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イリスの正体

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「そうさ、俺は移民の薬師と王との間に生まれた混血だ。
王族からは忌み嫌われながら面倒な仕事をさせられる哀れな男さ。
ずいぶん前に王からこのマックレーン家の領主が代替わりするから徐々に没落させるよう命じられたんだよ。
デイビット氏がいればこそのマックレーン家の領地だったからね。
ディルの代になって敵国に占領される前に王政色の強い貴族に買い占めさせたんだ。
契約書もろくに読まず土地を売るような領主は領主の素質はないだろ?
あと一歩のところでエレノア、君が僕の計画を邪魔しに来たんだよ。
すごく迷惑だった。」



「ほう、やっと素性を明かしたか。」



「ええ、まさか邪魔者のエレノアがあなた様を奴隷として連れてきたときは流石に息が出来ないくらい驚きましよ。」



「そうだろうな。
で、エレノア、マスターこのあとの回収はどうするんだ?」

イリスはエルヴィス様の正体を暴くだけ暴いてその後の事をこちらに投げようとしている。


「えええ?
ここまでとっ散らかして後は何にも考えてないの?
うそでしょ…。」



「何事もはっきりしないのは嫌いなたちでな。
マスター、裏切り者の親友はどうするんだ?
これからも軍人仲間として付き合えるのか?」


話を振られたディランは頭が混乱しているようで顔に手を当てている。
しばらく黙っていたけど、少しずつ口を開いた。



「お、俺は…。俺は…。
まだ信じられない。
けど…今の俺なら分かる。
マックレーン家が潰れそうなのは俺のせいであって、エルヴィスは関係ない。
俺がエレノアのように立ち回っていればクロエもこの家もこんなに追い込まれることはなかったんだからな。」



「ほう、なるほどな。
そういう解釈もできるか。
して、エレノアはどうなんだ?」



「え?私?
私は…。」


ぶっちゃけどうでも良い。




異世界の誰が王様で誰が王子でも特に興味はないと言いたいけど、

今それ言ったら無神経な奴認定下りちゃうよね。



「クロエに聞いたことあるの。
何でエルヴィスには警戒しないの?って。
そしたら、凄くお腹がすいて辛いとき、エルヴィス様がお菓子やパンをくれたんだって。
あの過酷な状況の中、気にかけてくれたのがエルヴィス様だったから恩があるってクロエは言ってた。
土地売買の件もザック子爵は別として、他の貴族は割と穏健派ばかりだったわ。
だから買い戻しも不可能じゃないと思っている。
本当に潰しにかかっているならクロエを気にはかけないし、もっとひどい貴族に土地を購入させていたはずよ。

あとね…私はザック子爵の件でエルヴィス様に助けてもらったの。
邪魔者の私を見捨てることも出来たのに、救ってくれた。
王族とかどうでもよくて、エルヴィス様は私にとっても恩人なの。

イリス、これが私の答えよ。」




「ふむ…。ははは。まあ、今の二人ならそう答えるだろうと予測していたぞ。
褒めて遣わす。」


「もう、イリス。
こんなやり方エルヴィス様に失礼じゃない?
ねえ、エルヴィス様?」


エルヴィス様は悔やんだ表情でディランの方に近づいていた。




「…ディル。すまなかった…。
ずっと後ろめたい気持ちで君と過ごしていた。
君が僕を信頼してくれる度、自分の存在が嫌で嫌で仕方がなかった。
それだけじゃない、クロエちゃんがひどい仕打ちを受けているのに、何もせずそのままマックレーン家の人間がつぶれていくのを見ているだけだったんだ。
エレちゃんがこの屋敷に来たとき、ついにこの家にとどめを刺す人物が来たって安心さえした。
僕の罪悪感を軽くしてくれる存在だってね。

けど違った…。
エレちゃんはすごいエネルギーでこの屋敷を変えていった。
そんな存在に己さえも変えてもらえるんじゃないかって期待し始めたんだ。」



「エルヴィス…。」


「ディルは自分から変わろうとしたよね。
僕も、もう自分が嫌になったんだ。
だから王政の影響が弱い軍隊に入ることを決めた。

王からは飽きられたよ。
もう、勝手にしろ。王族としての地位は捨てるんだなってさ。
もともと王族扱いなんてされてないのにね。」


「その青龍はまだ知られていないようだな。」
イリスが確認する。



「ああ。
この国には魔力を判断する鑑定能力を有している人間はいない。
この青龍を知っているのはあなただけだ。」


「そうか…。
まあ、貴殿を悪用していた王族に見せる必要もなかろう。
そのまま身を引くのが一番だな。」



「そう考えています。
あなた様はどうなさるおつもりですか?」



「私ももう少しで完全に風向きが変わるはずだ。
そこから考える。
さて、皆が貴殿の実情を知ってもなお友として受け入れた。
貴殿は仲間がいる。
王族なんぞにしがみつかなくても道はあるという事だ。
ああ、素晴らしい時間であった。

よし、宴の続きをしようではないか。
エレノア、酒をもっと出してくれ。
マスター私が注いでやる、グラスを空けよ。」



イリスがまたお酒の席に戻ろうとする。




「いやいやいや!
ちょっと待って。
それだけじゃ終わらんから。
終わらさないから。」

シレっと場をまとめようとするイリスにすかさず突っ込みを入れる。



「は?エレノア、どうした?
これで万事解決だろう。」



「謎だらけだから。
その肩に乗ったフクロウのルルちゃんは何なの?
シレっと乗ってるけどさ、めちゃくちゃ発光してるし。
神々しいにも程があるでしょ。」


「ああ、ルルの事か。
そうだ、この子がそちらの御仁…。」


「僕の事はエルヴィスと呼んでください。」


「ああ、ではエルヴィス。
彼の青龍にエレノアを助けに行ってほしいと伝言を頼んだのがルルだ。
ルルにも感謝するがよい。
我々は幼少期に一度会っていたからルルは青龍を探せたのだ。
あの時は完全にエレノアの魔力に干渉されていたから大変だったのだぞ。
我が相棒は優秀だ。」



「えっと、ルルちゃんありがとう…。
いや、でもイリスは何者なの?」



「エルヴィス殿、途中まで説明してやってくれ。
私は酒を飲みたいからな。」



「はい、アイリス様。」



「アイリス?
イリスじゃなくて?」



「アイリス様はアイリス=リア=カンザが正式名称でね、カンザ国の次期女王だ。」



「えっと、女王って女性の王様って事?
え?さっきエルヴィス様も王族って言ってたわよね。
えっと、何でこの家にそんな偉い人が揃ってるの?
ディラン、これって普通の事なの?」



「いいや、普通ではない。俺も理解が追い付いていない…。」

ディランが頭を抱えている。



ですよね~。

そうなるよね~。



「僕のような中途半端な王族ではない。
アイリス様はカンザ国の正当な王位継承順位一位のお方だ。
幼少期から魔力の鑑定が出来るほど能力のあるお方なんだよ。」



ええ~。

あの後ろでワインをしこたま飲んでいる人が女王?


まあ、いろんな意味で女王様みたいだとは茶化してたけど、まさか本当に一国の女王だったなんて…。




「カンザ国は魔力で国を統率することが多くてね、
国のトップに立つには王族の血統と強い魔力、聖獣の保持、魔力の鑑定能力が必須なんだ。
アイリス様はまさにその素質を兼ね備えているでしょ?
王位継承者は幼少期からカンザ国にある聖山で修業を積み、成人になるころ正式に王位を継ぐことが多いんだ。

カンザ国は…現王が病に伏せているからアイリス様への期待は大きかったはずだよ。
まさか、こんなところでエレちゃんの奴隷として会うとは信じられなかったよ。」



「でしょうね。
私も一国の王女を奴隷にしていたなんて恐ろしい現実が今ひしひしと直面してるんですよね…。」


「お、俺も一国の王女に店で酒を注がせていたなんて…。
信じたくない。」



「まあ、他国の王族か一部の外交に明るい上位貴族くらいしか私の顔は知らぬだろう。
幼少期からずっと聖山に籠っていたからな。
エルヴィス殿は王族同士の集まりで私が抜けだした庭でたまたま会って交流したからな。
あの時からお互い聖獣は持っていたから声をかけたんだ。
ルルが青龍を気に入って喜んでいた。
あれは何とも良い時間だった。」



「まだ10にも満たない歳でしたからね。
僕は王族として会場には入れなかったんです。
それで外の庭で過ごしていたら青龍のリーファが突然具現化し始めて…。
聖獣同士相性が良いと現れるみたいですね。」


「そうみたいだ。
先ほどもそうであったからな。
まあ、あまり姿を見せるのも都合が悪いので後ほど青龍のリーファとルルに言い聞かせておこう。」


「ええ、そうですね。」


この二人、聖獣引き連れてめっちゃ和やかに会話しているんですけど…。

「えっと…。
穏やかな話し合いの中わるいんだけど、それで、何でそんな期待されている一国の王女があんな庶民の酒場で店子してたのか教えて欲しいんだけど…。」



「以前にも言ったが、我が国の王族はそれはそれは浅はかな者が多くてな、兄妹に強力な呪いをかけられたのだ。
追手から身を隠すには誰かの魔力に干渉されている方が都合がいい。
だから奴隷となってあそこにいたってことだ。
私ほどの魔力であれば自分の意志で奴隷契約を違法に解消することも可能だがな。
ただし、エレノアの魔力は特殊で一方的な解除は無理だったんだ。
この際言ってしまうが、エレノアの身体には二種類の魔力が練り込まれるように存在している。
このような人物は見たことがない。
今の状態でむやみに魔力を使う事は勧めないぞ。
まあ、エレノアは魔力を使わない生活に今のところ不便は感じていないように見受けられる。

しかし、護身のためには考え物だ。魔力が使えない分自分を守るのが難しいからな。」




「それは俺が色々考えている。」

黙っていたディランがはっきりと言った。



「ほう、エレノアは今わが主でもある。
今のマスターであれば主を守れるのか?」



「そのために軍人になったんだ。
エレノアは俺が守る。」



「なるほどな。
まあ、良いではないか。
では、クロエは私が守ろう。
あの子は私の生命線と言っても過言でない存在だからな。」



「アイリス様、クロエちゃんの護衛より、あなた様は王位への復帰を考えていないのですか?
今、カンザ国は混乱状態です。
民たちが各地で暴動を起こしているとここまで話があがってきておりますよ。」



「そうだろうな。
予想通りだ。
そして、私は呪われた身だ。
今後王族としてカンザの地に戻ることはない。
亡命したと認識しもらてって結構。」



「ええ?
王女様で時期女王なのに帰らないの?
呪いは解呪できないものなの?」

あまりにも驚いて私も聞いてしまう。




「まあ、本気で解呪を考えればできない事もないか…。
いや、今のカンザでは無理だな。
本来力の強い聖女に頼めば可能だろうが、聖山での生活でほとほと今の聖女連中の醜さを目の当たりにしてきたからな。
あの中でこの呪いを解呪できる者はおらぬ。
自分たちの私利私欲が勝り修行もろくにしていない聖女ばかりだったぞ。
まあ、こマシな者もいたが、私が別の国に逃がしたからもう、誰もまともな聖女は存在しない。」



「じゃあ、呪いはずっとそのままなの?」


「そんな…アイリス様がそのような事になっていたなんて…。」
エルヴィス様が驚いている。



「皮肉なものでな、この呪いは解く気はない。
今後私を祀り建てようとする者が現れるであろう?
その時はこの腹を見せ、呪われている身だと立証する。
そうすれば誰しもが私が王政に返り咲くとは思わぬだろう。
あの身分は本当につまらんのだ。」



「つ、つまらんって…。」

エルヴィス様が呆気にとられている。



「カンザは確かに魔力で成り立つ国だったが。
しかし、今は科学が進んでいるだろう?
王などという存在はなくても良いのだ。
王が民を守り導く時代はもう終わり、民一人一人が自立し、今後を選択する国になる変換期、つまり時代の流れが変わるだけだ。」



「そ、そんな…。
アイリス様ほどのお方が…。」



「そのアイリス様はもうやめてくれ。
私はしがない奴隷のイリスだ。
エルヴィス殿、もうしばらく、カンザ国が崩壊し民の国となるまでは私の存在は黙っていて欲しいのだ。」



「い、イリス様。」


「イリスで良い。
しがない奴隷なのに様を付けると怪しまれるだろう。
敬語もやめてくれ。」



イリス、しがないの意味分かってるのかな?



「で、では…イリス…さん。
生涯その呪いを背負って生きていくのですか?」



「ふふふ、まだ敬語がなおっておらぬぞ。
そのつもりだ。
私の見立てだとクロエは癒しの能力を持っている。
それもかなり強力で質の良い力だ。
エレノアも覚えはあるだろう?」


「ええ、確かに。
クロエと一緒に寝たり、触れ合うと痛みが和らいだりよく寝れるんだよね。」


「そう、近親者には使えぬが他人であれば発揮する能力だ。
あの能力を金に換えるため耳の聞こえないクロエを利用しよとする輩も出てくるだろう。
周囲には伏せておく必要があるぞ。
マスター、気を付けろ。」



「あ、ああ。
分かった。
しかし、イリスはクロエといることで呪いがマシになるのか?」



「その通りだ。
エレノアの奴隷契約が解除されれば今までの力全てとはいかぬが大部分は戻るだろう。
ただ、呪いはなくなるわけではない。
そうだな…クロエと3か月ほど離れることがあればまた呪いの影響が体や魔力に出てくるだろう。
今後、クロエが私と離れたがることがない限りクロエの傍に居させてもらう予定だ。」



「そういう意味でもクロエはイリスにとって守るべき存在って事なのね。」



「そう言うことだ。
さあ、私の事はもう全て明かした。
そろそろ合格祝いをやり直そうではないか。」



「そう言いながらイリス、さっきからすごいペースで飲み続けてるよね。」



「ははは、今宵は真の友情を見せてもらいいい気分なのだ。
さあ、皆も飲み明かすぞ。
ほら、エルヴィス殿、私が酌をしてやろう。
グラスを出すがよい。」



「は、はい…。
お願いします。」



2人の後ろではきらびやかな聖獣たちが嬉しそうにじゃれ合っている。



「…ねえ、ディラン。この光景ってありえないほど貴重だよね。」

私は隣にいるディランに問いかける。



「ああ…そうだな…。
俺もまだ頭の理解が追い付いていないよ…。」



「良かった…。
私だけじゃなかったんだ。ふふふ。」


あまりにもぶっ飛んだ展開過ぎて笑いが出てしまう。




「エレノア…。」


「ん?なあに?」



「君がこの屋敷に来てくれたことで、こんな素晴らしい時間を過ごすことが出来た。
本当に感謝している。」



「いやいや、こんな展開私も予測してなかったわよ。
それに、デイビット様の恩返しが目的だからそこまで感謝とかなくて大丈夫よ。」



「まあ、父上への憤りが全てなくなった訳ではないが、エレノアを俺のもとに連れてきてくれたことは感謝しているんだ。
流石父上だなと。」




「そうね。
デイビット様の意図全ては分からないけど、亡くなる前に願いを聞いてほしいって言っておられたわ。
詳しくは分からないけど、マックレーン家の復興の事なのかなって思ってる。」



「どうだろうな。
俺にはエレノアがこの家の、そして俺への幸運の女神を送ってくれたと考えている。
俺は幸運にあやかっているんだ。」

そう言いながらディランはそっと私の手を取り、手の甲にキスを落とした。



しれっとキスされているけど、何で?



「何でここにキスするの?」


「したかったからだ。
気持ち悪かったか?」


「い、いや、気持ち悪くはないけど…。」


「なら良かった。」



「良いとか、悪いとかの問題じゃなくて…。」



「おい!そこの若い男女!
イチャイチャせずに私の酒を飲んでくれ。
さあ、誰が一番先につぶれるかな?」



「イリス様がお呼びだ。
さあ、行こう。」

そう言ってディランは握っていた私の手を繋いで席に連れて行った。



ディラン、何故に手と手が絡み合う恋人繋ぎなの?



そして、問題なのは私が今ディランに触られていることにちょっとドキドキと胸が躍ってることだ。



これは…巷で言うときめきという現象なんじゃないか?

そう、これはキュンというやつだ…。



その後はあまり考えないようにイリスに勧められるがままお酒を飲んだ。


身体は違うと言えど、元キャバ嬢の私はこの場を盛り上げ、お酒を飲み、そしてディランやエルヴィス様にどんどん注いで二人を潰してしまった。




お酒につぶれた二人を見てイリスはたいそう満足そうだった。



「王女の時はこんな楽しい事はなかったぞ。
流石我が主、色々経験しておるな。」


「ははは、伊達にキャバ嬢やってないんやから。
イリスも強いわ。」
私もまあまあ酔いがまわっている。


「その言葉使い、身のこなし、ピアノやそろばん、料理、裁縫。
エレノア、そなた別の世界の魂を持っているのだろうな。」



「…。」

いきなり酔いが醒めた。


イリス、何で知ってるの?



「ディランから何か聞いた?」


「いいや、マスターは何も言っていない。
しかし、一緒に過ごしていれば分かる。
それにこの魔力が特殊な事もエレノアが別の世界の魂を持っているとすれば説明がつくからな。
まあ、そう悲壮な顔をするな。
私はエレノアに恩がある。
常にそなたの味方だ。」

イリスが優しく笑って私の髪を撫でてくれた。

「…ありがとう。
そう言ってもらえると嬉しいよ。」



「当り前だ。
我が主だろう?」


「もう、主じゃなくて友達でしょ。私たち親友なんだから。」



「ほう、それは感激だ。
私に初めての親友が出来たぞ。」



「クロエも、クロエもイリスの親友でしょ?」



「ははは。そうだな。
この素晴らしい出会いに祝杯だ。
さあ、まだ飲むぞエレノア。」



「よっしゃ!受けて立ちましょう!」


このノリで私たちは家のお酒がなくなるまで楽しく飲み続けたのであった。


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