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はじまり 5

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 光流を囲い込むにはどうしたら良いのか、そのことばかりで頭がいっぱいになる。光流は俺だけを見ていればいいのだ。手っ取り早いのは光流を俺の番にしてしまう事だが、まだ光流はΩだと正式に判定は受けていない。
 それでも以前はソファーで隣り合って座っている時に身体が触れ合っても気にしなかった光流が、ある時から急な接触に緊張するようになったことから精通を迎えたのだと確信した。
 俺が光流を思って自分を慰めるように、光流も俺を想ってくれているのだろうか?想像するだけで心が満たされる気がした。
 ただ、番になるのはまだ先だろう。
 精通があってもヒートが来なければαとΩは番えないのだ。

 それならばどうしたらいいのか、結果的に俺の考えた事は光流の自由を奪う事だった。
 ただでさえ素直な光流だ、俺が少し〈お願い〉をすれば面白いくらいに従順に〈お願い〉を聞いてくれた。

 光流が中学に入学してすぐに新しい交友関係が広がっていくのを目の当たりにした。人当たりもよく見た目も良いのだから人の目を惹いて当然だ。
 下校も俺や静流が遅い時は迎えが来ることになっていたのに新しくできた友達と帰る事が度々あったのが気に入らない。防犯も兼ねての対応だったため、その友達と別れるまで見守られ、別れた後は送迎を任された相手と帰るのだけど、面白くない。
 その友達の話を楽しそうにする姿に嫉妬を覚えた。自分以外の人間の話を楽しそうにする光流を閉じ込めてしまいたいと思った。

 まだ早い。

 閉じ込める事ができないのなら友達と引き離すしかない。
「最近よく一緒に帰ってる子。あの子、ちょっと苦手かも…」
〈何が〉とは具体的に言わずにそう言ってみる。
「今まで仲良くしてた子とはちょっと違うよね」
 遠回しに〈今までの子は良いけど〉と匂わす。
 何がどう良いのか、何がどう悪いのかを伝えず遠回しに言ったせいで友達付き合いに対して光流が萎縮してしまうのはすぐだった。誰とどう付き合えば良いのかわからず、結果的に以前から交流のある友達としか接する事ができず交友関係が広がることを防いだのだ。

 登下校にしても基本的には俺と帰るように約束させ、俺が無理な時は静流と帰るように言い聞かせた。静流には心配だからと言えば怪しまれる事もなかった。その頃には俺が光流を溺愛しているのは周知の事実だったのだ。
 ただし、静流とて俺にしてみれば例外ではない。常に光流と過ごしている静流に対してまで俺は嫉妬心を持ってしまったのだ。兄なのだから当たり前の庇護でさえも気に入らない。
 光流が楽しそうに静流の話をした時に言ってみた。
「俺より静流の方が好きなんだよね」
 その一言が決定的だったようで、兄である静流に対しても少し距離を置くようになった。それは本当に些細な変化で、今まで静流に対してだけ言っていた我儘を徐々に言わなくなっていったのだ。

 可愛かった。
 愛しかった。

 俺の言葉に一喜一憂し、俺の態度を窺う様子が何だか小動物のようだった。

 αの独占欲
 αの執着。

 馬鹿な俺はそこで満足する事ができず、光流の全てを支配したくなってしまった。
「光流のクラスの代表、α?
 俺、ちょっと苦手かな」
 俺と静流が先に高校に入学したときも、中高のクラス代表が集まる会議に出た時に光流のクラスの代償が光流と同じクラスだと自慢していたことを聞いたためそう言ってみた。何かと光流の世話を焼きたがったそいつだったが、光流の態度に何か感じるものがあったのだろう。それ以降必要以上に光流の世話を焼かなくなった。

 放課後に俺や静流を待つ間、図書館に行くことを許可したせいか図書委員をやりたいと言い出した時には希望を出す前にその願いを断ち切った。
「図書館って、不特定多数の生徒が利用するでしょ?光流、人が多いの苦手なのに大丈夫?」
 別に光流は人が多いのが苦手なわけではなかった。実際に今だって普通に図書館を利用しているのだ。
 だけど素直な光流は俺にそう言われれば〈そうなのだ〉と思ってしまう。
「図書委員になってカウンターに座るようになると色々な相手と接しないといけないから心配だ」
 ダメ押しでそう憂いて見せればそれ以上図書委員になりたいとは言わなくなった。

 人間関係を広げる事もできず、俺に従順になっていく〈俺の理想のΩ〉。

 早く俺のものにしたい。
 早く閉じ込めてしまいたい。

 少し遠い未来を思い浮かべて歓喜する俺は気付いてなかったのだ。
 俺に従順になり過ぎたせいで全ての行動を〈俺のために〉どうすれば良いかを考えるようになっていた光流の思考に。

 それは従順で盲目的で。
 俺が光流に執着するように、光流は〈俺の伴侶になる事〉に〈俺を支える事〉に異常なほどに執着を見せた。

 俺たちはもう、この時には間違っていたのだろうか?
 今更どうにもならないと分かってはいても考えてしまい、俺の思考は行き場を失くすのだった。
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