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第1章
第17話 悪意はない
しおりを挟む現在俺たちは、旅する魔樹と呼ばれる魔物の上に乗って移動している。
優子のやらかしが原因なのだが、今回はいい方に転んでくれたから助かった。
旅する魔樹は、こちらに危害を加えるようなことはなく、元々の目的地にしていた集落に向けて進んでくれている。
しかも、とても美味しい桃に似た果実を大量に実らせており、道中はそれを取って食べさせてもらったりして、俺たちは、思い思い快適に過ごさせて貰っていた。
俺はのんびりと桃を食べながら景色を眺めていたのだが、突然グググっと、前に向かって緩やかに力がかかり、今まで後ろに流れていた景色が止まってしまった。
「ぼん、止まっちゃったよ?」
優子に言われて、ロープの隙間から下を見てみると、今まで忙しく動いていた木の根はピタリと止まり、地面にズブズブと突き刺さってゆくのが眼に映る。
「おー…なんか気持ち悪いな?」
俺の横で同じように下を覗き込んだしろまは、根っこの動きが気持ち悪かったのか、すぐに優子の元に戻っていった。
「ぼんさん、なんか向こうに見えるよ?」
でっかちゃんに呼ばれて顔を上げると、少し遠くにだが、確かに木の柵らしいものが見えた。
こちらの世界で初めてみた人工物だ。
旅する魔樹が止まったのは、ナビさんが言っていた嫌魔石があの柵に仕込まれているからなのだろうか?
旅する魔樹は、そんなことを考えている間に完全に地面に根を下ろしてしまったようで、木に戻ったように動かなくなった。
短い間だったが、ここまで運んでくれた旅する魔樹には感謝しながらも、このままここにいるわけにもいかないため、集落に向けて出発する事にする。
「優子、この木はここで止まるみたいだ。ここからは歩きで向かうよ。」
「そう。なら片付けとお礼をしないとね。」
優子も片付けを手伝ってくれたため、ほんの数分で全て綺麗に収納することができた。
数日間パラロープを張っていた枝も確認したが、少しの傷も見当たらなかった…
普通の木なら、長い期間ロープを結びつけて、その上で生活なんてしていたら、少しくらい傷が付いていてもおかしくないと思うのだが…流石は魔樹と言うべきだろうか?
「さて、片付いたしそろそろ行こう。」
「ん。ちょっと待ってて。」
忘れ物がないことを確認し、優子に声をかけたのだが、何故か木の方に走って行ってしまう。
何か忘れ物でもしたのかと思っていたが、直ぐに何をしているのか分かった。
「今日までありがとうね。癒しの光よ、ヒール。」
優子が唱えると、旅する魔樹の幹が眩しく光った。
「おい待て!」
「ん?」
「ん?じゃねぇ!人の話聞いてた!?言ったよね?何かする前に相談しろって言ったよね!」
もうね、相談しろって言ったのは聞いていなかったのか?
いや、違うな、聞いた上で忘れたんだろうな…
「だって、ここまで送ってもらったし、お礼しないと…」
「確かに助かった!助かったけど…も…でも…頼むから魔法を使う前に一言言ってくれ…」
「うん…次からそうするよ…」
優子に悪意はまるでない。
単純に良い事だからやっただけだし、確かにお礼をするって言っていたような気もする…
それに、このまま俺が怒り続けると、最終的に泣かれてしまうだけで、収集がつかない最悪の事態になるだけなのは、何十年も付き合って来て、なんども経験したから分かっている…
「分かってくれればいい…もういいから、出発するぞ。」
重い足取りながら、目的地方向に向いている矢印に従って歩いていく。
なんだか出発前からどっと疲れてしまったが、とりあえず目的地に向けて歩いていれば、このやり場のない気持ちもそのうち紛れるだろう…
「次はどこ行くんだ?」
「ん?なんか村に行くらしいよ?」
「村?チョコあるかな?」
「肉買わないとね!肉!」
「そうだねー、あるといいね。」
「「うん!」」
俺の後ろをついてきている優子は、しろま達を抱えるように抱いて歩いているのだが、時折楽しそうに話している声が聞こえてくる。
木の側を離れ、魔物避けになる嫌魔石が取り付けられた柵を越え、集落の壁がはっきり見える場所まで、そう時間はかからなかった。
「もうすぐ着くぞ。何があるか分からないから、近くに来ておいてくれ。」
「はーい。」
魔物の心配は、柵を越えたくらいから既にしていない。
今は、向かっている何村かは分からないが、あまり大きくない集落で出会う人と、きちんと意思疎通が出来るのかを心配している。
だから、近くに寄って来た優子には、今一度言い聞かせるように注意しておく。
「優子、何村かは分からないけど、村に着いたら俺が村の人と話す。頼むから地球の事とか、魔法の事とか、余計なことを言わないで、大人しくしていて欲しいんだ。」
「ん?大丈夫、分かってるよー。」
「しろま達も、少しの間だけ窮屈な思いをするかもだけど、ただのぬいぐるみとして振舞って欲しい。」
「はーい」
「わかったよー。」
「…いいこだ…それじゃ、行こう。」
…なんだか、ずいぶん物分かりがいいので少し心配だが…
ここは信じるしかない…
集落に近づくと、壁の手前には幅の広い堀が掘られていて、壁に近づくことはできないようになっていた。
「これは…すごいな…」
思わず声を出してしまった。
堀の向こうに並ぶ壁は、見上げるような高さの丸太を、そのまま地面に突き立てただけのような見た目だったが、その威圧感は凄いものがある。
一応、壁越しに中の様子が伺えないかと少しだけ目を凝らしてみたが、きちんと対策されているようで一切中の様子は伺えなかった。
堀の外側を、どちらにいくべきか迷ったが、壁に向かって右方向に進むことを決め、入り口を探しながらテクテクと歩いていった。
と、そんなにかからずに何か棒のようなものを持って、遠くを見つめて突っ立っている男の人が見えてきた。
彼は門番か何かなのだろうか…?
おそらく、あの人が立っている場所が村の入り口だと思うんだよね…
(ナビさん、彼はこの村の門番でいいのかな?)
『回答提示。その通りです。)
門番で間違いないらしい…
さて、頼むからいい人であってくれよ…
ーーーー
作者です。
やっと村に到着しました。
本当なら、もう少し早く着く予定だったんですが…
感想その他、お時間あれば是非。
優子のやらかしが原因なのだが、今回はいい方に転んでくれたから助かった。
旅する魔樹は、こちらに危害を加えるようなことはなく、元々の目的地にしていた集落に向けて進んでくれている。
しかも、とても美味しい桃に似た果実を大量に実らせており、道中はそれを取って食べさせてもらったりして、俺たちは、思い思い快適に過ごさせて貰っていた。
俺はのんびりと桃を食べながら景色を眺めていたのだが、突然グググっと、前に向かって緩やかに力がかかり、今まで後ろに流れていた景色が止まってしまった。
「ぼん、止まっちゃったよ?」
優子に言われて、ロープの隙間から下を見てみると、今まで忙しく動いていた木の根はピタリと止まり、地面にズブズブと突き刺さってゆくのが眼に映る。
「おー…なんか気持ち悪いな?」
俺の横で同じように下を覗き込んだしろまは、根っこの動きが気持ち悪かったのか、すぐに優子の元に戻っていった。
「ぼんさん、なんか向こうに見えるよ?」
でっかちゃんに呼ばれて顔を上げると、少し遠くにだが、確かに木の柵らしいものが見えた。
こちらの世界で初めてみた人工物だ。
旅する魔樹が止まったのは、ナビさんが言っていた嫌魔石があの柵に仕込まれているからなのだろうか?
旅する魔樹は、そんなことを考えている間に完全に地面に根を下ろしてしまったようで、木に戻ったように動かなくなった。
短い間だったが、ここまで運んでくれた旅する魔樹には感謝しながらも、このままここにいるわけにもいかないため、集落に向けて出発する事にする。
「優子、この木はここで止まるみたいだ。ここからは歩きで向かうよ。」
「そう。なら片付けとお礼をしないとね。」
優子も片付けを手伝ってくれたため、ほんの数分で全て綺麗に収納することができた。
数日間パラロープを張っていた枝も確認したが、少しの傷も見当たらなかった…
普通の木なら、長い期間ロープを結びつけて、その上で生活なんてしていたら、少しくらい傷が付いていてもおかしくないと思うのだが…流石は魔樹と言うべきだろうか?
「さて、片付いたしそろそろ行こう。」
「ん。ちょっと待ってて。」
忘れ物がないことを確認し、優子に声をかけたのだが、何故か木の方に走って行ってしまう。
何か忘れ物でもしたのかと思っていたが、直ぐに何をしているのか分かった。
「今日までありがとうね。癒しの光よ、ヒール。」
優子が唱えると、旅する魔樹の幹が眩しく光った。
「おい待て!」
「ん?」
「ん?じゃねぇ!人の話聞いてた!?言ったよね?何かする前に相談しろって言ったよね!」
もうね、相談しろって言ったのは聞いていなかったのか?
いや、違うな、聞いた上で忘れたんだろうな…
「だって、ここまで送ってもらったし、お礼しないと…」
「確かに助かった!助かったけど…も…でも…頼むから魔法を使う前に一言言ってくれ…」
「うん…次からそうするよ…」
優子に悪意はまるでない。
単純に良い事だからやっただけだし、確かにお礼をするって言っていたような気もする…
それに、このまま俺が怒り続けると、最終的に泣かれてしまうだけで、収集がつかない最悪の事態になるだけなのは、何十年も付き合って来て、なんども経験したから分かっている…
「分かってくれればいい…もういいから、出発するぞ。」
重い足取りながら、目的地方向に向いている矢印に従って歩いていく。
なんだか出発前からどっと疲れてしまったが、とりあえず目的地に向けて歩いていれば、このやり場のない気持ちもそのうち紛れるだろう…
「次はどこ行くんだ?」
「ん?なんか村に行くらしいよ?」
「村?チョコあるかな?」
「肉買わないとね!肉!」
「そうだねー、あるといいね。」
「「うん!」」
俺の後ろをついてきている優子は、しろま達を抱えるように抱いて歩いているのだが、時折楽しそうに話している声が聞こえてくる。
木の側を離れ、魔物避けになる嫌魔石が取り付けられた柵を越え、集落の壁がはっきり見える場所まで、そう時間はかからなかった。
「もうすぐ着くぞ。何があるか分からないから、近くに来ておいてくれ。」
「はーい。」
魔物の心配は、柵を越えたくらいから既にしていない。
今は、向かっている何村かは分からないが、あまり大きくない集落で出会う人と、きちんと意思疎通が出来るのかを心配している。
だから、近くに寄って来た優子には、今一度言い聞かせるように注意しておく。
「優子、何村かは分からないけど、村に着いたら俺が村の人と話す。頼むから地球の事とか、魔法の事とか、余計なことを言わないで、大人しくしていて欲しいんだ。」
「ん?大丈夫、分かってるよー。」
「しろま達も、少しの間だけ窮屈な思いをするかもだけど、ただのぬいぐるみとして振舞って欲しい。」
「はーい」
「わかったよー。」
「…いいこだ…それじゃ、行こう。」
…なんだか、ずいぶん物分かりがいいので少し心配だが…
ここは信じるしかない…
集落に近づくと、壁の手前には幅の広い堀が掘られていて、壁に近づくことはできないようになっていた。
「これは…すごいな…」
思わず声を出してしまった。
堀の向こうに並ぶ壁は、見上げるような高さの丸太を、そのまま地面に突き立てただけのような見た目だったが、その威圧感は凄いものがある。
一応、壁越しに中の様子が伺えないかと少しだけ目を凝らしてみたが、きちんと対策されているようで一切中の様子は伺えなかった。
堀の外側を、どちらにいくべきか迷ったが、壁に向かって右方向に進むことを決め、入り口を探しながらテクテクと歩いていった。
と、そんなにかからずに何か棒のようなものを持って、遠くを見つめて突っ立っている男の人が見えてきた。
彼は門番か何かなのだろうか…?
おそらく、あの人が立っている場所が村の入り口だと思うんだよね…
(ナビさん、彼はこの村の門番でいいのかな?)
『回答提示。その通りです。)
門番で間違いないらしい…
さて、頼むからいい人であってくれよ…
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作者です。
やっと村に到着しました。
本当なら、もう少し早く着く予定だったんですが…
感想その他、お時間あれば是非。
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