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1 家庭も仕事も全てを手に入れたのに生きることがツライんです。
1-3 さっぱりたどり着かない叫びの正体
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「あー、さっぱり辿りつかない」
御神が部屋のリビングで叫ぶ。
この部屋は、レンタルオフィスではなく、普通のマンションの一室を御神が個人的に事務所として買っていた。
御神は、リビングのダイニングテーブルでパソコンを広げている。
お金の処理をしていたようだが、飽きたらしい。
紅茶を飲みながら管を撒きはじめていた。
御神玲香は、真守から見て異色のカウンセラーである。
人の話を聞くことが下手だし、ずけずけモノを言ってお客様を泣かせるし、顔も洋服も派手だし。
いつかの相談者様からは、
「そんな風に生きてマウントとられませんか?」
と質問されるほどだ。
「そんなマウントを取る人を私が身近に寄せ付けるわけないでしょ」
と笑って答えてお客様を感動させていたのはさすがと言える。
御神は、表への露出は少ないが、インターネットや口コミ、紹介などを通して自分に合ったお客様を残す仕組みを作っている。
総合的なお金の管理は御神が行っているのでどれぐらい稼いでいるのか真守でも把握していないものの、かなり稼いでいることは事実だ。
その御神が前田の処置に行き詰まって文句を言い続けている。
「叫びの正体」を見ることが怖かった気持ちには向き合えたものの、肝心の「叫びの正体」に辿りつけないのだ。
そんな御神の愚痴に、真守は適当にあいづちを打っていた。
「スタートはよかったのよ」
確かにあのスタートには感動した。
心の秘密を暴く能力の高さにいつも真守は感動する。
そんな御神の横に居続けることで人は、「みたくないモノ」ができたとき悩みが生まれるのだな、と真守は理解しはじめている。
みたくない感情、
みたくない姿、
みたくない現実
みたくない解決方法。
「見なくていい正義」を振りかざすと状況が悪化する。
「隠したい感情」を許して見つめて存在を許せば平和がやってくる。
「やっぱ、あれよね。あれ。
VRいっちゃうべきだと思わない?真守?」
御神は、ダイニングテーブルからソファに移動して、寝そべりながら一室を指で示した。
真守は、「はいはい」と同意した。
そもそもこの部屋は、事務所というよりその部屋に置いている装置を置くために存在している。
その装置とは、深層心理に入り込むことができる仮想現実発現装置だ。
まだ市販されていないその装置は、大学との共同研究という形を取って借り受けている。
装置にかかっている金額もでかいが、物理的にもでかい。
大人が一人入れるカプセルが三つあるため、マンションの一部屋を潰すほどの大きさがある。
特別な名前をつければいいのに、御神は「装置」と言っていた。
被験者を集めてどんどんデータを取ることが御神の役割であり、手強い思い込みを持つクライアントを見つけるとなんやかんや理由をつけてこの装置での治療に切り替えている。
「契約書まとめとけばいいんですね」
「分かってるー
それでこそ助手の鏡よねー」
御神はクラゲのようにソファに張り付いている。
今日はもう仕事をする気がないらしい。
「もうちょっとしたら帰るねー」
と言っているが、しばらく動く気がなさそうだ。
御神は口がうまいから、クライアントを装置に誘導することを易々とやってのけるが、問題はそのあと。
御神が吹き込んだ熱が飛んで、「やっぱりやめます」と言わさないように正確に契約書をまとめないといけない。
その場で書類の間違いがあってあとで契約しなおそうとするとほぼ流れてしまう。
試作段階だからこそ、ちょっとしたミスが訴訟になりかねない。
真守にとっては神経を使う仕事である。
「真守は装置好きだから、楽しみでしょ」
「まあ、いいんじゃないすか」
と自分でもよく分からない返しをする。
今現在、全身を装置に入れて五感を完全に移行できるVRは、遊園地ぐらいにしかない。
深層心理を形にした世界は、何が出てくるか分からない異空間だ。
ゲーム好きにとって、異世界好き男子にとって、完全な仮想現実空間で遊べることは役得でしかない。
ただ、その役得を素直に喜べないから返事が曖昧になる。
真守の役割は「肉の盾」だ。
法律と労災が成立するのか分からない世界で御神を守り抜くことが真守の役目なのだ。
安全を保障され、いろいろな制度用意されているエンターテイメントで遊ぶのとは訳が違う。
異世界は人が準備した中で遊ぶものだ、と最近の真守は常々感じている。
「ちゃんと鍛えといてよ」
と御神がニヤニヤと笑っている。
現実世界で肉体を鍛えておけば、仮想世界でも自信となって武器になる。
運動嫌いだった真守は、「死」を後ろに控えてジムの常連となっていた。
御神が部屋のリビングで叫ぶ。
この部屋は、レンタルオフィスではなく、普通のマンションの一室を御神が個人的に事務所として買っていた。
御神は、リビングのダイニングテーブルでパソコンを広げている。
お金の処理をしていたようだが、飽きたらしい。
紅茶を飲みながら管を撒きはじめていた。
御神玲香は、真守から見て異色のカウンセラーである。
人の話を聞くことが下手だし、ずけずけモノを言ってお客様を泣かせるし、顔も洋服も派手だし。
いつかの相談者様からは、
「そんな風に生きてマウントとられませんか?」
と質問されるほどだ。
「そんなマウントを取る人を私が身近に寄せ付けるわけないでしょ」
と笑って答えてお客様を感動させていたのはさすがと言える。
御神は、表への露出は少ないが、インターネットや口コミ、紹介などを通して自分に合ったお客様を残す仕組みを作っている。
総合的なお金の管理は御神が行っているのでどれぐらい稼いでいるのか真守でも把握していないものの、かなり稼いでいることは事実だ。
その御神が前田の処置に行き詰まって文句を言い続けている。
「叫びの正体」を見ることが怖かった気持ちには向き合えたものの、肝心の「叫びの正体」に辿りつけないのだ。
そんな御神の愚痴に、真守は適当にあいづちを打っていた。
「スタートはよかったのよ」
確かにあのスタートには感動した。
心の秘密を暴く能力の高さにいつも真守は感動する。
そんな御神の横に居続けることで人は、「みたくないモノ」ができたとき悩みが生まれるのだな、と真守は理解しはじめている。
みたくない感情、
みたくない姿、
みたくない現実
みたくない解決方法。
「見なくていい正義」を振りかざすと状況が悪化する。
「隠したい感情」を許して見つめて存在を許せば平和がやってくる。
「やっぱ、あれよね。あれ。
VRいっちゃうべきだと思わない?真守?」
御神は、ダイニングテーブルからソファに移動して、寝そべりながら一室を指で示した。
真守は、「はいはい」と同意した。
そもそもこの部屋は、事務所というよりその部屋に置いている装置を置くために存在している。
その装置とは、深層心理に入り込むことができる仮想現実発現装置だ。
まだ市販されていないその装置は、大学との共同研究という形を取って借り受けている。
装置にかかっている金額もでかいが、物理的にもでかい。
大人が一人入れるカプセルが三つあるため、マンションの一部屋を潰すほどの大きさがある。
特別な名前をつければいいのに、御神は「装置」と言っていた。
被験者を集めてどんどんデータを取ることが御神の役割であり、手強い思い込みを持つクライアントを見つけるとなんやかんや理由をつけてこの装置での治療に切り替えている。
「契約書まとめとけばいいんですね」
「分かってるー
それでこそ助手の鏡よねー」
御神はクラゲのようにソファに張り付いている。
今日はもう仕事をする気がないらしい。
「もうちょっとしたら帰るねー」
と言っているが、しばらく動く気がなさそうだ。
御神は口がうまいから、クライアントを装置に誘導することを易々とやってのけるが、問題はそのあと。
御神が吹き込んだ熱が飛んで、「やっぱりやめます」と言わさないように正確に契約書をまとめないといけない。
その場で書類の間違いがあってあとで契約しなおそうとするとほぼ流れてしまう。
試作段階だからこそ、ちょっとしたミスが訴訟になりかねない。
真守にとっては神経を使う仕事である。
「真守は装置好きだから、楽しみでしょ」
「まあ、いいんじゃないすか」
と自分でもよく分からない返しをする。
今現在、全身を装置に入れて五感を完全に移行できるVRは、遊園地ぐらいにしかない。
深層心理を形にした世界は、何が出てくるか分からない異空間だ。
ゲーム好きにとって、異世界好き男子にとって、完全な仮想現実空間で遊べることは役得でしかない。
ただ、その役得を素直に喜べないから返事が曖昧になる。
真守の役割は「肉の盾」だ。
法律と労災が成立するのか分からない世界で御神を守り抜くことが真守の役目なのだ。
安全を保障され、いろいろな制度用意されているエンターテイメントで遊ぶのとは訳が違う。
異世界は人が準備した中で遊ぶものだ、と最近の真守は常々感じている。
「ちゃんと鍛えといてよ」
と御神がニヤニヤと笑っている。
現実世界で肉体を鍛えておけば、仮想世界でも自信となって武器になる。
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