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二つの力
しおりを挟む「ふっざけてんじゃねええええぞ!!!」
俺は、お前と共に頂点に立つんだ。その為にここまでやってきた。これからもそうだ、お前と俺で最強だ。お前が消えて一つになるだ?
ふざけた事抜かしてんじゃねえぞ!
その速度は身体が覚えているんだよ。
アクセル起動。
その技は俺が作った。
ダブルスラッシュ!
天剣流剣術、それは何も不可思議な技じゃねえ。
人の身で扱える、ダンジョンの力なんて必要としない剣術。
威力は落ちるが使えない訳じゃねえんだよ。
天狐、それは両足で二度の跳躍を時間差で行うことで、空中で跳躍したかのように相手に錯覚させる技。
連撃剣も見切りの剣も、俺が押して押して押し続ければいつか崩れる。
シッ
何度死のうが。
シッ
何度蘇ってでも。
(僕という存在を消して、お前が僕の力も手に入れれば最強になれるんだ)
何度、お前がそんな言葉を吐いたとしても。俺は一人で最強になろうとは思わない。
いや、お前がどれだけ俺と一つになる事で最強になれると信じているとしても。俺には、お前と同じ事はできない。魔法とかスキルとかレベルとか、そんな下らない話じゃねえ。
俺にはお前の、その全てを見透かす眼だとか全てを理解し使い熟す模倣なんて物は持ち合わせてねえんだよ。
お前は、俺が無から世界にたった一つしかない有を生み出していると思っているのかもしれないが、俺からしたら、お前が居なけりゃただの理想と夢想で終わっていた事だらけだ。
俺に必要な物はいつもお前が知っていた。だからこそ、俺は有を手に入れられた。
主人格は俺じゃなく、もうお前だ。なあ、今まで俺の方が接近戦闘は強いとか言ってたがそりゃ間違いだろ。
お前があの剣を使っていたら、俺には勝てるビジョンは全く浮かばねえ。見せてみろよ、お前の本気を。
今まで、月剣流剣術をダンジョンで使わなかったのは、俺が親父の顔でも思い出すと思ったからか?
「ざけんじゃねえ。お前が本気であれを使えば俺よりも滅茶苦茶に強ええ剣士なんだ」
「僕は、お前の隣に居てもいいのか?」
「ったりめえだろうが。そもそもお前が居なきゃ、俺は最強になんてなれやしねえよ」
「そうか。いや、そうだな。僕の本気にちゃんとついてこいよ?」
「ハッ。面白くなってきたなぁ!」
月剣流剣術
明暗、それは二刀流の極意。2本の腕に二つの武器を持つ事で、両方の腕から全く別の技を繰り出す事ができる剣術。
僕は右利きで。
俺は左利き。
月剣流剣術
明鏡止水、移動速度変化と完全な間合いの掌握によって、相手の剣を回避する術。
天剣流剣術
天邪鬼、同じく移動速度を急速に変化させる事によって相手にこちらのリズムをつかませない剣術。
月剣流三日月。一太刀に二つの幻影を混ぜる技。
天剣流天舞。回転しながら怒涛の攻撃を繰り出し続ける高速居合の連撃技。
本来なら別の流派の剣術を二つ同時に扱う事など出来ない。そもそも、武術はいつだって身体全体を使う。別々の人物が別々の技を使用するでもない、同時に別の剣術の技を使用する。
それは言葉以上に不可能という言葉が覆い重なる事。
だが、今の僕達ならそれができる。
今まで僕達は、どちらか一方の人格が体を動かして戦う事しかできなかった。だが、今の僕達は違う。今の僕達の身体の支配権は完全に50%づつとなっている。お互いがお互いの考えを持ち、それは0タイムでお互いに伝達される。
厳密にいえば、それは同時に2つの剣術を扱っているわけではない。しかし必要な時に必要な技を完全な形で繰り出せる。攻めと守りが反発することなく、お互いの最適解を常に共有し続け、2つの選択肢から一方を選ぶ。それは絶対に同じ選択肢を選ぶだろう。互いの考えを理解するという事は、そういう事だ。確実性のある選択肢しか存在しないなら、意見が割れるなんて事はあり得ない。何故なら、それは理解できていない人間が居るから起こる問題だからだ。
攻めの天と守りの月、それ即ち、最強の剣である。
「結局、僕よりもお前の言ってた事が正しいんだな」
「さあな、ただ俺はお前無しで最強になれるなんて考えたこともねえ」
父さんの切り返しよりも、僕達の攻守入れ替えの方が速い。それは確実な差となって現れる。
今まで一方的に首を刎ねられていた僕達だったが、シンクロ率とでも言うべき数値が50%づつになった瞬間、攻守は入れ替わった。
「行けよ。お前は僕を信じていると言ったけど、それは僕も同じことだ」
「ハッ、そうかい」
月剣流奥義
天剣流奥義
「月詠」
「天照」
その剣は全てを見切り。
その剣は全てを切り裂く。
「コングラチュレーション。マスターのラストフェイズ完了を確認したしました」
道着の男は崩れ去る。それは、その剣よりも強い剣が現れた事の証明だった。
「ありがとう、徹。その剣はお前の物だ。お前を天剣流及び月剣流の後継者と認める」
そう言って、男はまるでダンジョンに出てくる魔物のように粒子となって消えていった。
まさか父さんが継承していた剣術がその二つって事なのか。どうして9階層のボスから天剣流、月剣流の習得なんて効果を持った武器がドロップしたのか、知る由もないが、何か運命的な物、いや作為的な物を感じた。
世界が崩壊を始める。道場の壁に亀裂が入り、バラバラになっていく。それと同時に僕達の意識が消えていく。
「それじゃあバイバイ~~!」
セバスの身体から出てきた悪魔と名乗る少女は、霧となって消えていき、どこからともなくその少女の声でそんな言葉が聞こえてくる。
「僕が逃がすと本気で思っているのか?」
「ッ!!」
僕が、あの道場から帰って来た時、ステータスにも変化があった。早熟と模倣が消滅し、ユニークスキルに《他化自在天》が新たに出現していた。
それは他者の扱う技を自身の物へと変換し、更にスキルの習熟速度が加速するスキル。
正しく自在の姿形で、自在な技を生み出せるスキル。
「霧化。正直、奪う価値すら感じない」
「は~? お前、それはこの私に言ってんのかな~?」
相手の能力の種が割れれば、そんなのは無いのと一緒だ。
自身の身体を煙のように分散させる事で、視界から消失し更に普通なら通れないような経路を移動可能となるスキル。
つまり、隙間のない檻を用意してやればそのスキルは意味をなくす。
「神聖結界」
光魔法で作り出す神聖の加護は、自分や仲間の身体を覆う様に発動することでダメージを軽減するスキルだが、広範囲に不動の結界として出現させることもできる。
「いったあい。何よこれ!」
「檻だよ。もう逃げられない」
「ああ~、ムカつく~! せっかく見逃してやろうと思ったのに。もういいのよね? 私に殺されたいってことなのよねえ? いいわ、そんなに死にたいなら、この私がぶち殺してあげるわよ!」
霧が集中していき、一匹の悪魔が現れる。改めてみれば背には小さにが蝙蝠の羽のような器官が付いていた。悪魔と言うのは嘘でもないらしい。
不可視の腕。
影剣。
四刀流。
勇者の証。
ザ・ワン。
「地獄の業火、地獄の雷、地獄の大海。あの、無礼者に分からせなさい」
三つの魔法が発動する。それは見たこともない新しい魔力。黄金の魔力よりも異質なそれは、漆黒の炎、漆黒の雷、漆黒の水を生み出してた。
「けど、だから何?」
《他化自在天》の前に未知という言葉は通じない。
地獄属性。
黒と金が混ざったようなその剣で発動するスキルはブレイブソード。相手の魔力を剣に吸収し、そのまま相手に跳ね返すスキル。
本来なら、解析していない初見の属性にそんな芸当はできないだろう。しかし他化自在天の前にそれを晒せば、そんな事は何の問題にもなりえない。
「なんで、私の魔法が! 消え……」
僕は相手を見切る剣士だ。そんな隙を晒せば、どうなるか教えてやろう。瞬間を見切り攻守を切り替える。それこそが僕達の剣術。
「てめえが放った魔力、俺が倍返しにして返してやるよ! 真天照!」
漆黒と黄金の魔力が宿った四本の剣が悪魔を飲み込んでいく。
「こんな魔力を受けたら、いくら私でも溶けちゃううううう!」
悲鳴と共に、その場に残ったのは手に持てるようなサイズまで縮小し、気絶した悪魔だった。
「あの一撃を受けても死んでないのか……」
正直驚きだ。
「徹さん、これどうするんですか?」
「うーん。瓶詰だね」
「な、なるほど。徹さんってそういう趣味なんでしょうか」
「なんて言ったかはあえて聞こえない振りをするから、寧さんは転がってる三人、いや姫様合わせて四人を起こしてくれるかい?」
「うっ! 解りました!」
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