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スローライフ
三十四話 教会
しおりを挟む俺達は教会へ来ていた。
メンバーは俺と御剣にスイナだ。
「それにしてもこんなに早くシル様にまた会う事になるとは」
「様は止めてくれよ。今の俺は唯の護衛を請け負ってる冒険者だ」
「そうですね。では私を守る為に死に物狂いで働いて下さい」
「はいよ。聖女様」
スイナは帰宅、御剣は勇者の称号を授けた大司教とかいうのに会って最悪勇者の称号を剥奪されるピンチなんだと。
俺は次期国王の護衛兼、相談役だ。
まあ有者の件は俺の知った事じゃ無い。
大方、自分の利益にならない勇者は要らないとかそういう話だろう。
大きな部屋に案内されると、その奥が個別に部屋になっていた。
その敷居は薄い素材で出来ていて人影だけが見える。
あの中に大司教がいるのだろう。
「大司教様、シルフィーナ教会が聖女、スイナ・ヴィレンダ・ハークネス。只今戻りました」
スイナが大司教に向かって首を垂れる。
そしてスイナが言った通り、この教会が崇めている神はフィーナだった。
嫁さん、ちょっと目立ちすぎじゃ無いですかね。
ちなみに御剣はフィーナが女神だと知っている。
そもそも能力を選ぶ段階で会っているのだから誤魔化しようもない。
「同じく、御剣亮太。今回は決別の為にやってきました」
御剣がそう言っても囲んでいる司教は思ったよりも驚かない。
当然、婚約の情報を持っているのだろう。
数名だが喉を鳴らした司教がいた。
知っていても驚かずには居られないのだろう。
あ、俺は壁際に控えてる。
「本気なのだな?」
大司教では無く、その横に居る白髪の爺さんが聞く。
「はい」
御剣はまっすぐに大司教を見ながら返事をした。
「そうか……」
白髪の爺さんは失望したと言わんばかりの声を出す。
「大司教様、いかがなさいますか?」
今度こそ大司教様とやらが喋るようだ。
「では、亮太に変わって勇者を用意しよう」
「畏まりまし……」
「待って下さい!!」
爺さんの畏まりを御剣が遮った。
「勇者の称号に見合う人物が僕の他に居ると?」
御剣の思わんとする事は解る。
まず、御剣が姫と婚約できたのは何を置いても勇者って称号の御かげだ。
勇者の称号を剥奪されてしまえば御剣はただの強い平民に成り下がる。
勿論、結婚した今であれば称号を剥奪されたからと言ってそれが無くなるなんて事にはならないが、問題は宗教的な理由にまで飛躍するのだ。
勇者の称号は教会の絶対的な後ろ盾を示す。
それがあったからこそ、民衆は御剣を王と認めた。
それが無くなれば、出身不明のどこの馬の骨とも解らない若者だ。
下手したら選挙で落ちるまである。
「そこの護衛殿、次の勇者になる気は無いかね?」
何故か俺に話を振って来る大司教。
俺の事を知っているのか。
「シル……」
御剣が何故か心配そうな雰囲気で俺を見る。
断るのは勿論だが、それだけじゃ面白くないな。
『若様、戯れは』
「まかせとけって」
『はぁ……』
ピアスから雫の声が聞こえるが今は自由にさせてもらう。
「俺の事を知ってるのか?」
「な、貴様! 大司教様になんて口の利き方を!」
「すまないが、俺は無宗教だし、そもそもこの教会の人間ですらない。大司教ってのは立派な立場なんだと思うが、それが何か俺に関係あるのか?」
一応俺はフィーナの夫だ。
フィーナと対等な俺はこいつらに媚びる訳には行かない。
「シル、何をしてるんだ!?」
「おい! 誰かこいつをひっ捕らえろ!」
「うるせえな。外野は引っ込んでろよ。〈アンチマジックシール〉〈物力魔法・ハイパーグラビティ〉」
魔法を封印して体を地面に押しつぶす。
ちゃんと体の弱そうなやつの威力は減らしてるから死ぬ事も気絶もないだろう。
勇者ですら簡単には抜け出せない。
「それで大司教様。俺の事をご存じで?」
「ああ、黒炎使いは教会でも噂になっているよ」
「何でその黒炎使いが俺だって分かったんだ?」
「儂は千里外まで見る事が出来る」
所謂千里眼って奴か。
「なるほど、では何故俺を勇者にしたいと?」
「強さで言えば亮太以上であろう?」
「俺が勇者になっても教会に良い事は無いんじゃ無いのか?」
「亮太よりは御しやすいと思った」
「そうか。で、今はどうだ?」
「叶うなら、今すぐ死んでほしいな」
「いうじゃん。状況解ってる?」
「貴様こそ。この状況でアルバニアがどうなるか考えているのか?」
「ああ……」
「いい加減にしろ!! 〈天力〉!!」
御剣に白い光が宿る。
「どうやら潮時のようだな」
俺は魔法とスキルを解除した。
「貴様、覚悟はできているのだろうな」
立ち上がった白髪の爺さんは完全にキレている。
俺は煽る様に首を横にふる。
「貴様あああ!!」
「止めろ」
そこに大司教の声が掛かった。
「大司教様、ですが!?」
「この男を捕らえるには聊か戦力が足りない。それとも儂の言う事が聞けないか?」
「……申し訳ございません」
「すまぬなそこの護衛。勇者の話は無かったことにしてくれ」
「仰せの通りに、大司教様」
壁際まで戻ると、周りからメチャメチャ睨まれた。
「勇者の称号をどうするかは既に考えている。亮太は後ほど中庭に来るがいい」
「了解しました」
「スイナは、よく帰った。婚約の話は勇者の件の後に説明しよう」
「畏まりました」
「以上だ」
「畏まりました大司教様。では部屋に案内いたします」
・
・
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謁見が終わり、俺とスイナと御剣は同じ部屋に集まっていた。
「何であんな事をしたんだ?」
「そうです。一歩間違えば総力戦でしたわ!」
「まあ、そう怒るなよ。ちゃんと説明するから」
幾つかの事情を御剣とスイナに説明していく。
まず、鑑定した結果、大司教は転生者だった。
そして千里眼なんてスキルは持っていない。
奴の唯一にして最強のスキルは読心術。
相手の感情を読む物だった。
最初に疑問に思った事は転生者が神様を信じたりするだろうかって事だ。
現代日本で純粋な神様信者は少ないし、そもそも神様を信じる奴は大司教なんてなれないとすら思う。
そしてかまをかけた。
結果は知っての通り大司教は冷静に対処した。
〈読心術〉で俺が本気じゃないと見抜いたのだろう。
白髪の爺さんの様にキレ無かった時点でその信仰は芝居。
これを〈読心術〉の部分だけを省いて2人に伝えた。
〈読心術〉を隠したの心を読める相手に対して2人はお前の能力を知らないと解らせるため。
これで大司教に一つの恩を売れる。
その恩は中庭で会った時に返してもらうとしよう。
「大体は納得した」
「はい。私もです」
「じゃあさっさと中庭に行こうぜ」
「でも、今後あんな無茶はしないで欲しい」
「私もです!」
「無茶なんてしてないぞ」
「いいえ無茶です私がどれほど心配したか解りますか!?」
かなり近い場所まで迫って来るスイナは鬼気迫る物を持っていた。
「まあ、善処する」
「解ればよろしいのです」
「分かったか御剣!?」
「え、僕?」
「当たり前だろうが。お前がミスんなきゃ俺がでしゃばる事はない」
「はぁ。相変わらず自分勝手だな。分かったよ、僕も全力を尽くそう」
御剣の顔引き締まる。
「緊張しすぎだ。俺の事は保険程度に考えておけばいい」
肩を叩くと多少顔が緩む。
「まあ、善処するよ」
「それじゃ行くぜ」
「何でシルが仕切ってるんだよ」
「まあ、シル様ですから。諦めましょう」
「そうだよね。僕の言う事なんか聞きやしない」
「ですが、それがいい所でもある。違いますか?」
「いいや、その通りだ」
「お前ら早くしろ。道が解んねえ」
「何で先頭に行ったんだよ」
「うるせえ。早く案内しやがれ」
「はぁ。こちらですわ」
そして俺達は中庭に向かった。
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最新話で誤字 誤 まぁ有者の件は俺の知った事じゃ無い
正 まぁ勇者の件は俺の知ったことじゃない
女方のオートマタではなく、女型だと思います。
修正しました。
ご指摘ありがとうございます!
神託が信託になってました!
発行が発光になってました!
ご指摘ありがとうございます。直そうと思います。