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前世の私②

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稽古中は子供であっても絶対敬語を使うように徹底された。

初めは敬語ってさっぱり分からなかったけど、私を気の毒に思ってくれた主婦の生徒さん達がこっそり

「こういうときはこう言いまわすんよ。」

等と教えてくれたので何とか継続できた。


学校は今までろくに集団生活を送ってこなかったからトラブル続きだった。


田舎の学校だから生徒が少なく一学年10人も満たない学校だった。


あの時は10歳を超えてたのに文字の読み書きも怪しくて九九なんてもちろん壊滅状態。


何の呪文唱えてるの?って感じでさっぱり授業についていけなかった。


学期末の成績表を奥様に見せたら、珍しく隙のない気丈な人がふらついていた。


恥ずかしいような、申し訳ないような…。流石になんだか悪い気がして


「奥様…大丈夫ですか?」と声をかけたことがあったっけ。


「あんた…。ようこんなんで生きてこれたな…。」


何か、怒られてる?呆れられてる?


「ごめんなさい。学校って行ったことないし勉強したことなかったから…。」


「…。友達は?」


「へ?」


「友達はいるんか?」


「…。ルキアがあほ過ぎて誰も話してくれません。」


「そうか…。」そのまま奥様は成績表をみて黙っていた。


「あの…奥様?」

ご飯抜きになるのかな?って心配になって声をかけてしまった。



「あんた、しばらくお稽古は休みや。その代わり学校の勉強しっかりしなさい。」


「え?でも、勉強、全部分からなくて…。何にも分からなくて…。」

情けなくて涙が出てきた。


「教えてもらってないんやから出来へんの当たり前や。
泣かんでよろし。
明日から分家にいる6年生の女の子に勉強教えてもらうようにするから泣きなさんな。
1年生のひらがなから教えるように言っておくわ。
ほな、さっさと手洗っておやつ食べなさい。」


奥様は固定電話のある部屋に背筋を立てて去って行った。


お、怒られなかった…。

奥様はもしかして嫌な人じゃないのかもしれないのかな?


私には全く笑ってくれない奥様だけど、この日から少しずつ奥様の見方が変わっていった。



私の家庭教師役に分家から6年生の女の子が来てくれることになった。

奥様からお駄賃はもらっているようだ。

その子は良くも悪くもさっぱりとした性格の子で、私に一切の忖度なしに色々教えてくれた。


勉強の教え方は上手いし数字の概念が何となく分かってきた頃、休憩中に変な事を聞いてきた。


「ねえねえ、ルキアちゃんて愛人の子なんやろ?」


「アイジンって何?」


「奥さん以外の付き合ってる女の人の事やで。」


「ふ~ん。奥様は奥さん?」


「そうそう、本妻って言うんやて。」

「ホンサイ?何かよく分らん。」

「ルキアちゃん小さいからまだ分からんか。でも、この家居るって事はいつか、ここからどこかにお嫁に行くんやろ?」

「オヨメ?何か奥様がそんなこと言って様な…。よう分からん。」


「ふ~ん。ここ住んどったら女は大人になったら、どこかにお嫁にいかされるらしいで。」

「女は嫁にいかされる?って?」


「ここの家の子やったら働きに行かれへんってうちのお母ちゃんが言ってたわ。」

「働く?」


「ほら、ドラマとかで女の人が会社で働いてるやろ?あんな感じやん。」

「ドラマ見いへんから分からんわ。」

「え~、ルキアちゃん全然世の中のこと知らんなあ。」


「…。そうやな。」


勉強以外は愛人やら本妻やら何を教えてもらっているのか8割も理解できてなかった。


そんな正解もないマセた会話の中で培ったのは純正な関西弁だった。


学力が追い付くころには、全く違和感のない関西弁を喋るようになっていた。

しかも、マセた女の子の濃厚な会話を堪能したため、妙にボキャブラリーが増えて一言二言しか話せなかった会話が流ちょうにべらべらと自己表現できるようにもなった。


家庭教師は女の子の中学準備のために終了となった。


「ルキアちゃんお疲れ様やったね。これで今の学年の勉強はばっちりやわ。むしろちょっと進んでるくらいよ。
ルキアちゃんぼんやりしてるように見えて、覚えるのすごく早かったから私も楽しかったわ。
お小遣いもいっぱい溜まったし、ありがとうね。」


と最後までさっぱりしたあいさつで、私の家庭教師は親の都合で大阪の中学に行ってしまった。




やっぱり私は、ぼんやりして見えるんだろうか?

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