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想い描いたその先にあるもの 1
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その日、辻崎家に着いた時に出迎えた人物を見て驚いた。そこにいたのは女性ではあるがαだったのだ。
光流の父が家族以外のαが家に入るのを嫌うのは有名な話で、今までで俺以外のαがこの家に出入りしていたことはほとんどない。
あったとしても光流の父か静流が必ずそばにいて光流の母や光流に会うことがないよう徹底的に配慮されてきたはずなのに、それなのに自分を出迎えたのがαだった事に違和感を感じた。
もしかして。
有り得ない事だけど、猜疑心に満ちた俺は碌でも無い事を考える。
「誰?」
リビングに通され、一礼をしてαが下がると開口一番そう聞いていた。
光流は何を聞かれたのか直ぐに理解し口を開く。
「静流君と僕の秘書。主に静流君の秘書だけど、僕のスケジュール管理やなんかもしてくれてるよ」
「α?」
「そう」
「そうなんだ」
何か言いたかったけれど、何も言えなかった。
〈光流のα〉ではないのか、そう聞きたかったけれど、どの口でそれを聞くというのだ。
それ以上は何も言えないまま、促されるままにソファーに座る。いつもならば座るはずの光流の隣は避け、向かい側に座るのは誰に対する配慮なのか。
その時に光流の表情が強張ったかのように見えたものの、俺が隣に座らなかった事にショックを受けたのだろうと都合の良い解釈をした俺はこの調子なら俺の言葉を鵜呑みにしてスムーズに婚約解消ができるのではないかと内心ほくそ笑んでいた。
「話したいことって?」
先に口を開いたのは光流だった。
俺はその言葉に少し考えるそぶりを見せたあと、ゆっくりと口を開いた。
「婚約を解消して欲しい」
少しの沈黙の後、光流が口を開く。
「理由を聞いても?」
「光流のことが嫌いになったんじゃないんだ。ただ、小学生の頃に決められて当たり前のように感受してきたけど……自分の足で歩いてみたくなったんだ」
首を垂れて言い聞かせるように言葉を紡ぐ俺だったけれど、内心では奈那に婚約解消を告げる時の事を思いニヤけてしまいそうになるのを抑えるのに必死だった。
「理由はそれだけなの?」
光流がここまで執拗に理由を聞きたがるとは思っても見なかった俺は思わず顔を上げるが、目を合わせることができず咄嗟に目を逸らしてしまった。
そして再び頭に思い浮かんだ言い訳を口にする。
「大学に入って、今までできない経験をして思ったんだ。自分の世界はあまりにも狭い。大学を自分で選んだだけでこんなにも世界が広がるのなら、この先に待つものがどれだけ大きいのか見たくなったんだ」
薄っぺらい、心のこもらない言葉。
だけど全くの嘘でも無い。
「それは、僕の隣では見られない世界なのかな?」
「俺は、そう判断した。
婚約を解消して欲しい」
重ねられる言葉。
そろそろ俺の欲しい答えをくれてもいいのに。
「わかりました。父には僕から話しておきます。
詳しい話し合いは後日、日程はこちらから連絡します」
光流からそう告げられるとあまりの嬉しさに直ぐに席を立ってしまった。
せめて向井さんの入れてくれたお茶に口を付けるべきだったと思ったけれど、今更座り直す事もできずそのまま部屋を出るためドアに足を向ける。
それは俺がドアノブに手をかけた瞬間だった。
「彼女とお幸せに」
言われた言葉の意味を悟った瞬間、光流を振り返る。
ソファーに座ったままの光流は笑顔を浮かべていたけれど、その目は暗く俺に視線を合わせているはずなのにその感情を読み取ることができない。
光流に何を知っているのか問いただしたくてソファーに戻ろうとするが、まだ開けてないはずのドアが開き先ほどのαが姿を現す。
「お客さまがお帰りです」
何の感情もこもらない冷たい声だった。
初めて光流のことを怖いと思った。
〈ちゃんと話をしなければ〉と今更ながらに焦ったけれど、隣に立つαがそれを許してくれなかった。
有無を言わさず強い威圧をかけられ退出を促され、それに従うしかなかった。
その時になってやっと気付いたのだ、光流にはとっくに知っていたのだと。
光流が知っていると言うことは静流も当然俺の所業を把握しているだろう。それなのに何も言ってこなかったのは何を意図してなのか。
どこまで知られているのか。
いつから知っていたのか。
なぜ何も言われなかったのか。
そう言えば光流は詳しい話し合いは後日と言っていたけれど、その後日とはいつの事なのか。
考えることは沢山あった。
何をどう言い訳すればいいのか。
奈那の存在はいつから知られていたのか、それによって言い訳も変わってくる。
父には言ったほうがいいのかとも思ったけれど、それは辻崎の方から話がいくだろう。俺たちだけでどうこうできる話ではないのだ。
だからこそ先に光流に話をしたのに、少しでも軋轢を生まないようにと考えた行動が1番の悪手だった事に気付く。
ほんの10分ほど前には奈那に婚約解消してきたと誇らしげに告げる自分のビジョンが見えていたのに。
休み明けは無理だとしても、春になれば2人で通学できるのではないかと夢見ていたのに。
俺はどうしたらいいのか。
俺はどうするべきか。
考えても考えても答えが出ないまま、俺は家路に着くのだった。
光流の父が家族以外のαが家に入るのを嫌うのは有名な話で、今までで俺以外のαがこの家に出入りしていたことはほとんどない。
あったとしても光流の父か静流が必ずそばにいて光流の母や光流に会うことがないよう徹底的に配慮されてきたはずなのに、それなのに自分を出迎えたのがαだった事に違和感を感じた。
もしかして。
有り得ない事だけど、猜疑心に満ちた俺は碌でも無い事を考える。
「誰?」
リビングに通され、一礼をしてαが下がると開口一番そう聞いていた。
光流は何を聞かれたのか直ぐに理解し口を開く。
「静流君と僕の秘書。主に静流君の秘書だけど、僕のスケジュール管理やなんかもしてくれてるよ」
「α?」
「そう」
「そうなんだ」
何か言いたかったけれど、何も言えなかった。
〈光流のα〉ではないのか、そう聞きたかったけれど、どの口でそれを聞くというのだ。
それ以上は何も言えないまま、促されるままにソファーに座る。いつもならば座るはずの光流の隣は避け、向かい側に座るのは誰に対する配慮なのか。
その時に光流の表情が強張ったかのように見えたものの、俺が隣に座らなかった事にショックを受けたのだろうと都合の良い解釈をした俺はこの調子なら俺の言葉を鵜呑みにしてスムーズに婚約解消ができるのではないかと内心ほくそ笑んでいた。
「話したいことって?」
先に口を開いたのは光流だった。
俺はその言葉に少し考えるそぶりを見せたあと、ゆっくりと口を開いた。
「婚約を解消して欲しい」
少しの沈黙の後、光流が口を開く。
「理由を聞いても?」
「光流のことが嫌いになったんじゃないんだ。ただ、小学生の頃に決められて当たり前のように感受してきたけど……自分の足で歩いてみたくなったんだ」
首を垂れて言い聞かせるように言葉を紡ぐ俺だったけれど、内心では奈那に婚約解消を告げる時の事を思いニヤけてしまいそうになるのを抑えるのに必死だった。
「理由はそれだけなの?」
光流がここまで執拗に理由を聞きたがるとは思っても見なかった俺は思わず顔を上げるが、目を合わせることができず咄嗟に目を逸らしてしまった。
そして再び頭に思い浮かんだ言い訳を口にする。
「大学に入って、今までできない経験をして思ったんだ。自分の世界はあまりにも狭い。大学を自分で選んだだけでこんなにも世界が広がるのなら、この先に待つものがどれだけ大きいのか見たくなったんだ」
薄っぺらい、心のこもらない言葉。
だけど全くの嘘でも無い。
「それは、僕の隣では見られない世界なのかな?」
「俺は、そう判断した。
婚約を解消して欲しい」
重ねられる言葉。
そろそろ俺の欲しい答えをくれてもいいのに。
「わかりました。父には僕から話しておきます。
詳しい話し合いは後日、日程はこちらから連絡します」
光流からそう告げられるとあまりの嬉しさに直ぐに席を立ってしまった。
せめて向井さんの入れてくれたお茶に口を付けるべきだったと思ったけれど、今更座り直す事もできずそのまま部屋を出るためドアに足を向ける。
それは俺がドアノブに手をかけた瞬間だった。
「彼女とお幸せに」
言われた言葉の意味を悟った瞬間、光流を振り返る。
ソファーに座ったままの光流は笑顔を浮かべていたけれど、その目は暗く俺に視線を合わせているはずなのにその感情を読み取ることができない。
光流に何を知っているのか問いただしたくてソファーに戻ろうとするが、まだ開けてないはずのドアが開き先ほどのαが姿を現す。
「お客さまがお帰りです」
何の感情もこもらない冷たい声だった。
初めて光流のことを怖いと思った。
〈ちゃんと話をしなければ〉と今更ながらに焦ったけれど、隣に立つαがそれを許してくれなかった。
有無を言わさず強い威圧をかけられ退出を促され、それに従うしかなかった。
その時になってやっと気付いたのだ、光流にはとっくに知っていたのだと。
光流が知っていると言うことは静流も当然俺の所業を把握しているだろう。それなのに何も言ってこなかったのは何を意図してなのか。
どこまで知られているのか。
いつから知っていたのか。
なぜ何も言われなかったのか。
そう言えば光流は詳しい話し合いは後日と言っていたけれど、その後日とはいつの事なのか。
考えることは沢山あった。
何をどう言い訳すればいいのか。
奈那の存在はいつから知られていたのか、それによって言い訳も変わってくる。
父には言ったほうがいいのかとも思ったけれど、それは辻崎の方から話がいくだろう。俺たちだけでどうこうできる話ではないのだ。
だからこそ先に光流に話をしたのに、少しでも軋轢を生まないようにと考えた行動が1番の悪手だった事に気付く。
ほんの10分ほど前には奈那に婚約解消してきたと誇らしげに告げる自分のビジョンが見えていたのに。
休み明けは無理だとしても、春になれば2人で通学できるのではないかと夢見ていたのに。
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