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それから 4
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「αってさ、普通もう少し警戒心強いよ?初対面の素性も知らないΩにひょこひょこ着いてくるとかさ、警戒心無さすぎ。
もともとサークルに〈なかなか良い〉αがいるって聞いたからあそこに入ったんだよね、私。
あの日だってちょっとフェロモン出てたらすぐ着いてくるんだもん。
何?挑発フェロモン??
私は誘惑フェロモンって呼んでるけどそんな呼び方なんだ?」
ちっとも悪びれず楽しそうに話す奈那は俺の知っている奈那ではなかった。
「だってさ、せっかくΩに生まれたんだから楽しみたいじゃない?
自分がΩだって分かった時はそれなりのαと番になって囲われればいいと思ったんだけど、人間欲が出るのよね。
それなりのαと付き合ったらちょっと良いαと付き合いたくなって、ちょっと良いαと付き合ったらもっと良いαと付き合いたくなって。
わらしべ長者みたいな?」
鏡に映る自分に買ってきた服を当てながら楽しそうに話し続ける。
「でもさ、ちょっと良いαってもうパートナーがいたり番がいたりするでしょ?でもそんなの狡いからもらっちゃおうと思って色々試したんだけど〈この人が欲しい〉って思うと何か出るみたいなんだよね?それが挑発フェロモンなの?でも大抵のαはすぐに薬飲んでその後は近寄れなくなるし、上手くいってセックスすると相手のパートナーにすぐバレるし。
だからちょうど良さそうなちょっと良いα探してたら、ね?」
上目遣いで俺を見て微笑む奈那に寒気がした。
昨日までは可愛いと思っていたその仕草すら気持ち悪い。
〈この人が欲しい〉と思うと何か出る、と言ったのは茉希さんの言っていた軽いヒート状態になると言う事なのだろうか?
「俺と初めて会った時も?」
「あの時は偶然。
他のαにアタックしたのにダメだったからたまにはサークルに顔出そうと思っただけで、本当に偶然」
悪びれる様子もなく答えるけれど、気になることがあって聞いて見る。
「Ωってフェロモン出てたら危ないんじゃないのか?」
「本当のヒートの時は危ないけど誘惑フェロモンは調節できるし。せいぜい〈したい〉と思うくらいだよ?」
その言葉を聞いて気付いてしまった。
あの時、どうしても気になった香りは奈那が〈誰かを誘惑しようとして出した香り〉だったのだ。だったら〈欲しい〉と思うのはおかしくない事だし、すぐに香りが消えたのは薬を飲んだからなのかもしれない。
サークル室で初めて会った時もそうだったのだろう。それなのに俺は〈それ〉を〈運命〉だと勘違いして…。
「奈那は俺の事が好き?」
口から出た言葉。
せめてもの救いを求めた言葉。
お願いだから、俺の欲しい言葉を言って?
「護の事?
もちろん、好きよ。
だって護は私の事〈ちょっと良いΩ〉にしてくれるでしょ?」
何も言えなかった。
予想はしていたけれど、1番聞きたくなかった言葉。
奈那が好きなのは俺ではなくて俺の肩書き。
俺の肩書きなんて〈光流〉在りき、もっと言ってしまえば〈辻崎〉在りきの肩書きなのに、そんなことを知らない奈那はなおも浮かれ続ける。
「次はいつなの?
美容院も行きたいし、エステとか行っていい?」
「五月蝿い」
「なに?
護の隣に立つの、ずっと楽しみにしてたんだよ。どのスーツにする?」
「五月蝿いからちょっと黙ってて」
あまりの怒りに威嚇していたのかもしれない。俺の様子に気付いた奈那は動きを止め面白くなさそうな顔で俺を見る。
「奈那の事、とっくにバレてたよ。
バレてて泳がされてた。
初めてした直後にはもう向こうは知ってたって」
そこまで言ってやっと奈那の様子が変わる。ただ、ことの重大さには全く気付いてはいない。
「俺の婚約者だったΩの話って聞いたことある?」
「少しなら」
「どんな事?」
「男性Ωで2歳年下。
あと綺麗な子だって」
「それだけ?」
「うん」
「何で俺に近づいたの?」
短いやり取りの中で知ることの出来た事は奈那は本当に〈ちょっと良い〉相手が欲しかっただけで、その先にあるものには全く興味がなかった事。
ただ煌びやかな世界に憧れていただけの学生でしかなかった事。
「だって、私の事を欲しがったちょっと良いαは護だけだったんだもん」
全ては俺の招いた事だとしても、そんな事のために光流を傷付けたのかと思うと罪悪感と嫌悪感でどうにかなってしまいそうだった。
それと同時に思い出した事がある。
進学を決めた時に再三静流に言われた事。
〈本当に大丈夫か?〉
折りに触れて言われたその言葉は〈学力〉に対して言われてきたと思っていたけれど、こうなって見るとそれだけではなかったのかもしれない。
物心ついた時からαとして過ごしてきた静流とは違い、俺のαとしての認識はだいぶ甘かったと認めざるを得ない。今日の話の中でもあった〈抑制剤〉の話ひとつとってもそうだ。俺だって抑制剤を常備していないわけではないけれど、今まで使う必要も無かったし、使う事を考えたことすらなかった。
よくよく考えればそう言った場面に出くわした事が無かったことの方が不思議なのだけど、それは光流の存在があったせいで俺も守られていたからなのだ。
光流と2人で過ごしていた時には何かしら見守られていた可能性が高い。ただ、俺が1人になった場合〈見守る〉べき対象ではない。静流の心配はそこだったのだろう。
静流に対して変に頑なになっていた俺はそんなことに気づくこともなく、ただただ幼い反抗心で自分の未来だけではなく光流の未来まで傷付けたのだ。
この先、光流が傷物だと嘲られることがあったら。欠陥品だと嘲笑されたら。
全てが俺のせいなのだ。
αとΩの世界は奈那のように外から見ていれば煌びやかな華やかな世界に見えるもしれない。
ただ、一度足を踏み入れればそれだけでない事に気付くだろう。
中途半端な者にとっては妬み僻みが渦巻いた世界だ。
自分の立ち位置をわきまえていればそれなりに楽しめるものの、奈那の様な考えで人のものに手を出して自滅していく者も少なくない世界。
そうだ、こいつも引き摺り込んでしまおう。
もともとサークルに〈なかなか良い〉αがいるって聞いたからあそこに入ったんだよね、私。
あの日だってちょっとフェロモン出てたらすぐ着いてくるんだもん。
何?挑発フェロモン??
私は誘惑フェロモンって呼んでるけどそんな呼び方なんだ?」
ちっとも悪びれず楽しそうに話す奈那は俺の知っている奈那ではなかった。
「だってさ、せっかくΩに生まれたんだから楽しみたいじゃない?
自分がΩだって分かった時はそれなりのαと番になって囲われればいいと思ったんだけど、人間欲が出るのよね。
それなりのαと付き合ったらちょっと良いαと付き合いたくなって、ちょっと良いαと付き合ったらもっと良いαと付き合いたくなって。
わらしべ長者みたいな?」
鏡に映る自分に買ってきた服を当てながら楽しそうに話し続ける。
「でもさ、ちょっと良いαってもうパートナーがいたり番がいたりするでしょ?でもそんなの狡いからもらっちゃおうと思って色々試したんだけど〈この人が欲しい〉って思うと何か出るみたいなんだよね?それが挑発フェロモンなの?でも大抵のαはすぐに薬飲んでその後は近寄れなくなるし、上手くいってセックスすると相手のパートナーにすぐバレるし。
だからちょうど良さそうなちょっと良いα探してたら、ね?」
上目遣いで俺を見て微笑む奈那に寒気がした。
昨日までは可愛いと思っていたその仕草すら気持ち悪い。
〈この人が欲しい〉と思うと何か出る、と言ったのは茉希さんの言っていた軽いヒート状態になると言う事なのだろうか?
「俺と初めて会った時も?」
「あの時は偶然。
他のαにアタックしたのにダメだったからたまにはサークルに顔出そうと思っただけで、本当に偶然」
悪びれる様子もなく答えるけれど、気になることがあって聞いて見る。
「Ωってフェロモン出てたら危ないんじゃないのか?」
「本当のヒートの時は危ないけど誘惑フェロモンは調節できるし。せいぜい〈したい〉と思うくらいだよ?」
その言葉を聞いて気付いてしまった。
あの時、どうしても気になった香りは奈那が〈誰かを誘惑しようとして出した香り〉だったのだ。だったら〈欲しい〉と思うのはおかしくない事だし、すぐに香りが消えたのは薬を飲んだからなのかもしれない。
サークル室で初めて会った時もそうだったのだろう。それなのに俺は〈それ〉を〈運命〉だと勘違いして…。
「奈那は俺の事が好き?」
口から出た言葉。
せめてもの救いを求めた言葉。
お願いだから、俺の欲しい言葉を言って?
「護の事?
もちろん、好きよ。
だって護は私の事〈ちょっと良いΩ〉にしてくれるでしょ?」
何も言えなかった。
予想はしていたけれど、1番聞きたくなかった言葉。
奈那が好きなのは俺ではなくて俺の肩書き。
俺の肩書きなんて〈光流〉在りき、もっと言ってしまえば〈辻崎〉在りきの肩書きなのに、そんなことを知らない奈那はなおも浮かれ続ける。
「次はいつなの?
美容院も行きたいし、エステとか行っていい?」
「五月蝿い」
「なに?
護の隣に立つの、ずっと楽しみにしてたんだよ。どのスーツにする?」
「五月蝿いからちょっと黙ってて」
あまりの怒りに威嚇していたのかもしれない。俺の様子に気付いた奈那は動きを止め面白くなさそうな顔で俺を見る。
「奈那の事、とっくにバレてたよ。
バレてて泳がされてた。
初めてした直後にはもう向こうは知ってたって」
そこまで言ってやっと奈那の様子が変わる。ただ、ことの重大さには全く気付いてはいない。
「俺の婚約者だったΩの話って聞いたことある?」
「少しなら」
「どんな事?」
「男性Ωで2歳年下。
あと綺麗な子だって」
「それだけ?」
「うん」
「何で俺に近づいたの?」
短いやり取りの中で知ることの出来た事は奈那は本当に〈ちょっと良い〉相手が欲しかっただけで、その先にあるものには全く興味がなかった事。
ただ煌びやかな世界に憧れていただけの学生でしかなかった事。
「だって、私の事を欲しがったちょっと良いαは護だけだったんだもん」
全ては俺の招いた事だとしても、そんな事のために光流を傷付けたのかと思うと罪悪感と嫌悪感でどうにかなってしまいそうだった。
それと同時に思い出した事がある。
進学を決めた時に再三静流に言われた事。
〈本当に大丈夫か?〉
折りに触れて言われたその言葉は〈学力〉に対して言われてきたと思っていたけれど、こうなって見るとそれだけではなかったのかもしれない。
物心ついた時からαとして過ごしてきた静流とは違い、俺のαとしての認識はだいぶ甘かったと認めざるを得ない。今日の話の中でもあった〈抑制剤〉の話ひとつとってもそうだ。俺だって抑制剤を常備していないわけではないけれど、今まで使う必要も無かったし、使う事を考えたことすらなかった。
よくよく考えればそう言った場面に出くわした事が無かったことの方が不思議なのだけど、それは光流の存在があったせいで俺も守られていたからなのだ。
光流と2人で過ごしていた時には何かしら見守られていた可能性が高い。ただ、俺が1人になった場合〈見守る〉べき対象ではない。静流の心配はそこだったのだろう。
静流に対して変に頑なになっていた俺はそんなことに気づくこともなく、ただただ幼い反抗心で自分の未来だけではなく光流の未来まで傷付けたのだ。
この先、光流が傷物だと嘲られることがあったら。欠陥品だと嘲笑されたら。
全てが俺のせいなのだ。
αとΩの世界は奈那のように外から見ていれば煌びやかな華やかな世界に見えるもしれない。
ただ、一度足を踏み入れればそれだけでない事に気付くだろう。
中途半端な者にとっては妬み僻みが渦巻いた世界だ。
自分の立ち位置をわきまえていればそれなりに楽しめるものの、奈那の様な考えで人のものに手を出して自滅していく者も少なくない世界。
そうだ、こいつも引き摺り込んでしまおう。
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