモンの数値が上がったのはそのせいだと思うんだ。だから毎朝のマーキングをしなくなれば数値が下がるとは思うんだけど、このまま上がり続ければヒートが来るのは確実なのは分かるよね。
【番候補】である燈哉君との関係が良好なら彼と過ごすことになったと思うんだけど、羽琉君の様子を見ているとそれは難しいと思うんだ。蟠りを持ったままふたりでヒートを過ごすことを僕は主治医として認められない。
ただでさえ彼のことを番と認識して他のαに触れられただけで拒絶するんだから、一度でも彼と過ごしてしまえば他のαに触れられることに抵抗感しかなくなるだろうし。
そうなると選択肢は2つなんだけど、ひとつはここで専用の部屋を使ってヒートを乗り切ること。
もちろん様子を見て薬の処方はするし、必要な道具も揃えるし。身の回りの世話はΩの看護師がつくから心配しなくても大丈夫だし。
今の段階で1番現実的なのはこれ」
そう言ってその部屋の案内が書かれたパンフレットを見せてくれる。部屋の写真や標準の設備、具体的なケアの仕方やオプションとして用意できる道具なども記載されていてその生々しさに戸惑ってしまう。僕だってヒートの時に何が起こり、どうなるのかだって知っているし、ヒートが来ていなくても欲望がないわけじゃない。
普段なら昂りを鎮めれば抑えることのできる欲望だったけれど、ヒートの時にいつもと同じ方法で抑えることができるのかという不安はある。
戸惑う僕をよそに話は続けられていく。
「2つ目は頼ることのできるαにお願いして一緒に過ごしてもらうこと。
協力してくれるαをこちらで探すこともできるけど、隆臣君に聞いたらお友達にαがいるって言うし。
Ωと番う気がないαであっても相手が協力してくれるのならそのほうが安心なんじゃないかな」
「それって、」
「ふたりいるんだよね、仲良くしてるαの子。相手の同意が得られれば医療行為としてお願いできるし、薬の副作用を心配する必要ないし。
全く知らないαよりは知ってる相手の方が安心できるんじゃないかな」
そう言った先生は、決して揶揄っているわけではなくて、医師としての最善を伝えていることがわかってしまい返答に困ってしまう。
「僕は燈哉と、」
「その燈哉君には頼れないからの提案だってわかってるよね。彼は【番候補】だけど拒否権はあるし、拒否したくなるようなことをしてしまったのは羽琉君だって自覚ある?
燈哉君を試すようなことを続けたせいで離れてしまった心を取り戻せるって、本当に思ってる?」
容赦のない言葉を否定したいのに、先生の言葉が正論すぎて何も返すことができない。
「でも、燈哉は【番候補】だし。
それなのに僕だけが責められてるのも納得できません。責められるべきは【番候補】なのに他のΩを側に置いた燈哉じゃないんですか?」
「だから、【番候補】って【番】じゃないんだから羽琉君に対して何か責任を取る必要はないんだよ。【番候補】として羽琉君にマーキングしたのは候補としての義務。他のαに危害を加えられないようにしただけのことで、だからと言ってヒートを一緒に過ごすように強要できるわけじゃないよ。
自分が大切に思う相手だからこそ【番候補】と言う立場になったのに、行動も人間関係も制限されて、それなのに羽琉君は自分以外のαに媚び売って。
話を聞いてると入学式の日に【番候補】である燈哉君が【唯一】を見つけたせいだと思ってるみたいだけど、そうじゃないことに気付かないと何の解決にもならないよ」
自分に向けられた言葉の意味が分からず、自分が責められていることに納得がいかない。
あの日の朝までは何も変わらなかった僕と燈哉の関係は、彼の【唯一】である今居涼夏が現れたことで変わってしまった。僕の【番候補】であるのに今居涼夏の元に行った燈哉が許されるのは僕がαに媚を売ったせいだと言うけれど、友人と過ごすことが媚を売ることになるなんて暴論だ。
「現実問題、薬を使ってヒートをやり過ごすか、お友達のαにお願いするかの2つの選択肢から選ぶしかないんだよ」
諌めるように言われ仕方なく考えてみるけれど、ヒートを過ごす相手として思い浮かべられるのは燈哉だけだし、伊織や政文と過ごさないといけないのかと考えれば入学式の日に触れられたことを思い出してしまい気分が悪くなるような気がしてくる。
「選ばないといけないなら薬を選びます」
考えて出すことのできる結論なんてそれしかない。燈哉以外に触れられることなんて想像できないし、想像したくもない。
僕の間違いは燈哉を信じすぎたこと。
僕の間違いは燈哉は僕から離れないと過信していたこと。
先生との話を終え病室に戻ったものの、ベッドに横になるような体調ではないため備え付けのソファに座りスマホを開く。幼い頃は本を読んで過ごしていた入院中の退屈な時間だったけれど、今はスマホさえあれば時間を潰すことは容易だ。
読みたい本があれば読めるし、漫画だって読める。ゲームだってできるし音楽を聴いたり動画を見たり、画面の大きさを気にしなければ映画だって観れてしまう。
本来なら伊織と政文に夏休みの約束を守ることができなくなったと連絡をしなくてはいけないのにメッセージアプリを開くことができない。ふたりと会えなくなったことが悲しくて落ち込んでいるわけではなくて、ふたりとした約束が燈哉に伝わり、そのせいで燈哉が傷付けばいいのにと思ってした行動が自分に跳ね返ってきたせいで疲れてしまったから。
彼との夏休みを楽しみにしていた燈哉に対する意趣返しではないけれど、僕が夏休みにふたりと過ごすことを知って燈哉が傷付けばいいと思ったのは話の流れから思いついた出来心だった。
ふたりと約束をすれば伊織のことだから燈哉に伝えるはずだと確信していたし、その話を聞いて僕があの時に傷付いたように燈哉も傷付けばいいと思ったんだ。
そして、僕の気持ちを知って彼との約束を反故してくれればと期待していた。
やられたらやり返すなんて何の解決にもならないと知っていたけれど、もしも駄目になる関係であってもこのままフェイドアウトすることが許せなかったから。一矢報いると言うわけではないけれど、それでも燈哉の心に小さな棘でもいいから何か傷を残したかったから。
願わくば、僕の与えられなかった燈哉の体液が、僕のことを思い出すたびに流れ続ければいいとすら思ってしまう。
「それがこんなことになるなんて…」
先ほどの先生とのやりとりを思い出して憂鬱になる。僕のしてきたことに対して燈哉を庇うような言葉を繰り返し、燈哉に対する仕打ちを嗜められて燈哉を僕から遠ざけるほうがいいとすら言われてしまった。
「羽琉君、自分の身体の変化に気付いてる?」
燈哉とのすれ違いを聞いた先生は唐突にそんなことを言い出す。
「変化って、栄養失調とストレスですよね」
「それは変化じゃなくて症状。
自分の身体の変化には気付いてないのかな、」
はっきりと言葉にせず自分で考えろとでもいうような遠回しな表現。身体の変化と言われても食事抜くことによる不調くらいしか自覚はない。
「身体の変化って言われても…」
「本当に自覚がないんだね」
言い淀む僕に呆れたように言った先生は僕の前に書類を広げる。「これは?」と答えた僕に「羽琉君の検査結果」と短く答えると説明を始める。
それは幼い頃からの僕の記録らしく、グラフの書いてあるページを開くと「これ、フェロモンの変化のグラフだよ」とそこを見るように促す。
グラフに描かれた線は測定できないことを記すゼロから始まり2本引かれた罫線のうち青い罫線を越すことの無かった線は、青い罫線を越えた後はそこに寄り添うように続いていく。
「はい、この辺が中等部の頃」
そう記した先にある線は青い罫線から多少は離れてはいるものの、赤い罫線にはまだまだ届きそうにない。少しずつ登ってはいるものの、その上昇は緩やかだ。
「で、ここが今回の結果」
そこには急激に上を向き赤い罫線を越えようとしている線が描かれていた。それを見て先生の言いたいことに気付く。
「このグラフの見方は知ってるよね。
青い罫線越えると人がフェロモンを感知できるようになるレベル。羽琉君は感知できるレベルは超えてるものの、かなり低いレベルだよね。
で、赤い罫線がヒートが起こる目安。これ見ると羽琉君のヒートが近いことが予測できるんだけど、そこで提案」
「………何ですか?」
笑顔を浮かべてはいるものの目の笑っていない先生は僕に2つの選択肢を提案する。
「隆臣君から朝のマーキングの話を聞いたけど、フェロモンの数値が上がったのはそのせいだと思うんだ。だから毎朝のマーキングをしなくなれば数値が下がるとは思うんだけど、このまま上がり続ければヒートが来るのは確実なのは分かるよね。
【番候補】である燈哉君との関係が良好なら彼と過ごすことになったと思うんだけど、羽琉君の様子を見ているとそれは難しいと思うんだ。蟠りを持ったままふたりでヒートを過ごすことを僕は主治医として認められない。
ただでさえ彼のことを番と認識して他のαに触れられただけで拒絶するんだから、一度でも彼と過ごしてしまえば他のαに触れられることに抵抗感しかなくなるだろうし。
そうなると選択肢は2つなんだけど、ひとつはここで専用の部屋を使ってヒートを乗り切ること。
もちろん様子を見て薬の処方はするし、必要な道具も揃えるし。身の回りの世話はΩの看護師がつくから心配しなくても大丈夫だし。
今の段階で1番現実的なのはこれ」
そう言ってその部屋の案内が書かれたパンフレットを見せてくれる。部屋の写真や標準の設備、具体的なケアの仕方やオプションとして用意できる道具なども記載されていてその生々しさに戸惑ってしまう。僕だってヒートの時に何が起こり、どうなるのかだって知っているし、ヒートが来ていなくても欲望がないわけじゃない。
普段なら昂りを鎮めれば抑えることのできる欲望だったけれど、ヒートの時にいつもと同じ方法で抑えることができるのかという不安はある。
戸惑う僕をよそに話は続けられていく。
「2つ目は頼ることのできるαにお願いして一緒に過ごしてもらうこと。
協力してくれるαをこちらで探すこともできるけど、隆臣君に聞いたらお友達にαがいるって言うし。
Ωと番う気がないαであっても相手が協力してくれるのならそのほうが安心なんじゃないかな」
「それって、」
「ふたりいるんだよね、仲良くしてるαの子。相手の同意が得られれば医療行為としてお願いできるし、薬の副作用を心配する必要ないし。
全く知らないαよりは知ってる相手の方が安心できるんじゃないかな」
そう言った先生は、決して揶揄っているわけではなくて、医師としての最善を伝えていることがわかってしまい返答に困ってしまう。
「僕は燈哉と、」
「その燈哉君には頼れないからの提案だってわかってるよね。彼は【番候補】だけど拒否権はあるし、拒否したくなるようなことをしてしまったのは羽琉君だって自覚ある?
燈哉君を試すようなことを続けたせいで離れてしまった心を取り戻せるって、本当に思ってる?」
容赦のない言葉を否定したいのに、先生の言葉が正論すぎて何も返すことができない。
「でも、燈哉は【番候補】だし。
それなのに僕だけが責められてるのも納得できません。責められるべきは【番候補】なのに他のΩを側に置いた燈哉じゃないんですか?」
「だから、【番候補】って【番】じゃないんだから羽琉君に対して何か責任を取る必要はないんだよ。【番候補】として羽琉君にマーキングしたのは候補としての義務。他のαに危害を加えられないようにしただけのことで、だからと言ってヒートを一緒に過ごすように強要できるわけじゃないよ。
自分が大切に思う相手だからこそ【番候補】と言う立場になったのに、行動も人間関係も制限されて、それなのに羽琉君は自分以外のαに媚び売って。
話を聞いてると入学式の日に【番候補】である燈哉君が【唯一】を見つけたせいだと思ってるみたいだけど、そうじゃないことに気付かないと何の解決にもならないよ」
自分に向けられた言葉の意味が分からず、自分が責められていることに納得がいかない。
あの日の朝までは何も変わらなかった僕と燈哉の関係は、彼の【唯一】である今居涼夏が現れたことで変わってしまった。僕の【番候補】であるのに今居涼夏の元に行った燈哉が許されるのは僕がαに媚を売ったせいだと言うけれど、友人と過ごすことが媚を売ることになるなんて暴論だ。
「現実問題、薬を使ってヒートをやり過ごすか、お友達のαにお願いするかの2つの選択肢から選ぶしかないんだよ」
諌めるように言われ仕方なく考えてみるけれど、ヒートを過ごす相手として思い浮かべられるのは燈哉だけだし、伊織や政文と過ごさないといけないのかと考えれば入学式の日に触れられたことを思い出してしまい気分が悪くなるような気がしてくる。
「選ばないといけないなら薬を選びます」
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