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エレノアはどこだ!?

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昨日はイリスのおかげで無事、遭難から帰宅できた。


エルヴィスがエレノアに付いて行った視察の話が聞きたいと言うので、長々と話をしていた。

と言っても、俺が理解できる内容は限られていたが。



もちろん、父上の事や、遭難中エレノアと話した内容は伏せた。


エレノアが自分の評価を落としてでも守り通した秘密を俺がやすやすと話すべきでないと思ったからだ。


気が付けばいい時間になっていたので急いで屋敷に戻る。


エレノアは十分回復しただろうか。


今頃クロエやイリスと食事を楽しんでいるだろうか?


俺の分もあればいいのだが。



屋敷に着いてもエレノアの姿は見当たらない。

あの身体でこんな時間まで外出しているのか?


「マスター、エレノアは今いないぞ。」


「どこかに出かけたのか?腕は大丈夫だったのか?」


「腕はヒビが入って処置をしてもらっている。まだ痛むはずだ。
体も一時的に軽いだろうが今頃疲れがぶり返しているはずだ。
それなのに、我が主は男と会うために出かけてしまった。」


「男?誰だそれは。」


「ザック子爵だ。
あの男は危険だ。マスター、あの男が酔って店の女にひどい事をしようとしたの知っているか?」



「オーナーから聞いたことはある。
酔っていないときとのギャップがすごいらしいな。
結局今は出入り禁止になったんだろ?」



「そうだ。会食で酒が入ったらエレノアに何をするか分からないぞ。」


「何故ザック子爵にエレノアが会う必要があるんだ?」


「マックレーン家の一部の土地をザック子爵の名義で買い取っているらしい。
その土地を買い戻せば大きな利益を生み出せるからとエレノアはずっと計画していたんだ。
売買契約書に違法なやり取りがあるから契約無効も見込める。勝算があるって意気込んでいたんだ。」



「何でエレノアを一人で行かせたんだ!」


「奴隷への強い命令で私はここから動けないんだ。
マスターを連れて行けって言ったけど、大丈夫と言って取り合わない。
マスター早く行った方が良い。」


「場所はどこだ!?」





ー---------------

イリスから聞いた場所に向かう。



あの店は悪い評判ばかりだ。

金を払えば犯罪まがいな事をしていても介入しない、いわば場所貸しだと。

エレノアの限られたコミュニティでは把握できなかったんだろう。




急げ!エレノア、無事でいてくれ!!



店に着き、入ろうとすると店員に止められた。


「お客様、ご予約をされていない方はお通しできません。」

と頑なに断られる。


「うるさい。俺の妻がここに居るんだ、通せ!!」


「通せません、お帰りください。」

後ろから用心棒らしき風貌の男がこちらに圧をかけてきた。


「通せないのなら力ずくだ。」


ありったけの魔力を拳に入れ込み、用心棒の腹をめがけて叩いた。


上手く当たったが、一回で相手は倒れない。

俺は用心棒に馬乗りにされ、何度も殴られる。



かなり痛い。

だが、ここでしっぽを撒いて帰れるわけがないだろう。

エレノア、エレノア…!!





「何か大変そうだね。」

後ろから声が聞こえた瞬間俺に馬乗りになっていた男が吹き飛んだ。


声の主はエルヴィスだった。



エルヴィスは俺の拳よりもっと破壊力のある鉄拳で用心棒をあっという間に倒した。


エルヴィス、やっぱりお前すごい。

今までわざと手を抜いていたな。



「エルヴィス、何でここに?」



「いやあ、ディルが珍しく外で騒いでるからさ。
めちゃくちゃ目立ってたよ。
何か、こんな事するなんて、らしくないじゃない。」



「ああ、なりふり構ってられないからな。恩に着る。」

「いいよ、ここは僕が何とかするからディルはエレちゃんの所に行って。」


「ああ、恩に着る!」

俺は全速力で店内に入った。





エレノアとザック子爵がいる部屋はどこだ?

エレノア、どこにいるんだ?


「触らないでって言ってるでしょ!やめなさい!」

エレノアの怒声が聞こえた。


この部屋だ!



勢いよく部屋に入ると、ザック子爵はエレノア処置された左腕をつかみ取り、更にエレノアの髪を乱暴に鷲掴みにしてぎりぎりと引っ張っている。



服は乱れていない。

編み上げられたドレスが脱がされた形跡はなかった。



「おや?あなたはマックレーン家のご長男、ディラン様ですか?
何故ここに?」



「ザック卿、エレノアを離せ!
自分が何をしているか分かっているのか!」



「何の事でしょう?
ああ、あなたもこの女を痛めつけて楽しみたいと思っておられるのかな?
いつもなら薬で体の自由を奪うのですが、この女はすでに手負いですから、今日はあえて嫌がり恐怖に引きつる顔を堪能しようと思いましてね。」


「狂っているぞ!彼女は俺の妻だ!」


「ああ、そうでした。
男狂いで夫の死に際まで男を呼び寄せるくらいの節操無しの女ですよね。
あなたも可哀そうな人だ。
こんな汚い愚かな女に嫁がれて同情しますよ。
さあ、うっぷんを晴らすのに付き合いますよ。
これから私と楽しみましょう。」



「いい加減にしろ!」

ザック子爵の顔面に拳をぶつけた。



殴られた拍子にエレノアはザック子爵から解放され、床に座り込む。



「ゲフっ!!な、何をする!このバカ者!!」


「おぞましい奴め。
早くエレノアから離れろと言ったのに乱暴をやめないからだ。」



「おいおい、そんな女に何の価値があるって言うんだ?
数多の男からお手付きされているような汚れた女だぞ?
それに、馬鹿みたいに魔力も入っていない紋章の指輪なんざつけやがって。
死んだ夫を利用するだけ利用してまだそんなものつけてる愚かな女だぞ。」



「それ以上口を開いたら殺すぞ。」



「あ~、ディル。ここに居た。
あ、ザック卿に一発は入れたんだ。エレちゃんは大丈夫?」

あとから追っていたエルヴィスが駆けつけた。




そうだ、エレノア。エレノアは無事か?



「エレノア?大丈夫か?」

床に座り込んでいるエレノアに触れるとビクッと身体が揺れた。



「だ、大丈夫…です。」

顔色が真っ青でぶるぶると震えている。



「遅れてすまない…。とりあえず、この店を出るぞ。」

そう言ってエレノアを抱きかかえ、店を出た。



馬車を拾ってエレノアを車内に座らせた。



「エレノア、もう帰ろう。」


エレノアから返事はなく、まだ小刻みに身体が震えている。


「…っつ。」

俺に顔を見られないように体を折り、手で顔を覆っている。



俺は距離を空けて隣に座る。


屋敷に着くまでエレノアはずっと声を押し殺して泣いていた。







誰が彼女をここまで追い詰めたんだ?



誰のせいで彼女はこんなひどい仕打ちにあったんだ?


エルヴィスが来なかったらどうなっていたんだ?




全部俺のせいだ。



エレノアの噂を否定することもせず、むしろ俺さえも疑って傷つけていた。



屋敷の事も、領地の事も何もかも彼女に任せきりにして、自分は何もしていない。



俺がやらなくちゃいけないことを全部エレノアがやってくれてたんだ。



何が4人でこのまま楽しく暮らしたいだ。

大切な人を守る事も出来ず、エレノアにただ甘えて、あげく彼女にこんな恐ろしい思いをさせた。




俺だ、馬鹿な俺のせいだ。
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