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はじまり 1
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初めて会ったのは小学生の頃だった。
と言ってもはじめから光流と過ごしたわけではない。
「辻崎との見合いの話がきた」
そう言われたのは俺が小学校5年の時。〈見合い〉と言われても5年生の俺が何か思うわけでもなく、それどころか〈見合い〉と言う言葉が自分の身に降りかかっていることだという自覚もなく、ただ父親の様子を見ると良い話の様だとしか思わなかったのが思い出される最初の記憶だ。
〈辻崎〉と言う名前にも聞き覚えはなく、母が何だか喜んでいる様なのでやっぱり良い話なのだろうと思った記憶は有る。
数日後、連れられて行ったのは知らない家で、同い年くらいの男の子としばらく過ごす様に言われたのだがその時の男の子が静流だった。
最初の印象は〈お行儀のいい男の子〉だったけれど、初めて自分以外のαを意識したのもあの時だったと思う。
もちろん大人のαや自分よりも年上のαと接する事はあったし、俺の父親もαだ。だけどどこか他人事だったんだ。
自分がαである事は何となく自覚していたけれど、だからと言って何か恩恵があるわけでもなく、ただ少しだけ同級生に比べて色々な事が出来ただけでごく普通の小学生だった。
向こうの父親に連れられて部屋に入ってきた静流は慣れたもので、俺の父親に挨拶をすると今度は俺に向かって笑いかけた。
「はじめまして、辻崎静流です」
その一言だけだったのに〈こいつに負けたく無い〉そう思ったのは何故だったのだろう?
嫌な事を言われたわけでも無いし、馬鹿にした表情をされたわけでも無い。
それなのに負けたくない、負けてはいけないと思ったのは本能だったのだろうか?
静流の影に見え隠れする光流をその時には本能で意識していたのかもしれない。
見合いの相手が静流ではない事は言われなくてもわかった。静流も自分もどう見てもαなのだ。しかも俺は〈αだろうな〉というレベルだったけれど、静流はこの時点でどう見てもαでしかなかった。α同士の見合いなんてあまり聞いた事がないし、小学生でβとのお見合いも考えられない。
そもそも静流程のαならば何もしなくても良縁が舞い込んでくるだろう。それ程までに俺とは違う圧倒的な何かが既に身に付いていた。
それならばαの見合いの相手というと1番可能性が高いのはΩでえる。守られる存在であるΩならば早い内に婚約者を決めておく事は珍しくないからだ。
となると、見合い相手であるはずのΩではなくαである静流がきた理由は〈品定め〉だろう。それであれば先程〈こいつに負けたくない〉と思った理由が分かる気がする。あの時点で既に品定めされていたのだろう。
しかし何を言われるのか、何を聞かれるのか、身構えていた俺に最初にかけられた言葉は気の抜ける様な言葉だった。
「ねえ、コーヒー、紅茶、緑茶、オレンジジュースか炭酸、何がいい?」
拍子抜けしてしまった。
拍子抜けしてしまった俺は素直に口を開く。
「炭酸って、何があるの?」
その返事にニヤリとした静流は俺を手招きしてその部屋に備え付けの簡易キッチンに連れていくと冷蔵庫を開け、好きな飲み物を選ぶように促した。
後で知った事だったけれど、この時に連れられて来ていたのは辻崎家の別邸だった。Ωである母親や光流と、身内以外のαが不必要な接触をしないようにと建てられた別邸は、今日のようにαの接客や静流が友達と過ごすために使うらしい。
この時に案内された部屋は静流が普段友達と過ごすための部屋で、いつの間にか姿を消した父は建物内にある客間で話をしていたと教えられた。
「コーヒーとか紅茶って言われたらどうしようかと思った」
静流はそう言ってコーラを取り出し、それに倣って俺もコーラを選んだ。
「お菓子は?
何か食べる?」
続けて聞かれるものの、お菓子を食べられるほどの気持ちの余裕はない。
「コーラだけでいい」
俺がそう答えると静流はそれ以上お菓子を勧めることもなく、ソファーへと俺を促した。
どんな話をするのかと身構えていたものの、静流が話す内容は学校で友達と話す内容と大差無く、気が付けば普段友達と過ごす時と同じ様に笑い合っていた。
その時読んでいた本の話。
好きな漫画、好きなゲーム。
学校での過ごし方や将来の夢。
あの時、俺は何と答えたのだろうか?
あの時、静流は何と言っていたのだろうか?
と言ってもはじめから光流と過ごしたわけではない。
「辻崎との見合いの話がきた」
そう言われたのは俺が小学校5年の時。〈見合い〉と言われても5年生の俺が何か思うわけでもなく、それどころか〈見合い〉と言う言葉が自分の身に降りかかっていることだという自覚もなく、ただ父親の様子を見ると良い話の様だとしか思わなかったのが思い出される最初の記憶だ。
〈辻崎〉と言う名前にも聞き覚えはなく、母が何だか喜んでいる様なのでやっぱり良い話なのだろうと思った記憶は有る。
数日後、連れられて行ったのは知らない家で、同い年くらいの男の子としばらく過ごす様に言われたのだがその時の男の子が静流だった。
最初の印象は〈お行儀のいい男の子〉だったけれど、初めて自分以外のαを意識したのもあの時だったと思う。
もちろん大人のαや自分よりも年上のαと接する事はあったし、俺の父親もαだ。だけどどこか他人事だったんだ。
自分がαである事は何となく自覚していたけれど、だからと言って何か恩恵があるわけでもなく、ただ少しだけ同級生に比べて色々な事が出来ただけでごく普通の小学生だった。
向こうの父親に連れられて部屋に入ってきた静流は慣れたもので、俺の父親に挨拶をすると今度は俺に向かって笑いかけた。
「はじめまして、辻崎静流です」
その一言だけだったのに〈こいつに負けたく無い〉そう思ったのは何故だったのだろう?
嫌な事を言われたわけでも無いし、馬鹿にした表情をされたわけでも無い。
それなのに負けたくない、負けてはいけないと思ったのは本能だったのだろうか?
静流の影に見え隠れする光流をその時には本能で意識していたのかもしれない。
見合いの相手が静流ではない事は言われなくてもわかった。静流も自分もどう見てもαなのだ。しかも俺は〈αだろうな〉というレベルだったけれど、静流はこの時点でどう見てもαでしかなかった。α同士の見合いなんてあまり聞いた事がないし、小学生でβとのお見合いも考えられない。
そもそも静流程のαならば何もしなくても良縁が舞い込んでくるだろう。それ程までに俺とは違う圧倒的な何かが既に身に付いていた。
それならばαの見合いの相手というと1番可能性が高いのはΩでえる。守られる存在であるΩならば早い内に婚約者を決めておく事は珍しくないからだ。
となると、見合い相手であるはずのΩではなくαである静流がきた理由は〈品定め〉だろう。それであれば先程〈こいつに負けたくない〉と思った理由が分かる気がする。あの時点で既に品定めされていたのだろう。
しかし何を言われるのか、何を聞かれるのか、身構えていた俺に最初にかけられた言葉は気の抜ける様な言葉だった。
「ねえ、コーヒー、紅茶、緑茶、オレンジジュースか炭酸、何がいい?」
拍子抜けしてしまった。
拍子抜けしてしまった俺は素直に口を開く。
「炭酸って、何があるの?」
その返事にニヤリとした静流は俺を手招きしてその部屋に備え付けの簡易キッチンに連れていくと冷蔵庫を開け、好きな飲み物を選ぶように促した。
後で知った事だったけれど、この時に連れられて来ていたのは辻崎家の別邸だった。Ωである母親や光流と、身内以外のαが不必要な接触をしないようにと建てられた別邸は、今日のようにαの接客や静流が友達と過ごすために使うらしい。
この時に案内された部屋は静流が普段友達と過ごすための部屋で、いつの間にか姿を消した父は建物内にある客間で話をしていたと教えられた。
「コーヒーとか紅茶って言われたらどうしようかと思った」
静流はそう言ってコーラを取り出し、それに倣って俺もコーラを選んだ。
「お菓子は?
何か食べる?」
続けて聞かれるものの、お菓子を食べられるほどの気持ちの余裕はない。
「コーラだけでいい」
俺がそう答えると静流はそれ以上お菓子を勧めることもなく、ソファーへと俺を促した。
どんな話をするのかと身構えていたものの、静流が話す内容は学校で友達と話す内容と大差無く、気が付けば普段友達と過ごす時と同じ様に笑い合っていた。
その時読んでいた本の話。
好きな漫画、好きなゲーム。
学校での過ごし方や将来の夢。
あの時、俺は何と答えたのだろうか?
あの時、静流は何と言っていたのだろうか?
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