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立派な社会奉仕

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私はアンジェリカ。今、船に揺られること約3か月。


本当に遠い国ね。この3か月病にもかからずよく無事でいられたと思うわ。

移動中私は毎朝健康診断を受け、少しでも体調が悪ければ早めに薬を処方された。
船上で水が足らず入浴できない時でも必ず濡れタオルで体中を拭かれる待遇だった。

何だろう…。初めは特別待遇でちやほやされているのかなって思ったけど、周りの世話役はみんな事務的だし必要最低限の世話だったわ。

普通、特別な人間にはこびへつらって何としてでも名前を憶えてもらい繋がりを持ちたいって行動するわよね。
何か、それとは違うのよ。

ずっと変な違和感があった。

そして、やっと私が社会奉仕するという建物に着いた。

あれ?修道院じゃない。お屋敷でもない。もっと近代的な建物だわ。装飾がないけどお金がかかってそうな…。

ちらっと門に刻まれている文字を見る。外国の文字だからよく分らないけど『ラボ』とだけ読み取れた。ラボって何だっけ?

応接室に通されお茶を出される。すごくうすーい紅茶だ。味が分からないわ。

そして、初めてセリーヌ様にお会いした。

ああ、なかなか年上だけどマリーナ様に少しお顔が似ている。全体的に整ったお顔で、すらっと身長も高い綺麗な女性。真っ白な白衣が良く似合っているわ。お医者様みたい。

「は、初めまして。アンジェリカと言います。これからどうぞよろしくお願いいたします。」

「ああ、待っていたよアンジェリカ君。私はセリーヌ。一応医者なんだけどすっごく不器用でね。臨床はからっきしダメだけど研究のデータ抽出と解析だけは誰にも負けないと自負している。君が来てくれたなら100人力だ。これからどうぞよろしく。」セリーヌ様は私に綺麗な笑顔で挨拶してくださった。

まあ、貴族で女医ってかなり優秀な方なのね。美しいけれど、どこか男性的な素敵な方…。これから頃合いを見てお姉さまと呼んじゃおっかな。

私はセリーヌ様から歓迎されて浮足立っていた。

「では、早速だけど君に協力してもらいたい案件があるんだ。すぐに着替えてきてくれるかな?」

「え、ええ。もちろんです。」実験の補助でもするのかしら?私の優秀さが国外に伝わっていたのかしら。
優秀というか美貌で人より秀でているのだけど。まあいいわ。私は用意された服に着替える。





「あれ?これ白衣じゃなくて…病衣じゃない!」



セリーヌ様が着ているような白衣を想像していたが、全く違う服だった。

くすんだ緑で前開きのダサい着物。ちょっと、誰かが間違って持って来たんだわ!失礼しちゃう!

そこにセリーヌ様が様子を見に来た。

「ああ、サイズ合っていたね。うん。ちょうどいい。さあ、こっちにきたまえ。」

え?間違ってないの?どこに行くっているのよ!

私は混乱している。
連れてこられたのは全方位アクリル板で囲われた部屋だ。ベッドとトイレだけ設置されている。隣に部屋があるがシャワーとモップのような器具だけが置かれていた。

「何?ここ。」

「いやあ、君が来てくれて本当に助かったよ。では、これからシャワーで君の身体を清潔にさせてもらうね。これから何かと実験が始まるからその都度、係りの者があのモップで君をこすって汚れや付着した薬品を落とすからよろしく。入浴が好きとマリーナから聞いてるしそこまで苦ではないかな。」

「そ、そんな…。それじゃまるで実験台のラットじゃない!」

「そんな、そんな。君をラットにしようなんて考えていないよ。
まあ、本当はマリーナが飼っているラットをもらいたかったけど拒否されてね。マリーナのラットはあの病の治療薬を作る際すごく貢献したらしいじゃないか。えっと、元々アリス=ドルー嬢の実験ラットだったみたいだね。」

「ま、まさかあの時のネズミ聖獣もどきが…。瀕死状態と回復魔法を繰り返したってマリーナ様が言ってた…。」

「そうそう、その話。いやあ、でもあのラットはアリス嬢のオリジナル魔法で苦しまずに胃まで薬を送られていたそうじゃないか。私、魔法はからっきしダメでね。もしアンジェリカ君が薬を拒否したら無理やり縄で縛って飲ませないといけなくなっちゃうから、素直に飲んでね。」セリーヌ様はにっこり笑っている。

冗談なの?分からない。全く悪意のない純粋な笑顔だ。

「怖がらなくて大丈夫。何か死にかけるようなことがあれば治療師を確保しているし、私は君をいたぶりたいわけではなく実験データが欲しいからね。いたずらに痛めつける気はさらさらないよ。まあ、多少しんどい思いをしてもデータが集まるまでは我慢してもらうこともあるかもしれないけどね。大丈夫死ぬことはないから。」
セリーヌ様、いやこのやばい残忍な人はウィンクをしながら親指を立ててグッドサインを見せて来た。

「あ、あと三食おやつ付きってマリーナが言っていたな。食事は基本管理された内容だよ。
大丈夫私も健康のために同じものを食べている。まあ味はほとんどしないけど栄養バランスは保証する。
それに濃い味に慣れたら臓器や味覚にも影響するしね。君には薬の反応が分かりやすい体を維持してもらわないといけない。まあ、おやつは実験が成功して次の実験まで期間が開けば出してあげるよ。薄味だけどここのクッキーもなかなか健康的な味で私もよく食べる。」

なんであんたの食の好みを私に押し付けられないといけないのよ!

「ちょっと!さっきから聞いてればおかしいことばかりじゃない!こんな仕事おかしいわ!」

「ええ~、立派な社会奉仕だよ。君の活躍が今病で苦しんでいる人たちの希望になる素晴らしい仕事だよ。分からないかな~。」

「うるさいわね!私これでも貴族よ!お父様とお母様を呼んで!こんなこと絶対許されない!」

「ああ、それは出来ないね。君の父上は爵位をはく奪されて平民になり今どこで何しているか分からない。母上は父上と離婚して実家に戻っているらしいけど、君とは絶縁の手続きを終えているよ。そうなったきっかけを作ったのは君だけどね。」目の前のこの女は表情を変えず飄々と話す。

「え?絶縁?うそ…。」

「本当本当。その書類と、念のため君がこの仕事をすることの承諾書も母君からもらっている。」
書類を見せられた。絶縁状が確かにある。もう一つの書類には

『絶縁した元娘アンジェリカは罪人であり、どのような処遇を受けても了承する。』って書いてあった。


「そ、そんなあ…」私は気を失いそうになった。

「おっと、そこにベッドがあるからそこで寝たらいい。ちょうど貧血に試したいサンプルを飲んでもらおう。」
私は実験動物の透明ゲージのような部屋のベッドに寝かされた。


そして、これから毎日のように生かさず殺さず実験台にされるという地獄の日々を送ろうとしている。

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