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アリス良かったね(マリーナ視点)

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お母様は少しずつ病のせいで活動性が低くなっていった。私は焦りながらもアリスの研究の補助をしていた。


アリスの顔が青白い。もう少しで薬が完成するかもって言ってた。
追い込みに入っているのか、あまり寝ていないようだった。
何度か体調に気を付けるよう注意したが、夢の中でも薬を作っていてアイデアが浮かぶみたい。
寝ている時間が惜しいってアリスが笑っていた。

私はというとここ最近、長めの渡り廊下を歩いただけで、ものすごく息が上がってしまう。いえ、これは気のせいね。疲れているだけだわ。

そこから、騙し騙し生活を送ってきたけど騙し通せるわけもなかった。

ある朝、お母様にずっと使えている侍女が話しかけてきた。

「マリーナお嬢様、失礼かもしれませんが、どうしても気になることがございます。」

「なあに?あなたにならどんなことを言われても信用があるから大丈夫。気になることがあるなら言ってみてちょうだい。」

「お嬢様、ここ最近食が細くなりましたよね。昨夜も入浴後息切れしてしばらく歩ける状態ではありませんでした。今朝も身なりのお仕度中何度も休憩をとっておられました。奥様があの病に罹り始めたときと同じでございます。」

「そ、そんな…。」そんなことないわよと言いたかったが、身に覚えがありすぎて咄嗟に明るく言い返せなかった。

「お嬢様、お若い方は進行も早いと聞きます。安静にすれば進行が少しでも遅くなるはずなので本日から学園はお休みしてくださいまし。お願いいたします。」侍女は泣きながら私に願い出た。

「病の事を外部に知られてはいけません。学園の方には家庭のご都合でしばらく休むと説明します。」

「駄目よ!アリスが待っているの。お願い。しばらく学園は休むわ。でもアリスだけには事情を説明させて。」

「ドルー家のお嬢様ですね。…分かりました。しかしご説明が終わればすぐ帰宅してくださいませ。」

「分かったわ。」
そうね、私が弱っていく姿を大勢の生徒たちの目に晒してはいけないわ。侍女の言っていることはもっともだった。

アリスには簡単に軽いテンションで説明した。
これ以上アリスが自分の睡眠時間を削ってしまう理由を作りたくなかったから。


「アリス、私ね、この病に罹っているみたいなの。お母様の遺伝かしら。まだ初期段階だから大事ではないんだけど体が自由なうちにお父様に頼まれていた外交の仕事をやっつけておこうと思うの。だからしばらく学園を休むわね。」全開の笑顔を作って言えた。

「え?どういうこと?マリーが病を発症しているってこと?そんなことをして大丈夫じゃないでしょ?」

「大丈夫なの!!ああ、このラットまた私を見ているわ。フフフ。あなたも頑張ってね。薬が完成したら私のペットにしてあげるからね。」
ラットの頭をなでてアリスの顔を直接見ないようにした。顔を見たら涙が出そうになるから。


「じゃあね、アリス!すぐここに帰ってくるからね!」


一方的にアリスに手を振り私は部屋を出た。


それから、お母様も私も身動きとれないくらい、どうしようもなくなって命からがらアリスに会いに行ったのよね。

その後アリスには感謝しきれないほどの施しをしてもらったわ。

お礼の一つとして以前から考えていたアリスを外の世界に連れて行くことをあのタイミングで伝えてみたけど、婚約者のアレックスに保留にされてしまった。

何であんたが口出しするのよ!って思ったけど、お母様や私の治療という結果によってはかなり厄介な事情にアリスを見捨てることなく最後まで付き合ったことは想定外だったわ。

アリスを見て見ぬふりをしてもおかしくない状況だったのに。

あのアリスの婚約者アレックスはそこまで腐った男じゃないのかもしれない。だから、アリスの侍女の件でアレックスが口出ししてきても黙っておいた。

アレックスがどのくらいアリスの内面を知ってアリスの価値を理解するのかを見届けてからでも遅くないと思ったから。
その過程でアリスを傷つけたりでもしたら許さないけどね。

私の予想以上にアレックスはアリスにぞっこんだった。

アリスは相変わらず眼鏡とだぼだぼの制服スタイルだ。髪の毛は幾らかマシになったけど今まで通り目立たない野暮ったい身なりをしている。アレックスもそのアリスしかまだ知らないはずなのに。隙あらば距離のある所からじろじろとアリスを観察してにやにや…いやニコニコと嬉しそうにアリスを眺めている。

あのアンジェリカって子が捕らえられてからアレックスは自分の気持ちに気が付いたのか更にアリスへのアプローチを強めていった。
そこからは、アリスの方が動揺し始めたのよ。

アリスはアレックスの好意をしっかり受け止めているし、アリス自身もアレックスを好きになっている。
けど、アメジスト色の瞳を持つことがこの国の貴族のアレックスに受け入れてもらえるかを心配していた。
それに、アリスはバカな隣国公爵のせいで整いすぎた容姿を隠し続けるべきものと歪んだ認識につながっている節がある。

本当のアリスの姿を見たら昔のように上辺だけを気に入られるんじゃないかと心配なのよね。
身なりや爵位の条件だけで結ばれる貴族もいるけど、アリスはそうじゃない。割とロマンチストなのかしら。デートに行くたびにアリスからどうしたらいいんだろうと相談を受けている私。

アレックスは、根はまじめだし、温厚だし、正義感もある。でもアレックスには悪いけど、アンジェリカの言葉に惑わされていた過去に対してまだ不信感がぬぐい切れていないから安易にアレックスは大丈夫って言えない。

だから、人として最低な方法と分かっていてもある方法でアレックスの本心が分かる芝居を計画した。

あの時、アレックスがどんな返事をするか私だってハラハラしたのよ。アレックスの本心が完璧な容姿のセリーヌに扮したアリスじゃなくて内面を知っているアリスの方を選んだのは心底ほっとしたわ。
涙して笑ってしまったのは侯爵令嬢としてあるまじき姿だったけど。アレックス本当にごめんね。

パーティーが終わってアリスとアレックスの婚約が強固に継続となった時、私からあの芝居についての謝罪をさせてもらった。
アレックスは気にすることないのに。と笑っていた。
アリス、あなたが好きな婚約者は素敵な人ね。

私も私に多少でも理解しようとしてくれる男性を探そうかしら。と思ったけどそんな程度の話ではなくなっていたのよ。


アリスには言っていなかったけど、第一王子のお妃候補の件実は進んでいたの。

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