上 下
7 / 36

断たれた願い 1

しおりを挟む
 高校に進学してからも光流の動向を何かと気にしていた俺を揶揄して〈番犬〉と言う呼び名が付けられていたのは知っていた。しかしそれは俺にとって褒め言葉でしかない。光流に近づこうとする相手は男女関係なくプレッシャーをかけ、その関係が発展しないよう邪魔をした。
 その一方で静流も〈番犬〉と呼ばれていたものの、こちらは〈騎士〉と言い換えた方がしっくりくるような好意的なものだった。俺みたいに闇雲に相手を威嚇するのではなく、光流の様子を見て相手によって様々な対応を取るのが静流のやり方で、静流の目に適えば光流の側にいることを許された。もちろん光流にとってマイナスだと判断した相手は排除するのだけど、その方法も穏やかで相手は〈そう〉と知らぬまま光流から離されていく。
 その辺りで〈俺と静流の差〉を見せ付けられている気がしてコンプレックスを抱くようになったことを静流は知っていただろうか?
 当然、そうして選ばれた相手であっても気に入らない俺は光流に〈助言〉をして静流の選んだ相手さえも遠ざけていった。

 そんな俺に静流は気付いていたのだろうか?
 もしも気付いていたのなら、なぜ何も言わなかったのだろうか?
 今となっては聞く事ができないけれど、光流にも静流にもこんな醜い心が気付かれていなければ良いのに、と勝手な事を願ってしまう。
 終わりは最悪だったけれど、せめて思い出の中でだけは昔のままの俺を残しておいて欲しかった。
 それは叶わぬ事なのだけれども、自分に甘い俺はそう願わずにはいられなかった。

 俺が光流のことを囲いたいと思っている事は薄々静流にも気付かれてはいただろう。その気持ちを汲んで光流の周りから必要のない相手を遠ざけてくれても良いのにと思っていた俺は、光流は静流にとっての最愛でもあると言うことにも気付いていた。
 ただ、俺のような執着するような愛ではなく、慈愛とか恵愛とか〈性〉を含まない想いだった。
 その当時、静流には固定のパートナーが居たのを知っていた俺は少しの悪意を込めて聞いた事があった。
「大切な相手ができた?」
 そして聞かされた静流と相手との関係。正直、不可解だった。
「好きなわけではないけれど、ヒートの相手をしてるだけだよ」
 そう言って話してくれた2人の関係は友達でもパートナーでもなく、ただただヒートを軽くするための〈薬〉のような関係。
 相手には好きな人が居るけれどその人にはお願いできないし、したくない。 そして、初めての自分がどんな風になるかわからないからその時のことを静流に覚えておいて欲しい。
 それが相手の願いだったと。

「それって、大丈夫なのか?」
 色々と気になってしまい、思わず聞き返してしまった。少し揶揄うつもりが聞いてはいけない事を聞いてしまったような罪悪感に苛まれる。
「親には一応話は通してあるよ」
 さらりと言ってのけた言葉。
「幸い俺には婚約者もいないし、万が一相手が孕んだ場合に責任を取っても良いと思うような相手なら問題ないって言われた。まぁ、そんなヘマしないけどね」
 そう言って静流は笑ったが、俺は内心面白くなかった。

 それならば、光流と俺だって良いじゃないか。孕んだら当然責任を取るし、むしろ責任を取るために今すぐに孕ませてしまいたい。

 薄暗い気持ちが芽生えてしまう。
 光流はまだ中学生だ。
〈良い〉訳がないのに静流には許されているのに自分には許されていない事が腹立たしかった。
 ヒートを一緒に過ごすのは誰でも良いわけではない。中学生で、しかもまだはっきりと確定したわけでもないのに光流は俺の、俺だけのΩだと確信していた。
 早く光流にヒートが来ればいいのに。

 その日も授業後は辻崎の家で過ごしたのだが静流の話を聞いてしまったせいか、隣に座る光流を変に意識してしまいその姿に、その声に、その匂いに翻弄されて正直勉強が捗らなかった。

 早く大人になりな、俺のΩ。

 その夜、俺は治らない衝動で自分の思い描いた光流を汚し続けたのだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

狗神巡礼ものがたり

唄うたい
ライト文芸
「早苗さん、これだけは信じていて。 俺達は“何があっても貴女を護る”。」 ーーー 「犬居家」は先祖代々続く風習として 守り神である「狗神様」に 十年に一度、生贄を献げてきました。 犬居家の血を引きながら 女中として冷遇されていた娘・早苗は、 本家の娘の身代わりとして 狗神様への生贄に選ばれます。 早苗の前に現れた山犬の神使・仁雷と義嵐は、 生贄の試練として、 三つの聖地を巡礼するよう命じます。 早苗は神使達に導かれるまま、 狗神様の守る広い山々を巡る 旅に出ることとなりました。 ●他サイトでも公開しています。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。 【短編集】

長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。 気になったものだけでもおつまみください! 『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』 『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』 『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』 『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』 『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』 他多数。 他サイトにも重複投稿しています。

一条春都の料理帖

藤里 侑
ライト文芸
一条春都の楽しみは、日々の食事である。自分の食べたいものを作り食べることが、彼にとっての幸せであった。時にはありあわせのもので済ませたり、誰かのために料理を作ってみたり。 今日も理想の食事を追い求め、彼の腹は鳴るのだった。 **** いつも読んでいただいてありがとうございます。 とても励みになっています。これからもよろしくお願いします。

conceive love

ゆきまる。
BL
運命の番を失い、政略結婚で結ばれた二人。 不満なんて一つもないしお互いに愛し合っている。 けど……………。 ※オメガバース設定作品となります。

ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ
恋愛
 アルファポリスさんではまった、恋愛モノ、すかっとしたざまあを拝読したのがきっかけです。  初めてこの分野に手を出しました。んん? と思うわれる箇所があるかと思いますが、温かくお見守りください。  とある特殊な事情を持つ者を保護している、コクーン修道院で暮らす12歳の伯爵令嬢ウィンティア。修道女や、同じ境遇の子供達に囲まれて、過去の悲惨な事件に巻き込まれた、保護されている女性達のお世話を積極的に行うウィンティアは『いい子』だった。  だが、ある日、生家に戻る指示が下される。  自分に虐待を繰り返し、肉体的に精神的にズタズタにした両親、使用人達、家庭教師達がまつそこに。コクーン修道院でやっと安心してすごしていたウィンティアの心は、その事情に耐えきれず、霧散してしまった。そして、ウィンティアの中に残ったのは………………  史実は関係ありません。ゆるっと設定です。ご理解ください。亀さんなみの更新予定です。

悪役令嬢に転生かと思ったら違ったので定食屋開いたら第一王子が常連に名乗りを上げてきた

咲桜りおな
恋愛
 サズレア王国第二王子のクリス殿下から婚約解消をされたアリエッタ・ネリネは、前世の記憶持ちの侯爵令嬢。王子の婚約者で侯爵令嬢……という自身の状況からここが乙女ゲームか小説の中で、悪役令嬢に転生したのかと思ったけど、どうやらヒロインも見当たらないし違ったみたい。  好きでも嫌いでも無かった第二王子との婚約も破棄されて、面倒な王子妃にならなくて済んだと喜ぶアリエッタ。我が侯爵家もお姉様が婿養子を貰って継ぐ事は決まっている。本来なら新たに婚約者を用意されてしまうところだが、傷心の振り(?)をしたら暫くは自由にして良いと許可を貰っちゃった。  それならと侯爵家の事業の手伝いと称して前世で好きだった料理をしたくて、王都で小さな定食屋をオープンしてみたら何故か初日から第一王子が来客? お店も大繁盛で、いつの間にか元婚約者だった第二王子まで来る様になっちゃった。まさかの王家御用達のお店になりそうで、ちょっと困ってます。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆ ※料理に関しては家庭料理を作るのが好きな素人ですので、厳しい突っ込みはご遠慮いただけると助かります。 そしてイチャラブが甘いです。砂糖吐くというより、砂糖垂れ流しです(笑) 本編は完結しています。時々、番外編を追加更新あり。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...