16 / 40
再挑戦
しおりを挟む「なあ寧さん。今度はあいつ一人でやらせて上げてくれないか?」
「そんな、私も戦えます!」
「解ってる。けどダメなんだよ、あいつは、あいつには倒せない相手がいてはだめなんだ。君が居れば簡単に倒せるのかもしれない。けど、あいつは武力において誰かに負ける事は許されない、そして勝てていない相手がいる事も許せない。僕にはあいつの考えが解る。だからあいつがずっと考えている事が解る。10層ボスの倒し方を」
「しかし……」
「お願いだ」
僕は寧さんに頭を下げた。
「分かりました。けど、危険だと判断したらすぐに詠唱を始めますからね」
「ああ、けどそれは心配ないよ。あいつは負けない」
その部屋には合計8人の人と一体の鬼が居た。
目の前に見えるは人と同サイズの鬼人。後ろには九重家一家とその使用人の爺さんと女が一人ずつ。九重斎の氷盾によって守られている。
そして一人の女が静寂と共に視線をぶつけてくる。
「この時を楽しみに待ってたよ」
俺は空の妖刀と闇夜の短剣を構える。
さてと、行こうか。
ダンジョンというシステムの中で最強のエネルギーである魔力を操作し、全身に魔力を流して身体能力を上げる。
身体強化獲得。
クアットジャンプ起動。
真後ろを蹴って直線に鬼人に突っ込む。
当然のように鬼人は迎え撃ってくる。おかしいよな、新幹線くらいのスピードは出てるはずなんだけど。
「シャドウドライブ」
振り上げていた剣が振り下ろされる直前にスキルを発動させる事で鬼人の身体をすり抜け背後を取る。
「ドリフトスラッシュ」
スキルによって体制を強制的に回転させ斬り付ける。魔力操作によって武器にも魔力を流す事で硬度や切断性を向上させた。この刃なら切れる!!
「アクセルスラッシュ!」
更に後ろに回り込み背中を斬り飛ばす。
「ダブルウェーブスラッシュ!!」
吹き飛んだ鬼人に更に追い打ちをかける。全ての攻撃が俺の思い通りに鬼人に直撃していく。
「ウォオオオオ!!!」
本気になったか。勝負はここから、鬼人の姿が肥大化していく。伝承通りの酒吞童子の姿へと変化していく。5,6mに届く巨体と顔の上半分を埋め尽くす15の目玉。そして強大さの証明と言わんばかりの大きな角が5本。
「さあ、俺の存在を認めさせるための糧になってくれ」
影魔法は俺のバトルスタイルと非常に相性のいい魔法だった。俺の戦闘スタイルは器用さと素早さに重きいた攪乱にこそ真の効果を発揮する。
隠密、隠形のオンオフを戦闘中に切り替える事で相手の認識をずらす。
影の形を変化させる影魔法には一つ弱点がある。使用者の視界内全ての影の形を変化させる影魔法だが、俺自身から離れた影ほど硬度が弱くなる。
しかし、俺は俺自身に影を纏わりつかせる。目以外の全てを包む事で漆黒の人間が生まれる。そして視界内の影全てを使い俺と同じ体格の影人形を無数に作り出す。
さあ、高速で消音透明を切り替える俺の姿を捉えられるものならやってみろ。
アクセルダブルスラッシュ起動。相手に気が付かれる事すらなく背後を取り、切り付ける。鬼人状態の時とは違い吹き飛ばすまではいかないが、刃は通る!
クアットジャンプで顔辺りまで移動する。トルネードファング!
二本の刃で首を挟み込む。ッチ、浅いか。首の太さだけで50cmくらいある化け物だ挟み込むなんて俺の腕の長さじゃできない。喉元を少し切り裂いた程度だ。
「ウヴォヴァヴィヴィイイイイ!!!」
喉がいかれてヤバい声が出てる。ブチギレたってとこか。
ただし、影人形のせいで俺がどこにいるのか捉え切れていない。
大太刀を出鱈目に振り回すが、影人形が減るだけで俺自身に攻撃が当たることはない。
何故なら俺は影の中に潜んでいるからだ。影魔法は影を司る、影で包んだ俺の肉体は今や陰に等しい。だからこそ俺は今、地中と空中の堺に面として存在している。
この状態の俺に物理攻撃は通用しない。シャドウドライブと同じ属性の技。
影の中を移動する事で酒吞童子の真下から飛び出す。クアットジャンプ起動、四段階の跳躍によって下から上へと一気に切り裂く!
魔力操作によって剣に魔力を流す、属性は影。影属性の特性は形状変化、短剣の刃の先に影による刃を形成する。影に重さは存在しない、そして影の硬度は使用者に近ければ近い程魔力を込めて強固にする事ができる。
俺が造り出した刃は酒吞童子の腹と胸から背中を貫通するほどの長さ。それは四段階の跳躍により、酒吞童子を言葉通り両断する攻撃となる。
「あの鬼を両断だと……」
「流石、徹君・です」
それでも、まだ終わらない。酒吞童子は立ち上がる。
両断した傷がみるみるうちに回復し、裂けたはずの身体が一人でにくっついていく。
脳や幾つもの内臓も切り裂いたはずだ、しかしそれでも再生する。ならば、やはり生物としての常識では考えきれない生き物としての異常性こそが酒吞童子の能力。
つまり、この鬼は生半可は攻撃では殺せないという事実を浮き彫りにさせる。
「はは、楽しいな。俺はまだお前を殺せるのか」
リモートアームズ=モードマテリアル=シャドウウェポン=フルロングソード起動。
長々と四文節にもなってしまったが、要するに四本の腕全てに影で作った大剣を装備した状態の事だ。
そしてそれを剣速上昇と風属性の魔力付与による速度アップを掛け合わせた状態で発動する。影で作った物質に重さは存在しない。つまり移動速度の減少はなく、そして加速の為にクアットジャンプを再度起動する。リキャスト20秒以下なんてあってないようなもんだ。
俺のやる事は単純明快。空中を超スピードで移動しながら四つの剣を振り回す!
俺のスピードについてこられない酒吞童子は大剣によって切り刻まれる。
肉片一つ一つの大きさが5cm以下になるくらいまで細切れにしたがそれでもなお再生しだした。気持ちわりい。
はは、再生能力は流石だね。手伝おうか、僕の魔法なら消し飛ばせるよ?
要らねえし心外だぜ。この程度の相手に俺が手詰まりな訳ねえだろ。
そういうと思ったよ。
俺は再生した鬼の目の前で止まった。影纏い解除。影人形解除。身体強化解除。魔力操作解除。リモートアームズ=モードマテリアル解除。影武器解除。風属性付与解除。影属性解除。武装変更、闇夜の短剣。聖なる加護起動。魔力循環最高出力。魔力水作成並びに摂取。魔力全回復。
「さあ、来いよ」
鬼の目玉を睨みつける。
大太刀が振り下ろされる。速度はそれほどではないが、剛力と怪力を併せ持つような破壊力だけに特化した一撃。魔力感知を発動してみれば風系統の魔力付与までされている。
目をつぶる。聴覚強化最高出力。生命感知最大出力。魔力感知最大出力。
「ブレイブソード」
俺が今手に持っている剣は一本。刃渡り10cm程度の短剣。対するは刃渡りだけで3m以上ありそうな大太刀。
だが、ブレイブソードは相手の攻撃力を魔力に変えて吸収する。ナイフを滑らせるようにして大太刀の落下地点をずらす。そして仕留め切れていないと理解した酒吞童子は更に次の攻撃に移る。
1、2、3、4、5、攻撃を行うたびに剣速が上がっていく。6、7、8、受け流しきれない程の威力となっていく。頭を掠った。血がこめかみを伝う。9、腕が麻痺してきた、感覚が薄れていく。
「さあ、充填完了だ。お前の攻撃、10倍にしてお返しするぜ?」
闇夜の短剣がその名に全く似つかわしくない緑色の光を放つ。それは風属性の光。圧倒的な速度と圧倒的な切断性と圧倒的な風の密度を併せ持つ一撃。
その一撃は敵を殺し尽くす。軽く振るだけでいい、その一刀は見えない刃となり、命中した瞬間酒吞童子が、パンと破裂した。
破裂した中心にその核が見えた。破裂の余波でビー玉のようなそれも砕け散った。
そこには紫色の巨大な石が1つ残った。鑑定結果は大魔石、効果は魔力の蓄積。あの時のドロップは初回限定だったんだろうか。
「徹君、やりましたね!」
「ありがとう、ここまで強いとは夢にも思わなかったよ」
「楽勝だっての」
0
お気に入りに追加
407
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる