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前世の私⑮

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せなちゃんや修也、先生には勝負の事は教えていた。

あまりにも血眼になって手話をする私に怖さを感じるって修也に言われた。


「ちなみに、佐多さんが負けたらどうなるんだい?」先生も心配そうに聞いてきた。


「えっと、何だったかな…。綺麗な服は着せずにボロ着しか着れないようにするとか、ヘアカットはさせないとかだったかな?」


「そ、そんな…。虐待じみているじゃないか…。佐多さんのお父さんは本気なのかい?」


「本気みたいですよ。良いじゃないですか、別にボロ着でも裸じゃないし髪は伸びたら自分で切ったらいいし。


先生、私ね、今は学校から帰ったら絶対家に入れてもらってるんですよ。」


「あ、ああ。そうだろうね。」


「しかも、ご飯3食、おやつまで出してもらってるんですよ。」


「う、うん。」


「それに、お風呂も毎日使わせてもらうし、布団もあるんです。
布団は柔らかいし体がまっすぐな状態で寝れてるんです。
奥様にそれだけしてもらってるから着るものとかどうでも良いです。今こんな上等な服着させてもらってる方がおかしいって思ってたし、丁度いいんです。まあ、勝負には勝つ気ですけどね。」



「佐多さん…。君はもっと子供らしく生きることが出来たら良かったのに…。」

先生が何故か涙目になっている。何か変な事言ったかな?


「教育者として、僕は、君のお父さんとの勝負を見極める場に居させてほしい。
誰も見ていないところで君が不当な扱いをされるのは担任として避けたい。」


「お、俺もルキアが勝負しているところ応援したい。何にもできないけど、せなとの事は俺も聞いていて腹が立ったんだ。ルキアだけの話じゃないぞ。」


『私もルキちゃんの傍に居たい。もともと私が発端の話だし、私から伝えたいこともあるから。ルキちゃんお願いします。』せなちゃんは手話で頼んできた。

「では、僕から佐多さんのご家族さんに直接勝負の場をこの学校にしてもらうよう交渉するよ。
いつもみたいにオンライン上で手話のコミュニケーションをとることは可能なはずだから。いいね佐多さん。」


「お、奥様とあのおじさん…父が良いのなら私は大丈夫です。」

あんなめんどくさいおじさんを父と言うんは何とも複雑な気分だ…。


「よし、じゃあすぐ連絡するよ。」


「先生!頼むぞ!」修也とせなちゃんが先生にガッツポーズを送る。


「ああ、もちろんだ!まかせとけ!」先生はまた廊下を走っていった。


先生、最近生き生きしてるなあ。ええこっちゃ。



先生の交渉が上手くいったようで、勝負の日は父親は会社で、私はみんなが見守る学校でオンラインを使って行われることになった。


その日は土曜日に設定され特別教室を会場として開けてもらった。


先生の計らいがあって、修也とせなちゃんも特別に登校することを許してくれた。


当日の朝、奥様が見送ってくれた。奥様も複雑な立場やのに、仏さまやな。


やっぱり仏頂面だったけど、玄関を出る時私の背中を叩いて「さあ、おきばりやす!」と言ってくれた。

奥様を振り返ると何や楽しそうな顔して笑ってた。


私は嬉しくなって「行ってきます。」と明るく家を出ることが出来た。




父親の方はカメラを二台使っているようで、父親が画面に映ったり、おばさんとお姉さんの中間って感じの女の人が映ったりと画面が切り替わるようになっていた。


父親の方からルールの説明が最初にあった。


「今からお前の手話がしょうもない芸当なのかどうか私が評価してやる。
私は手話の事は専門外だから、手話通訳士の資格を持っている秘書の城田に任せる。」


画面が切り替わり城田さんという女性が話す。


「みなさん、こんにちは。秘書の城田です。今日はよろしくお願いします。」


城田さんは30代後半か40代前半と思う。

顔はにこやかだし顔も美人と言える顔だ。

城田さんはアイジンですか?と今ここで聞いたら退場になりそうだから聞かないでおこう。


「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」修也とせなちゃん、先生も見ているから手話クラブの部長っぽくちゃんと挨拶をしておいた。


「では、今から私が手話で色々ルキアさんに話しかけます。コミュニケーションが成り立つように手話で返答してください。その間、お友達はヒントとなるような事はしないでくださいね。
話しておきたいことがあれば今どうぞ。」

城田さんは敵に塩を送るようなタイプかな?


「せなちゃん、修也ちょっとお願いがあるんだけど。」

『何?』「何だ?なんでも言えよ。」


「ちょっと緊張しているみたいやわ。せなちゃん、ちょっとだけ手握ってもらえる?」と手話で伝える。


せなちゃんが頷いて私の手をそっと握ってくれた。


「修也、私の背中叩いておきばりやすって言ってくれる?」


「はあ?何だよそれ?」


「ええねん。その言葉気に入ってん。頼むわ。」緊張しているから顔が固まる。


「よし、分かった。」


修也は一度深呼吸し、私の背中を叩いて「ルキア、おきばりやす!」と活を入れてくれた。

その時覚悟とスイッチが入ったのが自分でも分かった。


「二人とも、ありがとう。もう大丈夫や。泣いても笑っても一発勝負。がんばってくるわ。」



私は二人より一歩前に出た。
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