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その頃のダン
しおりを挟むその頃のダンは、デリスの亡骸を花いっぱい添えて埋葬した。
デリスに添えた花は精霊が出してくれたものだ。
綺麗な淡い青色で悲しみを表しているような見たことのない可憐な花だった。
本当はリリアの祖父がいる深緑の谷で供養してやりたかったが、イアン家を問題に巻き込むことになるので、深緑の谷の結界の近くで供養させてもらった。
自分がいなくなっても、リリアの精霊やその仲間たちに慈しんでもらえるよう、この場所を選んだ。
本来ならこの魔力に取り込まれた哀れな女の家族に遺体を引き渡すのがいいのは分かっているが、あまりにも無残な姿になっている。
もう誰だか分からない。
それでも、念のため遺体を調べさせてもらうと、頭部の多分口内に当たる部分から違法な魔法道具ががっちりと固定されていた。
おもちゃではない。
取り扱いが難しい巷には出ない代物だ。
貴族やその周辺の格の高い組織でないと扱えないものだ。
多分、アルバ家の誰かがこの女にこんな物騒なものを取り付けたんだろう。
ダンがデリスの墓に語りかける。
「あんた、死ぬ覚悟でこんな姿になったのか?
オレはあんたのことをよく知らないが、無念だっただろう?
かわいそうにな。
この問題が片付いたらオレはもうこの世にいないだろうから、文句はあの世で聞くからな。
それまで待っていてくれよ。まあ、オレは地獄行きだろうけどな。
あんたの供養は精霊に任せているからな。
精霊に任せておけば、ちょっとはマシなあの世になるんじゃないか。」
「今はこんなオレの弔いですまんな。」と言いながら、最後に土を盛った。
精霊は、ずっと泣きながらダンのそばを離れない。
「おい、ちび。
あの女のために花を出してくれてありがとうな。
もう大丈夫だ。お前はお嬢ちゃんのところへ帰れ。」
精霊は首を振る。ダンと離れるつもりはないらしい。
「お前も見ただろう。あの黒い塊を最後に始末したところ。
精霊がオレみたいな奴のそばにいたらおかしいんだよ。さあ、もう帰れ。」
精霊はまた首を振る。
「ったく!早くバスク地区に帰れ!オレを見張ってても何にもならねえんだ!
お前がいなきゃ、あの薬草も育てられねえだろ!帰れよ!」
ダンは精霊に嫌われるようわざと荒々しく怒鳴る。
しかし、精霊は涙を流しながらずっと首を振っている。
「ちくしょう…。何なんだよ…。」
ダンは、これからダメもとでアルバ家に入り込み、リリアの兄ケントやその父親にコンタクトを取ろうとしていた。
見つかればすぐ処刑されるのは分かっているが、老い先知れている自分の最後の悪あがきと思っている。
それでもバスク地区のためになるのならと最後の望みをかけたかった。
しかし、そこに精霊がついてこられるとややこしいし、動きづらい。
チビがいないと薬草も育たない。早くバスク地区に帰ってほしいのは事実だ。
「…。バスク地区まで送ればお前戻るか?」
泣いていた精霊が顔を上げて笑顔で頷く。
「送るだけだぞ!あいつらには会わないからな!
オレはすぐ出ていくからな!」
うんうんと精霊は嬉しそうに頷き続けていた。
「面倒だけど、仕方ねえか…。」ダンはため息をついた。
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