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第2章
第37話 くすんだ青色
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兎獣人、エルフ、ドワーフ、そして奴隷達と、全員が馬車に乗り込み終わり、外にいるのは、俺と御者台のガルとギルの3人だけになった。
「それじゃ、これでお別れだ。道中、気をつけて行くといい。」
「強き者よ…感謝する…」
「我も…同じく…」
御者台に座った2人が、そう言って頭を下げてきた。
「気にするなって言ったろ?感謝して欲しくてやったわけじゃ無いし、そもそも偶然が重なっただけなんだからな。」
彼等を助けることは、そもそも想定していなかったことだ。
奴隷なんて、日本じゃ身近な存在じゃ無かったし、テッテリードが俺をキレさせなければ、彼等がここに居ることすら知らなかった。
あくまで成り行きってやつで、これはガル達の運が良かった…でいいのかな?
「しかし…本当に…良いのか?」
ガルが、馬車の方を振り返りながら聞いてくる。
奴隷の事なのか、荷物の事なのかは知らないが、どちらも俺には不要なものでしか無い。
「何度も言わせないでくれ。俺がいらないから押し付けただけなんだから、むしろ引き取ってくれたことに、こちらが感謝しているくらいだよ。」
奴隷もアレも、俺の手元に置いておく気は無かったし、ガル達がいらないと言うなら、ここにテッテリードと同じように捨てて行くだけだったからな。
「そうか…だがこの恩は…」
「だからやめろって。別に恩とか感じなくていいから。むしろ…俺らの事は忘れてくれた方が助かる。」
今後のことを考えれば、こちらの噂をばら撒かれるのは、リスクにしかならない。
それに、言い方はあれかもしれないが、彼等とこの先会うことなんてのは、この広い世界でそうそう無い事だろう。
だったら、変な気負いは人生の邪魔にしかならないしね。
そう思って、俺は言葉を続ける。
「もし、俺らに対する感謝の気持ちがあるなら、今日のこの事は誰にも話さないで秘密にしておいて欲しい。
これから先、変な噂で悪目立ちするような事にはなりたくないからね。」
「しかし…それでは名声を…」
「そんなものはいらないって、さっきから言ってるだろ?下手に噂になったりしたら、どこの誰から狙われるか分かったものじゃ無い。そんなのははっきり言って御免だね。」
今のところ、この国に良い印象はまるで無い。
そんな国で有名になるなんて、フラグ以外のなんだと言うのか…
「だからさ、俺らの事は綺麗さっぱり忘れて、これからは自分の為に自由に生きると良いよ。」
ガル達は納得出来ない風な顔をしているが、それ以上何も言ってこなかった。
「まぁ、あとはそうだな…俺からの願いとしては、それを馬車の中の奴らにも徹底させて欲しいってことくらいかな。
特にエルフやドワーフからは、あまり良く思われていないだろうし、変な噂を撒き散らされたら敵わないからね。」
「承知した…強き者よ…」
「我も…約定は…守る…」
ガル達は、そう言って深々と頭を下げた。
これで彼等とはお別れだ、そう思って少しだけしんみりしかけていると…
「…待ってー」
「ん?」
幌馬車の方から、優子が何かを持って走ってきた。
もう危険はないから別にいいんだが、何かあったのだろうか?
「はぁ…はぁ…こんなの…あったから…狼さん達で…使えるかなって…」
優子は、そう言って持ってきた袋の口を開ける。
中には、何か金属のようなものが入っていた。
「なんだ?」
「分かんないけど、なんか狼さん達に似合うんじゃないかって思ったから、間に合って良かったよ。」
袋の中に手を入れて、中のものを出してみる…
「…これは…籠手か?」
人が使うにしてはいささか大きい気がするが、形は西洋甲冑の籠手っぽい見た目をしている。
構造は単純で、なめした革の表面にくすんだ青色の金属プレートをいくつも配置し、強度と防御性を高めている。
そして、拳の部分には、更に細かいプレートを使う事で、指の可動を妨げないように配慮もされている。
しかも、使われているのが金属プレートなのは間違いないのに、プラスチックや、カーボン製なんじゃないかと思うくらい、圧倒的に軽い。
ただ、固定方法が革のベルトや紐を使うもので、ある程度のサイズ調整もできそうなことを考えると、特定の誰かが使う専用品ってわけでもないだろうから、そこまで高いものじゃないと思う。
それでも、かなり大柄な人じゃないと…
「強き者よ…どうしたのだ?」
俺が振り返って籠手を持っていたため、ガル達からは見えなかったらしい。
確かに、優子の言う通り、これならガル達が使うのにちょうどいい大きさかもしれないし、武器は持たないって言っていたけど、防具なら問題ないだろう。
それに、金属の色がガルの体毛とソックリの色だから、着けても違和感がないだろうしね。
「これなんだが、良かったら使ってくれ。」
持っていた籠手をガルに手渡すと、それを見た彼等の表情が、一気に驚きへと変わった。
「こ、これは…」
「ま、まさか…」
籠手を受け取ったガルは、ギルと共にそのまま黙り込んでしまった。
たかが籠手で驚きすぎだ…
「それじゃ、これでお別れだ。道中、気をつけて行くといい。」
「強き者よ…感謝する…」
「我も…同じく…」
御者台に座った2人が、そう言って頭を下げてきた。
「気にするなって言ったろ?感謝して欲しくてやったわけじゃ無いし、そもそも偶然が重なっただけなんだからな。」
彼等を助けることは、そもそも想定していなかったことだ。
奴隷なんて、日本じゃ身近な存在じゃ無かったし、テッテリードが俺をキレさせなければ、彼等がここに居ることすら知らなかった。
あくまで成り行きってやつで、これはガル達の運が良かった…でいいのかな?
「しかし…本当に…良いのか?」
ガルが、馬車の方を振り返りながら聞いてくる。
奴隷の事なのか、荷物の事なのかは知らないが、どちらも俺には不要なものでしか無い。
「何度も言わせないでくれ。俺がいらないから押し付けただけなんだから、むしろ引き取ってくれたことに、こちらが感謝しているくらいだよ。」
奴隷もアレも、俺の手元に置いておく気は無かったし、ガル達がいらないと言うなら、ここにテッテリードと同じように捨てて行くだけだったからな。
「そうか…だがこの恩は…」
「だからやめろって。別に恩とか感じなくていいから。むしろ…俺らの事は忘れてくれた方が助かる。」
今後のことを考えれば、こちらの噂をばら撒かれるのは、リスクにしかならない。
それに、言い方はあれかもしれないが、彼等とこの先会うことなんてのは、この広い世界でそうそう無い事だろう。
だったら、変な気負いは人生の邪魔にしかならないしね。
そう思って、俺は言葉を続ける。
「もし、俺らに対する感謝の気持ちがあるなら、今日のこの事は誰にも話さないで秘密にしておいて欲しい。
これから先、変な噂で悪目立ちするような事にはなりたくないからね。」
「しかし…それでは名声を…」
「そんなものはいらないって、さっきから言ってるだろ?下手に噂になったりしたら、どこの誰から狙われるか分かったものじゃ無い。そんなのははっきり言って御免だね。」
今のところ、この国に良い印象はまるで無い。
そんな国で有名になるなんて、フラグ以外のなんだと言うのか…
「だからさ、俺らの事は綺麗さっぱり忘れて、これからは自分の為に自由に生きると良いよ。」
ガル達は納得出来ない風な顔をしているが、それ以上何も言ってこなかった。
「まぁ、あとはそうだな…俺からの願いとしては、それを馬車の中の奴らにも徹底させて欲しいってことくらいかな。
特にエルフやドワーフからは、あまり良く思われていないだろうし、変な噂を撒き散らされたら敵わないからね。」
「承知した…強き者よ…」
「我も…約定は…守る…」
ガル達は、そう言って深々と頭を下げた。
これで彼等とはお別れだ、そう思って少しだけしんみりしかけていると…
「…待ってー」
「ん?」
幌馬車の方から、優子が何かを持って走ってきた。
もう危険はないから別にいいんだが、何かあったのだろうか?
「はぁ…はぁ…こんなの…あったから…狼さん達で…使えるかなって…」
優子は、そう言って持ってきた袋の口を開ける。
中には、何か金属のようなものが入っていた。
「なんだ?」
「分かんないけど、なんか狼さん達に似合うんじゃないかって思ったから、間に合って良かったよ。」
袋の中に手を入れて、中のものを出してみる…
「…これは…籠手か?」
人が使うにしてはいささか大きい気がするが、形は西洋甲冑の籠手っぽい見た目をしている。
構造は単純で、なめした革の表面にくすんだ青色の金属プレートをいくつも配置し、強度と防御性を高めている。
そして、拳の部分には、更に細かいプレートを使う事で、指の可動を妨げないように配慮もされている。
しかも、使われているのが金属プレートなのは間違いないのに、プラスチックや、カーボン製なんじゃないかと思うくらい、圧倒的に軽い。
ただ、固定方法が革のベルトや紐を使うもので、ある程度のサイズ調整もできそうなことを考えると、特定の誰かが使う専用品ってわけでもないだろうから、そこまで高いものじゃないと思う。
それでも、かなり大柄な人じゃないと…
「強き者よ…どうしたのだ?」
俺が振り返って籠手を持っていたため、ガル達からは見えなかったらしい。
確かに、優子の言う通り、これならガル達が使うのにちょうどいい大きさかもしれないし、武器は持たないって言っていたけど、防具なら問題ないだろう。
それに、金属の色がガルの体毛とソックリの色だから、着けても違和感がないだろうしね。
「これなんだが、良かったら使ってくれ。」
持っていた籠手をガルに手渡すと、それを見た彼等の表情が、一気に驚きへと変わった。
「こ、これは…」
「ま、まさか…」
籠手を受け取ったガルは、ギルと共にそのまま黙り込んでしまった。
たかが籠手で驚きすぎだ…
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