上 下
39 / 123

前世の私⑱

しおりを挟む
次の日、竹彦はランドセルを背負って玄関で待機していた。

目の下にはうっすらクマが見える。ちゃんと寝られへんかったかな?


「今日学校に行くんだろ?ほら待ってやってるから早くしろよ。」竹彦が生意気そうに私を急かす。

「おお、えらいやん。よし、それじゃあ一緒に行こか。」

「ああ、竹彦も学校行くんやね。それじゃあ二人ともいってらっしゃい。おきばりやす。」

おかーはんが私たち二人をお見送りしてくれた。


竹彦は照れながら無言でちょっと頭を下げている。

2人が玄関を出てから


「子供って言うんは、けったいで面白いなあ。
まさかうちがこんな子育てできるとは思わんかったわ。ああ、面倒や。」と笑うおかーはんだった。




学校に着くとすぐ、せなちゃんと修也を呼び竹彦を紹介した。

修也は上級生らしく優しく竹彦に話しかける。

放課後一緒にサッカーの練習をする約束をしてくれた。


せなちゃんは綺麗な字で自己紹介文を竹彦に見せる。

膝を折り、目線を合わせて自分の名前を手話で見せた。

竹彦が初めて手話を見たようで戸惑っている。

「あのな、せなちゃんは耳が聞こえにくいねん。
だから手で会話する手話とか文字とか口の動き見て話してくれんねんで。」


『よろしくね。』手話で竹彦にあいさつをするせなちゃん。


竹彦がふんわり笑うせなちゃんを見てみるみる真っ赤になる。

息吸うの忘れてないか?


「よ、よ、よ、よろしくお願いします!!」竹彦が絶叫に近い声をあげながら、せなちゃんに握手の手を差し出す。


竹彦の手をせなちゃんが両手で握り返すと竹彦はふらついていた。


何とも分かりやすい男の子だな。

しかし、竹彦…せなちゃんはライバルが多いぞ。

竹彦はその日のうちに手話クラブに入部届を出した。

私が部長なので色々と案内していたが竹彦の視線の先はほぼせなちゃんだった。


昼休み、竹彦に早退しなくていいかと竹彦のクラスに修也とせなちゃんと一緒に聞きに行った。


竹彦はノートをとっていた。
どうやら今まで家庭教師をつけてもらっていたようで授業は大きく遅れてはないようだった。

授業の事よりも、手話クラブのあとに修也とサッカーするこれからの予定で胸がいっぱいなようで安心だ。


この日を境に竹彦は学校に行くようになり、家ではおかーはんや私と一緒にご飯も食べ、私の事を『ルキ姉』と呼び、家でも手話の質問をしてくるようになった。


竹彦はせなちゃんの大ファンで、更に修也を尊敬しているみたいだった。

まあ、修也は今イケメン枠で面倒見が良いキャラだから男の子にも人気があるようだ。


こうやって私の小学生時代は人生の宝物と自信を持って言えるくらい充実したものだった。

中学に上がってからもせなちゃんと修也とは同じ学校だった。


手話クラブはないので修也はサッカー部、私は茶道部、せなちゃんは何と情報処理部と言う名のパソコンオタクの巣窟に入部した。


昔ほどせなちゃんと遊ぶことはなかったが、時々時間が合えば部活帰りにどちらかの家で過ごした。

中学生らしく授業の事やメイクの事、恋愛といった内容を話す。事はなく、せなちゃんはパソコンの素晴らしさを私に教えてくれる。


知らない用語が多くて半分も分からないけどせなちゃんがキラキラした笑顔で教えてくれるから、その顔を拝み癒しの時間として過ごした。


やっぱりせなちゃんは可愛い。


修也はサッカーの強化選手に選ばれて田舎だと移動が大変。ということでこの田舎から寮のある学校に引っ越した。


始めは天敵だったけど、修也が居なくなると寂しかった。


出発前に私の家に来てくれて置時計をプレゼントしてくれた。


「俺、ルキアが俺の事を自慢できるような男になるから。そうなったら絶対帰ってくるから。
ルキアと過ごした時間は俺の最高の宝物だからな。俺の事忘れんなよ!」


そう言っていた。


出っ歯族の時はこれっぽっちも思ったことはなかったが、あの修也がそのまま大人になればモテモテのいい男になるのは高確率だと思う。


あの後せなちゃんに告白とかしなかったのかなあ?


『せなちゃん、修也が引っ越す前何か言われたんじゃない?』

『?何も言われてないよ。修也君といる時は絶対ルキちゃんも居てたから二人きりになる事はないよ。』

「へ?そうなん?」

そう言われたら修也とせなちゃんだけのツーショットって全然見たことなかったな…。


『修也ってせなちゃんのこと好きなんだと思ってたんだけど。』

「…。」せなちゃんが珍しく眉間にしわを寄せて呆れた顔で私を見ている。


『ルキちゃんって頭いいのに男心全然分からないんだね…。』


『え?何々?何の話?』


『何でもない。修也君がちゃんと言わなかったのも悪いし。私は関係ないや。』


せなちゃんが何を言っているか理解できなかった。


私の家にせなちゃんが来ると竹彦がすごい勢いで私の部屋に来るようになった。


竹彦は私以上に猛烈に努力し手話を習得したらしい。


それに、せなちゃんと会話を続けられるようにどっぷりパソコンにハマっていた。

もともとパソコンに興味があったみたいだけど、明らかにせなちゃん狙いだ。

せなちゃん、私だって男心手に取るように分かるよ。

竹彦の顔はまん丸の形から徐々に男らしい顔つきになっていった。

声変わりも始まり、ちょっとした反抗期なのか手話以外の事はあまり話をしてくれない。

けど、せなちゃんと居る時は相変わらず私を視界から消して、せなちゃんにずっと手話で会話して満面の笑みを披露している。


竹彦、おきばりやす。せなちゃんは可愛いからモテるぞ。




高校受験の話が出始めたころ、私は進路に悩んでいた。


この自宅から通える高校はあるにはあるが、商業系なのだ。

せなちゃんは情報処理専門なのでそこに通う事をもう決めたらしい。

う~ん。数字嫌いじゃないけどお金の計算と関数は違うからなあ…。

けど、この家を出て寮や一人暮らしとなるとお金の問題が出るだろうし…。

あの父親が許さんはずや。

それこそ、どこぞに嫁に行くために準備しろとか言い出しそうや。

家政科という名の花嫁修業の場で監視されそう。

家事は嫌いじゃないけど、卒業したらそのまま知らん人と結婚コースは目に見えてるし。


家出ていくにも未成年だと色々厄介やしなあ。まず家借りれるんだろうか?



そうやってモヤモヤ考えていると、何と産みの親が一緒に暮らさないかと言ってきた。


産みの親いわく、昔は私の育児を放棄していた気がするが改心して一緒に暮らしたいらしい。

今なら分かる、あれは完全なる育児放棄ネグレクトだった。

そのおかげで私の食への執着は異常になった気がする。

近所のおばちゃんが居なければ死んでいたかもしれない。ただただ運が良かっただけだ。



けど、中学生の私はまだ理解していなかった。

この産みの母親と住むことで、高校に通い偏屈な父親の言いなりにならない人生が歩めるのではないかと期待してしまったのだ。


おかーはんは難色を示していたが

「このタイミングでここを出ないとルキアはずっとこの家に縛られることになるはずや。
何かあの人信用できへんけど、ここを出るいい機会かもしれへんなあ。あんた、頑張れるか?」


「大丈夫です。私ごはんと寝る場所があったらそれで大丈夫。やってみるわ!」


そうやって私は産みの親と住むことになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

偶然出会った少女にお願い事をされたから、受け入れる事にしたら人生が変わった!

小春かぜね
恋愛
『鈴音編』・『鈴音編 第2章』・『稀子編 第2章』は【R-15】作品に成ります。  苦手な方はご注意下さい。詳細は『鈴音編』・『稀子編 第2章』の始めに記載してあります。  理不尽な理由で職場をクビにされた比叡(ひえい)。  自分が不幸のどん底だと感じた時に、とある場所で困って居る少女を助ける事になる。  助けられた少女は凄く喜び、比叡に興味を持つようになった。  比叡に興味を持った少女は、あるお願いをしてきた……そのお願いとは?  『鈴音編』以外でも残酷描写・暴力描写も有りますが、全体の一部です。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

異世界転生先で溺愛されてます!

目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。 ・男性のみ美醜逆転した世界 ・一妻多夫制 ・一応R指定にしてます ⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません タグは追加していきます。

処理中です...