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あなたは違う

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アリスが頭をつぶされそうな俺を助けるために声を上げてくれた。

アリスがぎゅっと口を食いしばっているのが分かる。
握りこぶしも足も震えている。本当は倒れてしまいそうなほど体に力が入らないんだろう。


早く逃げろアリス。教員室にまず逃げ込め!と言いたいが頭を異常に圧迫されて声が出ない。

「何だ芋女。お前に用はない。余の前から失せろ。お前のような虫のような女に何ができるというのだ。」
ルイスという馬鹿男はごみを見るような目でアリスをみる。


その時、アリスが地面を見て固まっていたが何かを決意したように前を向いた。

「そこにいる、私の大切な婚約者から手をどけてと言っているの。」

そういいながら眼鏡を外す。


「お、お前、アリス=ドルーか…。」ルイスが目を丸くした。


「早くアレクから手をどけて。あなた私に用があるんでしょう?彼は関係ないわ。それに彼はこの国の有力貴族よ。そしてあなたが今いるのはあなたの国じゃない。」


アリスの声が震えている。でもアメジスト色の瞳はまっすぐ力強く前を向いていた。


「なんと。余が居ぬ間にずいぶんと生意気な女になりよったの。…。まあ良い。そこの男を解放せよ。」


ルイスの護衛が俺の頭を圧迫していた手を緩めた。でもまだ俺の身体は押さえつけられたままだ。


周りの生徒たちは、目の前で隣国の公爵が自国の貴族に乱暴を働いている今の状況と、更に普段全く目立たないアリスの素顔が新聞をにぎわせている謎の美女として存在していることに思考が追い付いていない。


くそ。この学園の校舎は教員でさえ魔法の使用を禁じられている。
魔法が使えないように結界が張られているから無理だ。


魔法が使えればすぐにでもアリスと逃げるんだが。


「ルイス=ベッカー様。もうやめてください。あなたと婚約する気はありません。お引き取りください。」


「何を申すか。お前、余は公爵ぞ。余に気に入られたことを感謝すべきではないのか?妙な変装をして何を考えておる。お前は阿呆かアリスよ。」気持ち悪い笑い方でにやにやアリスを見る。


こいつ、どこまで頭いかれてるんだ?隣国の高位貴族ってこんな奴ばっかりなのか?まあ、この国の王族、公爵も大概だけど。


アリスは美しい素顔をさらしながら言葉を探している。


「あなたは…あなたは一体私のどこが気に入ったのですか?」


「おお、余の告白が欲しかったか?まあ良いだろう。余はお前のその神々しい美しさに惹かれた。その美しさがあれば余の隣に立っても遜色はなかろう。
まあ、あとは傲慢さのない振る舞いだ。余は気の強い女は好かん。どうだ、ここまで余が他人を褒めるのはなかなかない事だ。お前も幸せ者だなアリスよ。」


うわあ、びっくりするくらい気持ち悪い告白だ…。隣国の公爵ってみんなこんな上から目線なのか?

アリスがまた地面を見てうつむく。


そして何かぼそっとつぶやいた。


「全然違う…。」


「ん?何か言ったか?」

「アレクとは全然違う。」

「はあ?何のことだ?」

「あなたはアレクとは全然違う。アレクは私の姿は何でも良いって言ってくれた。私の瞳がアメジスト色でも関係ないって言ってくれた。私の中身が好きだって言ってくれた。あなたはアレクとは全然違う!私が今愛しているのはアレク、アレックス=モーガンよ!」


「何を!お前!調子に乗りやがって!お前みたいな女は余の言う事を聞いて居れば良いのだ!こんな下級貴族の男と比べるとは!許さん!」


「逃げろアリス!」


そう言ったが、アリスの顔は恐怖に引きつり体が固まってしまっていた。
幼い時無理やり迫られた記憶が更にフラッシュバックしたようだった。


俺は取り押さえられたままで助けに行けない!みんなも相手が公爵だから無為に動けないらしい。

ルイスが鬼の形相でアリスの胸倉をつかみ、片方の手を振り上げた。

「よくも!この女!余の偉大さを分からせてやる!」

アリス!!


バシッ!と明らかに人の肌を無遠慮に叩いた音が響いた。



「お前、誰だ?」叩いたルイスが怪訝な表情をしている。

アリスとルイスの間に人がいる。アリスをかばうように前に出た体勢だ。



「マリーナ嬢?」


それはマリーナ嬢だった。左頬を叩かれたようでみるみる肌が赤くなっている。

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