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それから 7

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 奈那が居なくなったのはまだ学生生活を送って居る最中で、同居人がいなくなったところで俺の生活には特に変化はなく毎日は淡々と過ぎていく。

 サークルは、奈那と出会ってからほとんど顔を出していなかったせいで顔を出すのをためらわれたけれど、偶然会った先輩から〈たまには顔出しにおいで〉と言われ再び参加するようになった。
 俺の事情は何となくは知っていたようだけど、特に詮索される事はない。

 集まりで早い段階で自分の非を認めたのが良かったのか、思ったよりも酷い目に遭う事はなかった。
 何度も婚約解消のことを聞かれ、その度に奈那を番として紹介する。
 自分の非を認め、光流を気遣う。
 全て本心から行ったことだ。
 保身も何も無い、ただただ光流に向かう風が少しでも穏やかになるように。それだけが俺の願いだった。

 奈那が何も知らなかったのならば庇う必要があったけれど、邪な気持ちで俺に近付き、悪意を持って自分の存在を光流に匂わせたのだ。
 番になったのだって同意の上で、その上での婚約解消だったのだから奈那が責任の一端を追う必要があっても俺が庇い立てしないといけない理由はない。

 大学には通い続けていたため姿を見ることもあったけれど俺には微塵も興味がないようで目が合うこともない。時折柑橘系の香りがすることがあり俺の番になってからも奈那の言う〈誘惑フェロモン〉は効果を発揮して居るらしい。ただ、俺のようにまんまと引っかかる間抜けなαが居る訳もなく、婚約解消の経緯も徐々に広まっていったため程の良い〈愛人〉扱いだ。
 
 すでに番持ちなため〈番にして〉と迫られることもなく、求めれば直ぐに身体を開く。自分を庇護してくれる相手を見つけるのが上手いのだろう。彼女の身に付けるものは日に日に上質になっていき、学内にいなければ学生とは思わないほど大人びて居る。
 Ωであってもこの大学に入学したのだ。地頭も良いはずなので彼女は彼女でこの先、自分の思うままに生きていくのだろう。

 卒業までに1度、対面することがあった。お互いに確認しておかなければいけないこと。
「この先、番として生きていく気は?」
「無いから安心して」
 本来、αとしての独占欲だとか執着だとか、色々な想いがあるはずなのに奈那に対してそんな感情は起こる事はなく、未だに光流に対しての想いが捨てきれていない俺は安堵することしかできなかった。
「ヒートは大丈夫?」
 ずっと気になってはいたけれど、奈那がいない快適さを知ってしまった俺が見て見ぬ振りをしてきた事。
「貴方のΩと同じで私もΩとしてはイレギュラーだったみたい。それなりに満足させてくれる相手もいるから心配しないで」
 光流と同列に自分を置いた事に不快感は感じたけれど、その話に安堵したのも事実だった。
「もう会うこともないと思うから言っておくね。
 あの時はごめんなさい。
 私の勝手で婚約解消をさせて、貴方の人生を変えてしまって。
 護だけでなく護の大切な人のことも傷付けて、本当に申し訳なかったと思ってる。護は自業自得とも思ってはいるけど護の婚約者だったあの人を傷付ける必要も、その権利も私には無かったって今更だけど反省はしてるのよ、これでも」
 どこかで光流を見たのだろうか、〈あの人〉と呼んだ相手はきっと光流のことだ。
「卒業したら私、今のパートナーと生活していくつもり。私の事情を全て知って、それでも良いって言ってくれるから。利用されてる感はあるけどギブアンドテイク?私の頭が必要な人と、相手の身体が欲しい私でちょうど良いのかな」
 そう言って薄く笑う。
「煌びやかな世界に憧れて護の人生をメチャクチャにしてしまってごめんなさい」
 奈那の最後の言葉はそれだった。
 何も言えない俺に〈じゃあ〉と背を向けた奈那は小さくて可愛い外見はそのままなのに、その背中は大きく強かだった。

 そして俺も卒業を迎える。
 光流と婚約していた頃はそのまま辻崎の関連会社に入るか、将来会社を背負っていく事になる静流の下に着くといった選択肢があったけれど、フラットな状態になった俺は何がしたいという意思もないまま就活をし、それなりの会社に内定をもらった。

 父は相変わらず自分の地盤にしか興味がなく、集まりに行って自ら自分の非を認め、それを広めた俺には興味がないようで、集まりへの参加を強要することも無くなった。
 あの話し合いの大分後で知ったのだけど、静流から俺の卒業までの金銭的援助を約束させられていたようで〈とにかく4年で卒業してさっさと就職しろ〉とは言われた。
 静流の意図はわからないけれど、感謝しかない。

 本当は奈那と過ごしたこの部屋からの引っ越しも考えたけれど、どうせ親の金だ。俺に秘密にしていたことのせいでこんなに拗れたと言えなくもないからそこは甘えておいた。
 卒業後には会社の近くに引っ越す準備もできている。社会に出ればどこにも甘える事はできない。自分の真価を問われるのはそれからだと思っている。

 
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