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【side:燈哉】挑発と真意、そして守るべき存在。
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校内の案内は順調に進んだ。
その間も涼夏からは甘い香りがしていて俺の欲望を刺激する。
羽琉とよく似ているけれど、羽琉の若い甘さと違い、誘うような言ってしまえば熟れた甘い香り。
「ねえ、燈哉君はαだよね?」
校舎の最上階の1番端にある音楽室に着いた時に涼夏が口を開く。
それまでは俺の言葉に相槌を打ち、施設の使用法を質問したりと雑談をするようなことはなかったのに突然の言葉に「そうだけど?」と素で答えてしまう。
Ωならばネックガードで性差を示すことができるけれど、αの場合はそれができない。だからと言って不躾に聞いていいものでもないからその率直さに驚いてしまう。
「オレに声をかけたのはΩだから?」
甘さを増した声でそう言って笑う。
涼夏の香りに惹かれて声をかけたのだけれど、涼夏の香り=Ωの香りだから涼夏の言葉は間違ってはない。ただ、それを肯定するのは何となく罰が悪い。
Ωならば誰でも良かったわけではないのだから。
「Ωなら誰でも良かったわけじゃないからその言い方だと語弊がある」
否定はしないけれど肯定もしない。
だけど、どんなふうに語弊があるのかと聞かれたらどう答えるのが正解なのか答えが見つからない。
馬鹿正直に香りに惹かれたと言ったところでαとΩの関係なら何の問題もないのだけど、香りに惹かれると言ってしまい【運命】だと誤解されてしまうとややこしくなりそうだ。
「オレは気付いたよ?
燈哉君が体育館に来た時からソワソワしてた。良い香りがするって。
燈哉君は違うの?」
その笑みは艶やかで、それまで控えめだった香りが強くなる。どこまでも甘いその香りは俺を誘うようで、咄嗟に逃げようとするもののそっと腕を掴まれてしまい抗うことができない。
「燈哉君も気付いているんじゃないの?フェロモン、強くなってるよ。
ねえ、確かめて」
言いながら俺の前に立ち、そっと背に手を回す。ハグと言うには弱いけれど、向き合ってそんなふうにしてしまえばダイレクトに香る涼夏のフェロモン。羽琉に比べると身長差がないせいで頸が近く、酩酊したような感覚に陥る。
「きっとオレたち、相性がいいと思うんだ」
そう言って顔を上げる。
酩酊するような香りとほんのりと赤く染まった頬が欲情を刺激する。
甘ったるいジャスミンの香りと自分のフェロモンが混ざり合うと香りが一段と甘く、濃くなり香りに気付いた時のように高揚する。。
俺たちのフェロモンは涼夏の言うように相性がいいのかもしれない。
「試してみる?」
何を試すのかと聞く前に顔を上げた涼夏が唇をそっと重ねる。驚いて距離を取ろうとするものの、頭を抱え込みもう一度唇を押し当てられてしまったら抗うことができなかった。
羽琉の香りよりも甘ったるいのにその中に潜む淡い香り探し、角度を変えて何度も唇を重ねる。
『羽琉』
涼夏と唇を重ねているのに思い浮かべるのは羽琉の顔と香りで、いつか羽琉もこんなふうに強く香るようになるのかと思うと身体に熱が溜まっていく。
ペロリ
唇が少しだけ離れた時に涼夏が仕掛けてきたのはきっと計算してのこと。
俺の唇をぺろりと舐め、そっと口を開き誘うように微笑む。一段と濃くなるフェロモンと、挑発的なその態度に自分を抑えることは難しかった。
重ねるだけだった唇を舐め、喰み、誘うように伸ばされた舌に自分の舌を絡ませようとする。こちらが舌を伸ばせば逃げるのが愉しくて、それならばと舌を避け唇の裏側を舐め、歯列を舌でなぞる。俺が避ければ今度は絡ませようとする舌から逃れ、口蓋を舌で愛撫すれば息がしにくいのか、大きく口を開いたところでその喉奥に舌を捩じ込み涼夏の口内を蹂躙する。
もしかしたらこれは涼夏の狙いだったのかもしれない。
校舎の最奥に位置する音楽室は、部活がない限り人が来ることはない。今日のように入学式で演奏をしたとしても新入生が教室で明日からの説明を受けているうちに楽器を片付けて帰宅してしまうはずだ。
涼夏はそれを知ってか知らずか、人気のないこの場所であえて挑発してきたのだろう。
舌が絡み合う水音と、時折漏れる吐息。
そのまま流されそうになった時にスマホの振動で我に返る。
涼夏から急いで身体を離し、唾液に塗れた口元を手の甲で拭き取り周りに人のいないことを確認する。
ホッとしたのが伝わったのだろう。
涼夏はといえばその濡れた唇を取り出したハンカチで拭き取ると「燈哉君とぼくのフェロモン、相性良いみたいだね」と愉しそうに笑う。
それを無視してスマホを取り出してはみたものの、直ぐに対応する必要は無かったため改めて涼夏と向き合う。
「もう一回する?」
言いながら再び唇を重ねようとしたため距離を取ると「あの子、僕とキスしたって言ったら学校来れなくなっちゃうかもね」と少し目を伏せて笑うと意を決したように顔を上げ、俺と目線を合わせる。
「羽琉君だっけ?
仲良しなんだってね。
クラスに戻ってから大変だったんだよ?オレから話しかけたわけじゃないのに『羽琉君が可哀想』とか、『調子に乗るな』とか。
あ、でも応援するからって言ってた子もいたかな?
でも酷いよね、オレは話しかけられたから返事して、何があったのか分からないからどうしたのって聞いただけなのに。
でも、羽琉君と番ってるわけじゃないんだよね?」
縋るような言葉に羽琉と番っていると言いたくなるけれど、お互いのフェロモンが反応し合うのだから否定のしようがない。
「番ってはない。
だけど、羽琉のことは大切に思ってる」
「じゃあ何でオレのとこに来たの?」
「それは…」
「ねえ、【運命】って信じる?」
告げられた【運命】という言葉に何も答えることができず戸惑っていると涼夏は困ったように言葉を続ける。
「オレね、Ωなのにこんな身長だからαに優しくされたことなかったんだよね…。
αよりもαらしいΩとか言われて、ネックガードなんて必要ないんじゃないかって嗤われて。
だから燈哉君がオレに気付いてくれた時に嬉しくて、声をかけられてこれは運命かもって思ったんだ。
だって、燈哉君はオレのフェロモンに反応してるし、キスにだって応えてくれた。
オレは、燈哉君に惹かれてるよ。
燈哉君がオレを抱きしめた時に運命だって思った。
この人に触れたい、この人に噛まれたいって思った。
それなのに羽琉君が大切だって、それなら何でオレに声をかけたの?」
それまでは強気に誘ってきていたのにそんなふうに言うとポロポロと涙を溢す。それまで強気な主張をしてい時のように目を逸らすことなく、涙を拭くこともせず、ただただ自分の気持ちを伝える姿を見て涼夏を利用しようとしていたことに罪悪感を覚える。
幼い頃から身体が小さくて守るべき存在であった羽琉と、成熟した香りを放つ涼夏を比べ、弱い羽琉のために強い涼夏を利用するつもりだった自分を恥じる。
「ごめん」
「ごめんじゃ分からないよ。
何でオレに声をかけたの?
オレのことを抱きしめたのは何で?
燈哉君もオレに気付いてくれたんじゃなかったの?」
衆人環視の中で声を掛け、微笑み合い、抱き寄せた。
それなのに羽琉の異変に気付き、周りを威嚇してまで羽琉を取り戻そうとした。
そして、そんな状況の中で涼夏を呼び出し、2人きりで過ごしているのだ。
強いαである俺に対して影で何か言われることはあっても直接苦言を呈する者などいないだろう。何か言われたとしても自分で対処することだって難しくは無い。
そして気付く涼夏の置かれた立場。
衆人環視の中であれだけのことをしておいて、明日から何も関係無かったかのように過ごすことはできないだろう。
自分のしたことを謝り、涼夏から離れればたった1日で距離を取られるような何かがあるのだと思われかねない。
αとΩでなければ騒がれることはないけれど、αとΩだったせいで涼夏に欠陥があったのだと言われかねない。
幼稚舎からその存在を認知されている自分と、今日入学したばかりの涼夏、どちらの立場が有利かなんて考えなくてもわかることだ。
だけど涼夏に寄り添えば羽琉を蔑ろにしたことになる。
『Ωだから仕方ない』
幼い頃に羽琉が言っていた言葉を思い出す。
その言葉を聞いて羽琉を守ろうと誓ったのに、そんな言葉を言わせないように守りたいと思ったのに、それなのに羽琉を守ろうとしたせいで、大切なΩを守ろうとしたせいで【守るべき存在】と認識していたはずのΩを傷付けてしまったのだ。
「期待させたくせに…」
ポツリとそう呟く涼夏は涙は止まったものの、不安そうな顔をしている。
Ωにとって自分を庇護してくれるαがいるということは安心して日常を過ごすことができるということだ。
逆に庇護してくれるαのいないΩは自分の身を守るために気をつけないといけないことが多い。
そして、中途半端に手を出されたΩは…。
その間も涼夏からは甘い香りがしていて俺の欲望を刺激する。
羽琉とよく似ているけれど、羽琉の若い甘さと違い、誘うような言ってしまえば熟れた甘い香り。
「ねえ、燈哉君はαだよね?」
校舎の最上階の1番端にある音楽室に着いた時に涼夏が口を開く。
それまでは俺の言葉に相槌を打ち、施設の使用法を質問したりと雑談をするようなことはなかったのに突然の言葉に「そうだけど?」と素で答えてしまう。
Ωならばネックガードで性差を示すことができるけれど、αの場合はそれができない。だからと言って不躾に聞いていいものでもないからその率直さに驚いてしまう。
「オレに声をかけたのはΩだから?」
甘さを増した声でそう言って笑う。
涼夏の香りに惹かれて声をかけたのだけれど、涼夏の香り=Ωの香りだから涼夏の言葉は間違ってはない。ただ、それを肯定するのは何となく罰が悪い。
Ωならば誰でも良かったわけではないのだから。
「Ωなら誰でも良かったわけじゃないからその言い方だと語弊がある」
否定はしないけれど肯定もしない。
だけど、どんなふうに語弊があるのかと聞かれたらどう答えるのが正解なのか答えが見つからない。
馬鹿正直に香りに惹かれたと言ったところでαとΩの関係なら何の問題もないのだけど、香りに惹かれると言ってしまい【運命】だと誤解されてしまうとややこしくなりそうだ。
「オレは気付いたよ?
燈哉君が体育館に来た時からソワソワしてた。良い香りがするって。
燈哉君は違うの?」
その笑みは艶やかで、それまで控えめだった香りが強くなる。どこまでも甘いその香りは俺を誘うようで、咄嗟に逃げようとするもののそっと腕を掴まれてしまい抗うことができない。
「燈哉君も気付いているんじゃないの?フェロモン、強くなってるよ。
ねえ、確かめて」
言いながら俺の前に立ち、そっと背に手を回す。ハグと言うには弱いけれど、向き合ってそんなふうにしてしまえばダイレクトに香る涼夏のフェロモン。羽琉に比べると身長差がないせいで頸が近く、酩酊したような感覚に陥る。
「きっとオレたち、相性がいいと思うんだ」
そう言って顔を上げる。
酩酊するような香りとほんのりと赤く染まった頬が欲情を刺激する。
甘ったるいジャスミンの香りと自分のフェロモンが混ざり合うと香りが一段と甘く、濃くなり香りに気付いた時のように高揚する。。
俺たちのフェロモンは涼夏の言うように相性がいいのかもしれない。
「試してみる?」
何を試すのかと聞く前に顔を上げた涼夏が唇をそっと重ねる。驚いて距離を取ろうとするものの、頭を抱え込みもう一度唇を押し当てられてしまったら抗うことができなかった。
羽琉の香りよりも甘ったるいのにその中に潜む淡い香り探し、角度を変えて何度も唇を重ねる。
『羽琉』
涼夏と唇を重ねているのに思い浮かべるのは羽琉の顔と香りで、いつか羽琉もこんなふうに強く香るようになるのかと思うと身体に熱が溜まっていく。
ペロリ
唇が少しだけ離れた時に涼夏が仕掛けてきたのはきっと計算してのこと。
俺の唇をぺろりと舐め、そっと口を開き誘うように微笑む。一段と濃くなるフェロモンと、挑発的なその態度に自分を抑えることは難しかった。
重ねるだけだった唇を舐め、喰み、誘うように伸ばされた舌に自分の舌を絡ませようとする。こちらが舌を伸ばせば逃げるのが愉しくて、それならばと舌を避け唇の裏側を舐め、歯列を舌でなぞる。俺が避ければ今度は絡ませようとする舌から逃れ、口蓋を舌で愛撫すれば息がしにくいのか、大きく口を開いたところでその喉奥に舌を捩じ込み涼夏の口内を蹂躙する。
もしかしたらこれは涼夏の狙いだったのかもしれない。
校舎の最奥に位置する音楽室は、部活がない限り人が来ることはない。今日のように入学式で演奏をしたとしても新入生が教室で明日からの説明を受けているうちに楽器を片付けて帰宅してしまうはずだ。
涼夏はそれを知ってか知らずか、人気のないこの場所であえて挑発してきたのだろう。
舌が絡み合う水音と、時折漏れる吐息。
そのまま流されそうになった時にスマホの振動で我に返る。
涼夏から急いで身体を離し、唾液に塗れた口元を手の甲で拭き取り周りに人のいないことを確認する。
ホッとしたのが伝わったのだろう。
涼夏はといえばその濡れた唇を取り出したハンカチで拭き取ると「燈哉君とぼくのフェロモン、相性良いみたいだね」と愉しそうに笑う。
それを無視してスマホを取り出してはみたものの、直ぐに対応する必要は無かったため改めて涼夏と向き合う。
「もう一回する?」
言いながら再び唇を重ねようとしたため距離を取ると「あの子、僕とキスしたって言ったら学校来れなくなっちゃうかもね」と少し目を伏せて笑うと意を決したように顔を上げ、俺と目線を合わせる。
「羽琉君だっけ?
仲良しなんだってね。
クラスに戻ってから大変だったんだよ?オレから話しかけたわけじゃないのに『羽琉君が可哀想』とか、『調子に乗るな』とか。
あ、でも応援するからって言ってた子もいたかな?
でも酷いよね、オレは話しかけられたから返事して、何があったのか分からないからどうしたのって聞いただけなのに。
でも、羽琉君と番ってるわけじゃないんだよね?」
縋るような言葉に羽琉と番っていると言いたくなるけれど、お互いのフェロモンが反応し合うのだから否定のしようがない。
「番ってはない。
だけど、羽琉のことは大切に思ってる」
「じゃあ何でオレのとこに来たの?」
「それは…」
「ねえ、【運命】って信じる?」
告げられた【運命】という言葉に何も答えることができず戸惑っていると涼夏は困ったように言葉を続ける。
「オレね、Ωなのにこんな身長だからαに優しくされたことなかったんだよね…。
αよりもαらしいΩとか言われて、ネックガードなんて必要ないんじゃないかって嗤われて。
だから燈哉君がオレに気付いてくれた時に嬉しくて、声をかけられてこれは運命かもって思ったんだ。
だって、燈哉君はオレのフェロモンに反応してるし、キスにだって応えてくれた。
オレは、燈哉君に惹かれてるよ。
燈哉君がオレを抱きしめた時に運命だって思った。
この人に触れたい、この人に噛まれたいって思った。
それなのに羽琉君が大切だって、それなら何でオレに声をかけたの?」
それまでは強気に誘ってきていたのにそんなふうに言うとポロポロと涙を溢す。それまで強気な主張をしてい時のように目を逸らすことなく、涙を拭くこともせず、ただただ自分の気持ちを伝える姿を見て涼夏を利用しようとしていたことに罪悪感を覚える。
幼い頃から身体が小さくて守るべき存在であった羽琉と、成熟した香りを放つ涼夏を比べ、弱い羽琉のために強い涼夏を利用するつもりだった自分を恥じる。
「ごめん」
「ごめんじゃ分からないよ。
何でオレに声をかけたの?
オレのことを抱きしめたのは何で?
燈哉君もオレに気付いてくれたんじゃなかったの?」
衆人環視の中で声を掛け、微笑み合い、抱き寄せた。
それなのに羽琉の異変に気付き、周りを威嚇してまで羽琉を取り戻そうとした。
そして、そんな状況の中で涼夏を呼び出し、2人きりで過ごしているのだ。
強いαである俺に対して影で何か言われることはあっても直接苦言を呈する者などいないだろう。何か言われたとしても自分で対処することだって難しくは無い。
そして気付く涼夏の置かれた立場。
衆人環視の中であれだけのことをしておいて、明日から何も関係無かったかのように過ごすことはできないだろう。
自分のしたことを謝り、涼夏から離れればたった1日で距離を取られるような何かがあるのだと思われかねない。
αとΩでなければ騒がれることはないけれど、αとΩだったせいで涼夏に欠陥があったのだと言われかねない。
幼稚舎からその存在を認知されている自分と、今日入学したばかりの涼夏、どちらの立場が有利かなんて考えなくてもわかることだ。
だけど涼夏に寄り添えば羽琉を蔑ろにしたことになる。
『Ωだから仕方ない』
幼い頃に羽琉が言っていた言葉を思い出す。
その言葉を聞いて羽琉を守ろうと誓ったのに、そんな言葉を言わせないように守りたいと思ったのに、それなのに羽琉を守ろうとしたせいで、大切なΩを守ろうとしたせいで【守るべき存在】と認識していたはずのΩを傷付けてしまったのだ。
「期待させたくせに…」
ポツリとそう呟く涼夏は涙は止まったものの、不安そうな顔をしている。
Ωにとって自分を庇護してくれるαがいるということは安心して日常を過ごすことができるということだ。
逆に庇護してくれるαのいないΩは自分の身を守るために気をつけないといけないことが多い。
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