上 下
22 / 31
理解のある旦那さまとわたしの秘密

異母弟妹のプロフィール

しおりを挟む
「牛熊鞍馬、18歳。大手精肉店の御曹司。名桜学園高等学校3年。外部編入組だ。小・中と、公立の学校に通っている。私立受験に失敗したらしい」

越碁がサラサラと淀みなく鞍馬のプロフィールを読み上げる。どこから手に入れたのだろうと久留里は不思議がったが、越碁はこう見えて老舗和菓子屋の御曹司だ。横のつながりはかなり広い。本気を出せば、畑は違えど飲食業界の人間なら、いくらでも調べはつく。そんな所だろう。

「挵蝶舞鶴、同じく18歳。家族構成は姉と母親。父親はいない。母子家庭であることを公言しているが、何不自由なく暮らしている

「それから、亀倉信楽。14歳。サッカーにおいて目覚ましい才能を発揮し、強豪校にスカウトされて、秀邦大学付属高校に通うことが決定した」
「全員の共通点は白峰太郎の遺言に子どもとして名前が書かれたこと、出身中学が同じーーそれ以外にはない。白峰太郎の遺言さえなければ、2人の婚姻には戸籍上問題がなかった。倫理的には問題だが」
「…3人を弟妹…家族だって私が言いふらしたら、大問題になるってこと、だよね…?」
「そうだな。日本で近親婚は認められていない。戸籍上全く問題のない二人が兄妹であると知れたらーー引き裂かれるだろう」
「兄弟だって知っていたら、愛し合うことなく、全員兄弟として…暮らせたのかな」
「人を好きになるのは理屈じゃねェ。俺とルリも、ルリの弟妹だって。その人となりで好きになったなら、血の繋がりどうこうで好きになるのをやめるなんざできっこねェ。真実の愛ってのはそう言うもんだ。その程度の愛情ならーー」
「愛情なら?」
「俺は弟妹の肩を持つ気はねェ。さっさと別れて、夫婦ではなく弟妹として生きるべきだ」

越碁の言い分はわかる。
けれどそれがおままごとの愛なのか、真実の愛なのかは当事者にも、部外者にも判別がつかないものだ。当人達からしてみればそれが真実の愛でも、部外者からしてみれば恋に恋する淡い憧れの感情を恋と誤認していると感じるかもしれない。

人を好きになるとは、難しい問題だ。

誰かを好きになる気持ちを抱いたことのなかった久留里は、越碁に向けられた好意を長いこと見てみぬふりをして、与えられる分だけの愛情を返せなかった。夫婦となった今でも、越碁が久留里を思う気持ちの分だけ返せているかは、疑問が残る。

異母弟妹だけど結婚していて、子どもがいるかもしれない。久留里との血縁関係を証明するには親子鑑定が必要だが、久留里と兄妹であることがはっきりと認められたら、異母弟妹の夫婦は引き裂かれるーー

「異母兄妹がたくさんいるってわかったからには…戸籍上でも、私は姉弟になりたかった。だけど、私の願いを叶えるために…みんなが不幸になるなら…戸籍上では姉弟にならなくてもいい、かな…。定期的に連絡を取り合える仲になりたい。離れていても、みんなは家族かも、しれないから」
「ルリの親子鑑定次第か」
「うん。これで、お父さんとの血縁関係が認められなかったら…なあんだ、私に弟妹はいなかったんだって…大騒ぎすることなかったねって言えるんだけど…」

こうなることを見越して、わざわざ白峰太郎は四人分の親子鑑定に必要なサンプルを残しておいたらしい。この四人のうち一人でも親子だと認められたなら、白峰太郎が把握していない隠し子達は兄弟鑑定で白黒をつけてほしいと弁護士からは伝えられている。

「ルリは、検査結果が親子であると認められた方がいいんだろ」
「…私としては、ね。お父さんが誰で、どんな人物だったのかは知りたいよ」

弁護士からはっきり「ろくな男ではない」と伝えられたが、久留里にとっては父親かもしれない人だ。余命宣告を受けてもなお、隠れて飲酒していたとか、病院に精子を求めて女性が訪ねて来たとか、それは酷いエピソードの数々を聞かされても、久留里は少しでも父親が生きていた頃の話が聞けてよかったと思っている。

「お母さんが亡くなって…ずっと一人だったから、かな。みんなは、ご両親。いるんだもんね…。お父さんがいなくても、幸せに生きていけるなら、お父さんがどこで何してようが…関係ないのかもしれない」
「父親のことをどう思っているかまでは、聞けなかったなァ」
「うん。機会があれば、聞いてみたいな。もう、会ってくれないかもしれないけど…」

嫌われちゃったかな、と思うたびに心が痛い。他の三人にとって、久留里は現実を突きつけてくる迷惑な奴だと思われても。久留里にとって三人は、大切な家族だ。家族に嫌われるのは、苦しい。母親と喧嘩の一つもせず支え合ってきた久留里は、家族に嫌われた経験などないから、どう仲直りをすればいいのかなど検討もつかなかった。

「越碁さんは…ご両親と、喧嘩とか…したことある…?」
「味覚ーー感じなくなった時か。親父と大喧嘩になった。味もわかんねェ奴が厨房に入るなと怒鳴られ、長いこと口も利かなかったなァ。ちゃんと話すようになったのは、久留里が来てからだ」
「仲直りとかは、したの…?」
「お互いに悪い所があるのを理解してんなら、仲直りなんざしなくとも、自然に会話が弾むもんだ。味覚が戻って、厨房に入ることを許されてからは…喧嘩らしいことはしてねェな」
「…そっか」

なんの参考にもならねェだろ。

頭を下げる越碁に、そんなことないよと声を上げた久留里は、時間が解決してくれることを願うしかないのかなと、滅多に飲まないアルコールを口に含んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

【完結】悪役令嬢はゲームに巻き込まれない為に攻略対象者の弟を連れて隣国に逃げます

kana
恋愛
前世の記憶を持って生まれたエリザベートはずっとイヤな予感がしていた。 イヤな予感が確信に変わったのは攻略対象者である王子を見た瞬間だった。 自分が悪役令嬢だと知ったエリザベートは、攻略対象者の弟をゲームに関わらせない為に一緒に隣国に連れて逃げた。 悪役令嬢がいないゲームの事など関係ない! あとは勝手に好きにしてくれ! 設定ゆるゆるでご都合主義です。 毎日一話更新していきます。

結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。

window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。 式の大事な場面で何が起こったのか? 二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。 王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。 「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」 幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...