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裁判 3
しおりを挟む擬態した男性に近づくケントの父親は私服警備隊に止められた。
「貴公、これ以上はこの場所に近づかないで頂きたい。」
「ああ、分かっている。君たちの仕事を増やすつもりは無い。」
穏やかでかつ厳粛な聞き取りやすい声で警備隊に答える。
その声を聞いて擬態した男がケントの父親の方へ視線をやった。
お互い目があった瞬間、お互いの立場を理解したようだ。
一人は国王であり、一人はその国の一端を担う貴族であることを。
正式な場での面識はこれまでもあった。
国王はアルバ家のこと、つまりリリアのことやその母親の出身も理解している。ロイからも情報は得ている。
「やあ、こんにちは。あなたもこちらに座って見物すると良い。さあ、こちらへ。」
擬態した国王がケントの父親を招き入れた。
「お招きありがとうございます。至極恐悦にございます。」ケントの父親は胸に手を当てて足を折った。
目立ちすぎるといけないので控えめながら国王に敬意を表した。
警備隊の一人が国王の側近に一貴族を隣に座らせても良いか確認を取る。
「良いのでしょう。あのお方もこの裁判は複雑な立場です。
国王様もお察しなのでしょう。国王様のいう通りにしてください。」
側近は会話を読まれないように結界の中で指示を出した。
国王と貴族当主が横並びで座る。
子育てに結果的に逃げ出してしまった父親という人物の横並びだ。
国王が呟くように話す。
「国としてこの裁判は大きな意味を持つ。
しかし、今は父親として息子がどのように仲間を守るのかという気持ちが大きく占めている。
必要な時にいてやれなかったが、今日という日は父親として見届ける義務があるのだ。」
「…。お察し致します。
私は子育てから逃げ回って参りました。それがこの結果です。何とも情けない話でございます。
結果次第では父として、当主として子供に裁きを下す所存です。」
「…。そうか。子を持つのは地を治めるより難しいのかもしれないな。」
「はい。そのようです…。」
複雑な事情を持つ父親同士、お互いポツリポツリと語り合っていた。
(おいおい、王族、貴族が来るなんて聞いてねえぞ。
俺の処刑なんか見てもなんの腹の足しにもならんぞ。…。
くそっ。チビが派手に大木なんて出すから捕まっちまったのが運の尽きか。
もう少し目立たず死にたかったぜ。)
ダンはまたげっそりしていた。
精霊は弁護席にいるマーガレットの側でダンの様子を見ていた。
「おチビ、あんた、こんな大騒ぎになること予測してあの日ダンを捕まえさせたんだろ?」
マーガレットがダンを見ながら精霊に話しかける。
精霊は驚いた様子でマーガレットを見てからそっぽを向いた。
「全く、ダンに似て天邪鬼な奴だね。もうあんたはダンのそばに居てやりな。」
それを聞いて精霊は頷いてダンの側に飛んでいった。
「しっかし、すごいギャラリーだね。
野次馬だけでなく本気でダンを心配している奴らが多いじゃないか。ねえラジオ様。」
「本当だね。皆薬草でダンさんに世話になった人たちばかりだ。
子供たちからダンさんの活躍を聞いている大人も多いんだろうね。」
「絶対ダンさんを取り返すんだから。絶対…。」リリアがこわばった顔で呟いている。
「リリア、顔が怖いよ。大丈夫。僕とマーガレットさんも付いている。焦ってはいけないよ。」
「え、ええ。そうですね。いけないわ…。
ダンさんのことを裁こうとするあの兄、ケントお兄様の顔を見るだけで憎悪が膨らむのが分かってしまいます。」
リリアは原告側に座っているケントの顔を睨みつけていた。
「憎しみに取り込まれてはいけないよ。冷静に。ダンさんを思う君の気持ちは皆分かっているからね。冷静に。」
「そうだよお嬢ちゃん。こんな時こそ冷静にだ。
そう言えば、あの一番冷静なラジオ様の執事はどこにいったんだい?
こんな時いつも力の抜けた事言ってるじゃないか。」
「ああ、彼は今僕の実家に行ってもらっているよ。
関係者が増えると話がややこしくなるから、念には念を入れて僕の家系の人物がこの裁判に関わらないよう
彼が阻止してくれているんだ。」
「はー。あの男、抜け目がないねえ。あたしはあの執事が一番食えないよ。」
「ビッツ家に仕えるものの中では彼がトップと言っても良いくらい優秀だ。
なぜ僕に付いて来てくれたのかが不思議なくらいだ。」
「まあ、あそこまで変わり者だと地位とかあんまり興味ないんだろうね。
それかラジオ様に色々期待することがあるのかもね。
ああ、そろそろ裁判が始まりそうだ。さあ、アルバ家のお嬢ちゃん、やってやるよ!」
ラジオとマーガレットが喋っている間、リリアは目を閉じて気持ちを整えていた。
(本当は前世の事をもう持ち出すことは止めようと思っていたけど…。
今日だけは皐月に戻るわ。
そうよ、前世で色々修羅場はくぐってきたわ。
冷静さが必要よ。
相手のペースに巻き込まれないように。
皐月に戻ればできる。)キッと目を開けてリリアは裁判に挑んだ。
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