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13.弱者

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 僕が初めてダンジョンへ潜った日。
 それは、僕が初めて本当の名前を知った日でもあった。

「ステータス」

▕╳╳╳╳╳ステータス╳╳╳╳╳
  名前 :カリム・シーリス
  年齢 :14
  レベル:0
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 その名前を見た時、僕は嬉しかった。憧れの人と同じ家名という偶然にとても歓喜したのだ。

 そこから少し考え込んみ、違和感に気が付いた。そう、その偶然は有り得ないと分かったからだ。
 勇者の家名持ちは現状アルマとその子息しか居ない。これは誰でも知っている常識だ。

 だが、僕にその勇者の家名が付いていた。この頃の僕は、まだ自分が勇者の子だと知らなかったので、それが十分たり得る謎となったのだ。

 そして、ダンジョンに潜るのを中止して家へと戻り、叔母さんにその事を話した。

 その時に初めて知ったのだ。

 僕の父は本の英雄である事。
 その英雄は母を見捨てた事。
 僕には兄が居た事。
 母と兄は殺された事。

 その全てを叔母さんは教えてくれた。

 叔母さんは母と手紙でやり取りをしていたり、逃げ帰って来た母から色んな話を聞いたりと、ある程度の情報を知っていた為、そこから第二王女が暗殺者を送ってきたと推察したのだとか。

 僕はその話を初めて聞いた時、見ず知らずの父や第二王女に対して深い怨嗟と失望感を抱くようになった。
 その話をしながら涙を流す叔母さんを見て、僕は復讐を誓った。
 でも、叔母さんは。

「復讐なんかしちゃあいかん。やられたからやり返す。それじゃあ、またやり返されるだけや。なんの解決にもならんよ。」

 この時の僕は、叔母さんは実の娘を殺した相手にすら慈悲を持っている優し過ぎる人なのだとした。

 今の僕には分かる。叔母さんは、純粋に怖かっただけなんだ。やり返される事が。
 逆らえばいつでも殺される。それを理解した弱者の振る舞いをしていただけなんだと。

 僕はそのことを、父に敗北し、叔母さんを殺されてから、やっと理解したのだ。

 だけどもう大丈夫。《操血》を覚えて簡単に壊れない刃を手に入れた。今までは毎度毎度剣を破壊されて終わっていたが、この力を手に入れた今、僕はただやられるだけの弱者じゃなくなった筈だ。


◇□◇□◇□◇


「──きっと人間に戻してやるからな。」

 僕から全てを奪った者が、僕を助ける為と上から目線で綺麗事を並べている。実に不愉快極まりない。

「元はと言えば、全部お前のせいだろ。」

「…本当に、すまないと思っているんだ。」

「だからさあ。その口だけで取り繕ってる感じがいちいち癪に障るんだよ。すまないと思ってる? 思って当然だろ。僕はその上で死んで償えって言ってんだ。」

 続けてこうも言った。

「そういや、お前の口から聞いてなかったな…。どうして僕の母さんを見捨てたのかを。今、教えてくれよ。」

 アルマは少し俯いた。

「…。怖かったんだよ。王女に…シルフィアに嫌われる事が。」

 その答えに、思わず笑みが零れた。

「正直ホッとした…。なにかの勘違いとか、本当はいい人なのかもとか、色々考え過ぎてて剣が鈍るかもしれないと思ってたんだけど。
 全然、そんな事無くてホッとしたよ。迷い無く斬れる。今そう確信した。」

 僕は剣を構える。

「もう、会話劇は充分だ。折角、新しい力を手に入れたんだ。丁度いいから試し斬りさせろよ。」

 対するアルマも剣を構えた。無言で。

 僕から距離を詰めて斬り掛かる。

「お前のせいでまた暗殺者が送り込まれたぞ。」

 アルマは正面から剣で受け止める。

「何ッ? いや、そんなはずは。…まさか、また。」

 足元の泥をアルマの顔に目掛けて蹴り上げる。

「第二王女に僕のことでも話したか? 僕はまだ暗殺対象なんだぞ馬鹿がッ!」

 飛ばした泥を左の手のひらで受け止めた。丁度、顔の前に手を置いて。

「悪気は無いんだ…。シルフィアを説得しようとして…。」

 透かさずに手で死角になった右側から大振りを放つ。

「悪気が無いなら尚更、性が悪いね。」

 アルマは後ろに下がって回避する。

「それは、申し訳ないことをしてしまった…。」

 こいつの一挙一動は僕の神経を逆撫でするのが好きらしい。
 僕はそのまま我武者羅に攻撃を続けた。

▽▽▽▽▽
22/4/21
第2回次世代ファンタジーカップとやらを走りたいのでほぼ毎日(ストックないので約束は出来ないけど)更新する。
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