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あれやこれやがありまして 1

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 魔力が暴走した日から7日。
 ティファは、テスアで過ごしている。
 3日くらいは、起き上がることもできずにいたからだ。
 昨日あたりから、ようやく調子が戻っていた。
 
「体に障りはないか?」
「……ありません」
 
 隣で響く声に、朝から心臓が、どきどきする。
 毎朝、セスは、決まって、そう声をかけてくるのだ。
 もう良くなったと、言ってはいるのだけれども。
 
(ロズウェルドでは別々に寝てたけど、なんかもう、このほうがしっくりくるっていうか……)
 
 『最早、俺なしでは寝ることもかなわんようだ』
 
 ロズウェルドで言われた言葉を思い出し、1人で照れてしまう。
 ちょっぴり「そうかもしれない」と肯定している自分を自覚していた。
 なにしろ、セスが隣にいると、あっという間に眠りに落ちる。
 羊を2桁も数える自信がないくらいだ。
 
 ちらっと、横目でセスを窺う。
 セスは、体をティファのほうに向け、肘をついた手で頭を支えていた。
 目が、ばちっと合って、思わず視線をそらせる。
 が、そらせた先に、はだけたセスの胸元があった。
 
 眠る時には、まだしもきちんとしているのに、朝には、大幅にはだけている。
 寝相が悪いのかと思って訊いたことがあったが、それは失敗だった。
 
 『お前が頭をすりよせてくるゆえ、こうなる。寝相が悪いのは、お前だぞ』
 
 しれっと、そう言われている。
 眠っているので、ティファには、それが嘘か本当かは、わからない。
 さりとて、セスが嘘をつく必要はない気もした。
 おそらく「頭をすりつける」は、事実だろう。
 
 だから、2度と、そのことは口にするまい、と思っている。
 自らで、恥をかきにいくことはないのだ。
 
「おうおう、朝っぱらからイチャついてんじゃねーぞ。敷物になりたいなら、いつでも言えよ、セス?」
 
 びくっとして、ティファは体を起こす。
 隣でセスも体を起こしていた。
 一応、気遣っているのか、くいっと襟元を引き寄せ、寝巻を整えている。
 
 室内に、父とソルが立っていた。
 物騒なことを言いつつも、父は、にやにやしている。
 ソルは不機嫌そうだ。
 
「ここは、俺の寝所にございます。あらかじめ連絡をくだされば見たくないものを目にせずともよくなりますが?」
 
 父に、というより、セスは、ソルに言っている。
 ぴくっと、ソルの眉が引き攣った。
 どうも、この2人は相性が良くないらしい。
 自分のせいでもあるのだろうけれど、できれば仲良くしてほしいものだ。
 
「しかたがないだろう。伝達系の魔術は、ここでは使えないのだからね」
「そうなの?」
「使えねえっていうか、通りが悪いんだよ。魔力疎外がかかってるからな」
 
 セスが、父の言葉に関心を持った様子で、顎をさすっている。
 これは、考え事をする際の、セスの癖だった。
 
「魔力疎外がかかっていても、転移は可能にございますか」
「ソル、説明してやれよ」
 
 父に言われ、ソルは「なぜ自分が」と、少し嫌そうな顔をする。
 とはいえ、父が「説明」を面倒とする性質だとも知っているからだろう、渋々といったように、口を開いた。
 
「伝達系というのは、自分と相手を糸で繋ぐようなものなのだよ。魔力疎外がかけられていると、ぷつぷつと切れてしまうのさ。それに対して、転移系は、基本的に点と点を繋ぐものなのでね。魔力疎外されていても関係ないというわけだ」
「では、転移を防ぐ方法はないということか?」
 
 セスは、ソルに対しては、丁寧な言葉を使わない。
 父と話している時には、ちゃんと使っているので、意図的なものに思える。
 ソルもセスを気に入っていないが、セスも同じだ。
 間に挟まれているティファは、2人の会話に、いつも冷や冷やしている。
 
「いや、転移系は、転移疎外で防ぐことができる。魔力疎外とは違い、狭い範囲になるがね。たとえば、部屋ひとつ分とか」
「ならば、寝所と湯殿に、転移疎外をかけることはできるのだな?」
 
 どうやら、それを確かめたかったらしい。
 確かに、寝所と湯殿に、突然、転移して来られるのは困る。
 今後のこともあるのだし。
 
 考えてしまった自分に、恥ずかしくなった。
 それに気づいたのか、ソルが顔をしかめる。
 
「ティファ、1人で湯に浸かったほうが、ゆっくりできるだろう?」
 
 言われて、ん?と思った。
 
「もしかして、ソル、覗いてたの?」
「覗くだなどと言わないでおくれ、可愛いティファ。私は見守っていただけ……」
 
 ガタッと、音がする。
 いつの間にか、セスが立ち上がり、刀を手にしていた。
 
「お前には感謝しているが、俺の妻の湯殿を覗くなどとは許しておけん!」
「ティファは、まだきみの妻ではない」
「それは、儀式においてという意味に過ぎぬであろう!」
「おいおい、喧嘩すんじゃねーよ、2人とも」
 
 父が仲裁に入ったとたん、セスが、父のほうに顔を向ける。
 ひどく真剣な顔で言った。
 
「このようなふとどきな真似を許しておかれるのか、お父様?!」
 
 セスの顔が、真面目であればあるほど、吹き出しそうになる。
 が、必死で、ティファは我慢した。
 お腹の筋肉が、ククっと引き攣るほどに。
 
「ふとどきな真似……?」
「お父様……?」
 
 父とソルが顔を見合わせている。
 すぐに、父は顔をそむけ、くくっくくっと笑い出した。
 ソルのほうは、にこやかな笑みを口元に浮かべている。
 
 すごく嫌な予感がした。
 ものすごく。
 
「きみは、ティファの父上を、お父様と呼んでいるのかね?」
「それがどうした? そのように呼べと言われているのだ」
「へえ。そうかい。それなら……」
 
 ソルが、自分の胸を親指でさして言う。
 
「私のことは、お兄様と呼んでもらおうか」
「なに……? なん……?」
 
 セスは、一瞬、茫然とした顔をしたあと、パッとティファのほうに顔を向けた。
 ティファは、そうっと視線をそらせる。
 
「えっと……あの……言って、なかったっけ……?」
「聞いておらんっ!! では、ソルは、お前の兄なのか?!」
「そうだよ……ソルと私は、兄妹なの……」
 
 また、セスが、パッと、今度は、ソルのほうに顔を向けた。
 なぜか、ニっと笑う。
 
「そうであったか。これは失礼した。では、今後は、お兄様と呼ばせてもらおう」
「おや、ずいぶんと聞き分けがいいじゃないか」
「ティファは俺の妻だ。むろん、俺にならって、今後は、お前を“お兄様”と呼ぶことになろう」
「なんだってっ?! これまで、ティファは……」
「お前が呼べと言ったのではないか。妻が夫に準ずるのは当然のことだ」
 
 セスは、ほかの男の名を呼ぶなと、再三に渡り、ティファに言っていた。
 そのこだわりのほうが「お兄様」より勝ったようだ。
 
「お前ら……大人げなくねーか? マジ、呆れるわ……」
 
 父が、溜め息をついていた。
 気ままで、自由奔放な父ですら、2人のやりとりに呆れている。
 
「セス、婚姻後は転移疎外かけてやるから、それで納得しとけ。ソル、ティファは嫁ぐんだ。お兄さまって呼ばれるのも悪かねーと思っとけ」
 
 それだけでは納得できなかったのか、2人が同時に口を開いた。
 
「ですが、父上、私は……」
「お父様、俺は……」 
「うるせえ、親の決定は絶対だ! ティファを困らせるんじゃねえ!」
 
 一喝され、2人は静かになる。
 ティファも呆れ、大きく溜め息をついた。
 
(ホント、相性、悪そう……これから姻戚関係になるっていうのに……)
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