上 下
32 / 48

招かざる男

しおりを挟む
隣国の公爵家嫡男のルイス=ベッカーという男が留学と称してこの学園に強引に入り込んできた。


その日、職員室が騒がしかったのはこの男のせいだろう。
何を自慢したいのか隣国の学生服を着て本来この国の王族生徒でもつけない護衛を二人もひきつれて来た。

物々しい雰囲気の中、偉そうな態度で廊下を歩いている。
たまたま俺が一人で歩いているときに見かけた。めんどくさそうな奴が来たなと遠巻きに見ていたが、後ろから腕を引っ張られた。

マリーナ嬢だ。

騒がないようにと口元に指を立てている。マリーナ嬢の隣には何とも冴えない感じの男子生徒が居た。
最近マリーナ嬢と一緒にいる生徒だが、あまりにも冴えないから全く目立たない。なんでこんな地味な生徒とマリーナ嬢は行動を共にしているのか理解ができなかった。


マリーナ嬢に誘導され、人気のいない教室に入った。冴えない男子生徒も一緒だ。誰なんだよこいつ。

「アレックス、さっきいた馬鹿そうな隣国の貴族だけど。あれは本当の馬鹿よ。あいつには気を付けてね。」

「隣国の公爵家と言えば…。」アリスの叔父のセリスさんが言っていた。

「そう、アリスに無理やり迫ってアリスを不登校にした張本人よ。」

「ああ、やっぱり。そいつだったのか。何でこの学園に?」

「先日のパーティーの新聞を見たのよ。それで大急ぎでこの学園に無理やり入り込んできたの。」

「狙いはアリスか。」

「きっとそうだわ。この国の王族も世間知らずでおかしいけど隣国も相当おかしいわ。どんな事をしてくるか分からないから気を付けてね。
ああ、これから出かけなければならないの。すぐ戻る予定だけど、一応それだけでもあなたに伝えたかったのよ。アリスには会えてないからあなたから伝えておいてくれる?」

「もちろんだ。マリーナ嬢ありがとう。でも、よくそんな情報掴んでいたな。」

「ふふん。色々あるのよ。さあ、行きましょうセド。」

セドと呼ばれた冴えない男は声も出さず頷いてマリーナ嬢の後をついて行った。
背丈はマリーナ嬢より少し高いくらいで男としては小柄だ。顔は髪の毛で隠されてよく見えない。髪の色は何かの色とこげ茶のまだら模様。妙な取り巻きだ。


教室に残った俺はまずはアリスに伝えないといけないと思い教室を出た。

廊下を早歩きで移動し、もうすぐでアリスのいる教室にたどり着きそうなとき肩を掴まれた。
誰だこんな乱暴に人に触れる奴は。


振り向くと、違う制服を着て護衛を二人も引き連れているあの隣国公爵家の馬鹿男ルイスだ。

「ああ、やっぱりお前がアレックス=モーガンだな。まあ、見てくれは良い方だな。余にはおよばんが。」


気持ち悪い視線をよこしてきたこのルイスという男、見た目は長身で銀髪、青い瞳を持ち均等の取れた綺麗な顔をしている。が、なんと言うか目元がギラギラしていて気色の悪い感じがにじみ出ている。

後ろにいる大柄な護衛もこちらを睨みつけるように威圧してきた。


何だこいつは。自分の国でもない学園でこんな振る舞い。頭がおかしいんじゃないか?

「勝手に触るな。」ぶっきらぼうに馬鹿男の手を払いのける。

「何と無礼な。お前この国の伯爵家らしいな。ふははは。伯爵家なんぞ雑魚ではないか。
あの女も同じ伯爵家の男と婚約しよって。たかが伯爵家同士の結婚ごときのせいで余と婚約は出来なくなったではないか。こちらは公爵ぞ。」

何を言っているんだこいつは?

「アリスは渡さない。アリスは俺の大切な婚約者だ。」

「何を偉そうに。おい!」馬鹿男が後ろの護衛に合図を送る。
俺は大男二人に取り押さえられた。廊下の床に顔を押し付けられる。


「はあ、生意気な奴だ。さあ、余の婚約者を返してもらおうか。
婚約解消を自分から願い出たのであろう?あの女は私がもらい受けてやる。」


「さっきから気色悪い事言ってるんじゃねえよ。っぐ。」護衛の男に更に顔を押さえつけられた。

騒ぎに気が付いたのか、生徒が廊下に出てくる。ある生徒は教員を呼びに走って行った。

アリスも廊下に出てきた。俺の乱暴に抑え込まれた姿を見て驚いている。

「アレク!」俺に駆け寄ろうとしたが、護衛にはねのけられた。アリスの身体がふらつき地面に倒れる。

「何だその芋臭い女は。この国はこんな程度の低い女を学園に入れてるのだな。はあ、見るに耐えられない。
その眼鏡の女。みすぼらしいから不快だ。余の視界から消えろ。」


相手はアリスとまだ認識していない。でもアリスは目の前に居る男が過去恐怖を教えた男と気が付いた。
アリスが小刻みに震えて体を起こすことが出来ないでいる。


「ふん。余の圧倒的な美しさで体が固まったようだな。余は罪作りな存在だ。」


馬鹿男は俺の方を向いて更に威圧して来る。

「さあ、はよ余の願っている女を出せ。あの女は芸術品のように美しい。あの死に至る病を治す薬まで開発しよった。
そのくらい功績のある箔のついた女であれば余の伴侶として迎え入れてやるというのに馬鹿な女だ。
はよ余のものになれば良いものを何かと家族ぐるみで抵抗しよる。お前の父親も煩わしい男よの。さあ、はよ女を出せ。」


「うるせーよ。お前に彼女の素晴らしさが分かるか!どうせ外見だけ見て気に入ったんだろ。迷惑なんだよ馬鹿男!」押さえつけられている姿勢でも文句は言えるんだよ。


「何だと!貴様よくも余にそのようなことを…。おい、その男の頭をつぶしてしまえ!責任は余がとる。お前さえいなければいいのだ!」


「ぐあ!」頭を割られそうなほど圧迫されてる。くそ!


「やめてください!!」


声の主はアリスだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

婚約者と親友に裏切られたので、大声で叫んでみました

鈴宮(すずみや)
恋愛
 公爵令嬢ポラリスはある日、婚約者である王太子シリウスと、親友スピカの浮気現場を目撃してしまう。信じていた二人からの裏切りにショックを受け、その場から逃げ出すポラリス。思いの丈を叫んでいると、その現場をクラスメイトで留学生のバベルに目撃されてしまった。  その後、開き直ったように、人前でイチャイチャするようになったシリウスとスピカ。当然、婚約は破棄されるものと思っていたポラリスだったが、シリウスが口にしたのはあまりにも身勝手な要求だった――――。

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

【完結】妹ざまぁ小説の主人公に転生した。徹底的にやって差し上げます。

鏑木 うりこ
恋愛
「アンゼリカ・ザザーラン、お前との婚約を破棄させてもらう!」  ええ、わかっていますとも。私はこの瞬間の為にずっと準備をしてきましたから。  私の婚約者であったマルセル王太子に寄り添う義妹のリルファ。何もかも私が読んでいたざまぁ系小説と一緒ね。  内容を知っている私が、ざまぁしてやる側の姉に転生したって言うことはそう言うことよね?私は小説のアンゼリカほど、気弱でも大人しくもないの。  やるからには徹底的にやらせていただきますわ!  HOT1位、恋愛1位、人気1位ありがとうございます!こんなに高順位は私史上初めてでものすごく光栄です!うわーうわー! 文字数45.000ほどで2021年12月頃の完結済み中編小説となります。  

美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。

ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」  そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。  真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。 「…………ぷっ」  姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。  当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。  だが、真実は違っていて──。

【完結保証】あれだけ愚図と罵ったんですから、私がいなくても大丈夫ですよね? 『元』婚約者様?

りーふぃあ
恋愛
 有望な子爵家と婚約を結んだ男爵令嬢、レイナ・ミドルダム。  しかし待っていたのは義理の実家に召し使いのように扱われる日々だった。  あるパーティーの日、婚約者のランザス・ロージアは、レイナのドレスを取り上げて妹に渡してしまう。 「悔しかったら婚約破棄でもしてみろ。まあ、お前みたいな愚図にそんな度胸はないだろうけどな」  その瞬間、ぶつん、とレイナの頭の中が何かが切れた。  ……いいでしょう。  そんなに私のことが気に入らないなら、こんな婚約はもういりません!  領地に戻ったレイナは領民たちに温かく迎えられる。  さらには学院時代に仲がよかった第一王子のフィリエルにも積極的にアプローチされたりと、幸せな生活を取り戻していく。    一方ロージア領では、領地運営をレイナに押し付けていたせいでだんだん領地の経営がほころび始めて……?  これは義両親の一族に虐められていた男爵令嬢が、周りの人たちに愛されて幸せになっていくお話。  ★ ★ ★ ※ご都合主義注意です! ※史実とは関係ございません、架空世界のお話です! ※【宣伝】新連載始めました!  婚約破棄されましたが、私は勘違いをしていたようです。  こちらもよろしくお願いします!

婚約者マウントを取ってくる幼馴染の話をしぶしぶ聞いていたら、あることに気が付いてしまいました 

柚木ゆず
恋愛
「ベルティーユ、こうして会うのは3年ぶりかしらっ。ねえ、聞いてくださいまし! わたくし一昨日、隣国の次期侯爵様と婚約しましたのっ!」  久しぶりにお屋敷にやって来た、幼馴染の子爵令嬢レリア。彼女は婚約者を自慢をするためにわざわざ来て、私も婚約をしていると知ったら更に酷いことになってしまう。  自分の婚約者の方がお金持ちだから偉いだとか、自分のエンゲージリングの方が高価だとか。外で口にしてしまえば大問題になる発言を平気で行い、私は幼馴染だから我慢をして聞いていた。  ――でも――。そうしていたら、あることに気が付いた。  レリアの婚約者様一家が経営されているという、ルナレーズ商会。そちらって、確か――

私はあなたの何番目ですか?

ましろ
恋愛
医療魔法士ルシアの恋人セシリオは王女の専属護衛騎士。王女はひと月後には隣国の王子のもとへ嫁ぐ。無事輿入れが終わったら結婚しようと約束していた。 しかし、隣国の情勢不安が騒がれだした。不安に怯える王女は、セシリオに1年だけ一緒に来てほしいと懇願した。 基本ご都合主義。R15は保険です。

処理中です...