日常系小説

王太白

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『今日の放課後、空いてる? 空いてたら、久しぶりに喫茶店ででも会いたいんだけどさ』
 昼休みに征一が一人で弁当を食べていると、ふいに茜からLINEがきた。
「ああ、俺は空いてるから、会おうぜ。どうせ、一緒に遊ぶ友達なんていないしさ」
 返信して、放課後になると、征一はさっさと校門を出て、街へ繰り出した。といっても、若者がたまり場にしている繁華街ではなく、裏通りにあるさびれた喫茶店に向かう。店に入ると、テーブル席に座り三百円のコーヒーを注文する。実は、この喫茶店『怒髪天』は、コーヒーの安さだけが売りなのだ。しばらくすると、茜が店に入り、コーヒーを注文すると、征一と同じテーブル席に座る。茜は赤いリボンがトレードマークの、チビな女の子だ。征一が学ランなのに対し、茜は紺色のブレザーにチェック柄のスカートである。
「久しぶり。この喫茶店、わたしらが中学校の頃から、全然変わってないんだな」
 茜は懐かしそうに店内の色ガラスの窓を眺める。
「そうだな。で、今日は何かあったのか?」
「そうそう。わたしは今、漫画のネタを探しているんだけどさ、昨日のミーシャさんの打ち方や指導ぶりを見て、ぜひミーシャさんをモデルにして漫画を描きたいと思っちゃったのよ。もちろん、ミーシャさんにもLINEして許可をとったんだけどね、征一にも登場してもらうことになるだろうから、征一の許可もとっておきたいのよ。ちなみに、これが登場人物の案だけど……」
 茜はカバンからノートを取り出すと、登場人物の下書きを見せる。ミーシャ役の女の子は、長髪に短めのスカートにニーソックス、征一役の男の子はジーパンにTシャツだ。顔は女の子も男の子も可愛い系である。
「へえ、良いんじゃねえの。ミーシャさんも気に入ると思うぜ」
「良かったぁ。征一にそう言ってもらえると、ホッとするわぁ。何たって、元漫画研究会の同志だもんね」
「おいおい、同志なんて言葉を使うなよ。共産国みたいだろうが」
「そこは愛嬌ってもんでしょ。それより、漫画のストーリーだけどさ……」
 茜はいろいろなアイディアを出してくる。
「……eスポーツをやるなら、他の近未来を描いた漫画みたいに、機械を頭に装着する必要があるのよね。それで、機械のイメージだけどさ……」
「俺は、もう少し麻雀のイメージに近い機械にしたほうが良いと思うぜ。ログインしたら背景画像として牌が見える、みたいな」
「その発想は出なかったわ。わたしとしては、少年誌の麻雀漫画のノリで描いてみたいんだよね。『怜』とか『咲』みたいに……」
「でも、それだと、せっかく男の子を下書きしたのに、使い道が無いじゃん。『怜』も『咲』も、登場人物はほとんど女の子だろう」
「そこは、女の子の兄弟ということで、登場させれば良いと思うよ。わたしは、無理に女の子ばかりの小説にこだわらなくても良いと思うけどな。昔の漫画ならともかく、最近のは女の子が男の子みたいに元気いっぱいに行動するのも、よくあるじゃない。男の子が女の子に混じって麻雀部に入るのも有りなんじゃないかな」
 茜の表情は生き生きしてくる。中学時代から、勉強にはさほど興味のないやつだったが、漫画となると、いろんな名作を網羅しており、意欲的に数十枚も描いたりするのだ。征一は懐かしくなって、夕方まで楽しく語り合った。
「……あ~、今日は久しぶりに、よくしゃべったわ。まとめとしては、ある高校の麻雀部は多数派の女子部員と少数派の男子部員で構成されていて、だいたいの方針は女子が決めていて、男子は雑務を担当している、みたいな感じかな。部長はミーシャさんがモデルで、新入部員の男子は征一がモデル。第一話は、新入部員の男子が部長に出会い、麻雀の楽しさや厳しさについて触れる話にしよう。今後の予定は、その都度、考えるということで」
「俺もそれで良いと思う」
 こうして、二人はそれで別れた。それからしばらく、茜は漫画を描くことに専念し、征一はチームメイトに、漫画のネタになりそうな麻雀の話を聞いて回った。
『いや、斉王都くんと正宗ちゃんのやりたいことはわかるけどさ、僕の人生なんて、面白いこととか、そうは無かったよ。学校ではいつも、存在感が無いとして無視されるか、笑い者にされるかだったもん。どうせなら、2ちゃんねるにでも書き込んでみたほうが、面白いネタを拾えて良いんじゃないか?』
 竜我雷が興味なさそうに発言する。他の面子の反応も、似たようなものだった。ミーシャだけは、『あたしの人生や麻雀の体験談なら、いっぱいあるけど、もう正宗ちゃんに言っちゃったし』と言っていたので、脈ありな感じだったが。
『でも、まずは斉王都くんがいろいろ行動して、感動したりショックを受けたりしなきゃ、漫画のネタなんて集まらないよ。というわけで、今夜もあたしと徹夜麻雀しよう』
 こうして、ミーシャの言いなりに、征一はその日もほぼ徹夜で半荘をやることになったのである。
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