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38.生意気

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「シエルちゃん、こっちこっち。」

 建物と建物の間、街灯の光も届かない薄暗い路地裏でビスクは手を子招いている。
 私は大人しくそれに従う。

「活きのいい二三人、攫ってくるまでこの路地裏で待っといて…って言おうと思ったけど、なんかその必要はなさそうだよ。」

 その行き止まりの路地裏には先客が居た。しゃがんで怯え蹲る一人の青年と、その青年を痛め付けている四人の不良が。
 有り金を出せとか、そんな在り来りな罵声を浴びせている。典型的な強請みたい。

「あ? 何見てんだよテメェら。」

「…三、四、五人もかぁ。そういや腹減ってるし、一人は食べようかな。昨日捕まえた子供と男も結局食えなかったしなぁ。…シエルちゃんも食べる?」

 私は首を横に振る。

「あ、そう。じゃあ俺だけ食──」

 そう言い終わる前に、ビスクの頬に不良の拳がぶつかる。
 殴った不良は、拳を痛めたのか拳を抱えて仰け反る。対して、ビスクは微動だにしないものの、表情から察するに怒り心頭と言った様子に。

「俺の右拳が痛ぇ…、なんなんだよこいつ! 見た目は普通の人間なのに、感触が鉄みてぇに硬ぇし冷てぇ。」

 ビスクは威圧するように不良達を睨みつける。
 情けなく尻もちをついて狼狽える不良達からは、先程の威勢が嘘のように消えていた。たったの一撃と一睨で実力差を理解したようだ。

「ねぇねぇシエルちゃん。四肢もいでも吸血鬼になれるっけ?」

「四肢の有無は関係なく、生きていないと吸血鬼には出来ないわ。だからまあ、痛みでショック死されると無理よ。」

「んじゃ、死ぬ前によろしく。」

 ビスクは不良の背後へと瞬時に移動し、不良がそれを察知する前に、不良の左腕を足先で蹴り飛ばした。
 蹴られた左腕は、豆腐のように脆く千切れ飛ぶ。

「いギャぁあ!! 痛ぇ──」

 激痛に悶える不良の口を、返り血の着いた足先を突っ込んで塞ぐ。

「いやほんと、うるさい。」

 それを見た別の不良一人は、仲間を置き去りにして、逃げようと走り出した。
 丁度、私の後ろに路地裏からの唯一の出口があり、そこを目指して来た。

「邪魔だ! 退け、女!」

 逃げ出した不良は、そのままの勢いで私を押し退けようと手を前に突き出した。
 次の瞬間、その不良の両手は一刀両断と綺麗に斬り落とされた。というか、斬り落とした。私が。

「畜生畜生、女も強ぇえのかよ…! クソがぁ──」

 両手を斬り落とされたのにも関わらず、無謀にも路地裏から抜け出ようとした。
 仕方ないので、少し強めにビンタを放ち、不良をお仲間の元まで吹き飛ばした。

 呆気なく仲間が倒されるのを眺めていた残りの不良達は、藁にもすがる思いでか、頭を地面に付けて謝り出す。

「ご、ごごめんなさい…。逆らったこの二人はともかく、お俺達だけでも許してください。」

「え、無理無理。連帯責任だし、そもそも逆らってなくても逃がす気ないよ。」

 謝っていた不良達は、真っ青になった顔を上げる。

「お金、集めます。明日にでも金貨100枚…いや200枚、かき集めて持ってきます。だから、勘弁してください。」

 ビスクは大きく溜息をついた。と同時に、異様な程ニコニコと笑顔にもなった。

「あのね…。俺らお金目的でこんな事してないのよ。それに、君らがその金を持ってくる保証が何処にあんのさ?」

 意外にも理詰めで問い詰める。
 不良達はボロボロと静かに泣き出す。

 その傍らで、虐められていた青年がおもむろに立ちがある。

「た、助けてくれて、ありがとうございます…。」

「へ? いや、君もだけど…?」

 青年はポカンとしたまま棒立ちをする。
 そんな青年を無視してビスクは長々と語り始めた。

「俺ってば、俺よりも弱いクソ雑魚に舐められるんが一番ムカつくんよね。だから、スカッとするまでそいつらでゲームして遊ぶんよ。なんたって、ゲームは楽しいからなぁ。

 前はどうしてたっけな…。ああ、そうだそうだ、クソ生意気な女騎士が大食い選手権をしたんだったなぁ。
 確か、その女騎士を慕う20人弱くらいの部下達の陰系をハサミで切らせて食わせたんだった。食えなかった分の部下は殺すと一言付け加えてよ。

 泣きながら陰系を咀嚼してたのは今でもマジ笑えるよ。まあ、全員を助けようとして20弱の陰系を残らず平らげたものの、その後すぐ吐いちゃったから目の前で部下全員殺したんだけどなぁ。

 …さてと、昔話はこれくらいにして、お前らではどんなゲームをしてやろうかなぁ。」

 青ざめた五人と、天を見上げて考え込むビスク。なんだか、長くなりそうな予感がした。

「なんでもいいけど、早くしてよね。私は急いでるの。」

「わーったよ。…じゃあ、沈黙ゲームでいいかな。
 ルールは簡単、最後まで喋らず残った奴が勝ちね。勝てば生存、負ければ人生終了。まあ殴る蹴るでもして、喘がせ呻かせあえよ。
 じゃあスタートね。」

 そう言って、何が面白いのかよくわからないゲームが開始された。
 …結果なんてどうでもいいから、早く終わればいいのに。
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