見知らぬ隣人さん

岩石の扉

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隣人

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朝晩はまだ厳しい寒さであるが、日が登ればたちまち春の陽気を感じさせる季節となった。

新居の片付けも落ち着き、最後のダンボールを開封し、中身を出して引越しを完了させたのは、3ヶ月目に入った頃だった。

その頃には7区画のうち6区画までは入居してきており、挨拶に来た人も来なかった人も居た。

初見で好印象だった山下夫妻とも、あれから1度も顔を合わせることがないまま時間だけは容赦なく過ぎて行った。

ある日、車のない自宅の彫り込み式ガレージ
でダンボールを束ねて紐でくくるという作業を繰り返していた時、突然声をかけられた。

「こんにちは、風が吹くと肌寒いですね。」

「そうですね」

「こちらのご主人?どうもはじめまして!」

「どうも。」
戸惑い気味に受け答えしていると

「ここなかなか、顔合わす機会ないですよね。奥さんと子供さんは何回か見かけましたけど」

おそらく年齢は五十代くらいの
愛想の良い笑みを浮かべ話を続けている女性。
そう言えば年上のご夫婦もいると羽衣音から聞いていた。
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