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彼女は財産だった

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父上からの手紙を読み終えて、俺はしばらくの間茫然としていた。
そうしている間に時間がただただ意味もなく流れている。

気が付けば日が落ちそうになっていることに気が付いた。






夕方、レイズが屋敷に到着した。


エレノアもレイズを迎える準備を整え終えている。


「ディラン様もレイズ君との話し合いに同席しますか?」

エレノアが澄ました顔で俺に聞いてくる。


「ん?ああ、いや、やめておく。」


「あら、そうですか。」

意外そうな顔をしている。



同席したところで、何も分からない。

レイズの気が散って邪魔になるだけだ。



「あのな、エレノア…。」


「はい、何でしょうか?」


「い、いや…。今から話し合いだな。準備は出来たのか?」


「ええ、朝方に終えました。
一度睡眠をとってすっきりしたので上手く進みました。」



「そうか…良かったな。」

「ええ。」



「あの…。君と話が…。」



「エレノア様レイズ様が到着しました。」

執事がエレノアに告げる。


「あ、では行ってまいります。
ディラン様はゆっくりお休みになってください。」


「あ、ああ。」


エレノア、レイズ、執事の3人は奥の部屋に入り、盗聴されない結界の中話し合いを行った。

結界はレイズの瞳の色と同じ翡翠色の魔力で張られていた。


レイズは若くして結界を張るほど魔力が安定しているようだ。


今の俺に結界を張れと言われても無理だ。



話し合いが終わったようで、俺はレイズに声をかけた。

「レイズ、久しぶりだな。俺も今回は視察に来させてもらっている。」


「ああ、ディラン様。パーティー以来ですね。
色々お世話になっています。
おかげさまで順調に爵位と領地を告げる下地が出来ています。
あともう少しで僕が爵位を授かれば、エレノアとは離縁なさるのでしょう?」



「そんなことは…まだ分からない。」



「まあ、あなた様がどう彼女を利用しようとも、僕が成人すれば彼女は遺言を守ったことになる。
それが全てですよ。」


「レイズ、君は知っていたのか?父上とエレノアの関係を。」



「…何の話ですか?あの二人は夫婦の関係でしょう?
まあ、歳の差はありましたけど、僕が入り込む隙はないほど仲は良好だったはずです。」


「…。そうか。なら良いんだ。
変な事を聞いてすまない。」

レイズは父の事情を知らないようだ。



「いえ…。ディラン様お疲れの様ですね。」


「いや、エレノアに比べたら大したことはない。
彼女、ここに出発する前からまともに寝ていないみたいだ。
出来るなら休ませてやって欲しい。」



「…。言われなくてもそうするつもりです。」


「ああ、頼む。」


そのままレイズとは別れた。


このあと、懇親会などが開催されていたが、レイズの計らいでエレノアは途中で抜け出し休息をとることが出来たと執事から聞いた。


しかし、エレノアは2時間ほど経つと、また別の集まりに出席していた。


地元の有力者たちに挨拶を行い、勧められれば酒を飲み、相手をおだててから商談につながる情報を出す。

表面上は華やかでにこやかにしているエレノアだが、これははっきり言って苦行だ。

これだけ体と精神を酷使して仕事をこなせる人間はそういないだろう。



だからだ。

だから父上はエレノアを後継者の候補に入れたんだ。



今の俺なら分かる。

妻であるエレノアは自分の息子より明らかに優秀でタフな人材だ。


マックレーン家にとってエレノアは財産としてつなぎ留めておきたかったんだ。


だが、俺との結婚はエレノアにとってなんのメリットもない。


あれだけ商才があればマックレーン家などあてにしなくてもいいだろう。

女という不自由さ、不便さはあるがわざわざ自分を憎んでいる俺と結婚する必要はなかったはずだ。

実際彼女は美しく、若い。


妙な噂はあるが、それでも実情を知れば伴侶として迎えたい男は多くいるだろう。



何故だ、なぜそこまでしてマックレーン家に尽くせるんだ?

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