Ωだから仕方ない。

佳乃

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【side:羽琉】一途すぎる想いは僕を盲目にする。

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 燈哉のことを独占したい。

 燈哉に僕だけを見ていて欲しい。

 その想いをよそに環境は変化していく。



 初等部までと違い中等部からは定期テストがあるため優劣が目に見えて分かるものの、燈哉も僕も問題なく満足な順位を取ることができた。
 順位が出ることで成績が可視化したせいで、面倒見の良い燈哉は勉強を教えて欲しいと声をかけられるようになる。
 授業後に集まって勉強をしようと計画をしていたようだけど、初等部の時に僕以外と過ごす時間が許せないと遠回しに伝えたのに「羽琉も一緒にどう?」と声をかけられた時、僕に断りもなく引き受けたことが許せなくて「そんなこと引き受けて成績落とさないようにね」と冷たく言ってしまったことに後悔は無い。

 僕だけに一緒に勉強をしようと言ってくれれば素直になれたのに、『羽琉も一緒に』とついでのように言われたことが許せなかったと素直に伝えれば良かったのかもしれないけれど、伝えなくても分かって欲しいと僕の要求はどんどんエスカレートしていく。
 燈哉に甘えているふりをして、燈哉を支配したかっただけの幼い独占欲。

 結局、一度は引き受けてしまったせいで放課後に約束をしたようだったけど、その日は僕は調子が悪くて休んだから開催されたかどうかは知らない。
 見たくなければ、知りたくなければ見えないように、知ることのないようにすればいいだけのことだから。

 だけど初等部の時から学級代表や児童委員をしていた燈哉は中学でも生徒会の一員となり、そこでもまた新しい人間関係を広げていく。

「生徒会に誘われたんだけど、」

 そんなふうに相談の程で僕に言った時には燈哉の気持ちは決まっていたと思う。だって、「生徒会って授業のあとも忙しいんじゃないの?」と聞いた僕に「羽琉のこと車まで送るのは変わらないから大丈夫だよ」と諭すように言われたから。

『生徒会に誘われたんだけど、どうしよう』ではなくて、『生徒会に誘われたんだけど、良いよね?』と言う確認だったのだろう。
 以前、僕を車まで送って友人と仲良くしていたことを思い出してしまう。

「中等部で生徒会やっておくと高等部でも誘ってもらえるし。
 これからのこと考えると今から知り合いを増やしていくのは大切だと思うんだ」

「これからって?」

「この先も羽琉と一緒にいたいならこのまま普通に過ごしてるだけじゃ駄目だと思うんだ。成績さえ良ければとか、運動さえできればとか、それだけじゃ駄目だと思うし」

 僕の心配をよそにいつになく饒舌な燈哉は言葉を続ける。

「それに、児童会の委員やった時に羽琉が凄いって言ってくれただろ?
 中等部では会長目指そうと思うんだ」

 そう言った燈哉の思いがけない言葉に驚いてしまい「僕のせい?」と聞き返せば「羽琉のせいじゃなくて、羽琉のためだよ」と笑われてしまう。

 燈哉が僕以外と関わりを持ち、僕から離れていくのが怖いのにその原因は『僕のせい』で、それなのに燈哉は『僕のため』だと言う。

 僕たちの想いはこうやってすれ違っていく。

「俺が誰よりも優秀だったら誰も羽琉のこと狙わなくなるんじゃないかなって、そんな狡いことも考えてるし」

 その言葉は僕への想いが込められていて嫌だとは言えなかった。
 本当はずっと一緒にいたい気持ちを我慢しているのに、生徒会に入れば燈哉と一緒に過ごすことができると言う事実が腹立たしい。

 中等部に入りますます背が伸びた燈哉が先輩からも声をかけられていることを僕は知っている。燈哉は何も言わないけれど、わざわざ僕に報告があるわけじゃないけれど、多くの時間を教室で過ごす僕の元には知りたいことも、知らないことも耳に入ってきてしまうのだから。

 盗られたくない。

 盗られたくない。

 盗られたくない。

「僕のためにありがとう」

 苦い気持ちを押し殺してそう言って笑う。僕は燈哉の気持ちに応えられているだろうか、僕は喜んでいるように見えるだろうか。

 僕のためと言われても伊織と政文の話を聞いてしまったせいで、僕以外の人と関わりを持つことに不安を感じてしまう。生徒会室に出入りするようになれば誰かとふたりきりになる事もあるだろう。何かの拍子に誰かと触れ合う事だってあるだろう。

 その触れ合いがどんなものであっても許せない自分に戸惑い、そんな風に思わせる燈哉に苛立つ。
 
 完全な八つ当たりだなんて分かってた。そんなふうに思ってしまう自分を持て余していた。
 どうすれば燈哉を盗られないのかなんて簡単な事で、【番】となってしまえばいいだけのこと。

 【番】となればお互いのフェロモンしか感じることができなくなるし、僕はもう燈哉としか触れ合うことができなくなるのだから優しい燈哉は僕から離れられなくなるだろう。



「早く来ればいいのに」

 伊織と政文の話を聞いたせいで今まで以上に意識してしまう燈哉との触れ合い。

「羽琉さん、何か言いましたか?」

 僕が思わず漏らした言葉に隆臣が応える。今日も僕を車まで送った燈哉は生徒会の仕事があると校内に戻っていった。

「変なこと聞いていい?」

「変なことですか?」

「そう。
 隆臣も燈哉と僕の関係知ってるよね」

「関係というと、【番候補】のことですか?」

「うん、それなんだけど、今僕にヒートが来たらどうなるの?」

 デリケートな問題だから父に聞いた方がいいかとも思ったけれど、結局何かあった時に連絡が行くのは隆臣になのだからこれが正解だろう。隆臣とはそれなりに信頼関係を築けているという安心感もある。たまに顔を合わせる父よりも、隆臣との方が話しやすいし、父親とは割と頻繁に顔を合わせるものの、こういったデリケートなことを話すのには躊躇いがある。
 αの父親とΩの息子の関係は、同性ではあるけれど父娘のような関係なのかもしれない。

「羽琉さん、それ、私が運転中に言うことですか?
 話すことはできますがデリケートな話なので帰ってからにしてください」

 僕の言葉に反応してくれたから聞いてみただけなのに呆れられてしまい、それもそうだと反省する。

「ごめん、」

「謝らなくてもいいですが、もう少し待ってくださいね」

 穏やかにそう言った隆臣は、その言葉通り帰宅すると話すための時間をとってくれた。

「先ほどの話ですが、ご両親からは羽琉さんの望むようにしていいと言われてます」

 それは以前から言われていることだから知っていると言う代わりに頷いてみせる。

「先生のところで部屋を用意してもらうこともできますし、羽琉さんと燈哉さんが望むなら2人で過ごす事も可能です。
 この家に招くことはできないので燈哉さんの家の近くで部屋を用意するように言われているので探していますが、何か予兆がありましたか?」

「そんなんじゃないけど、最近少しずつそんな話を聞くようになったから」

「そうでしたか。
 それなら部屋探しも早くした方がいいかもしれないですね。対応してくれるホテルもピックアップはしてあるので緊急時に対応する事もできるので心配しないでください」

「燈哉と過ごすことに問題はないの?」

 あまりにも僕の思い通りの答えしか返ってこないことに反対に不安になってしまい聞いてみる。αとΩではあるけれど、まだまだ僕たちは学生だ。燈哉と過ごすことを望んではいるけれど、番となったその先のことまでは現実的に考えることはできていないから。

「あちらのご両親からも許可はいただいてます。ただ、学生のうちはネックガードを外すのは我慢して欲しいとのことです」

「そうなの?」

「そうですね。
 羽琉さんも燈哉さんもまだ成人してませんし。
 前提として抑制剤はありますが、薬ですから当然副作用があります。羽琉さんが薬で抑えたいと言えば反対はしませんが、できれば薬の服用は避けたいと言うのがご両親の要望で、あちらのご両親もそれは納得してくれています」

「もし、燈哉が嫌って言ったら?」

「そう言われたんですか?」

「言われてないけど、」

 僕の言葉に驚いた顔を見せた隆臣はその答えに安心したような顔を見せる。

「一応、燈哉さんにも同意はいただいてます」

 サラリと言われた言葉に驚くけれど、その言葉に救われもする。ただ、ヒートが来たからといってすぐに番になることはできないことにもどかしさを感じる。

 もしも番となる前に誰かと出会ってしまったら。

 僕は燈哉しかいないと思っているけれど、燈哉が唯一だと思っているけれど、燈哉に僕じゃない誰かが現れてしまったら。

 隆臣と話して互いの意思は確認できたけど、番になるまでは安心できないのだと焦燥感に駆られる。

 盗られたくない。

 盗られたくない。

 盗られたくない。

 一途な想いは一途過ぎて、僕は周りを見る余裕を無くしてしまったんだ。


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