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2章 傭兵騒動編
5章幕間-2
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「……え?」
という声は――
アーシャがエネシミュの中で、呆然とあげたものだ。体は無事だが、それを確かめる気にもならない。モニターには真っ二つになった<ナイト>を無言で見下ろす敵の姿。それも画面に“戦闘終了”の表示がされた後に……消える。
間違いない。死んだ。アーシャに死亡判定が下されて、仮想空間から追い出された。今のアーシャは仮想空間の空ではなく、エネシミュの中にいる。
しばし呆然とした後、アーシャは一度深呼吸した。今見たものが信じられず、もう一度戦闘プログラムを起動する。
敵の姿は変わらない。真っ黒い<ナイト>を前に、今度はまばたきもしない。5、4、3、2、1――
0。
その刹那、目の前に敵。
耳が音を聞き届けたのはその後だ。突っ込んできた敵は既に、イレイス・レイの光を纏った大剣を振り上げている。
「――――――」
そして指一本動かす暇もなく、また真っ二つ。
死亡判定で目が覚める。また呆然とする――
いや、今度は呆然とはしなかった。明らかな理不尽に、つい怒鳴り声を上げた。
「……は? ちょ、ま――ちょ、ちょっと!? なによそれ!? なんなのそれぇ!? 速すぎるでしょ!? いったいどういうこと――」
――と。
「――誰かいるのか?」
「ひっ!?」
急に外から話しかけられて、思わずアーシャは悲鳴を上げかけた。別に悪いことをしているわけではない……のだが、いきなり声をかけられて、心臓が思いっきり跳ねた。
近づいてくる足音に、恐る恐るエネシミュから顔を出す――
と、そこにいたのは見知った顔だった。
「……ラウル、先生?」
そろそろ見慣れてきた、壮年の大男だった。
ラウルはエネシミュから顔を覗かせたのがアーシャだったのが予想外だったのだろう。きょとんと眼を丸くしていたが。
「アーシャ君? なんだってキミが、こんな時間にエネシミュを?」
「え、いや、まあ……寝れなかったもので、ちょっと体動かそうかなと。ラウル先生は? お仕事ですか?」
「ん? まあ、そんなところだ。ちょっと、喫緊の問題が発生しかけててね。その打ち合わせをレティシア嬢としてきた帰りだったんだが――」
と、そこでラウルはちらとエネシミュの外部モニターを見た。アーシャが何をしていたのかが気になったのだろう。
だがそこで彼は奇妙な反応をした。
「これは……“超えるべき壁”か? なんともまた、懐かしいものを……」
一瞬だけ息を止めて、だがすぐに懐かしむように苦笑した。
そうしてアーシャに向き直ると、その苦笑のまま訊いてきた。
「どうだったね、こいつは。とんでもない強さだっただろう?」
「とんでもない強さというか……何なんですか、このノブリス? あたし、指一本動かすこともできずに真っ二つにされたんですけど……」
「はっは。やっぱり真っ二つにされたか。まあ、仕方ないよ――なにしろこのノブリスは、現実に即してないからな」
「え?」
奇妙な物言いにきょとんとすると、ラウルはにやりと笑って、
「パラメータの一部に、わざと異常値が入れてあってね。制限を超えた数値を無理矢理突っ込んで、おおよそ現実的じゃない機動性と反応速度を持たせてあるのさ。外観データが壊れてるのはその影響なんだがね。データ上は<カウント>級の扱いになってるんだが、能力としては平均的な<カウント>の三倍から五倍程度の戦闘力を持つことになってる」
「……あり得るんですか? そんなノブリス」
「まさか。こんな機体は実在しないよ、世界中のどこを探しても」
「実在しない機体なのに、なんで戦闘プログラムが……?」
「ムジカのワガママだよ」
「ワガママ?」
予想外の一言に、ついきょとんとする。ムジカがワガママ? 口はすこぶる悪いしデリカシーもないし気も利かないことは知っているが、意外に彼は聞き分けはいい。あんまりワガママを言う印象はなかった。
ラウルはまた苦笑すると、モニターに手を触れた。画面が操作され、影のような<ナイト>だけが映し出される――
その瞳に浮き上がった感情は、複雑なものを感じさせた。
「――こいつのオリジナルはムジカにとって、憧れのノブリスでありノーブルだったのさ」
郷愁、憤り、親愛、困惑、蔑み、哀れみ、追憶――なんだろう。どれも当てはまらない。それがなんなのか、アーシャにはわからない。
ただそれらの感情が全て過去に……もういない誰かに向けられていたことには、流石のアーシャも気づいていた。
いなくなった人をそれでもどこかに探すような。そんな遠い目をして、ラウルが続ける。
「“超えるべき壁”なんてタイトルの通り、いつか勝ちたいと願った背中だ。だがその“いつか”を迎える前に、あっさりあいつはこいつのオリジナルデータを超えた。困惑したのは当のムジカだ――『こいつがこんなに弱いはずがない。データが間違ってる』ってな。そんなはずはないって言っても聞きやしない。ガキの頃の話なんだが、終いにゃ泣き出す始末でな。仕方がないから、あいつが絶対に勝てないようなデータを作ったんだ」
「それが、これですか?」
「そうだ。アイツの頭の中で誇大化した、“憧れ”の具現だよ」
“クイックステップ”は複数の目的のために作られたが。その一つがこれに勝つことだと、ラウルは語る。
そうして続いた言葉には、流石のアーシャも目を剥いた。
「――そして実際に、あいつはこいつを討ち取った」
「……え?」
聞き間違い、だろうか? ぎょっとアーシャはラウルを見やってから、慌てて戦闘プログラムを表示し直した。
このプログラムはまだクリアされていない――それを確かめてからまたラウルを見やれば、ラウルは皮肉そうに笑っていた。
「正確には、勝つ寸前で討つのをやめたんだ。相手を殺す直前になって、あいつ自身が止まった。超えてはならないものを超えようとした――その“憧れ”を自らの手で汚す前に目を背けた」
「…………」
「あいつだってバカじゃない。こんな機体が存在しないことはわかっている。理屈として、“本物のこいつ”がこんなに強かったはずがないこともな。だが……あいつは自らが歪めたありえない“憧れ”にすら、勝てるようになってしまった」
そうしてあいつは、本当に空っぽになった、と。
ため息のようにつぶやいた彼は、そこで顔から笑みを消した。
モニター上の<ナイト>からも手を離して、まっすぐに見つめてくる――こちらを。
真剣な顔をして、その大男が問いかけてきたのは、これだった。
「今朝、あの観客席で、キミは“ムジカのライバル”だと言ったね」
「あ――」
「アレは、どこまで本気なのかな」
責めているわけではない――笑っているわけでも。言葉はただ真摯にまっすぐで、真剣に彼は答えを聞こうとしている。
お前は本当に、彼に挑むつもりなのかと――お前は本当に、彼を超えたいと思っているのかと。
だからこそ、胸の中で肺が震えた。答えることを躊躇った。
それでもゆっくりと息を吐くと、覚悟を決めてアーシャはラウルを見返した。
「……実力が足りてないのは、わかっているつもりです」
そうだ。実力は全く足りていない。“ライバル”と最初に言ったのもただの軽はずみで、言ってしまえばただの冗談でしかなかった。
何回か付き合ってもらった訓練でも、彼の本気どころか遊びにすら付き合えなかった。ハンデをもらってもただの一発すら当てられない。目も当てられないほどの実力差が厳然とある。
それでも。脳裏に焼き付いた光景がある。
あのメタル襲撃の日のこと。ズタボロになったアーシャの前に――メタルの大群を前に一人立つ、彼の姿。
輝く剣を天に掲げ、敵へと突っ込んでいった<ダンゼル>。舞うように敵を切り裂きながら、全てを駆逐した少年の――
ああなりたいと、憧れた。
追いつきたいと、願ってしまった。
それがどれほどの辛苦の果てに得た力であろうと。肩を並べられるようになりたいと。それがどれほどの無茶であろうと――
今はまだあまりにも遠く、手が届くことはないけれど。
「――でもそれが、追いかけない理由にはならないと思ってます」
それでも逃げないことを証明するように、アーシャはまっすぐにラウルを見つめ返した。
「…………」
しばらくの間、ラウルは無言のままこちらを静かに見据えていたが。
やがてふっと息を抜くように微笑むと、独り言のようにつぶやいた。
「……なるほど。運や境遇に恵まれないやつだとは思っていたんだが。あいつは案外、人には恵まれてるらしい……いや、違うか。ようやく恵まれ始めたと言ったところか?」
「……?」
「いやなに。若いっていいなと思っただけだ。老人のたわごとだよ、気にしないでくれ」
そうして今度は、アーシャに向けての言葉を放つ。
「あいつがこいつに勝てるようになってから、あいつはどうも退屈してたみたいだからな。君があいつの刺激になってくれるなら、それ以上のことはない。追いかけて、そして追い越してやってくれ。俺もあいつの鼻が折れるところが見たい」
「いや、あの。そう言ってくれるのはありがたいんですが……実力的にはまだまだで、当分先の話になるかなと……」
「それでいいさ。超えようと思った者だけが越えられる。期待させてもらうよ。いつかキミが、あいつを超える日が来ることを」
ラウルは笑顔でそう言い切る。
そしてアーシャに背を向けると、彼は肩越しに振り向いて、
「オールドマンを倒せるようになったなら、あとはただひたすら実戦を積むといい。トライアンドエラーだ。今のキミなら、グレンデルのノーブルたちとの戦闘がいい訓練になるだろう……ただ、明日はアーシャ君も入隊テストに出るんだろう? ほどほどにな」
「は――はいっ! えーと……おやすみなさい?」
「ああ、おやすみ」
取ってつけたようなあいさつに、ラウルはふっと笑って答えてきた。
そうして去る彼の姿をほんの少しの間だけ見送って、エネシミュの中に戻る――
と。
「――頼むよ……あいつにはまだ、強くなってもらわなければならないのだから」
「……?」
ラウルが何か言ったのかもしれない。呟きのようなものが聞こえた気がしたのだが――
気のせいだったらしい。アーシャはすぐにエネシミュの中に戻って、仮想戦闘を再開した。
という声は――
アーシャがエネシミュの中で、呆然とあげたものだ。体は無事だが、それを確かめる気にもならない。モニターには真っ二つになった<ナイト>を無言で見下ろす敵の姿。それも画面に“戦闘終了”の表示がされた後に……消える。
間違いない。死んだ。アーシャに死亡判定が下されて、仮想空間から追い出された。今のアーシャは仮想空間の空ではなく、エネシミュの中にいる。
しばし呆然とした後、アーシャは一度深呼吸した。今見たものが信じられず、もう一度戦闘プログラムを起動する。
敵の姿は変わらない。真っ黒い<ナイト>を前に、今度はまばたきもしない。5、4、3、2、1――
0。
その刹那、目の前に敵。
耳が音を聞き届けたのはその後だ。突っ込んできた敵は既に、イレイス・レイの光を纏った大剣を振り上げている。
「――――――」
そして指一本動かす暇もなく、また真っ二つ。
死亡判定で目が覚める。また呆然とする――
いや、今度は呆然とはしなかった。明らかな理不尽に、つい怒鳴り声を上げた。
「……は? ちょ、ま――ちょ、ちょっと!? なによそれ!? なんなのそれぇ!? 速すぎるでしょ!? いったいどういうこと――」
――と。
「――誰かいるのか?」
「ひっ!?」
急に外から話しかけられて、思わずアーシャは悲鳴を上げかけた。別に悪いことをしているわけではない……のだが、いきなり声をかけられて、心臓が思いっきり跳ねた。
近づいてくる足音に、恐る恐るエネシミュから顔を出す――
と、そこにいたのは見知った顔だった。
「……ラウル、先生?」
そろそろ見慣れてきた、壮年の大男だった。
ラウルはエネシミュから顔を覗かせたのがアーシャだったのが予想外だったのだろう。きょとんと眼を丸くしていたが。
「アーシャ君? なんだってキミが、こんな時間にエネシミュを?」
「え、いや、まあ……寝れなかったもので、ちょっと体動かそうかなと。ラウル先生は? お仕事ですか?」
「ん? まあ、そんなところだ。ちょっと、喫緊の問題が発生しかけててね。その打ち合わせをレティシア嬢としてきた帰りだったんだが――」
と、そこでラウルはちらとエネシミュの外部モニターを見た。アーシャが何をしていたのかが気になったのだろう。
だがそこで彼は奇妙な反応をした。
「これは……“超えるべき壁”か? なんともまた、懐かしいものを……」
一瞬だけ息を止めて、だがすぐに懐かしむように苦笑した。
そうしてアーシャに向き直ると、その苦笑のまま訊いてきた。
「どうだったね、こいつは。とんでもない強さだっただろう?」
「とんでもない強さというか……何なんですか、このノブリス? あたし、指一本動かすこともできずに真っ二つにされたんですけど……」
「はっは。やっぱり真っ二つにされたか。まあ、仕方ないよ――なにしろこのノブリスは、現実に即してないからな」
「え?」
奇妙な物言いにきょとんとすると、ラウルはにやりと笑って、
「パラメータの一部に、わざと異常値が入れてあってね。制限を超えた数値を無理矢理突っ込んで、おおよそ現実的じゃない機動性と反応速度を持たせてあるのさ。外観データが壊れてるのはその影響なんだがね。データ上は<カウント>級の扱いになってるんだが、能力としては平均的な<カウント>の三倍から五倍程度の戦闘力を持つことになってる」
「……あり得るんですか? そんなノブリス」
「まさか。こんな機体は実在しないよ、世界中のどこを探しても」
「実在しない機体なのに、なんで戦闘プログラムが……?」
「ムジカのワガママだよ」
「ワガママ?」
予想外の一言に、ついきょとんとする。ムジカがワガママ? 口はすこぶる悪いしデリカシーもないし気も利かないことは知っているが、意外に彼は聞き分けはいい。あんまりワガママを言う印象はなかった。
ラウルはまた苦笑すると、モニターに手を触れた。画面が操作され、影のような<ナイト>だけが映し出される――
その瞳に浮き上がった感情は、複雑なものを感じさせた。
「――こいつのオリジナルはムジカにとって、憧れのノブリスでありノーブルだったのさ」
郷愁、憤り、親愛、困惑、蔑み、哀れみ、追憶――なんだろう。どれも当てはまらない。それがなんなのか、アーシャにはわからない。
ただそれらの感情が全て過去に……もういない誰かに向けられていたことには、流石のアーシャも気づいていた。
いなくなった人をそれでもどこかに探すような。そんな遠い目をして、ラウルが続ける。
「“超えるべき壁”なんてタイトルの通り、いつか勝ちたいと願った背中だ。だがその“いつか”を迎える前に、あっさりあいつはこいつのオリジナルデータを超えた。困惑したのは当のムジカだ――『こいつがこんなに弱いはずがない。データが間違ってる』ってな。そんなはずはないって言っても聞きやしない。ガキの頃の話なんだが、終いにゃ泣き出す始末でな。仕方がないから、あいつが絶対に勝てないようなデータを作ったんだ」
「それが、これですか?」
「そうだ。アイツの頭の中で誇大化した、“憧れ”の具現だよ」
“クイックステップ”は複数の目的のために作られたが。その一つがこれに勝つことだと、ラウルは語る。
そうして続いた言葉には、流石のアーシャも目を剥いた。
「――そして実際に、あいつはこいつを討ち取った」
「……え?」
聞き間違い、だろうか? ぎょっとアーシャはラウルを見やってから、慌てて戦闘プログラムを表示し直した。
このプログラムはまだクリアされていない――それを確かめてからまたラウルを見やれば、ラウルは皮肉そうに笑っていた。
「正確には、勝つ寸前で討つのをやめたんだ。相手を殺す直前になって、あいつ自身が止まった。超えてはならないものを超えようとした――その“憧れ”を自らの手で汚す前に目を背けた」
「…………」
「あいつだってバカじゃない。こんな機体が存在しないことはわかっている。理屈として、“本物のこいつ”がこんなに強かったはずがないこともな。だが……あいつは自らが歪めたありえない“憧れ”にすら、勝てるようになってしまった」
そうしてあいつは、本当に空っぽになった、と。
ため息のようにつぶやいた彼は、そこで顔から笑みを消した。
モニター上の<ナイト>からも手を離して、まっすぐに見つめてくる――こちらを。
真剣な顔をして、その大男が問いかけてきたのは、これだった。
「今朝、あの観客席で、キミは“ムジカのライバル”だと言ったね」
「あ――」
「アレは、どこまで本気なのかな」
責めているわけではない――笑っているわけでも。言葉はただ真摯にまっすぐで、真剣に彼は答えを聞こうとしている。
お前は本当に、彼に挑むつもりなのかと――お前は本当に、彼を超えたいと思っているのかと。
だからこそ、胸の中で肺が震えた。答えることを躊躇った。
それでもゆっくりと息を吐くと、覚悟を決めてアーシャはラウルを見返した。
「……実力が足りてないのは、わかっているつもりです」
そうだ。実力は全く足りていない。“ライバル”と最初に言ったのもただの軽はずみで、言ってしまえばただの冗談でしかなかった。
何回か付き合ってもらった訓練でも、彼の本気どころか遊びにすら付き合えなかった。ハンデをもらってもただの一発すら当てられない。目も当てられないほどの実力差が厳然とある。
それでも。脳裏に焼き付いた光景がある。
あのメタル襲撃の日のこと。ズタボロになったアーシャの前に――メタルの大群を前に一人立つ、彼の姿。
輝く剣を天に掲げ、敵へと突っ込んでいった<ダンゼル>。舞うように敵を切り裂きながら、全てを駆逐した少年の――
ああなりたいと、憧れた。
追いつきたいと、願ってしまった。
それがどれほどの辛苦の果てに得た力であろうと。肩を並べられるようになりたいと。それがどれほどの無茶であろうと――
今はまだあまりにも遠く、手が届くことはないけれど。
「――でもそれが、追いかけない理由にはならないと思ってます」
それでも逃げないことを証明するように、アーシャはまっすぐにラウルを見つめ返した。
「…………」
しばらくの間、ラウルは無言のままこちらを静かに見据えていたが。
やがてふっと息を抜くように微笑むと、独り言のようにつぶやいた。
「……なるほど。運や境遇に恵まれないやつだとは思っていたんだが。あいつは案外、人には恵まれてるらしい……いや、違うか。ようやく恵まれ始めたと言ったところか?」
「……?」
「いやなに。若いっていいなと思っただけだ。老人のたわごとだよ、気にしないでくれ」
そうして今度は、アーシャに向けての言葉を放つ。
「あいつがこいつに勝てるようになってから、あいつはどうも退屈してたみたいだからな。君があいつの刺激になってくれるなら、それ以上のことはない。追いかけて、そして追い越してやってくれ。俺もあいつの鼻が折れるところが見たい」
「いや、あの。そう言ってくれるのはありがたいんですが……実力的にはまだまだで、当分先の話になるかなと……」
「それでいいさ。超えようと思った者だけが越えられる。期待させてもらうよ。いつかキミが、あいつを超える日が来ることを」
ラウルは笑顔でそう言い切る。
そしてアーシャに背を向けると、彼は肩越しに振り向いて、
「オールドマンを倒せるようになったなら、あとはただひたすら実戦を積むといい。トライアンドエラーだ。今のキミなら、グレンデルのノーブルたちとの戦闘がいい訓練になるだろう……ただ、明日はアーシャ君も入隊テストに出るんだろう? ほどほどにな」
「は――はいっ! えーと……おやすみなさい?」
「ああ、おやすみ」
取ってつけたようなあいさつに、ラウルはふっと笑って答えてきた。
そうして去る彼の姿をほんの少しの間だけ見送って、エネシミュの中に戻る――
と。
「――頼むよ……あいつにはまだ、強くなってもらわなければならないのだから」
「……?」
ラウルが何か言ったのかもしれない。呟きのようなものが聞こえた気がしたのだが――
気のせいだったらしい。アーシャはすぐにエネシミュの中に戻って、仮想戦闘を再開した。
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