35 / 36
その先にあったもの
しおりを挟む
仕事をするようになって改めて思った事は、自分がいかに狭い世界の中で踠いていたかという事だった。
大学に入り世界が広がったと偉ぶっていたけれど、その世界ですらまだまだ狭いものだったのだ。
狭い中で踠き苦しみ、傷付け、傷付けられ。若かったと言ってしまえばそうなのかもしれないけれど、若かったと済ませることのできない心の傷を負わせてしまったあの子の事はこの先も忘れる事はできないだろう。
就職した年の冬から春に移り変わる頃、あの子にパートナーが出来たと人伝に知らされた。
善意なのか、悪意なのか、今でも時折り知らされるあの子の様子。
社交の場に出てきても人に興味を示さないと聞いた時には自分のせいだと烏滸がましくも心を痛めた。
〈運命の番〉らしき相手を静流が探して居ると聞いた時には自分の時のように勘違いでないようにと祈ることしかできなかった。
少しずつ元気を取り戻し、社交の場で笑顔を見せるようになったと聞いた時にはホッとするとともに切なくも思った。
オレヲワスレナイデ
オレヲワスレテシアワセニナラナイデ
エゴだとはわかっていても願ってしまう醜い想い。
そしてパートナーが出来たと聞いた時の喜びと絶望。
これで終わった。
自分が変えてしまったあの子が人生を共にしたいと思える人に出会えた事に喜びを感じた。
終わってしまった。
それでもまだ心のどこかで自分の事を想ってくれているのかもしれないという願いが自分勝手な独りよがりだったと突きつけられ絶望した。
これで本当にあの子との縁は切れてしまったのだ。
あの子と仲良くしていた頃に知り合った人達は波が引くように離れて行った。
唯一〈子守りから解放された?〉と言ったαの彼だけは何かと気をかけてくれて、何故か友人関係が続いて居る。
あの子の正確な情報を教えてくれるのもほとんどがこの彼だ。
あの当時、あの子と仲の良い自分に嫉妬していたと教えられた。
自分が嫉妬から言った言葉で俺が身を崩したのではないかと心配したとも。
別のΩに気を取られていた時はどうしたものかと静観していたけれど、気が付いたらおかしな事になっていて焦ったとも。
彼に対して色々と思うところはあるけれど、彼の言った言葉は些細なきっかけでしかない。
どこまで行っても非が有るのは自分なのだ。
αとしてそれなりの彼はやはりαとしてそれなりの俺に対して劣等感を抱いていたらしい。
俺が静流に感じたような気持ちを俺に対して持ち続けていたのだろう。
世の中、何がどう転んでもなるようにしかならないのだ。
友人であるαの彼はやはりそれなりのΩと番となりそれなりに幸せな毎日を送って居る。
「高望みなんてしなくてもそれなりに幸せなら良いんじゃない?」
と彼らしい事を言って嘯いていた。
俺はと言えばαではあるものの1度番を作ったせいでΩのフェロモンを感じることができないため職場ではαである事は一部の人間にしか知られていない。
番以外のΩと関係を結ぶ事は出来るけれど、今更パートナーが欲しいとも思えず独り身のまま時間は過ぎていく。
もしも〈運命の番〉がいたとしてもそのフェロモンを感じる事はできないし、奈那と過ごした短い時間の記憶が強烈過ぎて恋愛そのものにあまり興味も持てないのだ。
色々な意味でやっぱり奈那は俺の〈運命〉だったのだろう、きっと。
この先、万が一結婚するようなことがあったら。
万が一子どもが産まれるようなことがあったら。
その時は伝えよう。
大切な人と共に過ごせる日々が当たり前ではない事を。
大切な人に誠実である事の大切さを。
そして、大切な人を失う辛さを。
そんな事を思っている間は〈大切な人〉なんて出来っこないとわかっていても願ってしまうのだ。
あの子が幸せでありますように。
あの子が笑っていられますように。
あの子がとびきり大切にしてもらえますように。
俺の贖罪は終わる事を知らない。
大学に入り世界が広がったと偉ぶっていたけれど、その世界ですらまだまだ狭いものだったのだ。
狭い中で踠き苦しみ、傷付け、傷付けられ。若かったと言ってしまえばそうなのかもしれないけれど、若かったと済ませることのできない心の傷を負わせてしまったあの子の事はこの先も忘れる事はできないだろう。
就職した年の冬から春に移り変わる頃、あの子にパートナーが出来たと人伝に知らされた。
善意なのか、悪意なのか、今でも時折り知らされるあの子の様子。
社交の場に出てきても人に興味を示さないと聞いた時には自分のせいだと烏滸がましくも心を痛めた。
〈運命の番〉らしき相手を静流が探して居ると聞いた時には自分の時のように勘違いでないようにと祈ることしかできなかった。
少しずつ元気を取り戻し、社交の場で笑顔を見せるようになったと聞いた時にはホッとするとともに切なくも思った。
オレヲワスレナイデ
オレヲワスレテシアワセニナラナイデ
エゴだとはわかっていても願ってしまう醜い想い。
そしてパートナーが出来たと聞いた時の喜びと絶望。
これで終わった。
自分が変えてしまったあの子が人生を共にしたいと思える人に出会えた事に喜びを感じた。
終わってしまった。
それでもまだ心のどこかで自分の事を想ってくれているのかもしれないという願いが自分勝手な独りよがりだったと突きつけられ絶望した。
これで本当にあの子との縁は切れてしまったのだ。
あの子と仲良くしていた頃に知り合った人達は波が引くように離れて行った。
唯一〈子守りから解放された?〉と言ったαの彼だけは何かと気をかけてくれて、何故か友人関係が続いて居る。
あの子の正確な情報を教えてくれるのもほとんどがこの彼だ。
あの当時、あの子と仲の良い自分に嫉妬していたと教えられた。
自分が嫉妬から言った言葉で俺が身を崩したのではないかと心配したとも。
別のΩに気を取られていた時はどうしたものかと静観していたけれど、気が付いたらおかしな事になっていて焦ったとも。
彼に対して色々と思うところはあるけれど、彼の言った言葉は些細なきっかけでしかない。
どこまで行っても非が有るのは自分なのだ。
αとしてそれなりの彼はやはりαとしてそれなりの俺に対して劣等感を抱いていたらしい。
俺が静流に感じたような気持ちを俺に対して持ち続けていたのだろう。
世の中、何がどう転んでもなるようにしかならないのだ。
友人であるαの彼はやはりそれなりのΩと番となりそれなりに幸せな毎日を送って居る。
「高望みなんてしなくてもそれなりに幸せなら良いんじゃない?」
と彼らしい事を言って嘯いていた。
俺はと言えばαではあるものの1度番を作ったせいでΩのフェロモンを感じることができないため職場ではαである事は一部の人間にしか知られていない。
番以外のΩと関係を結ぶ事は出来るけれど、今更パートナーが欲しいとも思えず独り身のまま時間は過ぎていく。
もしも〈運命の番〉がいたとしてもそのフェロモンを感じる事はできないし、奈那と過ごした短い時間の記憶が強烈過ぎて恋愛そのものにあまり興味も持てないのだ。
色々な意味でやっぱり奈那は俺の〈運命〉だったのだろう、きっと。
この先、万が一結婚するようなことがあったら。
万が一子どもが産まれるようなことがあったら。
その時は伝えよう。
大切な人と共に過ごせる日々が当たり前ではない事を。
大切な人に誠実である事の大切さを。
そして、大切な人を失う辛さを。
そんな事を思っている間は〈大切な人〉なんて出来っこないとわかっていても願ってしまうのだ。
あの子が幸せでありますように。
あの子が笑っていられますように。
あの子がとびきり大切にしてもらえますように。
俺の贖罪は終わる事を知らない。
22
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました
ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。
それは王家から婚約の打診があったときから
始まった。
体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。
2人は私の異変に気付くこともない。
こんなこと誰にも言えない。
彼の支配から逃れなくてはならないのに
侯爵家のキングは私を放さない。
* 作り話です
王道学園の副会長は異世界転移して愛を注がれ愛を失う
三谷玲
BL
王道学園の副会長である僕は生徒会長に恋をしていた。転校生が現れ、彼に嫉妬の炎を燃やした瞬間、僕らは光りに包まれ、異世界へと転移させられた。その光の中で僕は恋を失い、その先で心を壊し、愛を注がれ、その愛を失った。
診断メーカーの「あたなに書いて欲しい物語」のお題、三谷玲さんには「笑ってください」で始まり、「どうか許さないでください」で終わる物語を書いて欲しいです。#書き出しと終わり #shindanmaker
https://shindanmaker.com/801664より。
副会長受け。王道学園設定ですが、勇者や魔王が出てきますが雰囲気ものです。
前後編+一話の短編です
婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい
香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」
王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。
リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。
『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』
そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。
真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。
——私はこの二人を利用する。
ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。
——それこそが真実の愛の証明になるから。
これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。
※6/15 20:37に一部改稿しました。
ヤクザの帝王と小人の皇子
荷居人(にいと)
BL
親が多額の借金を追い、自殺にて他界。借金は息子による成人したばかりの星野皇子(ほしのおうじ)が受け持つことに。
しかし、皇子は愛情遮断性低身長を患い、さらには父による虐待、母のうつ病による人間不信、最低限の食事による栄養不足に陥っていた。
そんな皇子をひとりにしなかったのは借金取りヤクザの若頭海野帝王(うみのていおう)。
躊躇わず人を殺せる極悪非道の帝王と心を閉じている小人皇子の依存ラブ。
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!
日之影ソラ
ファンタジー
かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。
しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。
ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。
そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。
こちらの作品の連載版です。
https://ncode.syosetu.com/n8177jc/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる