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最終章 彼女の会話はとめどない
最悪の始まり 3
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夜が更けてきても、ザイードと一緒に、あの建屋にいる。
フィッツは寝るつもりはなかったし、ザイードも同じだろう。
最悪は、まだ去っていない。
明日の交渉が終わるまでは、気を抜けなかった。
「あのルーポの子は、大事なかろうか」
「そのために、ダイスさんに噛んでもらったのですから、大丈夫です」
囮は、囮だけに使うとは限らない。
せっかく魔物の国に放り込むのだ。
ほかの「用途」でも使おうとする。
ルーポの子に悪気があろうとなかろうと、だ。
「しかし、毒とな……人は、さようなことまでするか」
「相手は、姫様を殺そうとしている者ですよ? なんだってするでしょう」
純血種の魔物に、人の言葉は通じない。
人は魔力がないため、魔物と会話はできない。
それゆえに「家畜」とされる。
純血種同士の間にできた子もまた同じだ。
ロキティスにとっては「家畜」でしかなかった。
魔力が強く、外には出せないため、なおさら、その意識は強かっただろう。
しかも「繁殖」にも使えない子供の魔物など、意味はない。
ただ、アトゥリノ人の資質として「財」を手放し難かっただけだ。
ノノマに「同胞ごと攻撃できるか」と問うた時には、帝国に魔物の子がいると、すでにフィッツの中では想定されていた。
セウテルの、やけに高圧的な姿勢から、確信に至っている。
それが魔物に対し「最も有効」だと知っていたからだ。
ある意味、大人や老体であれば、諦めもつく。
捕らわれている側も、盾にされることを望まなかったに違いない。
だが、子供は違う。
どうやってでも取り返したいと思うはずだと、人間側は見込んでいるのだ。
それは、間違ってはいない。
魔物は同胞意識が強かった。
中間種を殺す決断ができたことを、意外に感じたほどだ。
決断できたのは、魔人に仕えていた「シャノン」のことがあったからだろう。
中間種を、魔物たちは信じられなくなっている。
カサンドラは別として。
「しかし、毒というのは1種類ではなかろう? 野花や虫でも、様々ある」
「ジュポナの資料に書いてありました」
「余も、キャスに手伝うてもろうて読んでおる。だが、さようなことが書いてあるところは読んだ覚えがない」
「明確に書かれてはいませんでしたからね。ただ、流れに沿って考えれば、結果が見えた、ということです」
ジュポナの資料では、アトゥリノの前国王は急死したとあった。
帝位に欲を出していたティトーヴァの叔父だ。
王族の急死は、時々、起こる。
その理由を、フィッツは正しく理解していた。
毒殺だ。
首謀者は、ロキティス・アトゥリノ以外にいない。
父親に疎まれていただけではなく、およそ「財」にしか興味のない男だった。
帝位の簒奪など望むどころか、嫌がっていたはずだ。
さりとて、自らの手を汚すような男でもない。
(ディオンヌ・アトゥリノが姫様を殺そうとして失敗したと、姫様は仰っていた)
カサンドラは、ロキティスに殺されそうになったことに対し、よくわからないと話していた。
だが、実際に、カサンドラを殺しに来たのは、中間種とディオンヌだ。
中間種は、まだわかる。
もとより汚れ仕事をさせるための者たちだった。
では、あえて妹を使ったのはなぜか。
(私を嵌めるためだな。私が、あの女を唆し、前国王を殺させた、ということにしたかったのだろう。その頃、私は姫様を攫った犯罪人。うってつけだ)
そういう筋書を作るため、ディオンヌに、カサンドラを狙わせる必要があった。
カサンドラは、フィッツとディオンヌが、ほとんど面識もないような間柄だと知っていたからだ。
おまけに、当時の皇太子ティトーヴァの寵愛を受けていた。
カサンドラに証言されては、ロキティスの身は危うくなる。
だから、カサンドラを殺さなければならなかった。
どの道、ディオンヌも始末するつもりだったに違いない。
その流れの中で、フィッツと前国王の毒殺を結びつけられる毒は限られている。
ラーザに生息していた花。
その花は、きちんと手間をかければ毒を抜き、茶葉とできた。
反面、手を抜けば、味は良くても、毒が体に蓄積される。
それを、ロキティスは、ディオンヌに使わせたのだろう。
フィッツとディオンヌが親しかったと見せかけるためにも。
「ラーザの毒にも種類はあります。遅効性のものと即効性のものと」
「今回は、即効性のものが使われると判断したのだな」
「あちらは、のんびりとしていられる状況ではありませんでした。助けようとしたものに同胞が殺されれば、あなたがたは、当然、動揺し、混乱します。相手は子供ですしね。そこに銃撃を受ければ、対処できないと考えたのでしょう」
「ゆえに、あらかじめダイスに……」
少し前、キサラをガリダに呼んで「注射」を教えた。
フィッツは、ティニカだ。
ラーザの毒についての知識も、当然に持っている。
もちろん解毒剤の作りかたも知っていた。
しかし、即効性の毒に対して、解毒は直前でなければ効果が出ない。
さりとて、フィッツはルーポには行けない。
結果、キサラに頼むことにしたのだ。
ダイスを押さえつけてでも「注射」できるのは、キサラだけだし。
同じ解毒剤を、ダイスの牙にもつけておいた。
子のルーポの牙に毒が塗られている可能性が高かったからだ。
ダイスと同様、直前に塗られたとしても、毒が回るまで時間はかからない。
そのため、ダイスに「噛ませて」いる。
反撃を食らっていたようだが、ダイスは「注射」されているため毒は効かない。
針で刺されるのを相当に嫌がり、暴れ回ったらしいが、それはともかく。
「まぁ、ダイスのことゆえ、明日には忘れておろう」
「でしょうね」
というより、すでに忘れているのではないか、と思う。
あのルーポの子が心配でたまらず、自分のことにかまってはいられない。
それが、ルーポの長ダイスなのだ。
「ダイスさんの頑張りのためにも、明日の交渉では条件を吊り上げるとしますか」
「それがよい。ダイスも恥を晒した甲斐があったと思えるであろう」
「恥? そこは聞き逃していました」
「しばらく逃げ惑うておったが、キサラに怒られ、渋々、注射されておった。針を刺された時には大声を上げ、そのあとは痛い痛いとキサラに泣きついておったぞ」
「それは、おかしいですね。針は極小のものでした。蜂の針ほどの太さもないので痛みが残るはずはないのですが……」
刺した瞬間でも、チク…という程度だったはずだ。
解毒剤が魔物の体に合わなかったのだろうか。
わずかに眉をひそめるフィッツに、ザイードが首を横に振った。
「ダイスのことは心配なぞせぬでよい。あれはキサラに甘えたかっただけぞ」
「ダイスさんは、キサラさんのことになると抜け目がありませんね」
「無駄にの。浅知恵を働かせるのだ」
フィッツからすると、ダイスは、いろいろと不可解なところがある。
感情の起伏があり過ぎて、行動と伴っていないことが多いからだ。
なにより理屈が通じない。
長たちの中で、最も、分かりにくいと言える。
だが、ダイスの勘は「アテ」にできる、とも思っていた。
能力に関しては、信用している。
文句を言ったり、したくないと言ったりはするものの、ダイスは「できない」と言ったことはないのだ。
自分の能力をきちんと把握しているし、周りのことも、よく見えている。
「そう言えば、人が仕掛けてきた前回の戦、ファニを除くと、被害が少なかったのは、ルーポでしたね」
「攻撃の力ではコルコやイホラが強く、攻撃種類はガリダが多い。だが、ルーポの素早さは、どの種族よりも秀でておる。ダイスは、それを使うのが上手い」
「敏捷性が高いのは、戦場では大きな力になります。相手より先に動けるだけでも有利になりますので」
「そうさな」
「ですが、ルーポは数が少ないでしょう? コルコが最少なのは、あまり子ができないからだと思いますが、ルーポは、どちらかと言えば多産ですよね」
ダイスにも、5頭の子がいる。
生涯で、1度しか出産しないわけでもない。
なのに、ルーポはコルコの次に、少数種族なのだ。
イホラが1万を越えているのに対し、ルーポは8千程度。
「初めて人が襲来した折、ファニとコルコ以外の3種族は大きく数を減らした。この2百年で、持ち直してきたがな」
「情が深過ぎるから、ですか?」
ザイードが、ふっと息をつく。
ルーポの子が囮に使われた時のダイスの動きから、察した。
ガリダにも似たところはあるが、ルーポは、より情に深い。
フィッツが止めなければ、子が見えた時点でダイスは飛び出して行っただろう。
そういう性質を、人に利用されたのだ。
子を捕らえられ、今回と同じように囮にされたり、盾にされたりした。
ルーポやガリダは、身動きが取れなかったに違いない。
その結果が、今の頭数に現れている。
「ガリダも犠牲は多かったが、それでも壁ができた際、解放されたものもおった。ルーポは、ただの1頭も帰っては来ておらぬ」
ガリダとイホラは、ルーポよりも出産回数が多い。
その上、解放されたものもいた。
そのため、今となっては、ルーポだけが数として取り残されているようだ。
「先に、その問題を解決する必要がありますね」
フィッツは、静かに言う。
人が、子を囮に使うのは想定済みだった。
結果も上々だ。
だとしても、このことは解決しておかなければならない。
最大の弱点に成り得る。
ルーポには、移動も含め、作戦の軸になる部分を任せていた。
ダイスには、それをきっちりやり遂げる能力もある。
ルーポを抑え込まれるのは、魔物の国の死活問題なのだ。
「子を取り返しますよ、ザイードさん」
フィッツは、ティニカの瞳で、先を見据えていた。
そのために、なにを後回しにすべきかも、わかっている。
フィッツは寝るつもりはなかったし、ザイードも同じだろう。
最悪は、まだ去っていない。
明日の交渉が終わるまでは、気を抜けなかった。
「あのルーポの子は、大事なかろうか」
「そのために、ダイスさんに噛んでもらったのですから、大丈夫です」
囮は、囮だけに使うとは限らない。
せっかく魔物の国に放り込むのだ。
ほかの「用途」でも使おうとする。
ルーポの子に悪気があろうとなかろうと、だ。
「しかし、毒とな……人は、さようなことまでするか」
「相手は、姫様を殺そうとしている者ですよ? なんだってするでしょう」
純血種の魔物に、人の言葉は通じない。
人は魔力がないため、魔物と会話はできない。
それゆえに「家畜」とされる。
純血種同士の間にできた子もまた同じだ。
ロキティスにとっては「家畜」でしかなかった。
魔力が強く、外には出せないため、なおさら、その意識は強かっただろう。
しかも「繁殖」にも使えない子供の魔物など、意味はない。
ただ、アトゥリノ人の資質として「財」を手放し難かっただけだ。
ノノマに「同胞ごと攻撃できるか」と問うた時には、帝国に魔物の子がいると、すでにフィッツの中では想定されていた。
セウテルの、やけに高圧的な姿勢から、確信に至っている。
それが魔物に対し「最も有効」だと知っていたからだ。
ある意味、大人や老体であれば、諦めもつく。
捕らわれている側も、盾にされることを望まなかったに違いない。
だが、子供は違う。
どうやってでも取り返したいと思うはずだと、人間側は見込んでいるのだ。
それは、間違ってはいない。
魔物は同胞意識が強かった。
中間種を殺す決断ができたことを、意外に感じたほどだ。
決断できたのは、魔人に仕えていた「シャノン」のことがあったからだろう。
中間種を、魔物たちは信じられなくなっている。
カサンドラは別として。
「しかし、毒というのは1種類ではなかろう? 野花や虫でも、様々ある」
「ジュポナの資料に書いてありました」
「余も、キャスに手伝うてもろうて読んでおる。だが、さようなことが書いてあるところは読んだ覚えがない」
「明確に書かれてはいませんでしたからね。ただ、流れに沿って考えれば、結果が見えた、ということです」
ジュポナの資料では、アトゥリノの前国王は急死したとあった。
帝位に欲を出していたティトーヴァの叔父だ。
王族の急死は、時々、起こる。
その理由を、フィッツは正しく理解していた。
毒殺だ。
首謀者は、ロキティス・アトゥリノ以外にいない。
父親に疎まれていただけではなく、およそ「財」にしか興味のない男だった。
帝位の簒奪など望むどころか、嫌がっていたはずだ。
さりとて、自らの手を汚すような男でもない。
(ディオンヌ・アトゥリノが姫様を殺そうとして失敗したと、姫様は仰っていた)
カサンドラは、ロキティスに殺されそうになったことに対し、よくわからないと話していた。
だが、実際に、カサンドラを殺しに来たのは、中間種とディオンヌだ。
中間種は、まだわかる。
もとより汚れ仕事をさせるための者たちだった。
では、あえて妹を使ったのはなぜか。
(私を嵌めるためだな。私が、あの女を唆し、前国王を殺させた、ということにしたかったのだろう。その頃、私は姫様を攫った犯罪人。うってつけだ)
そういう筋書を作るため、ディオンヌに、カサンドラを狙わせる必要があった。
カサンドラは、フィッツとディオンヌが、ほとんど面識もないような間柄だと知っていたからだ。
おまけに、当時の皇太子ティトーヴァの寵愛を受けていた。
カサンドラに証言されては、ロキティスの身は危うくなる。
だから、カサンドラを殺さなければならなかった。
どの道、ディオンヌも始末するつもりだったに違いない。
その流れの中で、フィッツと前国王の毒殺を結びつけられる毒は限られている。
ラーザに生息していた花。
その花は、きちんと手間をかければ毒を抜き、茶葉とできた。
反面、手を抜けば、味は良くても、毒が体に蓄積される。
それを、ロキティスは、ディオンヌに使わせたのだろう。
フィッツとディオンヌが親しかったと見せかけるためにも。
「ラーザの毒にも種類はあります。遅効性のものと即効性のものと」
「今回は、即効性のものが使われると判断したのだな」
「あちらは、のんびりとしていられる状況ではありませんでした。助けようとしたものに同胞が殺されれば、あなたがたは、当然、動揺し、混乱します。相手は子供ですしね。そこに銃撃を受ければ、対処できないと考えたのでしょう」
「ゆえに、あらかじめダイスに……」
少し前、キサラをガリダに呼んで「注射」を教えた。
フィッツは、ティニカだ。
ラーザの毒についての知識も、当然に持っている。
もちろん解毒剤の作りかたも知っていた。
しかし、即効性の毒に対して、解毒は直前でなければ効果が出ない。
さりとて、フィッツはルーポには行けない。
結果、キサラに頼むことにしたのだ。
ダイスを押さえつけてでも「注射」できるのは、キサラだけだし。
同じ解毒剤を、ダイスの牙にもつけておいた。
子のルーポの牙に毒が塗られている可能性が高かったからだ。
ダイスと同様、直前に塗られたとしても、毒が回るまで時間はかからない。
そのため、ダイスに「噛ませて」いる。
反撃を食らっていたようだが、ダイスは「注射」されているため毒は効かない。
針で刺されるのを相当に嫌がり、暴れ回ったらしいが、それはともかく。
「まぁ、ダイスのことゆえ、明日には忘れておろう」
「でしょうね」
というより、すでに忘れているのではないか、と思う。
あのルーポの子が心配でたまらず、自分のことにかまってはいられない。
それが、ルーポの長ダイスなのだ。
「ダイスさんの頑張りのためにも、明日の交渉では条件を吊り上げるとしますか」
「それがよい。ダイスも恥を晒した甲斐があったと思えるであろう」
「恥? そこは聞き逃していました」
「しばらく逃げ惑うておったが、キサラに怒られ、渋々、注射されておった。針を刺された時には大声を上げ、そのあとは痛い痛いとキサラに泣きついておったぞ」
「それは、おかしいですね。針は極小のものでした。蜂の針ほどの太さもないので痛みが残るはずはないのですが……」
刺した瞬間でも、チク…という程度だったはずだ。
解毒剤が魔物の体に合わなかったのだろうか。
わずかに眉をひそめるフィッツに、ザイードが首を横に振った。
「ダイスのことは心配なぞせぬでよい。あれはキサラに甘えたかっただけぞ」
「ダイスさんは、キサラさんのことになると抜け目がありませんね」
「無駄にの。浅知恵を働かせるのだ」
フィッツからすると、ダイスは、いろいろと不可解なところがある。
感情の起伏があり過ぎて、行動と伴っていないことが多いからだ。
なにより理屈が通じない。
長たちの中で、最も、分かりにくいと言える。
だが、ダイスの勘は「アテ」にできる、とも思っていた。
能力に関しては、信用している。
文句を言ったり、したくないと言ったりはするものの、ダイスは「できない」と言ったことはないのだ。
自分の能力をきちんと把握しているし、周りのことも、よく見えている。
「そう言えば、人が仕掛けてきた前回の戦、ファニを除くと、被害が少なかったのは、ルーポでしたね」
「攻撃の力ではコルコやイホラが強く、攻撃種類はガリダが多い。だが、ルーポの素早さは、どの種族よりも秀でておる。ダイスは、それを使うのが上手い」
「敏捷性が高いのは、戦場では大きな力になります。相手より先に動けるだけでも有利になりますので」
「そうさな」
「ですが、ルーポは数が少ないでしょう? コルコが最少なのは、あまり子ができないからだと思いますが、ルーポは、どちらかと言えば多産ですよね」
ダイスにも、5頭の子がいる。
生涯で、1度しか出産しないわけでもない。
なのに、ルーポはコルコの次に、少数種族なのだ。
イホラが1万を越えているのに対し、ルーポは8千程度。
「初めて人が襲来した折、ファニとコルコ以外の3種族は大きく数を減らした。この2百年で、持ち直してきたがな」
「情が深過ぎるから、ですか?」
ザイードが、ふっと息をつく。
ルーポの子が囮に使われた時のダイスの動きから、察した。
ガリダにも似たところはあるが、ルーポは、より情に深い。
フィッツが止めなければ、子が見えた時点でダイスは飛び出して行っただろう。
そういう性質を、人に利用されたのだ。
子を捕らえられ、今回と同じように囮にされたり、盾にされたりした。
ルーポやガリダは、身動きが取れなかったに違いない。
その結果が、今の頭数に現れている。
「ガリダも犠牲は多かったが、それでも壁ができた際、解放されたものもおった。ルーポは、ただの1頭も帰っては来ておらぬ」
ガリダとイホラは、ルーポよりも出産回数が多い。
その上、解放されたものもいた。
そのため、今となっては、ルーポだけが数として取り残されているようだ。
「先に、その問題を解決する必要がありますね」
フィッツは、静かに言う。
人が、子を囮に使うのは想定済みだった。
結果も上々だ。
だとしても、このことは解決しておかなければならない。
最大の弱点に成り得る。
ルーポには、移動も含め、作戦の軸になる部分を任せていた。
ダイスには、それをきっちりやり遂げる能力もある。
ルーポを抑え込まれるのは、魔物の国の死活問題なのだ。
「子を取り返しますよ、ザイードさん」
フィッツは、ティニカの瞳で、先を見据えていた。
そのために、なにを後回しにすべきかも、わかっている。
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