34 / 36
それから 7
しおりを挟む
奈那が居なくなったのはまだ学生生活を送って居る最中で、同居人がいなくなったところで俺の生活には特に変化はなく毎日は淡々と過ぎていく。
サークルは、奈那と出会ってからほとんど顔を出していなかったせいで顔を出すのをためらわれたけれど、偶然会った先輩から〈たまには顔出しにおいで〉と言われ再び参加するようになった。
俺の事情は何となくは知っていたようだけど、特に詮索される事はない。
集まりで早い段階で自分の非を認めたのが良かったのか、思ったよりも酷い目に遭う事はなかった。
何度も婚約解消のことを聞かれ、その度に奈那を番として紹介する。
自分の非を認め、光流を気遣う。
全て本心から行ったことだ。
保身も何も無い、ただただ光流に向かう風が少しでも穏やかになるように。それだけが俺の願いだった。
奈那が何も知らなかったのならば庇う必要があったけれど、邪な気持ちで俺に近付き、悪意を持って自分の存在を光流に匂わせたのだ。
番になったのだって同意の上で、その上での婚約解消だったのだから奈那が責任の一端を追う必要があっても俺が庇い立てしないといけない理由はない。
大学には通い続けていたため姿を見ることもあったけれど俺には微塵も興味がないようで目が合うこともない。時折柑橘系の香りがすることがあり俺の番になってからも奈那の言う〈誘惑フェロモン〉は効果を発揮して居るらしい。ただ、俺のようにまんまと引っかかる間抜けなαが居る訳もなく、婚約解消の経緯も徐々に広まっていったため程の良い〈愛人〉扱いだ。
すでに番持ちなため〈番にして〉と迫られることもなく、求めれば直ぐに身体を開く。自分を庇護してくれる相手を見つけるのが上手いのだろう。彼女の身に付けるものは日に日に上質になっていき、学内にいなければ学生とは思わないほど大人びて居る。
Ωであってもこの大学に入学したのだ。地頭も良いはずなので彼女は彼女でこの先、自分の思うままに生きていくのだろう。
卒業までに1度、対面することがあった。お互いに確認しておかなければいけないこと。
「この先、番として生きていく気は?」
「無いから安心して」
本来、αとしての独占欲だとか執着だとか、色々な想いがあるはずなのに奈那に対してそんな感情は起こる事はなく、未だに光流に対しての想いが捨てきれていない俺は安堵することしかできなかった。
「ヒートは大丈夫?」
ずっと気になってはいたけれど、奈那がいない快適さを知ってしまった俺が見て見ぬ振りをしてきた事。
「貴方のΩと同じで私もΩとしてはイレギュラーだったみたい。それなりに満足させてくれる相手もいるから心配しないで」
光流と同列に自分を置いた事に不快感は感じたけれど、その話に安堵したのも事実だった。
「もう会うこともないと思うから言っておくね。
あの時はごめんなさい。
私の勝手で婚約解消をさせて、貴方の人生を変えてしまって。
護だけでなく護の大切な人のことも傷付けて、本当に申し訳なかったと思ってる。護は自業自得とも思ってはいるけど護の婚約者だったあの人を傷付ける必要も、その権利も私には無かったって今更だけど反省はしてるのよ、これでも」
どこかで光流を見たのだろうか、〈あの人〉と呼んだ相手はきっと光流のことだ。
「卒業したら私、今のパートナーと生活していくつもり。私の事情を全て知って、それでも良いって言ってくれるから。利用されてる感はあるけどギブアンドテイク?私の頭が必要な人と、相手の身体が欲しい私でちょうど良いのかな」
そう言って薄く笑う。
「煌びやかな世界に憧れて護の人生をメチャクチャにしてしまってごめんなさい」
奈那の最後の言葉はそれだった。
何も言えない俺に〈じゃあ〉と背を向けた奈那は小さくて可愛い外見はそのままなのに、その背中は大きく強かだった。
そして俺も卒業を迎える。
光流と婚約していた頃はそのまま辻崎の関連会社に入るか、将来会社を背負っていく事になる静流の下に着くといった選択肢があったけれど、フラットな状態になった俺は何がしたいという意思もないまま就活をし、それなりの会社に内定をもらった。
父は相変わらず自分の地盤にしか興味がなく、集まりに行って自ら自分の非を認め、それを広めた俺には興味がないようで、集まりへの参加を強要することも無くなった。
あの話し合いの大分後で知ったのだけど、静流から俺の卒業までの金銭的援助を約束させられていたようで〈とにかく4年で卒業してさっさと就職しろ〉とは言われた。
静流の意図はわからないけれど、感謝しかない。
本当は奈那と過ごしたこの部屋からの引っ越しも考えたけれど、どうせ親の金だ。俺に秘密にしていたことのせいでこんなに拗れたと言えなくもないからそこは甘えておいた。
卒業後には会社の近くに引っ越す準備もできている。社会に出ればどこにも甘える事はできない。自分の真価を問われるのはそれからだと思っている。
サークルは、奈那と出会ってからほとんど顔を出していなかったせいで顔を出すのをためらわれたけれど、偶然会った先輩から〈たまには顔出しにおいで〉と言われ再び参加するようになった。
俺の事情は何となくは知っていたようだけど、特に詮索される事はない。
集まりで早い段階で自分の非を認めたのが良かったのか、思ったよりも酷い目に遭う事はなかった。
何度も婚約解消のことを聞かれ、その度に奈那を番として紹介する。
自分の非を認め、光流を気遣う。
全て本心から行ったことだ。
保身も何も無い、ただただ光流に向かう風が少しでも穏やかになるように。それだけが俺の願いだった。
奈那が何も知らなかったのならば庇う必要があったけれど、邪な気持ちで俺に近付き、悪意を持って自分の存在を光流に匂わせたのだ。
番になったのだって同意の上で、その上での婚約解消だったのだから奈那が責任の一端を追う必要があっても俺が庇い立てしないといけない理由はない。
大学には通い続けていたため姿を見ることもあったけれど俺には微塵も興味がないようで目が合うこともない。時折柑橘系の香りがすることがあり俺の番になってからも奈那の言う〈誘惑フェロモン〉は効果を発揮して居るらしい。ただ、俺のようにまんまと引っかかる間抜けなαが居る訳もなく、婚約解消の経緯も徐々に広まっていったため程の良い〈愛人〉扱いだ。
すでに番持ちなため〈番にして〉と迫られることもなく、求めれば直ぐに身体を開く。自分を庇護してくれる相手を見つけるのが上手いのだろう。彼女の身に付けるものは日に日に上質になっていき、学内にいなければ学生とは思わないほど大人びて居る。
Ωであってもこの大学に入学したのだ。地頭も良いはずなので彼女は彼女でこの先、自分の思うままに生きていくのだろう。
卒業までに1度、対面することがあった。お互いに確認しておかなければいけないこと。
「この先、番として生きていく気は?」
「無いから安心して」
本来、αとしての独占欲だとか執着だとか、色々な想いがあるはずなのに奈那に対してそんな感情は起こる事はなく、未だに光流に対しての想いが捨てきれていない俺は安堵することしかできなかった。
「ヒートは大丈夫?」
ずっと気になってはいたけれど、奈那がいない快適さを知ってしまった俺が見て見ぬ振りをしてきた事。
「貴方のΩと同じで私もΩとしてはイレギュラーだったみたい。それなりに満足させてくれる相手もいるから心配しないで」
光流と同列に自分を置いた事に不快感は感じたけれど、その話に安堵したのも事実だった。
「もう会うこともないと思うから言っておくね。
あの時はごめんなさい。
私の勝手で婚約解消をさせて、貴方の人生を変えてしまって。
護だけでなく護の大切な人のことも傷付けて、本当に申し訳なかったと思ってる。護は自業自得とも思ってはいるけど護の婚約者だったあの人を傷付ける必要も、その権利も私には無かったって今更だけど反省はしてるのよ、これでも」
どこかで光流を見たのだろうか、〈あの人〉と呼んだ相手はきっと光流のことだ。
「卒業したら私、今のパートナーと生活していくつもり。私の事情を全て知って、それでも良いって言ってくれるから。利用されてる感はあるけどギブアンドテイク?私の頭が必要な人と、相手の身体が欲しい私でちょうど良いのかな」
そう言って薄く笑う。
「煌びやかな世界に憧れて護の人生をメチャクチャにしてしまってごめんなさい」
奈那の最後の言葉はそれだった。
何も言えない俺に〈じゃあ〉と背を向けた奈那は小さくて可愛い外見はそのままなのに、その背中は大きく強かだった。
そして俺も卒業を迎える。
光流と婚約していた頃はそのまま辻崎の関連会社に入るか、将来会社を背負っていく事になる静流の下に着くといった選択肢があったけれど、フラットな状態になった俺は何がしたいという意思もないまま就活をし、それなりの会社に内定をもらった。
父は相変わらず自分の地盤にしか興味がなく、集まりに行って自ら自分の非を認め、それを広めた俺には興味がないようで、集まりへの参加を強要することも無くなった。
あの話し合いの大分後で知ったのだけど、静流から俺の卒業までの金銭的援助を約束させられていたようで〈とにかく4年で卒業してさっさと就職しろ〉とは言われた。
静流の意図はわからないけれど、感謝しかない。
本当は奈那と過ごしたこの部屋からの引っ越しも考えたけれど、どうせ親の金だ。俺に秘密にしていたことのせいでこんなに拗れたと言えなくもないからそこは甘えておいた。
卒業後には会社の近くに引っ越す準備もできている。社会に出ればどこにも甘える事はできない。自分の真価を問われるのはそれからだと思っている。
12
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
螺旋の中の欠片
琴葉
BL
※オメガバース設定注意!男性妊娠出産等出て来ます※親の借金から人買いに売られてしまったオメガの澪。売られた先は大きな屋敷で、しかも年下の子供アルファ。澪は彼の愛人か愛玩具になるために売られて来たのだが…。同じ時間を共有するにつれ、澪にはある感情が芽生えていく。★6月より毎週金曜更新予定(予定外更新有り)★
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
手〈取捨選択のその先に〉
佳乃
BL
彼の浮気現場を見た僕は、現実を突きつけられる前に逃げる事にした。
大好きだったその手を離し、大好きだった場所から逃げ出した僕は新しい場所で1からやり直す事にしたのだ。
誰も知らない僕の過去を捨て去って、新しい僕を作り上げよう。
傷ついた僕を癒してくれる手を見つけるために、大切な人を僕の手で癒すために。
近くにいるのに君が遠い
くるむ
BL
本編完結済み
※クリスマスSSとして、番外編を投稿中です。ちょこちょこアップ中。
今日(12/23)中には全編アップします。
綺麗で優しくて、陰でみんなから「大和撫子」と呼ばれている白石水は、長い片思いを経て、黒田陸に告白されたことで両想いに。
だが両想いになれたその日に陸は、水への独占欲の強さから気持ちを抑えられずにいきなり押し倒し体を繋げてしまう。
両想いになって、しかも体の関係も持ってしまったのに、翌日学校であった陸の態度には微妙な変化があった。
目が合っても微妙に逸らされたり、少しくっつきたいと思っても避けられたり…。
どうして?
俺たち両想いじゃないの…?
もう飽きちゃった…?
不器用過ぎる程好き過ぎて、気持ちを上手く伝えられない二人の、切ない両想い。
※「初めて欲しいと思った」の本編です
花開かぬオメガの花嫁
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
帝国には献上されたΩが住むΩ宮という建物がある。その中の蕾宮には、発情を迎えていない若いΩや皇帝のお渡りを受けていないΩが住んでいた。異国から来た金髪緑眼のΩ・キーシュも蕾宮に住む一人だ。三十になり皇帝のお渡りも望めないなか、あるαに下賜されることが決まる。しかしキーシュには密かに思う相手がいて……。※他サイトにも掲載
[高級官吏の息子α × 異国から来た金髪緑眼Ω / BL / R18]
腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました
くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。
特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。
毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。
そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。
無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる