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催涙雨

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七夕の夜は予報通りの空模様となった。天の川は見られそうもない。
さして期待もしていなかったが、見られないとなればそれはそれで残念だ。
「ねえ」
手を引いていた息子が暗い夜空を見上げながら声をかけてきた。
「織姫と彦星は一年に一回会えるんだよね」
「ああそうだな。七夕の夜に」
「でも晴れてないと会えないんだよね?」
「ああ、そうだ。二人は天の川で会うからな。星が見えないと会えないんだ。残念ながら今日はダメそうだな」
「でも晴れれば会えるんだよね?」
「もちろんそうだ」
「じゃあ全然どうってことないね」
「なんでだ? また一年も待たなくちゃいけないんだぞ? 寂しいだろう?」
「別に。どうってことないよ」
その息子の言葉に声が詰まった。決して悲しんでいる様子ではない。子供ながらに全てを受け入れ、悟ったような、落ち着いた物言いだった。
返す言葉もなく、沈黙の中トボトボと歩く。
ふと、繋いだ手にポツリと水滴を感じた。
「雨が降ってきたな。傘さそうか」
私の提案に対し、息子は首を横に振った。
「なんでだ? 濡れちゃうぞ?」
「別にいい」
よく見ると息子は何かに耐えるようにじっと口を一文字に結んでいた。
天にいる織姫と彦星を、もう二度と会えない母親と自分に重ねていることは明らかだった。
所詮は強がっているだけなのだ。
しかし不甲斐ない父親は彼にかけてやる言葉すら見つからない。
「パパ、知ってる?」
「ん? 何をだ?」
「織姫と彦星は結婚してるんだって」
知らなかった。
恋人同士かと思っていた。まさか夫婦だとは。
「へえ。そうなのか。よく知ってるな」
「うん」
「偉いな」
「別に」
まっすぐに前を見据えて歩くその横顔を見たときにふと気がついた。
そうなのか。
そいういうことなのか。
我が息子が重ねていたのは自分ではなかったのだ。父親と母親。つまりはもう会うことのできない私たちのことを思っているのだ。

雨足が強まってきた。
空を見上げる。
彼らは自分たちの境遇を悲しんでいるのだろうか。それとも代わりの誰かのために涙しているのだろうか。
溢れ出る思いを必死に抑え、頰に滴り落ちる雫に構わず小さな手を引いて家路を急いだ。
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