上 下
25 / 40

創造主の館

しおりを挟む

「あの、貴方は何なのですか?」

 10の倍数の階層に到達する度に現れる選定妖精のウィンが僕に語り掛けてきた。今までの作業的な恩恵の配布とは違う明確な感情を持って。

「それはこっちのセリフだよ。結局ルールブックとやらにもダンジョンにおける法則が記載されていただけでダンジョンの発生目的や原理は書かれていなかった。別にダンジョンを作ってくれたことが悪いなんて言うつもりはないし、むしろ感謝する事ではあるけれど、興味はあるね。君が何者なのか」

「ええ、50階層まで到達した貴方にはそれを知る権利があります」

 妖精は綺麗なお辞儀を見せた。やはりこの妖精だけはダンジョン内の街に住む人形達とは違って自分の意思を持っている。

「50階層到達の褒美は我が主との対談権です。どうぞこちらへ」

 50階層には一つの館が建っていた。10、20、30、40階層にある街には幾つもの建物があったが、この階層にはその館しかない。妖精はその館の入り口を指した。

 我が主、その言葉に間違いがないのならそこにいるのはこのダンジョンを作った存在なのだろう。
 僕は妖精と一緒に館へと歩みを進めた。

 客間と言って案内された部屋には一つのソファと大きなモニターが置かれていた。それ以外には装飾と呼べるような物は一切存在しなかった。
 対談とは言っても本人と直接面と向かって話せるわけではないようだ。

 モニターが光りを宿し、映像を映し出す。そこには豪華そうな椅子に座った女のような影が写しだされいた。部屋が暗いようで、顔はおろか着ている服の色すら分からない。

「50階層到達おめでとう。こんなにも早く冒険者が現れてくれたことを嬉しく思うわ」

 女は足を組みなおして笑いかけるような声色で話しかけてくる。謎にエロいのは何故だろうか。

「いいえ、それで僕は何を教えてもらえるんですか?」

「このダンジョンを作った理由と貴方がこれから何をしなければならないかよ」

「じゃあやっぱり、ダンジョンはこれで終わりじゃないってことですか」

「そうよ。というか私は貴方の世界を救ってあげるためにダンジョンを作った正義の科学者でダンジョンは世界を救う為の装置なの」

 正義の科学者かどうかは置いといて、彼女の話には非常に興味がある。世界を救うためにダンジョンを作る。今現在のダンジョン内での志望者件数は数万人規模だから普通に考えれば救うどころか人的被害を増やし続けている事になるのだが、しかしダンジョンを作れるような存在が言うのなら真実なのではないかという期待もある。だから、その真意は非常に興味深い。

「私の命を賭けてもいい、この世界は何もしなければ時期に滅ぶわ」

 そう言い放った彼女は、暗闇の向こうに居ながらも危機感を感じさせるような表情が伺えた。

「それで、貴方は何者でどんな理由で世界が滅ぶんですか?」

 それを聞かずして彼女の言葉を信用する訳にはいかない。

「私は異世界人よ」

 彼女の言葉は通常なら衝撃の一言なのだろう。けれど、何故だか彼女のその言葉には世界が滅ぶと言った時ほどの臨場感が無かったような気がした。
 だから僕は彼女の言葉を待つ。何も分からないままでは何が正解なのかも分からないからだ。

 正しいとか正しくないとか、そんなことに興味はないが、しかしそれでも話を聞かなければ僕がどうしたいかも分からない。

「それで?」

「ダンジョンは異世界へのゲートなのよ」

 彼女の説明はこうだった。
 向こうの世界には知的生命体は存在せず、この世界に概念だけで存在する異形の怪物が住んでいる。悪魔や天使、神話の神々や伝説の生き物、ファンタジー世界の怪物がそこには存在している。そして、その世界とこの世界が今急速に接近している。このまま行けば世界の境界が曖昧になり、そこら中にモンスターがあふれる世界になるだろう。
 だから、それを防ぐためにダンジョンという入り口を設定した。全ては街中に突然モンスターが現れて蹂躙されるという最悪の事態を防ぐため。
 しかし、それだけでは世界の接近を遅くさせる事はできても完全になくすことはできない。だからダンジョン50階層に到達した冒険者を異世界に送り、接近を遅らせるために退魔業を行わせる。
 異世界と今の世界の接近を遅らせるにはその原因である向こうの世界のキャパシティを制御するしかない。向こうの世界のモンスターが増えれば増える程、容量を求めて向こうの世界はこちらの世界へ近づいてくる。つまり、向こうの世界のモンスターを減らせば減らす程、この世界を異形溢れる世界にしないようにできるのだ。

 小さなゲートができる事態は何度かあったが、今は全世界を巻き込んで世界が1つになろうとしている。世界全体に対する最大の危機。

「だから君たち冒険者には向こうの世界へ行って異形を狩る仕事をしてもらいたい。報酬は偉業を倒す事で得られる力と素材として上質な効果を秘める異形が残すアイテムの数々だ」

「それじゃあなんでテメェは異世界人のはずなのに知性があるんだ?」

 は妖精の方を見ながら問いただす。何か確たる証拠がある訳じゃない。ただ、画面の向こうの女とこの妖精が似ているなと思ってしまった。
 妖精と出会ったのはほんの数回だけだ、それも階層到達の報酬を貰う一方的な会話を数回かわしただけ。

 だから、確証もないし証拠もない。ただの勘だ。

「何故、私に問いかけるのですか?」

「いや、画面の向こうの女とあんたが妙に似ていると思ってな」

「ですが、私はここにいますよ?」

「ん? おかしな話だぜ。全世界の人間が同時に攻略しているダンジョンの10階層毎に現れる妖精がたった一体の身体で機能するのか?」

「なるほど、どうやらばれてしまったようですね」

 やっぱりな。妙な納得感を得ながら俺は妖精を見つめた。アジア系の顔立ちなのに自然な金髪を持つ少女のような見た目を持つ人物。そして七色に輝く羽を持つ妖精。尖った耳はまるで小説で登場するエルフのようで、その服装も妖精の女王であるかのように気品にあふれる物だった。

「なあ、教えてくれよ妖精さん。今の話はどれくらい本当なんだ?」

「全て真実ですよ。まあ、私は異世界人ではなく異世界を発見しただけの科学者に作られた向こうの世界とこっちの世界の住人の醜いキメラでしかありませんが」

「そうか? 俺は美人さんだと思うけどな」

「それはどちらもの素材の形が良かっただけの事だと思います」

「それになんか問題があるのか?」

「ふふ。いいえ、何も問題はありませんよ」

 彼女の笑顔は美しかった。

「最初の50階層到達者である貴方に最後の祝福を与えましょう。この階層へ最初に到達した英雄に与えられるのは私の全権利です。私の主となり得る方へは期待半分不安半分でしたが、どうやら期待しても良い方のようです」

「ああ、存分に期待してくれ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無能はいらないと追放された俺、配信始めました。神の使徒に覚醒し最強になったのでダンジョン配信で超人気配信者に!王女様も信者になってるようです

やのもと しん
ファンタジー
「カイリ、今日からもう来なくていいから」  ある日突然パーティーから追放された俺――カイリは途方に暮れていた。日本から異世界に転移させられて一年。追放された回数はもう五回になる。  あてもなく歩いていると、追放してきたパーティーのメンバーだった女の子、アリシアが付いて行きたいと申し出てきた。  元々パーティーに不満を持っていたアリシアと共に宿に泊まるも、積極的に誘惑してきて……  更に宿から出ると姿を隠した少女と出会い、その子も一緒に行動することに。元王女様で今は国に追われる身になった、ナナを助けようとカイリ達は追手から逃げる。  追いつめられたところでカイリの中にある「神の使徒」の力が覚醒――無能力から世界最強に! 「――わたし、あなたに運命を感じました!」  ナナが再び王女の座に返り咲くため、カイリは冒険者として名を上げる。「厄災」と呼ばれる魔物も、王国の兵士も、カイリを追放したパーティーも全員相手になりません ※他サイトでも投稿しています

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

【書籍化決定】神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜

きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…? え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの?? 俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ! ____________________________________________ 突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった! 那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。 しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」 そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?) 呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!) 謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。 ※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。 ※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。 ※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎ ⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...