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1話

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 カンカラカーン!!
 デパートの福引きコーナーでそんな音が響き渡る。福引き券が集まったからここに来たんだけど、まさか私が当たるとは思わなかった。ここの福引きコーナー当たらないことで有名だったんだけど……。
 ただ唖然としていると、福引きコーナーの店員さんが詳細を語り出した。

「おめでとうございます! 1等ペア旅行チケットが当たりました! 旦那様やご友人と是非ご活用なさってください!」
「はぁ……」
「当店が提携しております旅館やホテルでしたら2泊3日宿泊可能ですので是非お使いになさってください。また……」

 店員さんが話している間、失礼かもしれないけど別のことを考える。
 福引きに当たったのは良いけど、仕事で忙しくて行けそうに無いのよねー。一応怜央に聞いてみるけど、誰か友達にでもあげようかな。宝の持ち腐れになっても困るし。

「ということで、明日から5年間有効ですので、是非ご利用下さいませ!」
「……あ、はい。ありがとうございます」

 まずい、全然聞いてなかった。まあパンフレットみたいなのもついてるみたいだしなんとかなるでしょう。今月で移動になる先輩にお世話になったお礼を買いに来たけど思わぬ拾い物を手に入れた。ラッキー。

「ではこちらを差し上げますので是非!」
「ありがとうございますー」
「本日は当店をご利用頂き誠にありがとうございました!」

 店員さんに冊子の入った紙袋を貰って帰路に就く。そんな私を今の店員さんは見送っていて、他の客も『おぉー、ここで当たるなんて珍しいなぁ』みたいな感じで感心していた。いつの間にか注目を浴びていた私は気恥ずかしくなっていそいそとこの場を離れる。


 怜央は怜央で、私は私で回りたい場所が違っていたから一旦別行動を取っていたけれど、スマホで連絡を取って無事に合流出来た。合流したときには模型店の紙袋を持っていたからプラモデルでも買ったんだろう。

「待たせたか?」
「ううん、私も今来たばっか。何買ったの?」
「新作のRGが売ってたんだよ~、予約出来なかった奴が売ってたからいつの間にか買ってた」
「完成したら見せてね」
「もちのろん! ……真白はなんか買えたのか? 先輩の異動祝いだったよな?」
「うん買えたよー。あ、そうだ、福引きで旅行券貰ったんだけど怜央は行けそう?」
「……どうだろ、繁忙期でも無いから行けそうだと思うけど、上司に聞いてみないと分かんないな。真白は?」
「私も。聞いてみないと分かんないな」
「だよなー。俺はもう大丈夫だ、後は食品買って帰るべ」
「さんせー」

 デパートで食品を買うと高くて一気に財布が軽くなってしまう。行きつけの格安スーパーに向かうべく、私達は駐車場へと歩いていった。



 月曜日になって、勤めている会社に出社し、いつも通り仕事を熟していく。簿記1級を取ったことで中堅大学を卒業した身でもそこそこな暮らしは出来ている。でも余裕は無くて、子供も2人は欲しいかなーとか、私達の老後や子供の教育費を考えると、今からでもできる限りの貯金はしていきたい。お金を使う趣味を持ってないので意識して使わないと減らないけど。
 キーボードをカチャカチャ叩いて経理費用を算出する。その結果を経理ソフトで纏めていると上司から声をかけられた。いつも朗らかだけど、怒らせたら恐いらしい。まあ、私の経験則でもこういう男性は腹黒いし。でも、話は通りやすいし、特別やらかさなければ理想の上司だ。

「相良君、今いいかい?」
「? あ、後藤課長、お疲れ様です。すみません、ご入り用なら私が出向いたのですが……」
「いやいや、こちらの都合だからね。たいしたことないから安心して欲しい」
「お気遣いありがとうございます。それで御用とは?」
「有給のことでね、話しに来たんだ」
「ゆーきゅー……?」

 焦ったー、計算ミスでもしたのかと思ったー。いや、でも何で?

「働き方改革で一定数以上の有休を取って貰わないと私達がお偉いさんに目を付けられてしまうんだ。どうしても2、3月は立て込んでしまうからね、今のうちから少しずつ有休を消化して欲しい。それを伝えに来たんだ」
「なるほど……、実は福引きで旅行チケットが当たったんです。使っても宜しいですか?」
「おお、そうか! 今の時期は紅葉が綺麗だ、是非満喫して欲しい。今は特に何か大きな案件を抱えているわけでは無かったよね?」
「そうですね、来週までのものが1件、今月末までものが2件です。どれも単純なものだけですので、今週で終わらせられます」
「うむ、そうだったね。そちらが完了し、日程が決まり次第知らせて欲しい。では、宜しく頼むよ」
「すみません、宜しくお願いします」

 用が終わった後藤課長はそのまま私の隣の席の新堂さんへと話し掛けた。どうやら私と同じことを伝えるようだ。聞き流しながらPCに向かいあう。再びキーボードをカタカタ鳴らし出した。
 さてと、休みを貰えるんならもう少し頑張らないとね。



 そんなこんなで仕事を終わらせて帰宅した。私が帰宅したときには怜央は帰っていて、夕飯の準備をしてくれていた。最近お腹が出てきたとかでトマトとキュウリのサラダを作っていた。私も気を付けなきゃ。
 手洗いうがいをしてリビングに向かう。

「俺の方は有休取れそうだ。というか、早く取れって怒られた」
「私もー、来週からなら休み取れそう。怜央は?」
「俺は何時でも大丈夫かな、真白に合わせられる」
「んーっと、そしたら今月末までの仕事やっつけたいからその後で良い? 平日の方が良いよね? どうせなら色んな場所行きたいし」
「だな、土日含めたらゆっくり出来そうだ。場所の候補は?」
「紅葉が綺麗だし、京都とかは? 安パイかもしれないけど」
「高校の修学旅行以来だし、俺は良いよ」
「オッケー、じゃあお風呂入ってくるー」
「いってらー」

 怜央との会話を終わらせると、自室にオフィスバッグを置く。そのまま下着とルームウェアをタンスから引っ張り出して脱衣所に向かった。




 仕事と旅行の計画を立てていると、あっという間に時間は過ぎた。何もかも順調に行きすぎて逆に恐い。木金土日の4日間を京都で過ごす予定だ。まあ、日曜日は早めに帰るつもりだけど。
 いつ旅行行ったっけ? そんな風に記憶を辿っていくと、怜央と結婚した3年前で最後だった。『3年目の浮気』とか良く聞くけれど、穏やかに慎ましく暮らせている。それよりも、久々の旅行で年甲斐なくワクワクしてる自分がいる。怜央に見透かされていて茶化された。
 東京駅で京都行きの新幹線に乗って、指定された番号の座席に座る。今まではそこまで実感が湧いてなかったけど、こう普段乗らない新幹線とかに乗ると非現実感が増してきて、童心に返った気分だ。

「楽しそうだな、真白」
「そうだねー、久々の旅行だし美味しいものとか食べられるって思うと楽しみでしょうが無いって感じ? なにより仕事に追われてないからゆっくり出来る」
「確かに! まあ、年明けは地獄になりそうだけど」
「うっ、それは来年になって考えるよ。……っと、くゎ~」

 1つ欠伸をした。口の中が見えないように手で押さえる。怜央はそんな私を心配そうに見てきた。

「寝不足か?」
「ううん、休みだって思うと疲れがこみ上げてきたっていうか……」
「……旅行は始まってすら無いぞ。俺も一眠りしとくか。お休み」
「うん、お休みー」

 怜央は鞄からアイマスクを2つ取って、1つは私に渡してきた。私も怜央みたいにアイマスクをしては瞼を閉じる。すると、旅行への期待感、仕事からの解放感や疲れが溢れてきて、すっと眠りにつくことが出来た。
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