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一から神になった英雄

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 儂は炎を司る神「サン」。
 昔は英雄と言われ人々の期待を一身に受けていたが、寿命で死んだ。
 そして儂は神と成った。
 どうやら相当な信仰を得ると神になれるようだ。
 それから何百年か経つ。
 最近は恩恵を与えた少女、シャルテを見る事が楽しみになるほどに暇だ。
 流石に私生活を覗くのはどうかと最初は思ったが、どうせ儂神だし、もう人間の倫理もルールもどうでもいい。
 そう興味のある事以外がどうでもよくなった。
 英雄から神になったので戦闘面では秀でているが、神になってまで戦う意味も無い。

 退屈過ぎて万能過ぎて、次は何をしようか考えていた頃、誰かに呼ばれた。
 その命令には逆らえなかった、何故かは直ぐに分かった。それは儂が人間だった頃の魂の欠片を媒体とした物だったからだ。
 それに、抗うつもりもなかった。
 暇つぶしだ。
 人間界に降りれる事もそうそうないのが神という存在だ。退屈しのぎには丁度いい。

 呼び出されてみるとそこは戦場だった。
 確かシャルテも参加している戦いだ。
 戦況はかなり悪かったがシャルテを応援していた。まあ応援で何が変わる訳でも無いのだが。
 儂を呼び出したのは1人の少年だった。
 神を御するほどの力だ、何かしらの恩恵を持っている……としても可笑しな話だ。
 神に与えられた能力で神を操ろうと言うのだから。
 そんな事が出来るのは主神オーディンの恩恵ぐらいなものだろう。
 ま、儂とて恩恵の内容が読める訳では無いしどうでもいいがな。

 儂は切りかかって来た二足歩行の獅子の魔物の剣を腕で受け、焼き切りながら考える。
 要するにだ、儂を呼び出したこの者の願いはこの戦争の勝利と言ったところか。
 どうやらシャルテがスカウトしたシャルテ側の陣営であるようだし、断る理由も無い。
 さあ、どう焼いて、どう燃やしてしまおうか。

「な、俺の剣は魔剣だぞ!? それを焼き尽くすだと?」

 獅子の持つ剣を見ると柄まで赤くなり、溶けている。
 儂の放つ炎はそこら中にマグマを作るほどの熱量を持つので当然だ。
 今だって足元が溶け始めている。

「どけ! 俺がやる!<超爆発ハイパーエクスプロージョン>!!」

 うるさいな。
 爆発とは要するに炎だ。
 儂が操れぬはずも無い。

『消えろ』

 そう呟いただけで、爆発は自らが消えていく。
 その様に恐縮せずともいいのだがな。
 まあ、儂を攻撃できる火などこの世界には存在しないのだから仕方ない。

「くそが! どうなってやがる」

「解らねえがあいつが火を操るのは確かだ、なら水で攻めるぞ!」

「わかった!」

 どうやらあ奴らも恩恵を持っているようだ。
 基本的な魔術師は属性を一つしか持っていない。
 が、恩恵を持ってさえいれば様々な方法で複数の属性を操る事が出来る。

『つまり、お主らはちょっとやそっとじゃ死なないという事か?』

 思わず笑いそうになる。
 久しぶりの感覚だ。
 神になってから戦いなどしたことも無かったからな。
 身体が少年の物なので使う事の出来ない魔術が多く有るが、それ位のハンデは必要だな。
 神と人間の戦いなどつまらない。
 人と人が戦うからこそ、それは白熱するのだ。
 心躍らせているとどうやら魔術が発動するようだ。

「「<水衝撃ウォーターショット>!!」」

「どうだ? これで得意の炎は使えねえだろ!」

 水の衝撃が迫る、水量はかなりの物だ、だが。

『何故だ?』

 確かに儂が人間だった頃は相手が水魔法を使えた時の為に幾つもの打開策を用意していた。
 儂は恩恵を持ってはいなかったからそれは大変だったよ。
 水の神からの恩恵を持った者と戦った時は死ぬかと思った。
 その時は逃げ切ったが、仮に今戦ったとしたら負ける気がしない。

『<アカリ>』

 炎系統最下級魔術。
 儂が一番最初に覚えた魔術だ。
 ただ炎を発生させる魔術だが、あの程度の水ならこれで消える。

 儂の考える通りの結果になった。
 全ての水は蒸発して霧となった。
 だが儂の炎は止まらない、2人の内恩恵を受けた魔物、魔獣の方を焼き尽くす。
 避ける事も敵わないか。
 恩恵と言っても所詮この程度で死んでしまう代物なのか?
 だとしたらつまらん。与えた神が強い恩恵を授けようと思わなかったのだろう。

「何でそんな魔術でそんな威力が出る!?」

『何だ、よく見ていなかったのか? 儂がさっき魔剣を溶かしたのは魔術では無く儂の魂に宿る炎だ。つまりそのような存在が言葉を付け、軽く世界の法則に干渉すると最下級魔術でも人では受けきれぬほどの威力が出る。計算として間違ってないと思うぞ?』

「さっきのが魔術じゃないだと?」

『そう言ったが?』

「そんな恩恵、反則だろ」

『恩恵……では無いのだがな。まあいい『燃え尽きろ』』

 魔術など使わずとも言葉だけで世界が自ら姿を変える、それが神という存在だ。
 儂は言葉1つで燃え尽きる男を見る。もがき苦しんでいた。だが戦争に参加している時点で死にたくないなどといった事を言う資格はない。神と、いやこの少年と戦った時点で運の尽きだ。
 男を殺すと魂が抜けるような感覚に陥った。
 どうやら戦争を終わらせるという願いでは無く、2人を殺せと言う内容だったようだ。
 ま、この少年がいるならシャルテが負ける可能性は無いに等しい。
 儂は何時も通り高みの見物をするとしよう。
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