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俺のこと嫌いじゃなかった?

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携帯のバイブの振動で朝起きた。


ん?ここどこだ?自分の部屋じゃない。


ああ、出張中だった。えっと、昨日やんごとない夢を見てた気がするんだけど…。

草野主任ととんでもないことになってた夢…。リアルすぎて怖い。

悶々考えていると、スーツでばっちり出勤モードになった草野主任が登場した。

「ああ、起きたか?今日の訪問先は少し時間に余裕があるからシャワーでも浴びてモーニングをとると良いよ。私は他の案件を仕上げたいからロビーでパソコンを広げてくる。9:30にチェックアウトしようか。」


「あ、はい。承知しました。」

あ、いつもと一緒の草野主任だ。

「では、後ほど。」そう言って部屋を出て行った。

俺も目覚ましに朝シャワーするか。何となーく使ってない筋肉を使ったような変な感覚があるんだよな~。

けど、多分くみちゃんの所でマシン操作した時に結構サンプル運んだりしたからそれのせいだな。

うん、絶対そうだ。


チェックアウト後、取引先に行き、挨拶を済ませ新商品の案内だけする。

俺も草野主任もお互い仕事モードだし特にいつもと変わらない距離感だった。

けど、帰りの新幹線でまた隣同士になったとき、草野主任が俺の横で寝ているとぎゅっと手を握られた。


びっくりして隣を見るとすやすやと寝ている。誰かと間違ってるのかな?彼女とか?


人前で寝るなんてイメージがない人だから相当疲れたんだろう。

握られた手を解くことはしないで寝かせてあげた。


と思っていたら気が付くと俺の方がガッツリ寝ていた。


何だろう、草野主任の手の感触とかぬくもりがどうも眠気を誘うんだよなあ。何か気持ちいいというか…。

いや、変ないやらしい意味じゃなくて。その、あのやんごとない夢の話じゃなくて。


「そろそろ着くから、準備しておこうか。」

握られていた手はもうなくなっていた。

「あ、はい。すみません寝てました。すぐ用意します。」

「…。ああ。」

何か草野主任機嫌悪い?あんまり目が合わない気がする。

新幹線の改札を出て電車の乗り口まで移動する。この後会社に戻って報告書を書いて、お礼の文章送って…。そう考えていたら


「今日はこのまま直帰としよう。」

「え?大丈夫なんですか?」

「ああ。先ほど新幹線の中でこれからの業務は全て済ませた。会社に戻らなくても大丈夫だ。」

流石出来る男は違う。

「けど、報告書の書き方と提出方法は教えなくてはいけないから、これから私の家に来てもらおうかと考えていたんだ。」


「え?草野主任のご自宅ですか?」正直上司の家いくんだったら会社の方が良いんじゃない?それに、変な夢見ちゃったから何か気まずいし。


「いや、でも…。」会社に行く方が良いと伝えようとすると草野主任の会社携帯がピコピコ鳴った。


「ああ、すまない。そこで待っていてくれ。」人通りが少ない道を指さし、電話に出てしまった。

俺はとぼとぼ指をさされた場所に行き、荷物をベンチに置いてぼんやりと草野主任を待つ。

電話の応対している草野主任を眺めて色々考えていた。

やっぱりこの人ずば抜けてカッコいいよな。あんな夢見るなんて、ある意味おこがましい話だな。

あんな何でも持ってる人が俺みたいな一般ピーポーの男に関心向けるはずがない。

しっかし、夢であれだけリアルに気持ちよかったって事はおれ、草野主任にあんな願望を無意識に持っちゃってたのかなあ。う~ん、深層心理は分からん。


「お待たせ。何苦悩してるの?」

「うわ!ごめんなさい。何でもないです。」

びっくりした。考え事してて気がついたら目の前に苦悩の根源が怖い顔をして立っていた。

「本社に呼び出されてしまった。」

「あ、今回の出張の件ですか?」

「いや、別の案件で私が行かないと解決が難しいらしい。」

「じゃあ、僕も本社戻りますよ。」

「いいや、君は直帰でいい。」

「いや、でも…。」

草野主任は俺の空いた手をそっと握ってきた。ん?何で手を握られた?

「昨日、ベッドですごく乱れたからきっと疲れてると思う。それは俺のせいだ。」


え?ベッド?乱れた?


「やっと俺の恋人になってくれたから、昨日みたいな成り行きじゃなくて、ゆっくりじっくり愛を確かめ合いたかった。だから早く仕事を終わらせたのに。」


恋人?愛を何だって?

また草野主任の携帯が鳴っている。


「くそっ。うるさいなあ。…ちょっとだけ…。」草野主任は携帯の画面を見てから俺の方に更に一歩近づいた。

と思ったら抱きしめられた。


抱きしめられた時、草野主任のいい匂いや抱かれ心地、体温が全部こっちに伝わってきて、昨日のベッドで起こったことがリアルに思い出された。


じゃあ…昨日のあれは現実だったって事?いや、でも…確認しなきゃ。

「草野…。」草野主任の腕を解かれたとき顔を上げて話そうとすると口を口でふさがれた。


しばらく今の状況を知るまで時間がかかったけど、やっとわかった。

き、キスしてる。今、俺たちキスしてる。あの時みたいなディープなのではないけど、お互いしっかり相手の唇の感触を感じることが出来る友達とは絶対しないキスだ。

口を離された後、俺は頭の中があわあわしていてすぐ言葉が出ない。でも、顔は真っ赤だと思う。


「ああ、このまま連れて帰りたい…。俺の恋人っていう自覚をしっかり持ってもらうように沢山触れ合って確かめ合ってって思っていたのに。」

さっきから確かめ合ってのフレーズ多いな。こんなキャラだったっけこの人?

「次の週末時間とってくれる?もちろんプライベートで。」

「え?えっと…。」断るべきなのか受け入れるべきなのか判断がすぐにできない。

「断るなら、今ここでもう一度キスする。もっと濃厚なやつ。」

そう言いながらキスする姿勢になりつつある。本気だ。この人本気であのキスする気だ。こんなところでされたら俺がやばい。

「行きます、行きます。草野主任のお宅行かせていただきます。だからその、ここであのキスはやめてください。」

草野主任の口に手を当て抵抗しながらこれ以上行動しないように提案を出す。

「ほ、本当?」

「は、はい。だからもうお仕事行ってもらって大丈夫です。」

「そうか…。ああ、ありがとう!これで仕事頑張れるよ。」

「ははは…良かったですね。」もう、俺の思考はぶっ壊れたことにしよう。


そして、草野主任は俺をもう一度抱きしめてから耳元でこう言った。


「ありがとう、行ってきます。涼君。」


ん?涼君?


「じゃあ、行ってきます!涼君はしっかり休んでね。」そう言って人ごみの中、颯爽と入っていった。



「い、いってらっしゃい。」訳が分からないまま手を振る。




何か俺、草野主任に涼君って呼ばれることになったみたいだ。

そして、俺の事を嫌っていると思っていた人の恋人になったらしい。

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