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招かざる男

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隣国の公爵家嫡男のルイス=ベッカーという男が留学と称してこの学園に強引に入り込んできた。


その日、職員室が騒がしかったのはこの男のせいだろう。
何を自慢したいのか隣国の学生服を着て本来この国の王族生徒でもつけない護衛を二人もひきつれて来た。

物々しい雰囲気の中、偉そうな態度で廊下を歩いている。
たまたま俺が一人で歩いているときに見かけた。めんどくさそうな奴が来たなと遠巻きに見ていたが、後ろから腕を引っ張られた。

マリーナ嬢だ。

騒がないようにと口元に指を立てている。マリーナ嬢の隣には何とも冴えない感じの男子生徒が居た。
最近マリーナ嬢と一緒にいる生徒だが、あまりにも冴えないから全く目立たない。なんでこんな地味な生徒とマリーナ嬢は行動を共にしているのか理解ができなかった。


マリーナ嬢に誘導され、人気のいない教室に入った。冴えない男子生徒も一緒だ。誰なんだよこいつ。

「アレックス、さっきいた馬鹿そうな隣国の貴族だけど。あれは本当の馬鹿よ。あいつには気を付けてね。」

「隣国の公爵家と言えば…。」アリスの叔父のセリスさんが言っていた。

「そう、アリスに無理やり迫ってアリスを不登校にした張本人よ。」

「ああ、やっぱり。そいつだったのか。何でこの学園に?」

「先日のパーティーの新聞を見たのよ。それで大急ぎでこの学園に無理やり入り込んできたの。」

「狙いはアリスか。」

「きっとそうだわ。この国の王族も世間知らずでおかしいけど隣国も相当おかしいわ。どんな事をしてくるか分からないから気を付けてね。
ああ、これから出かけなければならないの。すぐ戻る予定だけど、一応それだけでもあなたに伝えたかったのよ。アリスには会えてないからあなたから伝えておいてくれる?」

「もちろんだ。マリーナ嬢ありがとう。でも、よくそんな情報掴んでいたな。」

「ふふん。色々あるのよ。さあ、行きましょうセド。」

セドと呼ばれた冴えない男は声も出さず頷いてマリーナ嬢の後をついて行った。
背丈はマリーナ嬢より少し高いくらいで男としては小柄だ。顔は髪の毛で隠されてよく見えない。髪の色は何かの色とこげ茶のまだら模様。妙な取り巻きだ。


教室に残った俺はまずはアリスに伝えないといけないと思い教室を出た。

廊下を早歩きで移動し、もうすぐでアリスのいる教室にたどり着きそうなとき肩を掴まれた。
誰だこんな乱暴に人に触れる奴は。


振り向くと、違う制服を着て護衛を二人も引き連れているあの隣国公爵家の馬鹿男ルイスだ。

「ああ、やっぱりお前がアレックス=モーガンだな。まあ、見てくれは良い方だな。余にはおよばんが。」


気持ち悪い視線をよこしてきたこのルイスという男、見た目は長身で銀髪、青い瞳を持ち均等の取れた綺麗な顔をしている。が、なんと言うか目元がギラギラしていて気色の悪い感じがにじみ出ている。

後ろにいる大柄な護衛もこちらを睨みつけるように威圧してきた。


何だこいつは。自分の国でもない学園でこんな振る舞い。頭がおかしいんじゃないか?

「勝手に触るな。」ぶっきらぼうに馬鹿男の手を払いのける。

「何と無礼な。お前この国の伯爵家らしいな。ふははは。伯爵家なんぞ雑魚ではないか。
あの女も同じ伯爵家の男と婚約しよって。たかが伯爵家同士の結婚ごときのせいで余と婚約は出来なくなったではないか。こちらは公爵ぞ。」

何を言っているんだこいつは?

「アリスは渡さない。アリスは俺の大切な婚約者だ。」

「何を偉そうに。おい!」馬鹿男が後ろの護衛に合図を送る。
俺は大男二人に取り押さえられた。廊下の床に顔を押し付けられる。


「はあ、生意気な奴だ。さあ、余の婚約者を返してもらおうか。
婚約解消を自分から願い出たのであろう?あの女は私がもらい受けてやる。」


「さっきから気色悪い事言ってるんじゃねえよ。っぐ。」護衛の男に更に顔を押さえつけられた。

騒ぎに気が付いたのか、生徒が廊下に出てくる。ある生徒は教員を呼びに走って行った。

アリスも廊下に出てきた。俺の乱暴に抑え込まれた姿を見て驚いている。

「アレク!」俺に駆け寄ろうとしたが、護衛にはねのけられた。アリスの身体がふらつき地面に倒れる。

「何だその芋臭い女は。この国はこんな程度の低い女を学園に入れてるのだな。はあ、見るに耐えられない。
その眼鏡の女。みすぼらしいから不快だ。余の視界から消えろ。」


相手はアリスとまだ認識していない。でもアリスは目の前に居る男が過去恐怖を教えた男と気が付いた。
アリスが小刻みに震えて体を起こすことが出来ないでいる。


「ふん。余の圧倒的な美しさで体が固まったようだな。余は罪作りな存在だ。」


馬鹿男は俺の方を向いて更に威圧して来る。

「さあ、はよ余の願っている女を出せ。あの女は芸術品のように美しい。あの死に至る病を治す薬まで開発しよった。
そのくらい功績のある箔のついた女であれば余の伴侶として迎え入れてやるというのに馬鹿な女だ。
はよ余のものになれば良いものを何かと家族ぐるみで抵抗しよる。お前の父親も煩わしい男よの。さあ、はよ女を出せ。」


「うるせーよ。お前に彼女の素晴らしさが分かるか!どうせ外見だけ見て気に入ったんだろ。迷惑なんだよ馬鹿男!」押さえつけられている姿勢でも文句は言えるんだよ。


「何だと!貴様よくも余にそのようなことを…。おい、その男の頭をつぶしてしまえ!責任は余がとる。お前さえいなければいいのだ!」


「ぐあ!」頭を割られそうなほど圧迫されてる。くそ!


「やめてください!!」


声の主はアリスだった。

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