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人魚姫編

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 「お父様、どうして何ですか?殿下と何故、私は結婚出来ないんです。その訳を教えて下さい」

 「どうしてもだ!諦めなさい。殿下だけは駄目なのだ。何度も言ってあるだろう」

 ある屋敷の主の執務室で、父と娘がここ最近、同じ事を言い争っている。

 その理由は、年頃になった娘の交際相手の事でだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 父から王子との結婚を反対されている。
 
 理由を聞いてもはぐらかされていた。

 もう我慢の限界を超えた時、父はとうとうその理由を話してくれたのだ。

 それは死んだ母に纏わる悲恋の話。

 この地に人魚の言い伝えが多く残っている事は知っているが、それに関係しているとは思わなかった。

 伝承の多くは根拠もないもので、ただの言い伝えだと思っていたのに、母の身に起きた事は、その言い伝えの通りだった。

 ──人魚の入り江で出会った男女の恋は成就しない。




 それは、母が13才の夏のある日、大きな嵐があり海難事故が起こった事から始まった。

 事故に遭った船の中にこの国の王子が乗船しており、捜索は昼夜を問わず続けられていた。

 私の母の名前はケイティベル・モンド侯爵令嬢。

 ケイティベルは朝、朝食前に人魚の入り江に虹を見に行くのだ。その場所は雨上がりに虹が出る事で有名な人気のスポット。

 護衛と一緒にその場所で、いつかお伽噺の人魚に会えることを夢見ていた。

 だが、その日は違った。そこにいたのは顔の整った少年で、齢の頃は16~17才位の身なりからすれば貴族の子息だと思える。

 前日は大嵐で、王子の乗った船が難破していて、どうやらこの地に漂流したようだ。

 ケイティベルは、すぐさま護衛らに命じて、屋敷に連れ帰り、父親の侯爵に事情を話した。

 しかし、捜索隊とは中々連絡が付かず、2日後にやっと連絡が取れたが、意識のない王子を直ぐに動かすのは危険だといわれ、そのまま侯爵家で静養することになった。

 ケイティベルの献身的な看病により、王子は徐々に回復していった。しかし、目だけは思う様に見えておらず、彼は耳で人を判別していた。

 当時、ケイティベルの他に彼女の母方の従姉のダイアナが遊びに来ており、彼女は王子の話し相手をしている。

 ダイアナは社交的で、内向的なケイティベルとは真逆の性格をしていた。その容姿も同じだった。

 美しいダイアナの引き立て役の様な地味で非凡なケイティベル。

 だが、ケイティベルとダイアナは従姉というだけあって声は良く似ていた。時々、悪戯で入れ代り、目の見えない王子を揶揄って、二人は話し方を変えたりしていた。その位、お互いに打ち解けていた。

 その内、体が回復した王子は、迎えにきた人々と一緒に王都に帰って行く去り際、ケイティベルにこっそり囁いた。

 「いつかまた会えることを心待ちにしている」
 
 別れ際のこの言葉がケイティベルに希望を与えたのだが、現実はもっと残酷なものとなった。

 ケイティベルが14才のデビュタントで、王都の王宮に招かれた時、彼女の心は王子との再会に淡い期待があった。

 だが、現実は違った。彼は自分を保護し、介護してくれた相手を従姉のダイアナだと信じていた。

 王子は視力を取り戻し、その眼に映るダイアナの美しさに心を奪われたのだ。

 その日、楽しそうに踊る第一王子アルフォンソとダイアナの姿を壁際で見ながら、ケイティベルは侯爵家に帰って、自室のベットで泣き伏した。

 後で、王子の婚約者にダイアナが選ばれたと言う事を父から聞かされ、また涙した。

 ──私は選ばれない。気付いても貰えなかった。

 その数年後、ケイティベルは18才になり、父からの薦めで一族のレアンドルと婚約を結んだ。その年、久々に王宮の夜会に二人で出席したのだ。

 ケイティベルの父方の血には、ある秘密がある。

 【人魚の末裔】

 そう噂されていた。

 人魚は稚魚の時には、魚の様な醜い顔をしているが、大人になるとこの世の者とは思えぬほど美しくなる。

 それは、男の人魚が死滅していて、人間の男からを貰うため姿形が見目麗しく変化する、声はセイレーンの如く。

 ──男を甘く誘うような声に……
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