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絶たれた願い 4

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 光流には自分で話すように、そう言われて光流の部屋へ向かう。
 俺たちとは課題の量が違う光流は早々に終わらせ、今は部屋の片付けに勤しんでいるらしい。
 高校生になるのだから、と部屋の模様替えも兼ねているようだ。

 コンコン

 部屋のドアをノックすると〈はい?〉と返事が返ってくる。
「護だけど」
 そう答えると何やら慌てているような気配がする。
〈カチャリ〉という音を立ててドアが開かれるとその隙間から光流がひょこりと顔を出す。4月から高校生というには華奢で、αである俺よりも大分背も低い。もう少ししたら〈可愛らしい〉と言われている容姿も〈美しい〉と言われるようになるだろう。

「どうしたの?」
 光流の部屋で過ごす事は少ないため動揺しているのだろう。この家では静流と3人で過ごす事が〈普通〉であるからだ。
「少し話があるんだけど、今って大丈夫?」
 俺がそういうとちょっと困った顔をする。
「片付けの邪魔しちゃった?」
 続けて言ってみるけれど邪魔をしたわけではないらしい。それにしては反応がおかしい。
「大丈夫だけど少し待ってて」
 そう言ってドアを閉めてしまう。
 もともと散らかすことのない光流が見せられないほど散らかしているとも思えないが、無理やり入るわけにはいかず廊下で待つこと数分。
「お待たせしました」
 光流がおずおずと顔を出した。
 促されて部屋に入るけれど、散らかっている様子はない。どちらかと言うとサッパリし過ぎているくらいだ。
 家具の種類は静流の部屋にあるものと変わりはないけれど、モノトーンで揃えてある静流の部屋と違い光流の部屋はナチュラルテイストだ。
「部屋、やけにサッパリしてない?」
 思わず聞いてしまった。
 俺の言葉を聞いた光流は真っ赤になって俯いてしまう。
「なに?俺、変なこと言った?」
「違う。
 高校生になるから少し部屋の模様替えしようかと思って。でも捨てたくないものも沢山あるからまとめてた」
 それを聞いてピンときた。そして悪戯心から聞いてしまった。
「ぬいぐるみとか?」
 そして確信した。やっぱりそうだったのだ。
「俺のあげたぬいぐるみ?」
 追い打ちをかけるとよほど恥ずかしかったのか涙目になってしまう。

 何でこんなに可愛いのだろう。
 誰にも見せたくない。
 早く俺だけのものにしたい。
 光流を見て良いのも、触れて良いのも、すべて俺だけの権利だ。
 後少し、もう直ぐだ。
 高校生になればヒートが来るはずだ。
 その時には…。
 そのためには〈自分の立ち位置〉を確固たるものにしなくてはいけないのだ。

「ごめん、揶揄いすぎた。
 嬉しくて、つい」
 言いながらそっと抱き寄せる。
 2人だけの時に少しだけスキンシップを増やしたのはいつからだったろう?

 光流に〈精通〉があったらしい頃、しばらくは指と指が触れただけでビクリとしていたが、落ち着いた頃には触れた指を怯えないようになった。少しずつ距離を縮める様に触れた指を包み込む様に手を重ねる。それに慣れたら今度は指を絡め、いわゆる恋人繋ぎに慣らしていく。
 静流は学習机に向かっているため気付いていない。

 行動は徐々にエスカレートしていき静流がいない隙にそっと唇を重ねた時には光流が真っ赤になってしまい、バレるのではないかと焦ったのを思い出し思わず笑ってしまった。

「護君?」
 俺が笑った事を不思議に思ったのだろう。顔を上げた光流が可愛くて、思わずキスしてしまった。
 そっと触れるだけのキス。
 それだけで真っ赤になってしまう光流が愛おしい。

「話があるって」
 動揺したまま光流が口を開く。
 このまま抱きしめてもっと深く唇を重ねたかったが、それをしたら歯止めが効かなくなってしまいそうで「そうだった」と言いながら身体を離す。
 最近、光流から甘い香りがする事があり気を抜いたらその先に進みたいと言う欲望を抑えられなくなりそうで怖いのだ。

「座る?」
 そう言われてもソファーに移動して話を始める。
 いつもの様に隣り合って座り、指を絡める。2人の時はいつもこんな感じなのだ。

「さっき静流にも言ったんだけど、大学は外部を受験しようと思ってる」
 そう言った瞬間、光流の指に力が入ったのがわかった。動揺しているのだろう。
「光流の婚約者として認められたいんだ。〈運〉で婚約者になったわけではなく、婚約者として確固としたものがある事を知らしめたいんだ」
 光流なら理解してくれる。そう思い言葉を続ける。
「このままじゃ駄目だと気付いたんだ。
 堂々と光流の隣に立つには外部の大学で実績を残して、静流とは違う人脈を広げる必要があるって」

 俺の言葉を聞いて光流の指にますます力が入る。きっと本人はかなりの力を込めているのだろうけど、それだけ深刻に考えているのだろうけど、俺は全く関係ない事を考えてしまう。

 きっとあの時にはこんな風に俺の手を握るのだろう。
 俺に翻弄され、こうするしかなくなるのだろう。
 愛おしくてどうにかなってしまいそうだ。

「護君と離れるのは淋しい」
 ポツリと呟く。言葉が続かないので泣かせてしまったのかと心配になるけれど、絡めた指に更に力を入れ俺の顔を見上げた。
「淋しけど護君がそう決めたなら応援する」
 そう言って泣きそうな顔で微笑んだ。
「僕も護君を支えられるように頑張るから」

 何としてでも誰からも認められるようにならなければ。
 誰のためでもない、光流だけのために。

 その時の俺はそう思ったんだ。
 心の底から、光流だけのためにと。
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