18 / 25
人魚姫編
1
しおりを挟む
「お父様、どうして何ですか?殿下と何故、私は結婚出来ないんです。その訳を教えて下さい」
「どうしてもだ!諦めなさい。殿下だけは駄目なのだ。何度も言ってあるだろう」
ある屋敷の主の執務室で、父と娘がここ最近、同じ事を言い争っている。
その理由は、年頃になった娘の交際相手の事でだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
父から王子との結婚を反対されている。
理由を聞いてもはぐらかされていた。
もう我慢の限界を超えた時、父はとうとうその理由を話してくれたのだ。
それは死んだ母に纏わる悲恋の話。
この地に人魚の言い伝えが多く残っている事は知っているが、それに関係しているとは思わなかった。
伝承の多くは根拠もないもので、ただの言い伝えだと思っていたのに、母の身に起きた事は、その言い伝えの通りだった。
──人魚の入り江で出会った男女の恋は成就しない。
それは、母が13才の夏のある日、大きな嵐があり海難事故が起こった事から始まった。
事故に遭った船の中にこの国の王子が乗船しており、捜索は昼夜を問わず続けられていた。
私の母の名前はケイティベル・モンド侯爵令嬢。
ケイティベルは朝、朝食前に人魚の入り江に虹を見に行くのだ。その場所は雨上がりに虹が出る事で有名な人気のスポット。
護衛と一緒にその場所で、いつかお伽噺の人魚に会えることを夢見ていた。
だが、その日は違った。そこにいたのは顔の整った少年で、齢の頃は16~17才位の身なりからすれば貴族の子息だと思える。
前日は大嵐で、王子の乗った船が難破していて、どうやらこの地に漂流したようだ。
ケイティベルは、すぐさま護衛らに命じて、屋敷に連れ帰り、父親の侯爵に事情を話した。
しかし、捜索隊とは中々連絡が付かず、2日後にやっと連絡が取れたが、意識のない王子を直ぐに動かすのは危険だといわれ、そのまま侯爵家で静養することになった。
ケイティベルの献身的な看病により、王子は徐々に回復していった。しかし、目だけは思う様に見えておらず、彼は耳で人を判別していた。
当時、ケイティベルの他に彼女の母方の従姉のダイアナが遊びに来ており、彼女は王子の話し相手をしている。
ダイアナは社交的で、内向的なケイティベルとは真逆の性格をしていた。その容姿も同じだった。
美しいダイアナの引き立て役の様な地味で非凡なケイティベル。
だが、ケイティベルとダイアナは従姉というだけあって声は良く似ていた。時々、悪戯で入れ代り、目の見えない王子を揶揄って、二人は話し方を変えたりしていた。その位、お互いに打ち解けていた。
その内、体が回復した王子は、迎えにきた人々と一緒に王都に帰って行く去り際、ケイティベルにこっそり囁いた。
「いつかまた会えることを心待ちにしている」
別れ際のこの言葉がケイティベルに希望を与えたのだが、現実はもっと残酷なものとなった。
ケイティベルが14才のデビュタントで、王都の王宮に招かれた時、彼女の心は王子との再会に淡い期待があった。
だが、現実は違った。彼は自分を保護し、介護してくれた相手を従姉のダイアナだと信じていた。
王子は視力を取り戻し、その眼に映るダイアナの美しさに心を奪われたのだ。
その日、楽しそうに踊る第一王子アルフォンソとダイアナの姿を壁際で見ながら、ケイティベルは侯爵家に帰って、自室のベットで泣き伏した。
後で、王子の婚約者にダイアナが選ばれたと言う事を父から聞かされ、また涙した。
──私は選ばれない。気付いても貰えなかった。
その数年後、ケイティベルは18才になり、父からの薦めで一族のレアンドルと婚約を結んだ。その年、久々に王宮の夜会に二人で出席したのだ。
ケイティベルの父方の血には、ある秘密がある。
【人魚の末裔】
そう噂されていた。
人魚は稚魚の時には、魚の様な醜い顔をしているが、大人になるとこの世の者とは思えぬほど美しくなる。
それは、男の人魚が死滅していて、人間の男から種を貰うため姿形が見目麗しく変化する、声はセイレーンの如く。
──男を甘く誘うような声に……
「どうしてもだ!諦めなさい。殿下だけは駄目なのだ。何度も言ってあるだろう」
ある屋敷の主の執務室で、父と娘がここ最近、同じ事を言い争っている。
その理由は、年頃になった娘の交際相手の事でだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
父から王子との結婚を反対されている。
理由を聞いてもはぐらかされていた。
もう我慢の限界を超えた時、父はとうとうその理由を話してくれたのだ。
それは死んだ母に纏わる悲恋の話。
この地に人魚の言い伝えが多く残っている事は知っているが、それに関係しているとは思わなかった。
伝承の多くは根拠もないもので、ただの言い伝えだと思っていたのに、母の身に起きた事は、その言い伝えの通りだった。
──人魚の入り江で出会った男女の恋は成就しない。
それは、母が13才の夏のある日、大きな嵐があり海難事故が起こった事から始まった。
事故に遭った船の中にこの国の王子が乗船しており、捜索は昼夜を問わず続けられていた。
私の母の名前はケイティベル・モンド侯爵令嬢。
ケイティベルは朝、朝食前に人魚の入り江に虹を見に行くのだ。その場所は雨上がりに虹が出る事で有名な人気のスポット。
護衛と一緒にその場所で、いつかお伽噺の人魚に会えることを夢見ていた。
だが、その日は違った。そこにいたのは顔の整った少年で、齢の頃は16~17才位の身なりからすれば貴族の子息だと思える。
前日は大嵐で、王子の乗った船が難破していて、どうやらこの地に漂流したようだ。
ケイティベルは、すぐさま護衛らに命じて、屋敷に連れ帰り、父親の侯爵に事情を話した。
しかし、捜索隊とは中々連絡が付かず、2日後にやっと連絡が取れたが、意識のない王子を直ぐに動かすのは危険だといわれ、そのまま侯爵家で静養することになった。
ケイティベルの献身的な看病により、王子は徐々に回復していった。しかし、目だけは思う様に見えておらず、彼は耳で人を判別していた。
当時、ケイティベルの他に彼女の母方の従姉のダイアナが遊びに来ており、彼女は王子の話し相手をしている。
ダイアナは社交的で、内向的なケイティベルとは真逆の性格をしていた。その容姿も同じだった。
美しいダイアナの引き立て役の様な地味で非凡なケイティベル。
だが、ケイティベルとダイアナは従姉というだけあって声は良く似ていた。時々、悪戯で入れ代り、目の見えない王子を揶揄って、二人は話し方を変えたりしていた。その位、お互いに打ち解けていた。
その内、体が回復した王子は、迎えにきた人々と一緒に王都に帰って行く去り際、ケイティベルにこっそり囁いた。
「いつかまた会えることを心待ちにしている」
別れ際のこの言葉がケイティベルに希望を与えたのだが、現実はもっと残酷なものとなった。
ケイティベルが14才のデビュタントで、王都の王宮に招かれた時、彼女の心は王子との再会に淡い期待があった。
だが、現実は違った。彼は自分を保護し、介護してくれた相手を従姉のダイアナだと信じていた。
王子は視力を取り戻し、その眼に映るダイアナの美しさに心を奪われたのだ。
その日、楽しそうに踊る第一王子アルフォンソとダイアナの姿を壁際で見ながら、ケイティベルは侯爵家に帰って、自室のベットで泣き伏した。
後で、王子の婚約者にダイアナが選ばれたと言う事を父から聞かされ、また涙した。
──私は選ばれない。気付いても貰えなかった。
その数年後、ケイティベルは18才になり、父からの薦めで一族のレアンドルと婚約を結んだ。その年、久々に王宮の夜会に二人で出席したのだ。
ケイティベルの父方の血には、ある秘密がある。
【人魚の末裔】
そう噂されていた。
人魚は稚魚の時には、魚の様な醜い顔をしているが、大人になるとこの世の者とは思えぬほど美しくなる。
それは、男の人魚が死滅していて、人間の男から種を貰うため姿形が見目麗しく変化する、声はセイレーンの如く。
──男を甘く誘うような声に……
4
お気に入りに追加
1,572
あなたにおすすめの小説
婚約破棄のその先は
フジ
恋愛
好きで好きでたまらなかった人と婚約した。その人と釣り合うために勉強も社交界も頑張った。
でも、それももう限界。その人には私より大切な幼馴染がいるから。
ごめんなさい、一緒に湖にいこうって約束したのに。もうマリー様と3人で過ごすのは辛いの。
ごめんなさい、まだ貴方に借りた本が読めてないの。だってマリー様が好きだから貸してくれたのよね。
私はマリー様の友人以外で貴方に必要とされているのかしら?
貴方と会うときは必ずマリー様ともご一緒。マリー様は好きよ?でも、2人の時間はどこにあるの?それは我が儘って貴方は言うけど…
もう疲れたわ。ごめんなさい。
完結しました
ありがとうございます!
※番外編を少しずつ書いていきます。その人にまつわるエピソードなので長さが統一されていません。もし、この人の過去が気になる!というのがありましたら、感想にお書きください!なるべくその人の話を中心にかかせていただきます!
20年越しの後始末
水月 潮
恋愛
今から20年前の学園卒業パーティーで、ミシェル・デルブレル公爵令嬢は婚約者であるフレデリック王太子殿下に婚約破棄を突き付けられる。
そしてその婚約破棄の結果、フレデリックはミシェルを正妃に迎え、自分の恋人であるキャロル・カッセル男爵令嬢を側妃に迎えた。
ミシェルはありもしないキャロルへの虐めで断罪された上、婚約破棄後に出た正妃の話を断ろうとしたが、フレデリックの母からの命令で執務要員として無理矢理その座に据えられたのだ。
それから時は流れ、20年後。
舞台は20年前と同じく学園の卒業パーティーにて、再び婚約破棄の茶番劇が繰り広げられる。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
信用してほしければそれ相応の態度を取ってください
haru.
恋愛
突然、婚約者の側に見知らぬ令嬢が居るようになった。両者共に恋愛感情はない、そのような関係ではないと言う。
「訳があって一緒に居るだけなんだ。どうか信じてほしい」
「ではその事情をお聞かせください」
「それは……ちょっと言えないんだ」
信じてと言うだけで何も話してくれない婚約者。信じたいけど、何をどう信じたらいいの。
二人の行動は更にエスカレートして周囲は彼等を秘密の関係なのではと疑い、私も婚約者を信じられなくなっていく。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
とある令嬢の婚約破棄
あみにあ
恋愛
とある街で、王子と令嬢が出会いある約束を交わしました。
彼女と王子は仲睦まじく過ごしていましたが・・・
学園に通う事になると、王子は彼女をほって他の女にかかりきりになってしまいました。
その女はなんと彼女の妹でした。
これはそんな彼女が婚約破棄から幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる